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三章(4)
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どんよりと曇り空の下、アデライドはとぼとぼと歩みを進める。近ごろは天気が崩れているようで、このような空ばかりだった。そろそろ晴れが見たい。
はあ、とため息がこぼれる。
結局昨日一日考えたけれど、結論は出なかった。そのため今の天気とは比べものにならないくらい、アデライドの胸は淀んでいて。
もう、どうすればいいのかさっぱりわからなかった。投げ出したいけど投げ出したくなくて、相反する感情がぶつかり合って、胸が張り裂けてしまいそう。
(とりあえず……)
今日もわずかな時間とはいえエリクと会える、はずである。彼といるときくらいはこういうことも忘れて楽しんでいたかったから、心配をかけないようにしっかりと笑顔を浮かべなければ。
よし、と意気込んで今日もいつものパティスリーに入ろうとした、まさにそのとき。
「――アデラ?」
ざわめきの中から声が聞こえ、アデライドはパッと振り返る。
大通りの真ん中で立ち止まっている人物が二人いた。軍服を纏った片方は、この三週間毎日顔を合わせているエリクで。
「あら、エリク」
意識して笑みを浮かべると、アデライドは彼らのほうへ向かった。
上手く笑えているのか少しだけ不安だった。それにもし声をかけられる前、悩んでいる表情を見られていたら、きっと心配してその理由を訊いてくるだろう。それは、絶対に嫌で。
頬が引き攣らないよう表情筋を働かせつつ、アデライドはエリクの前に立った。
「昨日はごめんなさい、急に帰っちゃって」
「いや、大丈夫だけど……」
エリクはなにか言いたげにこちらを窺ってくる。やはり気づかれてしまったのかもしれない。
ごまかすため、アデライドはすぐさま質問をする。
「今は仕事の帰り? それにしてはいつもより随分早いけど……」
「いや、巡回を終えて詰所に戻る途中さ、お嬢さん」
返事をしてきたのはエリクではなく、彼の隣にいる青年だった。突然のことに驚きつつ、アデライドは彼のほうを見る。
青年はエリクよりも何歳か年上に見えた。おそらくフィリップと同じくらいで、ちょっと軽薄そうな顔立ちをしている。エリクと同じく軍服を纏っているけれど、雰囲気が全然違った。
アデライドが視線を向ければにこりと笑って手を振ってきた。見た目同様軽い態度である。
「ね、キミがエリクの言ってた子だよね? よろしく、オレは――」
「先輩、黙ってください」
「えー、いいじゃん」
「ダメです。あっち行ってください」
ムッと頬を膨らませて拗ねる、たぶんエリクの先輩である青年。
アデライドはそんな二人を見て目をぱちくりさせる。こんな辛辣な態度のエリクなんて初めて見たから、ものすごく驚いた。嫌っているのだろうか? でもなんとなく親しげだし……どうなのだろう?
そんなことを思っていると、青年がはあと盛大なため息をついた。
「あーはいはい、わかったわかった。せっかく今日はもうここまでで詰所には戻らなくてもいいって言おうとしたのになー」
ピシリとエリクが固まった。それを見た青年はニヤッと笑みを浮かべる。
アデライドは状況がよくわからず、というかこの二人の間に入ってもいいのかわからず困惑していると、エリクがそっと息をついた。
「……ありがとうございます。ですが彼女には近づかないでください、絶対に」
「ケチだなあ」
ケラケラと笑う青年。
ひとしきり笑い終わると、彼はくるりと踵を返して軽く手を振ってくる。
はあ、とため息がこぼれる。
結局昨日一日考えたけれど、結論は出なかった。そのため今の天気とは比べものにならないくらい、アデライドの胸は淀んでいて。
もう、どうすればいいのかさっぱりわからなかった。投げ出したいけど投げ出したくなくて、相反する感情がぶつかり合って、胸が張り裂けてしまいそう。
(とりあえず……)
今日もわずかな時間とはいえエリクと会える、はずである。彼といるときくらいはこういうことも忘れて楽しんでいたかったから、心配をかけないようにしっかりと笑顔を浮かべなければ。
よし、と意気込んで今日もいつものパティスリーに入ろうとした、まさにそのとき。
「――アデラ?」
ざわめきの中から声が聞こえ、アデライドはパッと振り返る。
大通りの真ん中で立ち止まっている人物が二人いた。軍服を纏った片方は、この三週間毎日顔を合わせているエリクで。
「あら、エリク」
意識して笑みを浮かべると、アデライドは彼らのほうへ向かった。
上手く笑えているのか少しだけ不安だった。それにもし声をかけられる前、悩んでいる表情を見られていたら、きっと心配してその理由を訊いてくるだろう。それは、絶対に嫌で。
頬が引き攣らないよう表情筋を働かせつつ、アデライドはエリクの前に立った。
「昨日はごめんなさい、急に帰っちゃって」
「いや、大丈夫だけど……」
エリクはなにか言いたげにこちらを窺ってくる。やはり気づかれてしまったのかもしれない。
ごまかすため、アデライドはすぐさま質問をする。
「今は仕事の帰り? それにしてはいつもより随分早いけど……」
「いや、巡回を終えて詰所に戻る途中さ、お嬢さん」
返事をしてきたのはエリクではなく、彼の隣にいる青年だった。突然のことに驚きつつ、アデライドは彼のほうを見る。
青年はエリクよりも何歳か年上に見えた。おそらくフィリップと同じくらいで、ちょっと軽薄そうな顔立ちをしている。エリクと同じく軍服を纏っているけれど、雰囲気が全然違った。
アデライドが視線を向ければにこりと笑って手を振ってきた。見た目同様軽い態度である。
「ね、キミがエリクの言ってた子だよね? よろしく、オレは――」
「先輩、黙ってください」
「えー、いいじゃん」
「ダメです。あっち行ってください」
ムッと頬を膨らませて拗ねる、たぶんエリクの先輩である青年。
アデライドはそんな二人を見て目をぱちくりさせる。こんな辛辣な態度のエリクなんて初めて見たから、ものすごく驚いた。嫌っているのだろうか? でもなんとなく親しげだし……どうなのだろう?
そんなことを思っていると、青年がはあと盛大なため息をついた。
「あーはいはい、わかったわかった。せっかく今日はもうここまでで詰所には戻らなくてもいいって言おうとしたのになー」
ピシリとエリクが固まった。それを見た青年はニヤッと笑みを浮かべる。
アデライドは状況がよくわからず、というかこの二人の間に入ってもいいのかわからず困惑していると、エリクがそっと息をついた。
「……ありがとうございます。ですが彼女には近づかないでください、絶対に」
「ケチだなあ」
ケラケラと笑う青年。
ひとしきり笑い終わると、彼はくるりと踵を返して軽く手を振ってくる。
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