261 / 271
幸せになりましょう
悪い人ばっかりでした
しおりを挟む
ハッ!
ちょっと意識を飛ばしていたら、レイモン氏が各国の代表に・・・て連合国の代表だけだけど、吊るし上げられている!
そもそも、違法な人身売買を繰り返し亜人を奴隷として帝国に売りさばいていたのは、ミュールズ国とトゥーロン王国。
最大の被害国はアンティーブ国だけど、レイモン氏やヴィクトル兄様に対して罵倒しているのは、連合国の代表の方々。
元々、トゥーロン王国は周辺国から嫌われていたし、国交を有利にする取引もしていないし、立場は弱い。
ミュールズ国は、連合国に対して強気に出れるカードは持っているけど、やらかした事がデカすぎるから、大人しく断罪されるしかない。
むむむ。
このまま、連合国が調子に乗って、トゥーロン王国の存在にまで口出ししてきたら面倒だなぁ。
いざとなったらアンティーブ国のクリストフ殿下が収めてくれるだろうけど、遺恨が残るままなのはちょっといただけない。
連合国の皆さんは、いくら罵倒しても神妙な面持ちで黙って聞いている我が国側と、黙認しているクリストフ殿下の態度に気が大きくなったのか、要求がエスカレートしていく。
連れ去られた亜人の捜索から賠償金の話から、トゥーロン王国の王制にまで。
ミュールズ国に対しては、トゥーロン王国と違って旨味があるので、海や川などの権利や輸出入品への税や、鉱山などの権利。
我が国の文官たちは、連合国の要求がいかほどのダメージを両国に与えるのか、キチンと数値で理解できるから、生きた心地がしないよう。
我が国の貴族たちは、実はこの会議を逆手に取って、後見の弱いヴィクトル兄様から利権を奪い取ってやろうと虎視眈々と狙っていた奴らばっかりで、わざとレイモン氏に誘われた罠に嵌った貴族たちである。
ジラール公爵派閥は事実上解散で、ザンマルタン侯爵派は取っ掴まって、残った中立派の貴族を中心に呼ばれているけど、いわゆる腹の中に一物抱えた貴族たちらしい。
獅子身中の虫と成長する前に、キリキリと刈り取るつもりで招待したとレイモン氏が、清々しいまでに言い切っていた。
その人たちはレイモン氏の思惑どおりに、亜人奴隷を集めるための人身売買というトゥーロン王国のやらかしと連合国からの無情とも言える賠償請求に、お顔が真っ青である。
こんな、マイナスばかりの沈む直前の船に乗っていても損するだけとやっと気づいたのだね?
あわよくば、王の側近や大臣などの地位、陞爵を、と張り切って参加したのに、ご愁傷様である。
今は、余計なことを言わないようにお口をキュッと閉めて、俯いてひたすら真っ白なテーブルクロスを見つめていた。
「私はみなに問う! トゥーロン王国の存否を!」
代表の一人が、勢いよく立ち上がり声を張る。
その男に同調するように、連合国の代表者たちが立ち上がり、「トゥーロン王国の解体を!」と叫ぶ。
ヴィクトル兄様は、顔を背けることもなく背筋を伸ばし堂々と座っていた。
私はそんなヴィクトル兄様の姿に感心し、我が意を得たりとニタリと笑ったレイモン氏の表情に戦慄する。
そう、彼らは罠に掛かったのだ。
「ああ、忘れていました。こちらの資料をお渡しするのを。どうぞ、ご覧ください」
レイモン氏の合図で、騎士たちが一人一人にそこそこの厚さのある紙を束ねたものをテーブルに置いていく。
私の前にもトサリと。
「なんだろう?」
ペラペラと紙を捲る、捲る、捲っていくごとに目が大きく見開かれる。
それは・・・ミュールズ国の人身売買に加担した商会や貴族、そして連合国のリストだった。
「そんなバカな!」
「我が国がっ!」
「あああーっ!どうして、なぜ?」
なんか、連合国の代表者の何人かはその場で騎士たちに縄で拘束されて連れて行かれてしまいました。
連合国のほぼ全部が加担していたって・・・そんなことあるの?
リシュリュー辺境伯と懇意にしていたエルフの国と、トゥーロン王国と国交のあった国は無関係。
でも、他の国は大きな商会や権力者、下手したら国のトップが加担していたことが証拠付きで明らかにされていた。
「バカな奴らだ。連合国と利害の深いミュールズ国が主犯だぞ? お前たちの国の誰かしらは手を染めていただろうに」
クリストフ殿下はつまらなさそうに呟くと、グイッとグラスの水を飲み干した。
連合国とミュールズ国は連携が強かった。
それは、ミュールズ国が同じ大国としてアンティーブ国に対抗しようとして。
「・・・それで、残った方々は、我が国の国土を割譲して欲しいと望まれたのですか?」
レイモン氏が、まるで肉食獣が子ウサギに被りつくような爛々とした目で、椅子に縮こまって座っている連合国の代表者たちを睨む。
「・・・いいえ・・・」
涙目でプルプルしていても、おじさんだからかわいくないし、同情はしない。
「ご安心ください。アンティーブ国主導で賠償金については交渉させていただきます。ちゃんと誠意はみせますよ」
レイモン氏は、連合国の代表者に興味を無くしたように顔を背けると、次の獲物としてギルドの代表者へと視線を向けた。
「薬師ギルド、鍛冶ギルド、魔道ギルドは、今後トゥーロン王国にてギルド活動を再開していただけますか?」
薬師ギルドの代表者は、人族で細縁眼鏡をかけたおじさんとトゥーロン王国で薬師ギルドマスターを勤めていた体の小さなおばあちゃん。
鍛冶ギルドの代表者は、ドワーフ族でお酒を飲んでいるような赤ら顔のずんぐむっくりしたおじさんが二人。
魔道ギルドの代表者は、エルフ族で金髪碧眼の美々しい男女である。
ちなみに鍛冶ギルド、魔道ギルドは、トゥーロン王国では商業ギルド内に併設されていたのでギルドマスターはいない。
「薬師ギルドは活動を再開しますが、施設の用意をお願いします。彼女の自宅では手狭ですので」
トゥーロン王国の薬師ギルドって、ギルドマスターの自宅だったんかい!
「鍛冶ギルドも再開には文句はないが、施設と炉が必要じゃな。ガストンからよろしく頼むと言伝を貰っているんでな。協力はするぞい」
隣にいたドワーフのおじさんもニコニコでうんうんと頷いている。
「ガストンさん?」
それはもしかして、ゴダール男爵領地でお世話になり、リュシアンたちの武器を作ってくれた、あのガストンさんだろうか?
「おお。嬢ちゃんたちのことも聞いているぞ。ガストンは我らドワーフ族では有名でな! 鍛冶ギルドは誰も逆らえんわい」
ガハハハッと大きな口を開けて笑うドワーフ族。
意外なところで意外な縁が結ばれていたようだ。
ただし、このドワーフたちはリュシアンたちの武器がじっくり見たいとか、ガストンさんが自慢していた酒のツマミが食べたいとか、要求してきた。
いいけどね、別に。
「魔道ギルドは再開を拒否しようと思いましたが・・・。もう一度ギルド内で話し合います。ただ・・・再開に向けての話し合いになります」
男のエルフが、チラチラとノアイユ公爵とその後ろの同族を意識している。
これは、早速エルフ族のノアイユ公爵の効果が出たのかもしれない。
「商業ギルドは・・・」
「ああ、商業ギルドについては別にお話しがありますよ。先ほど渡した資料を最後まで目を通してくださいね。あるでしょう? 商業ギルドが関与したという証拠が」
「なっ、なに!」
商業ギルドの代表者の一人が束ねた紙をバサバサと捲り、血走った目で書かれた文字をなぞる。
もう一人の代表者は、反対に冷静に目を閉じてじっと椅子に座っている。
「商業ギルドが人身売買に関与していた商会を厚遇していた。それだけではなく、人身売買から得た利益を手にしていたこともわかっていますよ」
レイモン氏の低い声が鋭いナイフとなって商業ギルドの息の根を止めようとしていた。
ちょっと意識を飛ばしていたら、レイモン氏が各国の代表に・・・て連合国の代表だけだけど、吊るし上げられている!
そもそも、違法な人身売買を繰り返し亜人を奴隷として帝国に売りさばいていたのは、ミュールズ国とトゥーロン王国。
最大の被害国はアンティーブ国だけど、レイモン氏やヴィクトル兄様に対して罵倒しているのは、連合国の代表の方々。
元々、トゥーロン王国は周辺国から嫌われていたし、国交を有利にする取引もしていないし、立場は弱い。
ミュールズ国は、連合国に対して強気に出れるカードは持っているけど、やらかした事がデカすぎるから、大人しく断罪されるしかない。
むむむ。
このまま、連合国が調子に乗って、トゥーロン王国の存在にまで口出ししてきたら面倒だなぁ。
いざとなったらアンティーブ国のクリストフ殿下が収めてくれるだろうけど、遺恨が残るままなのはちょっといただけない。
連合国の皆さんは、いくら罵倒しても神妙な面持ちで黙って聞いている我が国側と、黙認しているクリストフ殿下の態度に気が大きくなったのか、要求がエスカレートしていく。
連れ去られた亜人の捜索から賠償金の話から、トゥーロン王国の王制にまで。
ミュールズ国に対しては、トゥーロン王国と違って旨味があるので、海や川などの権利や輸出入品への税や、鉱山などの権利。
我が国の文官たちは、連合国の要求がいかほどのダメージを両国に与えるのか、キチンと数値で理解できるから、生きた心地がしないよう。
我が国の貴族たちは、実はこの会議を逆手に取って、後見の弱いヴィクトル兄様から利権を奪い取ってやろうと虎視眈々と狙っていた奴らばっかりで、わざとレイモン氏に誘われた罠に嵌った貴族たちである。
ジラール公爵派閥は事実上解散で、ザンマルタン侯爵派は取っ掴まって、残った中立派の貴族を中心に呼ばれているけど、いわゆる腹の中に一物抱えた貴族たちらしい。
獅子身中の虫と成長する前に、キリキリと刈り取るつもりで招待したとレイモン氏が、清々しいまでに言い切っていた。
その人たちはレイモン氏の思惑どおりに、亜人奴隷を集めるための人身売買というトゥーロン王国のやらかしと連合国からの無情とも言える賠償請求に、お顔が真っ青である。
こんな、マイナスばかりの沈む直前の船に乗っていても損するだけとやっと気づいたのだね?
あわよくば、王の側近や大臣などの地位、陞爵を、と張り切って参加したのに、ご愁傷様である。
今は、余計なことを言わないようにお口をキュッと閉めて、俯いてひたすら真っ白なテーブルクロスを見つめていた。
「私はみなに問う! トゥーロン王国の存否を!」
代表の一人が、勢いよく立ち上がり声を張る。
その男に同調するように、連合国の代表者たちが立ち上がり、「トゥーロン王国の解体を!」と叫ぶ。
ヴィクトル兄様は、顔を背けることもなく背筋を伸ばし堂々と座っていた。
私はそんなヴィクトル兄様の姿に感心し、我が意を得たりとニタリと笑ったレイモン氏の表情に戦慄する。
そう、彼らは罠に掛かったのだ。
「ああ、忘れていました。こちらの資料をお渡しするのを。どうぞ、ご覧ください」
レイモン氏の合図で、騎士たちが一人一人にそこそこの厚さのある紙を束ねたものをテーブルに置いていく。
私の前にもトサリと。
「なんだろう?」
ペラペラと紙を捲る、捲る、捲っていくごとに目が大きく見開かれる。
それは・・・ミュールズ国の人身売買に加担した商会や貴族、そして連合国のリストだった。
「そんなバカな!」
「我が国がっ!」
「あああーっ!どうして、なぜ?」
なんか、連合国の代表者の何人かはその場で騎士たちに縄で拘束されて連れて行かれてしまいました。
連合国のほぼ全部が加担していたって・・・そんなことあるの?
リシュリュー辺境伯と懇意にしていたエルフの国と、トゥーロン王国と国交のあった国は無関係。
でも、他の国は大きな商会や権力者、下手したら国のトップが加担していたことが証拠付きで明らかにされていた。
「バカな奴らだ。連合国と利害の深いミュールズ国が主犯だぞ? お前たちの国の誰かしらは手を染めていただろうに」
クリストフ殿下はつまらなさそうに呟くと、グイッとグラスの水を飲み干した。
連合国とミュールズ国は連携が強かった。
それは、ミュールズ国が同じ大国としてアンティーブ国に対抗しようとして。
「・・・それで、残った方々は、我が国の国土を割譲して欲しいと望まれたのですか?」
レイモン氏が、まるで肉食獣が子ウサギに被りつくような爛々とした目で、椅子に縮こまって座っている連合国の代表者たちを睨む。
「・・・いいえ・・・」
涙目でプルプルしていても、おじさんだからかわいくないし、同情はしない。
「ご安心ください。アンティーブ国主導で賠償金については交渉させていただきます。ちゃんと誠意はみせますよ」
レイモン氏は、連合国の代表者に興味を無くしたように顔を背けると、次の獲物としてギルドの代表者へと視線を向けた。
「薬師ギルド、鍛冶ギルド、魔道ギルドは、今後トゥーロン王国にてギルド活動を再開していただけますか?」
薬師ギルドの代表者は、人族で細縁眼鏡をかけたおじさんとトゥーロン王国で薬師ギルドマスターを勤めていた体の小さなおばあちゃん。
鍛冶ギルドの代表者は、ドワーフ族でお酒を飲んでいるような赤ら顔のずんぐむっくりしたおじさんが二人。
魔道ギルドの代表者は、エルフ族で金髪碧眼の美々しい男女である。
ちなみに鍛冶ギルド、魔道ギルドは、トゥーロン王国では商業ギルド内に併設されていたのでギルドマスターはいない。
「薬師ギルドは活動を再開しますが、施設の用意をお願いします。彼女の自宅では手狭ですので」
トゥーロン王国の薬師ギルドって、ギルドマスターの自宅だったんかい!
「鍛冶ギルドも再開には文句はないが、施設と炉が必要じゃな。ガストンからよろしく頼むと言伝を貰っているんでな。協力はするぞい」
隣にいたドワーフのおじさんもニコニコでうんうんと頷いている。
「ガストンさん?」
それはもしかして、ゴダール男爵領地でお世話になり、リュシアンたちの武器を作ってくれた、あのガストンさんだろうか?
「おお。嬢ちゃんたちのことも聞いているぞ。ガストンは我らドワーフ族では有名でな! 鍛冶ギルドは誰も逆らえんわい」
ガハハハッと大きな口を開けて笑うドワーフ族。
意外なところで意外な縁が結ばれていたようだ。
ただし、このドワーフたちはリュシアンたちの武器がじっくり見たいとか、ガストンさんが自慢していた酒のツマミが食べたいとか、要求してきた。
いいけどね、別に。
「魔道ギルドは再開を拒否しようと思いましたが・・・。もう一度ギルド内で話し合います。ただ・・・再開に向けての話し合いになります」
男のエルフが、チラチラとノアイユ公爵とその後ろの同族を意識している。
これは、早速エルフ族のノアイユ公爵の効果が出たのかもしれない。
「商業ギルドは・・・」
「ああ、商業ギルドについては別にお話しがありますよ。先ほど渡した資料を最後まで目を通してくださいね。あるでしょう? 商業ギルドが関与したという証拠が」
「なっ、なに!」
商業ギルドの代表者の一人が束ねた紙をバサバサと捲り、血走った目で書かれた文字をなぞる。
もう一人の代表者は、反対に冷静に目を閉じてじっと椅子に座っている。
「商業ギルドが人身売買に関与していた商会を厚遇していた。それだけではなく、人身売買から得た利益を手にしていたこともわかっていますよ」
レイモン氏の低い声が鋭いナイフとなって商業ギルドの息の根を止めようとしていた。
応援ありがとうございます!
9
お気に入りに追加
7,536
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。