眠り姫は幸せになりたい

関日向海

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2話 過去①

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5歳で眠り姫の力を発現させたミーシャだったが、神殿から正式に眠り姫として認められたのは8歳になってからだった。

それまでは託宣夢の内容を紙に書き、母リーシャに見せるだけだった。

リーシャはそれをひとつひとつ紐で綴じ、部屋にある引き出しの中へ大事にしまっていたようだった。

時々引き出しから紙束を取り出し、ふたりで夢の話をすることもあった。

「この時はどんな感じだったの?」
「ミーシャはどう思ったの?」

ミーシャはその度にリーシャに語って聞かせ、新たに思い出したものはリーシャが書き加えていった。



ミーシャが託宣夢を見ている事が周囲に判明したのは、リーシャの夢を見た時だった。


その1年くらい前からリーシャは食事が進まず、寝たり起きたりを繰り返していた。


当時のミーシャは知らなかったが、リーシャは王妃から陰湿な嫌がらせを受けていた。

悪意ある噂をばら撒かれ、国王からの贈り物は横取りされ、食事も他の王族とは明らかに劣るものを供されていた。


食事や飲み物に毒が仕込まれていたのも一度や二度とでなく、それをきっかけに食事を拒む事もあったという。

かろうじてここまで生きていけたのは、侍女であるサリーの存在があったからだった。

恰幅が良く陽気な性格のサリーは、リーシャが王城に上がった際に教育係として付けられたのだが、ふたりは時間をかけて無二の親友となっていた。

ミーシャが生まれてから、王妃の嫌がらせは酷くなっていた。栄養不足からリーシャは母乳が出ず、サリーがミルクを調達してなんとか凌いだこともあった。

王妃はなおもリーシャ母娘を孤立させようとサリーにも触手を伸ばしてきた。
聡いサリーは表向きは王妃に従いつつ、リーシャ母娘が不自由ないようにと心を配っていたのだった。

父である国王はちょくちょくリーシャを訪れていたものの、長居はせずにすぐに出て行ってしまう。

ミーシャに対してもひと言「お母様を頼む」と言うばかり。

なぜか毎回第1王子のミカエルが国王に付き添っていたため、ミーシャは近づくこともままならない。

異母兄のミカエルは当時14歳。

国王に付いて執務について学び始めたばかりだった事もあり、行動を共にする時間もあったらしい。

そんなミカエルがミーシャに向ける視線は鋭くて、金縛りにあったように身体が固まってしまうのだ。



ある日、リーシャが息を引き取る夢を見たミーシャは、慣例も何もすっ飛ばして父国王の執務室へ飛び込んでいった。

『お母さまがいなくなっちゃう!お父さま、お母さまを助けてあげて!!』

その場に居たのは父国王、神官長、第1王子ミカエル、宰相だった。

「ミーシャ……そんな事、誰から聞いた?」
「ゆめで……ゆめで、お母さまが神さまにつれていかれて……お母さまを助けて、お父さま!!」

ミーシャは父国王の服の裾を握りしめ、必死に訴えかけているが、口を開かない。
すると、話を聞いていた神官長は目を見開きながらミーシャに迫ってきた。

「第2王女殿下は託宣夢を見るのですか?!」
「……ひっ……!」

見知らぬ顔が間近にきたため、ミーシャは驚きから固まってしまう。
父国王はため息をつきながら神官長を嗜めようと試みる。

「子どもの夢ひとつに大袈裟な……」
「ですがこれが本当なら、第2王女殿下は新たな眠り姫として神殿が迎え入れます」
「ちょっと待ってくれ!それは早急なのでは……?!」
「いいえ!遅すぎるくらいです!きちんと確認はしますが、死期を読めるのは眠り姫である証ですので!」

ミーシャは周りの大人が何を話しているかが理解出来なかったが、母の言いつけを破ったという事実にようやく気がついた。

「お母さまとのやくそくが……!」

ミーシャの目からじんわりと熱いものが込み上げてきた。母が居なくなるというショックからここまで来てしまった。

ミカエルはそんなミーシャを鋭い目で見ていたが、誰も気づかない。

神官長はその身を屈め、ミーシャに努めて優しく語りかけた。

「側妃様はご存知だったのですね。第2王女殿下、お母様のところへ連れて行ってもらえますか?」

ミーシャは泣きながらも頷き、神官長と父国王、宰相と共に母の元へと戻った。

神官長から詳しい話を聞いたリーシャは、サリーに頼んで机の引き出しから紙束を出させた。

サリーは目を赤くさせながら、主人の言う通りにする。国王に憎しみのこもった視線を投げつけながら。

サリーから紙束を受け取り、リーシャは神官長へ差し出す。
今までミーシャが書き溜めてきた託宣夢の数々。

神官長は1枚ずつじっくりと読み、これは……とか何という……とか、呻き声をあげている。


「この子はまだ子ども。大人の世界にひとり放り出すなど……母としてそれだけは止めようと……!」

床の中でリーシャは泣き崩れた。

神官長は紙束をしっかりと抱きしめ、国王はと宰相はただ泣いているリーシャを眺めているだけで慰めようともしない。

(わたしがお母さまとのやくそくやぶったから、お母さまは泣いている)

ミーシャもまた、人目を憚らずに泣いている母に罪悪感しか抱けずにいた。



それからまもなく、リーシャの命の炎は燃え尽きた。


それは奇しくも神殿から眠り姫の称号を賜り、神殿へ移る前の日の事だった。
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