私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

文字の大きさ
8 / 363
第1部 家出して異世界へ

1-3どこの世界も新人は雑用と勉強がメインです

しおりを挟む
 私は、水路の少し手間に立ち『エア・ゴンドラ』を、じっと見つめていた。ゴンドラには、ちょうどお客様が、乗り込んでいる最中だった。リリーシャさんが手を差し出し、上手くエスコートしていた。
 
 素敵な笑顔に加え、優雅で洗練された動きは、見ていてとても安心する。流石は、リリーシャさん。何をやっても、完璧なんだよね。しかも、全ての動作に、ゆったりとした余裕が感じられる。

 今回のお客様は、一週間前に結婚したばかりの、新婚ほやほやのご夫婦。二人とも、本当に幸せそうだ。せっかくの新婚旅行なので、最高に素敵な思い出を、たくさん作って行って欲しいと思う。

 二人が座席に着いたのを確認すると、リリーシャさんが、目で合図を送って来る。私は小さく頷くと、ビットに結んであるロープに、手を伸ばした。

「ロープ、外します!」
 手早くロープをほどくと、ゴンドラの先端に、さっと投げ込んだ。

 このロープの付け外しをする『ラインマン』の仕事は、一見、簡単そうに見えるが、意外と難しい。最初のうちは、外れないわ、結べないわで、毎回あたふたしていた。今は、ササッと出来るようになったけど、元々手先が不器用なんで……。

 ロープが外れると、エア・ゴンドラが、ゆっくりと動きだす。

「いってらっしゃいませ。素敵なひと時を、お過ごし下さい」
 私は、お客様に向かい、誠心誠意の気持ちを込めた、最高の笑顔で見送った。

 エア・ゴンドラは、普通のゴンドラとは違って、オールがない。『マナフロ―ター・エンジン』を積んでいるため、操縦者の『魔力』で、動かす仕組みになっている。

 だが、エア・ドルフィンと違い、ハンドルもアクセルもないため、操縦には、極めて高度な技術が必要だ。私には、まだ無理だけど、リリーシャさんレベルになると、楽々操縦している。

 エア・ゴンドラは、本来は空を飛ぶ機体。でも、普通に水上を、走らせることも出来る『水陸両用』の機体だ。今日のお客様は、水上と空中の、両方の観光をご希望だったので、前半は水路を、後半は空を飛ぶ予定になっている。

 ゴンドラが、完全に見えなくなると、私は拳を握りしめ、気合を入れた。

「よし、それじゃー、私も頑張りまっしょい!」
 と意気込むものの、実は私の仕事は、ここでおしまいだ。

 私の今の階級のライセンスでは、まだ、シルフィードとしての、正式な営業許可が下りていない。そのため、掃除・準備・受付・見送りなどの、サポート業務が私の役目だ。まぁ、平たく言えば、全て『雑用』なんだよね。
 
 かと言って、リリーシャさんが、仕事に出ている間、休憩という訳ではない。手が空いたら、エア・ドルフィンで町中を飛び回り、練習をする時間だ。

 ちなみに、シルフィードの階級は、細かく分かれている。上から順に、

『グランド・エンプレス』
『シルフィード・クイーン』
『スカイ・プリンセス』
『エア・マスター』
『ホワイト・ウィッチ』
『リトル・ウィッチ』
『ハミングバード』

 この七段階だ。

 偉大なシルフィードにのみ贈られる、名誉階級の『グランド・エンプレス』は、現在、空席。なので、次の階級の『シルフィード・クイーン』が、事実上の最高位になっていた。

 通常は、長年やっていても『エア・マスター』止まり。それ以上の階級は、ごく一握りの、エリートにしか到達できない。

 現在『シルフィード・クイーン』は、四名。ここ〈グリュンノア〉には、大勢のシルフィードがおり、その中から選ばれた、超エリートだ。技術・知識・品行・人気、全てに秀でている必要がある。

 シルフィード業界は、華やかな見た目に反して、実際には、かなりの『競争社会』だった。また、自分より上の階級の人には、敬意を持って接し、指示にも絶対に従わねばならない。

 でも、体育会系の思考である私にとっては、縦社会も競い合うのも、結構、好きだ。むしろ、リリーシャさんには、もっと厳しく、接して欲しいぐらいだからね。

 なお、リリーシャさんは、現在『スカイ・プリンセス』の地位にあった。その優美な立ち振る舞いと、卓越した操縦技術で『天使の羽』エンジェルフェザーの二つ名を持っており、ファンも非常に多い。

 一生やっても『エア・マスター』止まりの人が多い中、十代でこの地位にいるのは、物凄い出世コースだ。『スカイ・プリンセス』以上は、上位階級と言われ、一生安泰が約束されたも、同然だった。

 私は、言うまでもなく、最下位の『ハミングバード』だ。まぁ、先日ライセンスを、取得したばかりだからね。ちなみに、筆記試験で点数が足りなくて、一度おちたのは、内緒……。

「私も早く、あんな素敵なシルフィードに、なりたいなぁー」
 両手を胸の前で組み、うっとりと、リリーシャさんの、神々しい姿を想像した。
 
 って、いかんいかん――。くだらない妄想を、している場合じゃないや。

 私は、小走りで事務所に戻ると、よれよれになった、地図を持ってきた。ぎっしりと書き込みがしてあり、かなり使い込んでいる。新米シルフィードが、最初にやらねばならないのは、この町の隅から隅まで、地形を覚えることだ。

 一応、マップナビはあるんだけど、お客様を乗せる時は、使ってはいけない決まりになっている。ナビを見ながらとかじゃ、かっこ悪いもんね。だから、地図を使って、地形を頭に叩き込むのは、新人の伝統的な練習法だった。

 リリーシャさんのように、人気のシルフィードになると、待っていれば、いくらでも予約が入る。でも、無名の新人シルフィードは、こちらからお客様を、探しに行かなければならなかった。

 町の上空を飛び回り、お客様を見付けたら、目的地に運ぶ。一言でいえば、タクシーみたいな感じ。なので、言われた希望地に、即座に行ける、土地勘が重要だった。

「昨日は〈北地区〉を回ったから、今日は〈西地区〉に、行って見ようかな」
 地図に印をつけると、練習用のエア・ドルフィンに乗りこむ。

 オレンジ色の機体で、側面と底面には、双葉のマークが付いていた。これは、シルフィード協会の規定で、練習中の新人の機体だと、一目で分かるようにしてある。

 ホルダーに、地図をさし込むと、両手をそっとハンドルに置いた。すると、スピードメーターの隣にある『マナ・ゲージ』の表示が、少しずつ上に伸びていく。

 ゲージが、グリーンゾーンに入ると『エンジン・スターター』を押した。エンジンの起動を確認すると、私は深呼吸して、意識を集中する。次の瞬間、ふわりと機体が浮き上がり、徐々に高度を上げていった。

 前進はアクセルで操作できるが、上昇と下降は、搭乗者自身の、魔力で制御しなければならない。魔力を注ぎ込みながら、イメージで動かすのだ。

 でも、このイメージが、難しいんだよねぇ。最初のころは、いくらやっても、ピクリとも動かなかった。十センチほど浮かすのに、二週間以上、掛かった記憶がある……。ただ、一度、慣れてしまえば、そう難しくはなかった。

 十メートルほどの高さまで上昇すると、右手のアクセルを開く。直後、スーッと前進し始めた。全身で受ける風が、最高に気持ちいい。

「よーし、レッツゴー!」
 少しずつ加速させながら〈西地区〉を目指して、突き進んで行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『近いようで果てしなく遠いもう一つの地球』

 だけど涙が出ちゃう、女の子だもん……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...