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第1部 家出して異世界へ
2-4親の同意をもらってないので実は入社(仮)です
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私は風を全身に浴びながら、今日も町の上空を飛んでいた。午前中の仕事を終えると、いつも通り地図を片手に、飛行訓練を開始する。
時間は十二時を少し回ったところで、私は急いで〈エメラルド・ビーチ〉に向かった。ナギサちゃんと一緒に、お昼を食べる約束をしていたからだ。
ちなみに〈西地区〉と〈東地区〉にはビーチがあって、西が〈サファイア・ビーチ〉で、東が〈エメラルド・ビーチ〉だ。
西のビーチは観光客や若者が多く、とても賑わっており、いかにも観光地という感じがする。逆に、東のビーチは地元の人が多く、落ち着いた雰囲気だ。私がよく行くのは、東側のほう。こっちのほうが、リーズナブルなお店が多いので……。
最近は、だいぶ『魔力制御』にも慣れてきて、以前より速く飛べるようになって来た。ただ、魔力制御の調子は、日によってかなり違う。でも、今日は朝から物凄く絶好調で、気持ちよく飛ばしていた。
待ち合わせの時間は、少し過ぎてしまっているが、このペースならかなり早く着くはずだ。私は意識を集中し、体勢を低くすると、さらに加速する。
だが、後方からかすかに風切り音が聞こえてきた。ちらりと視線を横に向けると、派手な赤い機体が、何事も無かったかのように、一瞬で通り過ぎていった。
『エア・ボード』と言われる、ハンドルが付いていない立ち乗りの機体で、魔力コントロールだけで操作する、上級者向けのエア・ドルフィンだ。見た目は『サーフボード』に似ている。
搭乗者は腕を組んで直立し、赤い髪をなびかせ、スーッと静かに通り過ぎていった。一瞬の出来事で顔はよく見えなかったが、相当、名のあるシルフィードに違いない。何か、物凄く堂々とした感じだし。
追いかけようと思ったが、私はすでに限界スピードに達していた。みるみるうちに離され、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「速い――速すぎる! あんな凄い人がいるんだ……」
私は唖然としてスピードを緩めた。
かなり自信がついて来ただけに、結構ショックが大きい。相手はスピードの出るエア・ボードだったのもあるけど、同じ条件だったとしても、おそらく追いつけなかったと思う。まだ、速度に余裕がありそうだったし。
うーん、やっぱり、上には上がいるもんだねぇ。もっともっと修行をして、上手くならなければ……。
******
私は〈エメラルド・ビーチ〉に着くと、ゆっくり降下し、目的のカフェ〈リトル・マーメイド〉に向かった。ナギサちゃんはすでに来ており、海を眺めながら、優雅にお茶をしていた。
私の姿を見ると、
「遅いわよっ!」
と睨みつけながら、予想通りの言葉を掛けてくる。
途中までは気持ちよく飛ばしてたけど、驚きと戦意喪失で、後半はのろのろ飛んでいた。そのため、予定より時間が掛かってしまったのだ。
「ごめん、ごめん。ギリギリまで練習してたから、遅くなっちゃって」
「時間厳守は、シルフィードの基本中の基本よ。もし、お客様との待ち合わせだったら、どうするのよ?」
ナギサちゃんは、真顔で説教する。例え、プライベートであっても妥協しないのが、生真面目な彼女らしい。
「だから、ごめんってばー」
私は、さっとランチメニューを手に取った。
「注文なら済ませておいたわよ。Bランチ、飲み物はアイス・コーヒーでいいんでしょ?」
「うん、それそれ、ありがとー。でも、よく覚えてたね」
厳しい性格けど、こういう細かいところに気が利くから、憎めないんだよねぇ。ちなみに、Bランチは『シーフード・ピラフ』と『ドリンク』のセットだ。
「いつも、同じメニューばかりだから、すぐに覚えるわよ。よく飽きないわね?」
「毎日パンばかりだから、ご飯が食べたくて」
「そういえば、あなたの住んでいた国では、お米が主食なのよね?」
「パンもあったけど、私は一日三食、お米食べてたよー。こっち来てからなんだよね、パン食になったのは」
大のご飯好きの私が、まさかパンがメインになるとは思ってもいなかった。
「なら、普段から、ご飯にすればいいじゃない。お米なら、普通に手に入るでしょ?」
「だって、私の部屋キッチンないし、この町って、お米料理のお店も少ないから。それに、パンのほうが安いから、中々ご飯を食べる機会がないんだよねー。外食する余裕もないし」
「仕送りは、してもらってないの?」
「ないない、一円も貰ってないよ。家賃もあるから、一杯一杯なんだー」
本当にカツカツで、かろうじてやって行けてる感じだった。だから、基本、パンと水だけなんだよね。もちろん、おやつとか夜食なんて、気の利いたものはない。
まぁ、見習いで大した仕事ができないので、お給料が安いのは、しょうがないんだけど。それに、うちの会社は、見習い給、高いほうみたいだし。
「なら、親に頼めばいいじゃない。一人暮らしで、見習いのお給料じゃ厳しいでしょ?」
「うーん、それはちょっと、無理かも……」
そんなこと出来れば、とっくにやっている。私の場合、今のところ家族とは絶縁状態だから、それ以前の問題なんだよね。仕送りどころか、口を利いてもらえるかどうかも怪しい――。
「親と上手く行っていないの? シルフィードになることは、認めてくれたんでしょ?」
私はその質問に、言葉が詰まった。
本当のことを言っちゃっても、いいんだろうか? でも、ナギサちゃんは大事な友達だし、ずっと隠しておくのもなぁ……。私、嘘つくの超下手だから、隠し通せる自信がないし。
しばし考え、意を決すると、思い切ってぶっちゃけてみた。
「上手く行ってないどころか、勘当中の身だし。反対を無理やり押し切って飛び出してきたから、まだ、認めて貰ってすらいないんだよね。あははっ……」
私が、そーっとナギサちゃんの様子をうかがうと、今まで見たことのないような、唖然とした表情を浮かべていた。
そりゃ、そうなるよね――。真面目な性格だから、やっぱ嫌われちゃうのかな……。
ナギサちゃんは、しばし沈黙したあと、
「あんた、何やってんの?! 馬鹿じゃないの? 本当に信じられないわっ!」
いつにも増して、強い語調でまくし立てた。滅茶苦茶、怒っているように見える。反応の予想はついてたけど、私はただ、引きつった苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
私は自分の行動を『正しい』と信じてやってきたので、こうも否定されると、本当に辛い。親しい友達なら、なおさらだ。それに、心がズキズキと痛むのは、自分でも後ろめたさがあるからだと思う。
「そもそも、面接で親の了解をもらったか、訊かれなかったの? 同意書だって必要だったでしょ?」
「……きかれたけど、反対されてるって、素直に答えたんだよね。三十社以上、受けて、全部おちたのは、それが原因かも――」
面接に全滅した時のことを思い出し、気分が一層重くなる。
「かも、じゃなくて、それが原因よ!〈ホワイト・ウイング〉だって、入る時に親の同意書を出したのでしょ?」
「いやー、実はまだ出してないんだよね。保留にしてもらってて。そのうち、ちゃんと親に話して、認めてもらう予定で……」
とは言うものの、いまだに認めてもらう目途は立っていなかった。そもそも、連絡すら、まともに出来ない状態だし。日々、仕事を頑張っているのを口実に、目を背けているのも事実だ。
「はぁー?! それって、受かったんじゃなくて、単に特別措置で、仮入社させてもらっただけじゃない。いつクビになっても、おかしくないわよ」
ナギサちゃんは額に手を当て、大きなため息をついた。
「そうかも……。でも、だから一生懸命、頑張ってるんだよ。早く一人前になって、親に認めてもらうために」
「順番が違うでしょ? 認めてもらうのが先で、頑張るのはそのあとよ。ちゃんと親に謝って、認めてもらったら?」
「でも、私は自分の行動が間違ってたとは、思ってないもん。今だって、家を出てシルフィードになったこと、全く後悔してないし。何も謝ることないもん!」
私はムキになって言い返す。シルフィードをしていることは、私にとっての誇りだ。この選択は、絶対に間違っていないと思う。
「シルフィードになったことではなくて、間違っているのは、そのやり方でしょ? 親の同意のない未成年を雇えば、会社にだって、迷惑が掛かるかもしれないのよ」
彼女は、私の感情のこもった言葉を静かに受け流し、穏やかに答えた。
「うっ……それは、そうだけど」
「でも、何よりあなた自身が嫌でしょ? これからも、反対されたまま、ずっと続けていくつもり? そんなので、気持ちよく出来るの?」
「……よく、モヤモヤすることは、あるんだよね。でも、一生懸命、仕事をしていれば、気にならないけど」
そう、忙しければ、細かいことも嫌な現実も、気にせずに済む。だから、必死になって、仕事に打ち込んでいるのだ。
「風歌が本気なのは、よく分かったわ。でも、目を背けずに、ちゃんと向き合いなさいよ。もし、これからも続けるつもりならね」
ナギサちゃんは静かに言うと、食事を再開した。
彼女の言う通り、単に目を背けているだけなんだ。これから、もっと先に進もうとすれば、絶対に解決しなければならない問題だから。
自分でも、何となく分かってはいたけど、ナギサにちゃんにハッキリ言われるまでは、ここまで強くは意識していなかった。
って、今私のこと、名前で呼ばなかった? 今まで一度も、名前で呼ばれたことないのに。なんかサラッと……。
私がナギサちゃんの顔をマジマジ見つめると、サッと視線をそらされた。よく見ると、ほんのり頬が赤くなっている。
何か、こういうところは、いかにも彼女らしいよね。性格がきつくて、素直じゃなくて、でも、凄く友達思いで優しくて。
ナギサちゃん、ありがとう。今すぐは難しいかもしれないけど、なんとかして、親とも向き合う努力をしてみるよ。これからも一緒に、シルフィードをやって行きたいもん。
柔らかな海風に吹かれながら、私達二人は、静かに昼食を続けるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『母と娘のすれ違う想いに風の祝福を』
私はあなたが幸せになれる世界を望むから……
時間は十二時を少し回ったところで、私は急いで〈エメラルド・ビーチ〉に向かった。ナギサちゃんと一緒に、お昼を食べる約束をしていたからだ。
ちなみに〈西地区〉と〈東地区〉にはビーチがあって、西が〈サファイア・ビーチ〉で、東が〈エメラルド・ビーチ〉だ。
西のビーチは観光客や若者が多く、とても賑わっており、いかにも観光地という感じがする。逆に、東のビーチは地元の人が多く、落ち着いた雰囲気だ。私がよく行くのは、東側のほう。こっちのほうが、リーズナブルなお店が多いので……。
最近は、だいぶ『魔力制御』にも慣れてきて、以前より速く飛べるようになって来た。ただ、魔力制御の調子は、日によってかなり違う。でも、今日は朝から物凄く絶好調で、気持ちよく飛ばしていた。
待ち合わせの時間は、少し過ぎてしまっているが、このペースならかなり早く着くはずだ。私は意識を集中し、体勢を低くすると、さらに加速する。
だが、後方からかすかに風切り音が聞こえてきた。ちらりと視線を横に向けると、派手な赤い機体が、何事も無かったかのように、一瞬で通り過ぎていった。
『エア・ボード』と言われる、ハンドルが付いていない立ち乗りの機体で、魔力コントロールだけで操作する、上級者向けのエア・ドルフィンだ。見た目は『サーフボード』に似ている。
搭乗者は腕を組んで直立し、赤い髪をなびかせ、スーッと静かに通り過ぎていった。一瞬の出来事で顔はよく見えなかったが、相当、名のあるシルフィードに違いない。何か、物凄く堂々とした感じだし。
追いかけようと思ったが、私はすでに限界スピードに達していた。みるみるうちに離され、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「速い――速すぎる! あんな凄い人がいるんだ……」
私は唖然としてスピードを緩めた。
かなり自信がついて来ただけに、結構ショックが大きい。相手はスピードの出るエア・ボードだったのもあるけど、同じ条件だったとしても、おそらく追いつけなかったと思う。まだ、速度に余裕がありそうだったし。
うーん、やっぱり、上には上がいるもんだねぇ。もっともっと修行をして、上手くならなければ……。
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私は〈エメラルド・ビーチ〉に着くと、ゆっくり降下し、目的のカフェ〈リトル・マーメイド〉に向かった。ナギサちゃんはすでに来ており、海を眺めながら、優雅にお茶をしていた。
私の姿を見ると、
「遅いわよっ!」
と睨みつけながら、予想通りの言葉を掛けてくる。
途中までは気持ちよく飛ばしてたけど、驚きと戦意喪失で、後半はのろのろ飛んでいた。そのため、予定より時間が掛かってしまったのだ。
「ごめん、ごめん。ギリギリまで練習してたから、遅くなっちゃって」
「時間厳守は、シルフィードの基本中の基本よ。もし、お客様との待ち合わせだったら、どうするのよ?」
ナギサちゃんは、真顔で説教する。例え、プライベートであっても妥協しないのが、生真面目な彼女らしい。
「だから、ごめんってばー」
私は、さっとランチメニューを手に取った。
「注文なら済ませておいたわよ。Bランチ、飲み物はアイス・コーヒーでいいんでしょ?」
「うん、それそれ、ありがとー。でも、よく覚えてたね」
厳しい性格けど、こういう細かいところに気が利くから、憎めないんだよねぇ。ちなみに、Bランチは『シーフード・ピラフ』と『ドリンク』のセットだ。
「いつも、同じメニューばかりだから、すぐに覚えるわよ。よく飽きないわね?」
「毎日パンばかりだから、ご飯が食べたくて」
「そういえば、あなたの住んでいた国では、お米が主食なのよね?」
「パンもあったけど、私は一日三食、お米食べてたよー。こっち来てからなんだよね、パン食になったのは」
大のご飯好きの私が、まさかパンがメインになるとは思ってもいなかった。
「なら、普段から、ご飯にすればいいじゃない。お米なら、普通に手に入るでしょ?」
「だって、私の部屋キッチンないし、この町って、お米料理のお店も少ないから。それに、パンのほうが安いから、中々ご飯を食べる機会がないんだよねー。外食する余裕もないし」
「仕送りは、してもらってないの?」
「ないない、一円も貰ってないよ。家賃もあるから、一杯一杯なんだー」
本当にカツカツで、かろうじてやって行けてる感じだった。だから、基本、パンと水だけなんだよね。もちろん、おやつとか夜食なんて、気の利いたものはない。
まぁ、見習いで大した仕事ができないので、お給料が安いのは、しょうがないんだけど。それに、うちの会社は、見習い給、高いほうみたいだし。
「なら、親に頼めばいいじゃない。一人暮らしで、見習いのお給料じゃ厳しいでしょ?」
「うーん、それはちょっと、無理かも……」
そんなこと出来れば、とっくにやっている。私の場合、今のところ家族とは絶縁状態だから、それ以前の問題なんだよね。仕送りどころか、口を利いてもらえるかどうかも怪しい――。
「親と上手く行っていないの? シルフィードになることは、認めてくれたんでしょ?」
私はその質問に、言葉が詰まった。
本当のことを言っちゃっても、いいんだろうか? でも、ナギサちゃんは大事な友達だし、ずっと隠しておくのもなぁ……。私、嘘つくの超下手だから、隠し通せる自信がないし。
しばし考え、意を決すると、思い切ってぶっちゃけてみた。
「上手く行ってないどころか、勘当中の身だし。反対を無理やり押し切って飛び出してきたから、まだ、認めて貰ってすらいないんだよね。あははっ……」
私が、そーっとナギサちゃんの様子をうかがうと、今まで見たことのないような、唖然とした表情を浮かべていた。
そりゃ、そうなるよね――。真面目な性格だから、やっぱ嫌われちゃうのかな……。
ナギサちゃんは、しばし沈黙したあと、
「あんた、何やってんの?! 馬鹿じゃないの? 本当に信じられないわっ!」
いつにも増して、強い語調でまくし立てた。滅茶苦茶、怒っているように見える。反応の予想はついてたけど、私はただ、引きつった苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
私は自分の行動を『正しい』と信じてやってきたので、こうも否定されると、本当に辛い。親しい友達なら、なおさらだ。それに、心がズキズキと痛むのは、自分でも後ろめたさがあるからだと思う。
「そもそも、面接で親の了解をもらったか、訊かれなかったの? 同意書だって必要だったでしょ?」
「……きかれたけど、反対されてるって、素直に答えたんだよね。三十社以上、受けて、全部おちたのは、それが原因かも――」
面接に全滅した時のことを思い出し、気分が一層重くなる。
「かも、じゃなくて、それが原因よ!〈ホワイト・ウイング〉だって、入る時に親の同意書を出したのでしょ?」
「いやー、実はまだ出してないんだよね。保留にしてもらってて。そのうち、ちゃんと親に話して、認めてもらう予定で……」
とは言うものの、いまだに認めてもらう目途は立っていなかった。そもそも、連絡すら、まともに出来ない状態だし。日々、仕事を頑張っているのを口実に、目を背けているのも事実だ。
「はぁー?! それって、受かったんじゃなくて、単に特別措置で、仮入社させてもらっただけじゃない。いつクビになっても、おかしくないわよ」
ナギサちゃんは額に手を当て、大きなため息をついた。
「そうかも……。でも、だから一生懸命、頑張ってるんだよ。早く一人前になって、親に認めてもらうために」
「順番が違うでしょ? 認めてもらうのが先で、頑張るのはそのあとよ。ちゃんと親に謝って、認めてもらったら?」
「でも、私は自分の行動が間違ってたとは、思ってないもん。今だって、家を出てシルフィードになったこと、全く後悔してないし。何も謝ることないもん!」
私はムキになって言い返す。シルフィードをしていることは、私にとっての誇りだ。この選択は、絶対に間違っていないと思う。
「シルフィードになったことではなくて、間違っているのは、そのやり方でしょ? 親の同意のない未成年を雇えば、会社にだって、迷惑が掛かるかもしれないのよ」
彼女は、私の感情のこもった言葉を静かに受け流し、穏やかに答えた。
「うっ……それは、そうだけど」
「でも、何よりあなた自身が嫌でしょ? これからも、反対されたまま、ずっと続けていくつもり? そんなので、気持ちよく出来るの?」
「……よく、モヤモヤすることは、あるんだよね。でも、一生懸命、仕事をしていれば、気にならないけど」
そう、忙しければ、細かいことも嫌な現実も、気にせずに済む。だから、必死になって、仕事に打ち込んでいるのだ。
「風歌が本気なのは、よく分かったわ。でも、目を背けずに、ちゃんと向き合いなさいよ。もし、これからも続けるつもりならね」
ナギサちゃんは静かに言うと、食事を再開した。
彼女の言う通り、単に目を背けているだけなんだ。これから、もっと先に進もうとすれば、絶対に解決しなければならない問題だから。
自分でも、何となく分かってはいたけど、ナギサにちゃんにハッキリ言われるまでは、ここまで強くは意識していなかった。
って、今私のこと、名前で呼ばなかった? 今まで一度も、名前で呼ばれたことないのに。なんかサラッと……。
私がナギサちゃんの顔をマジマジ見つめると、サッと視線をそらされた。よく見ると、ほんのり頬が赤くなっている。
何か、こういうところは、いかにも彼女らしいよね。性格がきつくて、素直じゃなくて、でも、凄く友達思いで優しくて。
ナギサちゃん、ありがとう。今すぐは難しいかもしれないけど、なんとかして、親とも向き合う努力をしてみるよ。これからも一緒に、シルフィードをやって行きたいもん。
柔らかな海風に吹かれながら、私達二人は、静かに昼食を続けるのだった。
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私はあなたが幸せになれる世界を望むから……
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