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本当の意味での区切り
叩かれることを覚悟したつかさの鼻腔に金木犀の香りが飛び込んできた次の瞬間。
茂の手がつかさの左頬に降りる寸前で止まった。
誰かが茂の腕を掴んでいる。
つかさはそれが誰かは見なくても分かっていた。
「やめろ」
「お前……邪魔するな!!」
「……ジェフリーさん……!」
必死でジェフリーの手を振り解こうとする茂だが、腕はびくともしない。
だんだんと茂の顔が真っ赤に染まる。じわじわと汗が滲み出しているがそれでもぴくりとも動かない。
「誰!?めっちゃイケメンなんですけど?!」
茂の心配をするどころかジェフリーを見て黄色い声を上げる浮気相手。全くもって空気を読めない、むしろ読む気がない女のようだ。
少し離れた所で見守っていたミミルとミシェルは呆れて言葉が出ない。
「お前のした事の結果だろ?彼女が殴られる理由にはならない」
「知ったような口を叩くな!部外者は黙ってろ!」
「部外者……ではない。彼女は俺のものだ」
ぶわっ
ジェフリーの瞳が紅から金へと変わっていく。
彼の後ろには金色の光を放つ満月が浮かんでいた。
獣耳はピンと夜空に伸び、風がないのに髪が逆立っているのが見て分かる。
「彼女は俺の番だ、誰にも譲らない」
「番って何だ……いてててて?!離せ、痛い!!」
ジェフリーの握力が増しているのか茂は涙目になってもがき苦しんでいる。
ミシリ、と茂の腕から音がして痛みから絶叫が上がるが誰も助けることが出来ず、立ち尽くしている。
「威嚇……!?ちょっと!!あんなジェフリー見た事ないわよ!!くまちゃん何とかして!?」
「無理だよ!!」
「体小さいけど熊獣人でしょ?!」
「僕はまだ半人前なんだけど?!それ以前に満月の夜の狼獣人に刃向かったら瞬殺ものだよ!!」
ミミルとミシェルが何やら言い合っているが、つかさには良く分からない言葉が並んでいる。
獣人……狼……満月……?
ジェフリーは人間ではないって事?
もの思うつかさの周囲に強い香りが包み込んできた。
咽せそうなほどに濃厚な金木犀。
花弁が天から大量に降り注いているようだ。
私は、あの人に守られている。
身体にまとわりつく甘く優しい空気がつかさに教えてくれている。
あの人は、私のモノだと。
ここできっちり区切りをつけよう。
そして新しい道を進もう。
「ジェフリーさん。そのまま彼を抑えていてもらっていいですか?」
「構わない」
つかさはジェフリーに抑えられたままの茂の前に立った。
ジェフリーは黙ってつかさのする事を見守っている。
「つかさ……なあ、助けてくれよ……コイツの知り合いなんだろ?頼むよ!」
慈悲を求めるような目をする茂を無視し、つかさは右腕を振りかぶって茂の頬に平手を叩きつけた。
ばちん!と小気味良い音があたりに響く。
「ぎゃっ!何するんだよ?!」
噛み付かんばかりの勢いはしかし、ジェフリーが軽く腕を捻ると情けない悲鳴に変わる。
つかさはジェフリーに感謝しつつ、茂と向き合い、2度目のビンタをお見舞いしてあげる。
「浮気男!二度と目の前に現れないで!」
つかさは茂に別れの言葉を吐き捨てた。
それを聞いたジェフリーが茂の腕を離すと重力に従って崩れ落ちていく茂の体。
「貴様がここに辿り着くことはこの先永遠にない、消えろ」
「はははははいいいいいいい!」
金の双眸が茂を射抜くように睨みつけると、情けない返事が聞こえてきた。
「ねえねえお兄さん、カッコいいね!!私と一緒に飲もうよ!」
それまで傍観していた浮気相手が突如、ジェフリーの前まで駆け寄り、体を押し付けはじめたではないか。
この雰囲気でなぜ口説ける?!と周りが唖然としている。
「断る。臭すぎる」
「は?どういうこと?香水付けてるのに?」
「何人の男と交わってるんだ?人間の匂いが多すぎて臭い」
どうやら浮気相手、茂の他にも男がいたらしい。
ジェフリーの口ぶりからしたらひとりやふたりじゃなさそうだ。
「おい、レイナ!お前俺以外の男がいるのか?!」
「そんなの今関係ある?!」
痴話喧嘩を始めたクズとビッチを放置して、ジェフリーはつかさの前に立った。
身体が熱い。奥が疼く。
胸の鼓動がどんどん速くなり、呼吸が浅くなっていく。
ますます強くなる金木犀の香りに飲まれかけているつかさは、とろりとした視線を返すのがやっとだ。
「俺の番……俺の半身……名は?」
「御影、つかさ」
「つかさ……いい名だ」
そう言うや否や、ジェフリーはつかさを抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこと言うやつだ。
「あ、あの……!?」
「行こう」
急な事に頭がついて行けていないつかさは、ジェフリーに運ばれるまま、開け離れたままの扉から中へ入って行くのをただ見ていることしかできなかった。
茂の手がつかさの左頬に降りる寸前で止まった。
誰かが茂の腕を掴んでいる。
つかさはそれが誰かは見なくても分かっていた。
「やめろ」
「お前……邪魔するな!!」
「……ジェフリーさん……!」
必死でジェフリーの手を振り解こうとする茂だが、腕はびくともしない。
だんだんと茂の顔が真っ赤に染まる。じわじわと汗が滲み出しているがそれでもぴくりとも動かない。
「誰!?めっちゃイケメンなんですけど?!」
茂の心配をするどころかジェフリーを見て黄色い声を上げる浮気相手。全くもって空気を読めない、むしろ読む気がない女のようだ。
少し離れた所で見守っていたミミルとミシェルは呆れて言葉が出ない。
「お前のした事の結果だろ?彼女が殴られる理由にはならない」
「知ったような口を叩くな!部外者は黙ってろ!」
「部外者……ではない。彼女は俺のものだ」
ぶわっ
ジェフリーの瞳が紅から金へと変わっていく。
彼の後ろには金色の光を放つ満月が浮かんでいた。
獣耳はピンと夜空に伸び、風がないのに髪が逆立っているのが見て分かる。
「彼女は俺の番だ、誰にも譲らない」
「番って何だ……いてててて?!離せ、痛い!!」
ジェフリーの握力が増しているのか茂は涙目になってもがき苦しんでいる。
ミシリ、と茂の腕から音がして痛みから絶叫が上がるが誰も助けることが出来ず、立ち尽くしている。
「威嚇……!?ちょっと!!あんなジェフリー見た事ないわよ!!くまちゃん何とかして!?」
「無理だよ!!」
「体小さいけど熊獣人でしょ?!」
「僕はまだ半人前なんだけど?!それ以前に満月の夜の狼獣人に刃向かったら瞬殺ものだよ!!」
ミミルとミシェルが何やら言い合っているが、つかさには良く分からない言葉が並んでいる。
獣人……狼……満月……?
ジェフリーは人間ではないって事?
もの思うつかさの周囲に強い香りが包み込んできた。
咽せそうなほどに濃厚な金木犀。
花弁が天から大量に降り注いているようだ。
私は、あの人に守られている。
身体にまとわりつく甘く優しい空気がつかさに教えてくれている。
あの人は、私のモノだと。
ここできっちり区切りをつけよう。
そして新しい道を進もう。
「ジェフリーさん。そのまま彼を抑えていてもらっていいですか?」
「構わない」
つかさはジェフリーに抑えられたままの茂の前に立った。
ジェフリーは黙ってつかさのする事を見守っている。
「つかさ……なあ、助けてくれよ……コイツの知り合いなんだろ?頼むよ!」
慈悲を求めるような目をする茂を無視し、つかさは右腕を振りかぶって茂の頬に平手を叩きつけた。
ばちん!と小気味良い音があたりに響く。
「ぎゃっ!何するんだよ?!」
噛み付かんばかりの勢いはしかし、ジェフリーが軽く腕を捻ると情けない悲鳴に変わる。
つかさはジェフリーに感謝しつつ、茂と向き合い、2度目のビンタをお見舞いしてあげる。
「浮気男!二度と目の前に現れないで!」
つかさは茂に別れの言葉を吐き捨てた。
それを聞いたジェフリーが茂の腕を離すと重力に従って崩れ落ちていく茂の体。
「貴様がここに辿り着くことはこの先永遠にない、消えろ」
「はははははいいいいいいい!」
金の双眸が茂を射抜くように睨みつけると、情けない返事が聞こえてきた。
「ねえねえお兄さん、カッコいいね!!私と一緒に飲もうよ!」
それまで傍観していた浮気相手が突如、ジェフリーの前まで駆け寄り、体を押し付けはじめたではないか。
この雰囲気でなぜ口説ける?!と周りが唖然としている。
「断る。臭すぎる」
「は?どういうこと?香水付けてるのに?」
「何人の男と交わってるんだ?人間の匂いが多すぎて臭い」
どうやら浮気相手、茂の他にも男がいたらしい。
ジェフリーの口ぶりからしたらひとりやふたりじゃなさそうだ。
「おい、レイナ!お前俺以外の男がいるのか?!」
「そんなの今関係ある?!」
痴話喧嘩を始めたクズとビッチを放置して、ジェフリーはつかさの前に立った。
身体が熱い。奥が疼く。
胸の鼓動がどんどん速くなり、呼吸が浅くなっていく。
ますます強くなる金木犀の香りに飲まれかけているつかさは、とろりとした視線を返すのがやっとだ。
「俺の番……俺の半身……名は?」
「御影、つかさ」
「つかさ……いい名だ」
そう言うや否や、ジェフリーはつかさを抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこと言うやつだ。
「あ、あの……!?」
「行こう」
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