私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第1部 家出して異世界へ

1-5初めてのシル友はツンツン金髪美少女だった

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 午前中の仕事を終えたあと、私は〈西地区〉で、練習飛行をしていた。上空から町を見下ろし、建物の屋根を、一つずつ確認している。空から見たほうが、目的地を探しやすそうに思うかもしれないが、実はその逆だ。
 
 地上だと、建物の外観や看板、標識などで判断できる。でも、上空からだと、建物の位置関係と、屋根でしか判断できない。そのため、屋根の色・形・特徴などを覚えるのは、とても大切だ。

 私は、屋根を見ながら『あそこのガーリック・トースト最高だよねぇ』『あの店はチョコ・デニッシュが美味しいんだぁー』『ここのカレーパンは超サクサク』などと、パンを思い浮かべていた。

 なぜなら、私が目印に覚えているのは、ほとんどが『パン屋』だからだ。毎食パンなので、自然に覚えちゃったんだよねぇ。

 ここ〈グリュンノア〉には、いたる所にパン屋がある。そのため『パンの町』としても、知られていた。わざわざ、海を越えて買いに来る、パンマニアの人たちも、いるぐらいだ。

 元々、ご飯派だった私も、この町に来てから、すっかりパン派になった。ちょっと歩けば、どこでも、焼き立てのパンが食べられる。パン好きな人には、たまらないよねぇー。
 
 次々と屋根を見ながら、焼きたてのパンを想像していると、私の真横を、一台のエア・ドルフィンが、スーッとすり抜けて行った。オレンジ色の機体に、双葉マーク。私と同じ、新米シルフィードの機体だ。

 むむむっ……。別に、スピードを競っている訳じゃ、ないんだけど。何か、追い抜かれるのって、気分がよろしくないんだよね。ちょっぴり、ムカッとする。

 元陸上部魂に、火が付いてしまい、アクセル全開で追走した。ジワジワと追い上げていくが、前方のエア・ドルフィンは、かなり速かった。

 練習機は、あまりスピードが、出ないようになっている。なので、機体性能よりも、操縦者の技量が重要だった。『魔力供給量』と『魔力制御能力』で、最大速度が決まるからだ。

 私は、細かい操作は、苦手だけど、スピードでは、ちょっと自信があった。少しずつ追いついて、今度は私が、横をすり抜けていく。その瞬間、相手の女の子が、険しい目で、私を睨み付けてきた。さらに加速させると、私を抜き返す。

「ぐぬぬぬっ!」
 もちろん、私も加速させ、追いついて行った。

 抜いたり抜かれたりを、繰り返していると、前方に海が見えてきた。向こうの機体の女の子が、左手を上げてから、サッと振り下ろす。『着陸せよ』の手信号だ。

 スピードを緩めながら下降していく、前方のエア・ドルフィンに、速度を合わせてついていく。静かに着地すると、目の前には、白い砂浜と青い海が、広がっていた。美しさに見とれていると、横から声を掛けられる。

「あなた、見掛けない顔ね。最近、始めたばかりの、新人かしら?」 
 つい先ほどまで、デッドヒートを繰り広げた相手が、すぐ横に立っていた。

 サラサラの金髪を、両側で結んだツーサイドアップに、やや釣り目ぎみの勝気な瞳。私より身長が高く、スタイルもいい。物凄い美少女だけど、何か妙に、偉そうな態度なんだよねぇ。いわゆる『上から目線』ってやつ。

「その練習機、あなただって、新人でしょ?」
 私は、不機嫌に言い返す。

「そうじゃなくて、どれぐらいの期間やってるか? という話よ」
「えーっと、私は五ヵ月かな」
「じゃあ、私のほうが先輩ね」

 金髪の少女は、勝ち誇った顔で答えた。

「じゃあ、あなたは、どれぐらいなのよ?」
「私は八ヵ月よ」

「って、一年未満じゃ、大して違わないじゃないのよっ! だいたい、見習い期間が長くても、自慢にならないでしょ。威張るぐらいなら、さっさと昇級すればいいじゃない」

 私はイラッとしながら、言葉を返す。

「できるなら、今日にだって、したいわよっ! でも、昇級試験を受けるには、実地経験が、一年以上は必要なんだから。しょうがないじゃない……」 
「えっ――? 昇級試験を受けるのって、実地期間がいるの?」

 完全に初耳だ。いつでも、受けられるんだと思ってた……。

「そんなことも、知らないわけ? 学校で習う、初歩的な知識じゃないの」
「いやぁー、私は中学卒業して、すぐに仕事に就いたから。シルフィード学校とか、行ってないし……。あははっ」

 私の知識って、全部こっちに来てから、覚えたものなんで、知らないことが結構あるかも。しかも、教科書で学んだのではなく、日々の実践の中で、覚えたことばかりだ。

「専門学校も行かずに、就職したとか、冗談でしょ?! 強力なコネでも、使ったわけ……?」
 金髪の女の子は、あからさまに、驚いた声を上げた。

「そんなのないよ。私は、向こうの世界から来たから、コネどころか、知り合い一人もいなかったし」
「じゃあ、どうやって潜りこんだのよ? そもそも、あなた、どこの所属なの?」

「私は〈ホワイト・ウイング〉だけど……」
「はぁ? 何、適当なこと言ってるのよ。嘘をつくなら、もっとマシな嘘つきなさいよね」

「いやいや、本当だってば、ほらっ!」

 私は、制服の腕に付いている、白い羽の社章を見せた。すると、目の前の女の子は、しばし固まったあと、大声を上げる。

「はあぁぁーー?! 何でっ――冗談でしょ?! どうして、あなたみたいなど素人が、コネもなしに〈ホワイト・ウイング〉に入ってるのよ? そもそも、新人募集が出てるの、一度も見たことないわよ……」

「もしかして、うちって、割と凄い会社だったりする?」
「あなた……何も知らないで入ったわけ? 〈ホワイト・ウイング〉を知らないシルフィードは、一人もいないぐらいに有名よ」

「へぇー、そうだったんだ……。全然、知らなかったよ。ちっちゃな会社だから、マイナーな、個人企業だと思ってた。えへへっ」
 私が笑いながら答えると、彼女は、おっかない顔で睨み付けてきた。

 だが『ふぅー』と、ため息をつくと、静かに話し始める。

「確かに、会社の規模は小さいけれど、創業者が凄い人なのよ。〈ホワイト・ウイング〉を創ったのは、アリーシャ・シーリング。最高位の『グランド・エンプレス』にして、近年、最も偉大なシルフィードと、言われている人よ」

「そういえば『シーリング』って、リリーシャさんの、親族の人?」
「全くあなたは……本当に、何も知らないのね。リリーシャさんのお母様よ」

「おぉー! リリーシャさんのお母さんって、そんなに凄い人だったんだ。じゃあ、リリーシャさんも『グランド・エンプレス』になるのかな?」

 いやー、私って、そんな凄い会社で働いてたんだ。ますます、燃えてきたー! でも、リリーシャさん、そんな話、全然してないんだよね。私がまだ新人で、聴かせるほどのレベルじゃ、ないからかな……?

「そんなの、分からないわよ。名誉階級は、試験を受けてなるものじゃ、ないのだから。でも、リリーシャさんが、限りなく近い位置にいるのは事実よ。もっとも、今の私たちには、全く縁のない世界だけど――」

 彼女は両手を広げ、つまらなそうに話す。

「ところで、あなたは、どこの所属なの……?」
「自己紹介が、まだだったわね。私は、ナギサ・ムーンライト。三大企業の一つ〈ファースト・クラス〉所属よ」

「私は、如月風歌。改めてよろしくね、ナギサちゃん。えへへっ」 
「……慣れ慣れしく、呼ばないでよね」

 ナギサちゃんは、頬を少し赤らめると、プイッと横を向いた。

「ところで、ナギサちゃん。私、決めたよっ」
「何を? って、気安く呼ばないでって、言ってるでしょ」

「私……私ね『グランド・エンプレス』になるよっ!」
「はぁ?! 無理、絶対に無理!」
「なるっ、絶対に、なるもん!」

 即行で否定するナギサちゃんに、私はムキになって言い返す。

「無理、無理、絶対無理っ!」 
「なる、なる、絶対なるっ!」

 このあと、延々と不毛な言い争いが、続くのだった――。

 でも、こちらの世界に来て、初めてのシルフィード友達ができました。


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次回――
『今は昇級よりも焼きたてパンのほうが大事なの』

 涙と共にパンを食べた者でなければ人生の味は分からない
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