眠り姫は幸せになりたい

関日向海

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1話 眠り姫の習慣

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ミーシャの瞼がゆっくりと開かれた。

最初はぼんやりとしていたものの、段々と視界が良くなってきて、見慣れた石の天井であると認識することができた。


(ああ……夢から覚めたのか……)


ミーシャはゆっくりと上体を起こした。

天井から壁まで冷たい石で囲われているこの一室は、ベッドとサイドテーブル、机と椅子が置いてあるだけの簡素さ。
これが今、ミーシャの持っているものの全てだ。

ベッドから抜け出し、机に向かう。

机にはインクとペン立て、そして紙……最低限のものしか置いていない。

どれも長い間使い込まれて、所々欠けていたりインクで汚れていたりするのだが、紙だけはシミひとつない真っ白なものが何枚も机に重ねられていた。


ミーシャはその中から1枚を取り出し、今しがた見たばかりの夢を書き始める。


これは5歳で託宣夢たくせんむを見るようになったミーシャの毎日の習慣だった。



初めて託宣夢を見た日、母に夢の話をすると酷く驚かれ、次にはとても怖い表情になった。

何か悪いことをしたのかとビクつくミーシャに、母は屈んでミーシャと視線を合わせた。

『夢の話を他人にしてはダメよ、ミーシャ』
『どうして?』
『夢は、口にすると現実になってしまうから』
『?』 
『どうしてもお母様にお話したいなら、紙に書いて見せて。ミーシャにとっても字の練習になるからね』
『うん!ミーシャ、いっぱいれんしゅうする!』


あの時、母はそれが託宣夢だとわかっていたのだろう。出来れば秘密にしておきたかったから、周囲に漏れないよう紙に書くようにしたのだと、今なら理解できる。

国の行く末を左右する存在となる「眠り姫」である事が王妃に知られたら、より過酷な運命を辿ると予測していたのだろう。

その母も8歳の時に儚くなった。
それからずっとミーシャはこの塔の中で暮らしていたのだった。




ゆっくりと時間をかけ、先程まで見ていた夢を思い出し、羽根ペンを動かしていく。


ミーシャが夢を見た時は文書にして提出する事が義務つけられている。
内容によっては国の存亡に関わる程の重要案件となるからだ。

ミーシャの文書を読む人間は限られているとはいえ、他人の目に触れるのだから適当には書けない。

ゆっくりと丁寧に。
受け取った人へ正確に内容が伝わるように書いていくのだ。


1時間ほどかけ、夢の内容を書き上げる。


起きた時はまだ薄暗かった空は、朝日が登り、小さな窓から光が差し込んでいた。

ただ……この夢を他人に見せる必要があるのかと考えてしまう。


ミーシャはこれまでに多くの託宣夢を見てきた。

天候の急激な変化や事故が発生すると言ったものから、血溜まりに人が倒れている夢を見た数週間後にとある国でクーデターが起こり、王族が皆殺しにあったという事もあった。


こんなミーシャ個人に関する夢など、眠り姫を受け継いでからは初めてだ。


それに黒装束に燃えるような瞳の人物に心当たりはない。


しかもあんなにも甘く、優しく名前を呼ばれたことは母が儚くなってから一度もなかった。

ましてや北の塔から出て誰かにエスコートされるなど、あの人たちが許すはずがない。



けれどもあの感覚は確かに託宣夢の前触れだった。

5歳の時に初めて託宣夢を見た時から変わっていない。何度体感してもあまり気持ちのいいものではないのだが。


「私は自らの意志でここを出る日が来るって事なのかしら……?」



そんな夢物語はとうに諦めていた。

あの晩。
無理矢理この塔に連れて来られた時から。

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