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第44話 温泉VS民謡
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いよいよアイドル甲子園の3回戦の火蓋が切って落とされた。
各チームの映像を局内で見ながら、三橋が独り言を呟く・・・
「今までは運良く勝ち残るヤツもあったが・・・。ここからは実力のあるものが勝ち残る・・・。勝ち進んでくれよ、【ムーラン・ルージュ】っ!」
呟きがいつしか祈りに変わっていたようだか、三橋本人も気づいていないだろう。
壇上で三波にスポットライトが当てられる。
「アイドル甲子園もついに3回戦へと突入しています! 本日の対戦は、東京代表【ムーラン・ルージュ】VS青森代表【津軽あっぷる娘】っ! 果たしてどのような戦いを見せてくれるのでしょうかっ!?」
歓声が飛ぶ。
「では、先行の青森代表【津軽あっぷる娘】の皆さん。 曲は・・・、『桜日和』。宜しくお願い致しますっ!」
三波の紹介とともに幕がスルスルと上がって行く。
舞台にはよさこい衣装を着て、三味線を持った少女達が並んでいる。
歳は・・・、10代半ばであろうか・・・
「よぉ~」
中央に立つリーダーとおぼしき少女が掛け声をかけると、一斉に三味線の音がこだまする。
ジャーン・ジャンジャン
「はっ!」
チャンチャンチャン
「やっ!」
寸分の狂いも無い息の合ったコンビネーションである。
見事と言う他は無い。
しばらくの間、三味線の演奏だけが場内を包み込む。
「はいっ!」
伴奏が終わりかけ声が掛かると舞台袖から二人の少女が現れる。
皆と同じよさこいの衣装を身に纏い、ゆっくりと舞台中央へと進む。
「【津軽あっぷる娘】のボーカル、弘前凪沙さんと五所川原千聖さん。何と小学五年生、このアイドル甲子園最年少のお二人です!」
三波の紹介を受け、中央に立った二人が客席を向いて顔を上げる。
♬あっあ~、あ~あっあっああぁ~っ!♬
こぶしの効いた少女二人の歌声がハモり、それに負けじと三味線の音色が轟く。
(あの二人の声域・・・、声量・・・。凄いっ!)
額に緊張の汗を滲ませていたのは、涼香である。
(もしかしたら・・・、負けるかも知れない・・・)
♬ハァー ここに集まる皆さんの為♬
♬サーサ これから始まる津軽三味線♬
絶対音感を持つ涼香だからこそ、この二人の凄さが危険信号として感じ取れていたのだ。
そして、もう一人・・・
(民謡はヤバいよ・・・。強敵過ぎる・・・)
同じ東北の出身である萌も民謡の底力を感じ取っていたのだろう。
♬歌いますのは、桜日和 ハァー♬
涼香と萌の不安を感じ取る圭、だが他の五人も【津軽あっぷる娘】のステージを目の当たりにしてこれまでにない危機を感じていた。
そして、厳かに演奏が終了した。
シーンと静まり返る場内、そして盛大な拍手と歓声が巻き起こり鳴り止まない。
「・・・」
アキ達は一言も発せないでいる。
初めて、負けるかも知れないという実感が湧いてきていた。
「皆、聞いて・・・」
涼香が口を開く。
「恐らくだけど・・・、わたし達の練習してきた『フルメタル・キャッスル』じゃ勝てないかも知れない・・・」
「・・・」
誰もが同じ事を感じていた。
「事実・・・、だな」
「葵先生っ?」
葵の放った一言に皆が反応する。
「悔しいが、【津軽あっぷる娘】は完成度が高すぎる。果たして今のお前達が勝てるかどうか・・・」
「・・・」
だが、今は悩んでも仕方がない。
「後はお前達次第、やれる所までやってこいっ! 限界は超える為にあるっ!」
「はいっ!」
ここまで来て引き返す事は出来ないのだ、今はやれる事をするしかない。
「皆っ、行くよっ!」
誰もが驚く、これまでとは違ったアキの毅然とした態度、何かが弾けたのだろうか。
「ヤバイ、ヤバイぞ・・・。こんなの相手に勝てるのかよ? 」
三橋は両手に御守を固く握りしめモニターを食い入るように見つめていた。
そんな思いをよそに、無情にも三波のアナウンスが始まった。
「さて、対するは東京代表の【ムーラン・ルージュ】。毎回、奇抜な衣装で観客を楽しませてくれています。今回の曲は、『フルメタル・キャッスル』、それではお願いしますっ!」
三波が退き、幕が上がる。
ヴァルキリードレスに身を包んだ8人がアキを中心にして円陣を組み、片膝を付き傅ずいている。
ジャーンッ!
ミュージックが流れ出し、傅ずいていた女騎士が一人ずつ立ち上がる。
うわぁぁぁっ!
観客がどよめく中、曲が始まる。
♬天空 近く輝ける城♬
エレキギターを弾きながら歌い出す涼香、だがこれまでと客席の雰囲気が違う。
(ダメっ!? 客席の反応が弱すぎるっ!)
【津軽あっぷる娘】のステージのインパクトが強すぎて『フルメタル・キャッスル』の盛り上がりが欠けてしまっているのだ。
(どうしよう・・・、どうしたらあの声量に勝てるの? ・・・っ!?)
何かが涼香の頭の中で閃いた。
(これしか・・。無いっ!)
「えーっ!?」
「おおぉぉっ!」
観客席に動揺が走る。
「なっ・・・、白布・・・。何を・・・っ!?」
葵も涼香のしようとしている事が分からなかった。
何と、涼香は持っていたエレキギターを置き、自分の肉声だけに集中する策に打って出たのだ。
「なるほど・・・。高音域での真っ向勝負とは・・・。考えたな、白布」
♬難攻不落 フルメタル キャッスル♬
葵が感じ取ったのと同じようにアキ達も涼香の意図を察していた。
(わたし達に出来る事を・・・。そうだっ!?)
アキは涼香の側へと移動し、サブボーカルとしての低音パートを歌い出す。
(そうか・・・)
(それなら、行けるっ!)
アキの意図を察した七瀬と優奈が低音パートに加わる。
涼香の声域に合わせるには、最低でも三人は必要と分かっていたのだろうか。
♬女神の恩寵 その身に受けて♬
そして、アキの視線が汐音と圭へと向けられた。
(オッケーッ!)
(やるねっ! リーダーっ!)
汐音と圭はマイクを置き、ハイジャンプを繰り返すダンスへと切り替わる。
そして・・・
(萌ちゃん・・・、お願いっ!)
♬纏え まばゆい ヴァルキリードレス♬
アキの意図を感じた萌は素早く舞台袖へと駆け込み、愛用のスケートボードを持ち出した。
(よしっ、行けるっ!)
♬今だ 駆けろ 戦場の乙女♬
曲に合わせて、飛んだ萌のハイレベルオーリーが次々と決まる。
まさにヴァルキリードレスを纏った戦士が空中を飛んだかのようである。
銅メダリストのスケボーテクニックも相まった高音域と低音域の二重奏と動きを加速させたダンスで観客席も【津軽あっぷる娘】の時を超える熱狂に包まれていた。
♬フルメタル キャッスルっ!!♬
涼香の歌声が限界まで高まって炸裂し、これまでにない熱狂の渦のなかで【ムーラン・ルージュ】のステージは終了した。
だが、残念ながら特別審査員票は圧倒的に【津軽あっぷる娘】へと得点が集中したのだ。
「【津軽あっぷる娘】、40点・【ムーラン・ルージュ】5点」
三波の声が過酷な現実を突きつける。
「終わった・・・、俺の人生は終わった・・・」
呆然とする三橋。
これから一般審査員の点数が入るといっても、このような大差がついている以上は逆転などあり得る筈がない。
舞台の反対側に立つ【津軽あっぷる娘】はもう勝利を確信しているようだ。
一般審査員の票が入り、自分達への勝利宣言が為されるその時を待ちわびているのが伝わってくる。
「やれるだけやったんだから・・・」
優奈が皆に向けて呟く。
「悔いはない・・・かな」
圭も心なしか元気が無い。
「ごめん・・・、わたしがあんな事しなかったら・・・」
涼香の頭の中では、最初の通りにやっていればこのような惨敗は無かったのではないかという自責の念で溢れていた。
「そんな事無いよ」
アキが涼香に向かって言う。
「これはわたしが皆に送ったメッセージの結果だから」
「そうそう、あたし達の選んだリーダーのメッセージっ!」
七瀬とアキが微笑み会う。
「まったく・・・」
「思いっきりやれて良かったよ」
汐音と萌も晴れ晴れしい表情である。
「さて、最後の開票を見るとしますか」
穂波が皆を誘う。
「行こう。あの子達を祝福してあげよう」
アキが先導しようと、歩き出す。
その時・・・
会場に驚きの声が広がった。
「【津軽あっぷる娘】、73点・・・・。【ムーラン・ルージュ】182点・・・」
三波の声が上ずっている。
「え・・・?」
「な・・・、何が・・・?」
両チームだけでなく観客達も何が起きたのか理解できないでいた。
「総得点数・・・。【津軽あっぷる娘】、118点・・・・。【ムーラン・ルージュ】187点・・・。ムっ・・・、【ムーラン・ルージュ】の勝利ですっ!」
「ま・・・、まさか・・・?」
考えられない事が起こった時、人は思考も行動も一瞬止まってしまうものである。
それが如実に見て取れた。
そして自分達の勝利を確信していた【津軽あっぷる娘】達もポロポロと涙を流し始め・・・
「わっ・・・、わぁぁぁぁぁぁっんっ!」
「わぁぁぁ、うわぁーっ!」
まだ小学生でもある凪沙と千聖が泣き出すと連鎖反応を起こしたかの様に【津軽あっぷる娘】が皆、泣き出した。
「びぇーん、びぇーん」
「えーん、うぇーん」
見かねたのだろう、舞台袖に居た和服姿の女性が凪沙や千聖たちの肩を優しく叩きながら、よく頑張ったと慰めている。
「あの人・・・」
「民謡教室の先生だそうだ・・・」
アキの呟きにいつの間にか側に来ていた葵が答える。
「先生って・・・。良いものですね・・・」
「うちもお前達の先生なんだが?」
「はい、葵先生のお蔭です」
アキの言葉の意味が葵にはすぐに分からなかったようだ。
「後はお前達次第、やれる所までやってこいっ! 限界は超える為にあるっ!って言ってくれたんですよ? 覚えてないんですか?」
「確かに・・・。そんな事を言ったな・・・」
「だから、葵先生のお蔭なんです」
アキが零れるような笑みを浮かべる。
(弾・・・。こいつら・・・、きっとやるぞ・・・)
熱狂する観客席を見つめながら葵は思う。
出来る事なら、弾と一緒に【ムーラン・ルージュ】を見ていきたかったと・・・
そして・・・
(敵を甘く見過ぎたのはうちの落ち度・・・。だが、次からはもっと厳しくなる・・・)
葵の表情が固く引き締まっていた。
興奮冷めやらぬ中を【津軽あっぷる娘】が引率されて退場していく。
民謡の先生が何度も何度も頭を下げ、少女達が泣きじゃくりながら去って行く後ろ姿にアキ達もずっと温かい拍手を送り続け健闘を称えていた。
「やった・・・、やりやがった・・・! 奇跡の大逆転だあぁぁぁぁっ!」
この大逆転劇で三橋が更に開運グッズへとのめり込んだか否かは読者の想像にお任せしよう。
【ムーラン・ルージュ】が奇跡の逆転勝利を収めた瞬間を成田空港の国際線ロビーにある大型スクリーンで見ている女性がいた。
(やったネ・・・、アキ。CONGRATULATIONS!)
愛おしい者を見ているかのような視線、その女性に近づく一人のスーツ姿の男がいた。
「Excuse me?」
「What? 日本語、大丈夫ですヨ」
流れるような金髪に均整の取れたプロポーション。
一見すると、ハリウッドの女優と思うだろう。
「ミッシェル・アデルソン捜査官でしょうか?」
「OHッ! それじゃ、貴方ガ?」
「陣内隼人と申します。お迎えに上がりました」
「日本ガ初仕事になっテ嬉しいデース」
「こちらこそ、光栄です。こちらへ・・・」
その二人のすぐ前を黒いコートを着た人影が横切る。
(硝煙の匂い・・・。まさかな)
(アキ達ヲ見てタ、アノ視線・・・。気のせいナラ良いケド・・・)
職業上の勘だろうか、二人とも得も知れない不安を感じ取る。
男性か女性か、それすらも見て取れない雰囲気・・・
「こいつらがターゲットか・・・。つまらん仕事だ・・・」
スクリーンに映っている【ムーラン・ルージュ】を見て呟いた言葉は空港の雑踏にかき消されていった。
各チームの映像を局内で見ながら、三橋が独り言を呟く・・・
「今までは運良く勝ち残るヤツもあったが・・・。ここからは実力のあるものが勝ち残る・・・。勝ち進んでくれよ、【ムーラン・ルージュ】っ!」
呟きがいつしか祈りに変わっていたようだか、三橋本人も気づいていないだろう。
壇上で三波にスポットライトが当てられる。
「アイドル甲子園もついに3回戦へと突入しています! 本日の対戦は、東京代表【ムーラン・ルージュ】VS青森代表【津軽あっぷる娘】っ! 果たしてどのような戦いを見せてくれるのでしょうかっ!?」
歓声が飛ぶ。
「では、先行の青森代表【津軽あっぷる娘】の皆さん。 曲は・・・、『桜日和』。宜しくお願い致しますっ!」
三波の紹介とともに幕がスルスルと上がって行く。
舞台にはよさこい衣装を着て、三味線を持った少女達が並んでいる。
歳は・・・、10代半ばであろうか・・・
「よぉ~」
中央に立つリーダーとおぼしき少女が掛け声をかけると、一斉に三味線の音がこだまする。
ジャーン・ジャンジャン
「はっ!」
チャンチャンチャン
「やっ!」
寸分の狂いも無い息の合ったコンビネーションである。
見事と言う他は無い。
しばらくの間、三味線の演奏だけが場内を包み込む。
「はいっ!」
伴奏が終わりかけ声が掛かると舞台袖から二人の少女が現れる。
皆と同じよさこいの衣装を身に纏い、ゆっくりと舞台中央へと進む。
「【津軽あっぷる娘】のボーカル、弘前凪沙さんと五所川原千聖さん。何と小学五年生、このアイドル甲子園最年少のお二人です!」
三波の紹介を受け、中央に立った二人が客席を向いて顔を上げる。
♬あっあ~、あ~あっあっああぁ~っ!♬
こぶしの効いた少女二人の歌声がハモり、それに負けじと三味線の音色が轟く。
(あの二人の声域・・・、声量・・・。凄いっ!)
額に緊張の汗を滲ませていたのは、涼香である。
(もしかしたら・・・、負けるかも知れない・・・)
♬ハァー ここに集まる皆さんの為♬
♬サーサ これから始まる津軽三味線♬
絶対音感を持つ涼香だからこそ、この二人の凄さが危険信号として感じ取れていたのだ。
そして、もう一人・・・
(民謡はヤバいよ・・・。強敵過ぎる・・・)
同じ東北の出身である萌も民謡の底力を感じ取っていたのだろう。
♬歌いますのは、桜日和 ハァー♬
涼香と萌の不安を感じ取る圭、だが他の五人も【津軽あっぷる娘】のステージを目の当たりにしてこれまでにない危機を感じていた。
そして、厳かに演奏が終了した。
シーンと静まり返る場内、そして盛大な拍手と歓声が巻き起こり鳴り止まない。
「・・・」
アキ達は一言も発せないでいる。
初めて、負けるかも知れないという実感が湧いてきていた。
「皆、聞いて・・・」
涼香が口を開く。
「恐らくだけど・・・、わたし達の練習してきた『フルメタル・キャッスル』じゃ勝てないかも知れない・・・」
「・・・」
誰もが同じ事を感じていた。
「事実・・・、だな」
「葵先生っ?」
葵の放った一言に皆が反応する。
「悔しいが、【津軽あっぷる娘】は完成度が高すぎる。果たして今のお前達が勝てるかどうか・・・」
「・・・」
だが、今は悩んでも仕方がない。
「後はお前達次第、やれる所までやってこいっ! 限界は超える為にあるっ!」
「はいっ!」
ここまで来て引き返す事は出来ないのだ、今はやれる事をするしかない。
「皆っ、行くよっ!」
誰もが驚く、これまでとは違ったアキの毅然とした態度、何かが弾けたのだろうか。
「ヤバイ、ヤバイぞ・・・。こんなの相手に勝てるのかよ? 」
三橋は両手に御守を固く握りしめモニターを食い入るように見つめていた。
そんな思いをよそに、無情にも三波のアナウンスが始まった。
「さて、対するは東京代表の【ムーラン・ルージュ】。毎回、奇抜な衣装で観客を楽しませてくれています。今回の曲は、『フルメタル・キャッスル』、それではお願いしますっ!」
三波が退き、幕が上がる。
ヴァルキリードレスに身を包んだ8人がアキを中心にして円陣を組み、片膝を付き傅ずいている。
ジャーンッ!
ミュージックが流れ出し、傅ずいていた女騎士が一人ずつ立ち上がる。
うわぁぁぁっ!
観客がどよめく中、曲が始まる。
♬天空 近く輝ける城♬
エレキギターを弾きながら歌い出す涼香、だがこれまでと客席の雰囲気が違う。
(ダメっ!? 客席の反応が弱すぎるっ!)
【津軽あっぷる娘】のステージのインパクトが強すぎて『フルメタル・キャッスル』の盛り上がりが欠けてしまっているのだ。
(どうしよう・・・、どうしたらあの声量に勝てるの? ・・・っ!?)
何かが涼香の頭の中で閃いた。
(これしか・・。無いっ!)
「えーっ!?」
「おおぉぉっ!」
観客席に動揺が走る。
「なっ・・・、白布・・・。何を・・・っ!?」
葵も涼香のしようとしている事が分からなかった。
何と、涼香は持っていたエレキギターを置き、自分の肉声だけに集中する策に打って出たのだ。
「なるほど・・・。高音域での真っ向勝負とは・・・。考えたな、白布」
♬難攻不落 フルメタル キャッスル♬
葵が感じ取ったのと同じようにアキ達も涼香の意図を察していた。
(わたし達に出来る事を・・・。そうだっ!?)
アキは涼香の側へと移動し、サブボーカルとしての低音パートを歌い出す。
(そうか・・・)
(それなら、行けるっ!)
アキの意図を察した七瀬と優奈が低音パートに加わる。
涼香の声域に合わせるには、最低でも三人は必要と分かっていたのだろうか。
♬女神の恩寵 その身に受けて♬
そして、アキの視線が汐音と圭へと向けられた。
(オッケーッ!)
(やるねっ! リーダーっ!)
汐音と圭はマイクを置き、ハイジャンプを繰り返すダンスへと切り替わる。
そして・・・
(萌ちゃん・・・、お願いっ!)
♬纏え まばゆい ヴァルキリードレス♬
アキの意図を感じた萌は素早く舞台袖へと駆け込み、愛用のスケートボードを持ち出した。
(よしっ、行けるっ!)
♬今だ 駆けろ 戦場の乙女♬
曲に合わせて、飛んだ萌のハイレベルオーリーが次々と決まる。
まさにヴァルキリードレスを纏った戦士が空中を飛んだかのようである。
銅メダリストのスケボーテクニックも相まった高音域と低音域の二重奏と動きを加速させたダンスで観客席も【津軽あっぷる娘】の時を超える熱狂に包まれていた。
♬フルメタル キャッスルっ!!♬
涼香の歌声が限界まで高まって炸裂し、これまでにない熱狂の渦のなかで【ムーラン・ルージュ】のステージは終了した。
だが、残念ながら特別審査員票は圧倒的に【津軽あっぷる娘】へと得点が集中したのだ。
「【津軽あっぷる娘】、40点・【ムーラン・ルージュ】5点」
三波の声が過酷な現実を突きつける。
「終わった・・・、俺の人生は終わった・・・」
呆然とする三橋。
これから一般審査員の点数が入るといっても、このような大差がついている以上は逆転などあり得る筈がない。
舞台の反対側に立つ【津軽あっぷる娘】はもう勝利を確信しているようだ。
一般審査員の票が入り、自分達への勝利宣言が為されるその時を待ちわびているのが伝わってくる。
「やれるだけやったんだから・・・」
優奈が皆に向けて呟く。
「悔いはない・・・かな」
圭も心なしか元気が無い。
「ごめん・・・、わたしがあんな事しなかったら・・・」
涼香の頭の中では、最初の通りにやっていればこのような惨敗は無かったのではないかという自責の念で溢れていた。
「そんな事無いよ」
アキが涼香に向かって言う。
「これはわたしが皆に送ったメッセージの結果だから」
「そうそう、あたし達の選んだリーダーのメッセージっ!」
七瀬とアキが微笑み会う。
「まったく・・・」
「思いっきりやれて良かったよ」
汐音と萌も晴れ晴れしい表情である。
「さて、最後の開票を見るとしますか」
穂波が皆を誘う。
「行こう。あの子達を祝福してあげよう」
アキが先導しようと、歩き出す。
その時・・・
会場に驚きの声が広がった。
「【津軽あっぷる娘】、73点・・・・。【ムーラン・ルージュ】182点・・・」
三波の声が上ずっている。
「え・・・?」
「な・・・、何が・・・?」
両チームだけでなく観客達も何が起きたのか理解できないでいた。
「総得点数・・・。【津軽あっぷる娘】、118点・・・・。【ムーラン・ルージュ】187点・・・。ムっ・・・、【ムーラン・ルージュ】の勝利ですっ!」
「ま・・・、まさか・・・?」
考えられない事が起こった時、人は思考も行動も一瞬止まってしまうものである。
それが如実に見て取れた。
そして自分達の勝利を確信していた【津軽あっぷる娘】達もポロポロと涙を流し始め・・・
「わっ・・・、わぁぁぁぁぁぁっんっ!」
「わぁぁぁ、うわぁーっ!」
まだ小学生でもある凪沙と千聖が泣き出すと連鎖反応を起こしたかの様に【津軽あっぷる娘】が皆、泣き出した。
「びぇーん、びぇーん」
「えーん、うぇーん」
見かねたのだろう、舞台袖に居た和服姿の女性が凪沙や千聖たちの肩を優しく叩きながら、よく頑張ったと慰めている。
「あの人・・・」
「民謡教室の先生だそうだ・・・」
アキの呟きにいつの間にか側に来ていた葵が答える。
「先生って・・・。良いものですね・・・」
「うちもお前達の先生なんだが?」
「はい、葵先生のお蔭です」
アキの言葉の意味が葵にはすぐに分からなかったようだ。
「後はお前達次第、やれる所までやってこいっ! 限界は超える為にあるっ!って言ってくれたんですよ? 覚えてないんですか?」
「確かに・・・。そんな事を言ったな・・・」
「だから、葵先生のお蔭なんです」
アキが零れるような笑みを浮かべる。
(弾・・・。こいつら・・・、きっとやるぞ・・・)
熱狂する観客席を見つめながら葵は思う。
出来る事なら、弾と一緒に【ムーラン・ルージュ】を見ていきたかったと・・・
そして・・・
(敵を甘く見過ぎたのはうちの落ち度・・・。だが、次からはもっと厳しくなる・・・)
葵の表情が固く引き締まっていた。
興奮冷めやらぬ中を【津軽あっぷる娘】が引率されて退場していく。
民謡の先生が何度も何度も頭を下げ、少女達が泣きじゃくりながら去って行く後ろ姿にアキ達もずっと温かい拍手を送り続け健闘を称えていた。
「やった・・・、やりやがった・・・! 奇跡の大逆転だあぁぁぁぁっ!」
この大逆転劇で三橋が更に開運グッズへとのめり込んだか否かは読者の想像にお任せしよう。
【ムーラン・ルージュ】が奇跡の逆転勝利を収めた瞬間を成田空港の国際線ロビーにある大型スクリーンで見ている女性がいた。
(やったネ・・・、アキ。CONGRATULATIONS!)
愛おしい者を見ているかのような視線、その女性に近づく一人のスーツ姿の男がいた。
「Excuse me?」
「What? 日本語、大丈夫ですヨ」
流れるような金髪に均整の取れたプロポーション。
一見すると、ハリウッドの女優と思うだろう。
「ミッシェル・アデルソン捜査官でしょうか?」
「OHッ! それじゃ、貴方ガ?」
「陣内隼人と申します。お迎えに上がりました」
「日本ガ初仕事になっテ嬉しいデース」
「こちらこそ、光栄です。こちらへ・・・」
その二人のすぐ前を黒いコートを着た人影が横切る。
(硝煙の匂い・・・。まさかな)
(アキ達ヲ見てタ、アノ視線・・・。気のせいナラ良いケド・・・)
職業上の勘だろうか、二人とも得も知れない不安を感じ取る。
男性か女性か、それすらも見て取れない雰囲気・・・
「こいつらがターゲットか・・・。つまらん仕事だ・・・」
スクリーンに映っている【ムーラン・ルージュ】を見て呟いた言葉は空港の雑踏にかき消されていった。
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