私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第1部 家出して異世界へ

5-5早朝から場所取りって花見みたいだよね

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『魔法祭』の三日目。私は早朝から〈北地区〉のメインストリートの歩道に立っていた。町の中心部から離れ、周囲は田園風景が広がっている。辺りを見回すと、チラホラと人が集まってきていた。

 早朝から人が集まっているのは、今日は『シルフィード・パレード』が行われるからだ。『魔法祭』の三日目と六日目に行われる、超目玉イベントだった。

『シルフィード・クイーン』たち、大人気シルフィードが、大型のゴンドラに乗り、メインストリートをゆっくりと移動する。『上位階級』のシルフィードが、全員、参加しているため、物凄い数のファンが押し寄せるのは言うまでもない。

 また、その際に、ゴンドラ上のシルフィードが、沿道の観客に『ウイング・マドレーヌ』を投げて渡す。このマドレーヌを受け取ることができると『一年間、幸運に恵まれ、自分の夢が叶う』と言われていた。

 昔から続いている伝統行事で、観光客はもちろん、地元の人達も、かなり気合を入れて参加する。ただ、とんでもなく人が集まるため、マドレーヌをゲットするためには、早朝から最前列の場所取りが必須だった。

 パレードは、東と西を往復する『東西ルート』と、南と北を往復する『南北ルート』が同時に行われる。

 一般人は、自分の好きなシルフィードが通るルートに。現役シルフィードの場合は、同じ会社の先輩が通るルートに参加するのが普通だ。

 今回は幸い、リリーシャさん、ツバサさん、メイリオさんが、全員『南北ルート』のパレードに出る。なので、ナギサちゃん、フィニーちゃんと三人揃って、参加することになった。

 なお〈南地区〉は非常に混むので、中心部から遠く離れた〈北地区〉の外れで待機する作戦だ。私は〈北地区〉に住んでいて一番近いので、快く場所取り役を引き受けた。

 まぁ、早起きして場所取りするのはいいけど、一人で立ってるのは、超暇なんだよね。それに、ちょっぴり寂しい……。

 パレード開始は十時だけど、まだ時間は六時半。開始までかなり時間がある上に、お腹も空いてきた。急いで来たから、朝ごはん食べてないんだよね。

 ちなみに、今日は〈ホワイト・ウイング〉はお休みだ。リリーシャさんがいないと、営業できないので。ただ、他の会社も、お休みにしているところが多い。

 人気シルフィードが、全員パレードに参加しているし、ほとんどの観光客が、このパレードを見に来るからだ。

 それにしても、何もしないで立ってるだけって、本当に超ひまー。体を動かさないと、だんだん眠くなってくる――。
 
「まったく、はしたないわね。いくら仕事が休みでも、シルフィードとしての、自覚を持ちなさいよ」

 私が大きなあくびをしていると、お約束の小言と共に、ナギサちゃんが現れた。

「ナギサちゃん、おはよう。いやー、暇で暇で、立ったまま寝そうになっちゃったよ。あははっ」
 
「気持ちが緩んでいるからでしょ。今日は、私たちシルフィードにとって、非常に大事な行事なのよ。自分の会社の先輩を見守るのが、私たち新人の仕事なんだから。もっと気持ちを引き締めなさい」

 いつものお説教モードが始まる。ナギサちゃんは休みの日でも、いつもと変わらず、シャキッとしてるよね。

「もー、分かってるって。でも、始まるまでは、のんびりしててもいいでしょ? 今日は早起きして、ずっと一人で場所取りしてたんだから」

 なんか、会社に出勤している時より、疲れている気がする。じっとしてる方が、よっぽど疲れが溜まるんだよね。

「もしかして、手ぶらできたの?」
「なんか必要だった?」
「相変わらず、準備がなってないわね……」

 ナギサちゃんは、小言をいいながら、トートバッグから荷物を取り出し、ビニールシートを敷いた。

「へぇー、準備がいいねぇ。流石、ナギサちゃん」
「周りを見てみなさいよ」

 周囲を見回すと、ビニールシートを敷いて、くつろいでいる人たちが結構いる。

「みんな、準備がいいね」
「風歌が悪すぎるだけでしょ。少しは、準備することを覚えなさいよ。だから、色々問題が発生するんでしょ?」

「んがっ……」
 全く否定できない。でも、思い立ったら即行動が、ポリシーなんだもん。

「ほら、これも持って来たわよ。どうせ、朝ご飯も食べてないんでしょ?」

 ナギサちゃんが開いたバスケットには、サンドイッチぎっちりと詰まっていた。さらに、手際よく、ポットのお茶をカップに注いでいく。言い方は色々と厳しいけど、なんだかんだで優しいんだよね。

「うわぁー、美味しそう! ちょうどお腹空いてたんだよね」

 私がサンドイッチを取ろうとすると、バシッと手を叩かれた。

「あだいっ」
「ちゃんと、手を拭きなさい」

 サッとおしぼりを渡される。って、お母さんか、あんたは!

 でも、言ってることは、超正論なんだよね。なので、渋々手を拭いて、差し出されたお茶を受け取る。

「冷えてて凄く美味しい!」
 カップに入っていたのは、よく冷えたレモンティーだった。

「暑くなるんだから、飲み物ぐらい持ってきなさいよ。熱中症にでもなったら、どうするの?」

「少しでも早く来たほうがいいかなぁーって、手ぶらで来ちゃった。それに、ナギサちゃんが、何か用意してくれると思って。えへへっ」

 ナギサちゃんは何をやる時も、驚くほど完璧に準備をしてから来る。例えプライベートでも、それは変わらない。

「毎回、私を当てにしないでよね。私だって、手ぶらで来るかも知れないでしょ?」

『いや、それは絶対にないでしょ……』と心の中で突っ込む。

 超がつくほど真面目で、何をやるのも鉄壁の準備するナギサちゃんが、手ぶらとかあり得ないから。でも、そのお蔭で、私が適当でも何とかなってるんだよね。

 それはさておき、本当にお腹が空いた。私は再びサンドイッチに手を伸ばす。パクッと一口かみしめると、シャキッとしたレタスと、水々しいトマト、柔らかいハムと、たっぷりのマヨネーズが口の中に広がった。

「何コレ、すっごく美味しいんだけど!」
「朝、あり合わせの材料で作った、ごく普通のサンドイッチよ」

 あり合わせと言う割には、使ってる野菜は新鮮だし、ハムもいいものを使っている気がする。

「でも、なんか意外だねぇー」
「何が意外なのよ?」

「だって、ナギサちゃんって、家事とか全然やらないイメージだったから。お嬢様っぽい感じだし」

 エプロンを付けて料理をしているところとか、今一つ想像できない。お金も余裕があるみたいだし、いつも外食してるのかと思ってた。

「って、風歌は私のことをどう見てるの? 寮で一人暮らしなのだから、炊事・洗濯・掃除、全部やってるわよ。あと、お嬢様じゃないから!」

 ナギサちゃんは、ムキになって否定する。

 ナギサちゃんって、基本なんでも出来るし、トゲトゲしい性格さえなんとかなれば、かなりハイスペックだよね。性格を除けば、リリーシャさんと互角かも知れない。でも、何で『お嬢様』ってところを、そんなに否定するんだろ? 

 それから、約二時間後。ナギサちゃんと世間話をしながら、ゆっくりくつろいでいると、いつにも増して眠そうな顔をした、フィニーちゃんがやって来た。なんだかフラフラして、足取りがおぼつかない。

「まったく、何時だと思ってるの? 大事な行事なんだから、早く来なさいよ」
 案の定、ナギサちゃんのお説教が始まった。

「今日は、仕事休み。休みの日ぐらい……ゆっくり寝たい」
「普通の休みとは違うのよ。自分の会社の先輩たちの晴れ姿を、沿道から見守る日なんだから。フィニーツァの先輩も、出ているんでしょ?」

 相変わらず、正反対の性格のせいか、とりわけフィニーちゃんに対しては、当たりが厳しい気がする。

「始まったら起こして――」
 フィニーちゃんは、シートに座ると、すぐに目を閉じた。

「起きなさい! こんな所で居眠りなんて、はしたない。ちゃんと、シルフィードの自覚を持ちなさいよ」

 ナギサちゃんは、フィニーちゃんの肩を掴んで、大きく揺らす。

「まぁまぁ、フィニーちゃん低血圧だから、朝弱いんだよね。とりあえず、これ飲んで。あと、ナギサちゃんが作ってくれたサンドイッチ、フィニーちゃんの分もあるから」

 私はお茶を渡したあと、バスケットを開いてフィニーちゃんの前に差し出す。

 すると、閉じていた目が開き、サッとお茶とサンドイッチに手が伸びた。食べ物がある時だけは、目に力が入るんだよね、フィニーちゃんは……。

 フィニーちゃんは、ハグハグとサンドイッチを食べ始めた。

「食べるなら、早くしなさいよ。九時にはシートを畳むからね」
「でも、パレードって、十時からだよね?」

 まだ、パレードの開始まで、一時間半ぐらい時間がある。

「人が増えるから、一時間前にはシートをしまって、立って並ぶのがマナーよ」
「なるほど。確かに、どんどん人が増えてるよね」

 早朝に来た時は、閑散としていたけど、今はシートを敷いた場所取りの人たちで、ほぼ埋まっていた。

「こんなものじゃなわよ。始まるころには、周り中人だらけになるし。特に、地元の人達は気合が違うから。『ウイング・マドレーヌ』が配られる時は、戦場のような感じよ」
 
「おぉー、なんか燃えるね! ナギサちゃんは、毎年とれてるの?」
「……最後にとれたのが、確か三年前だったかしら」

「えぇー?! そんなに競争率が高いの?」
「用意されている量よりも、観客のほうが多いのだから当然よ。それに、地元の奥様方が、物凄く強いから――」

 あー、それ何となく分かる。町内会に参加しても、おばさんたちのパワーって凄いもん。でも、運動神経には、私だって自信があるから、負けるつもりはないけどね。

「ナギサちゃんでも捕れないのに、フィニーちゃんは大丈夫かな?」

 フィニーちゃんは、黙々とサンドイッチを食べていた。でも、口以外は全く動いていない。そもそも、普段から、必要最低限しか動かないし。

「ちょっと、絶望的ね……。本人が、やる気なさそうだし。でも、私も運動神経には自信がないから、人のことは言えないけれど」

 強気なナギサちゃんにしては、えらく弱腰な物言いだ。でも、運動は得意じゃないって、前言ってたっけ。

「よし、なら私が三人分、捕るつもりで頑張るよ! 昔から、運動会ではヒーローだったから、どーんと任せて」 

「風歌は、運動神経だけは良さそうね」
「だけってなによ、だけって? 最近は勉強も、凄く頑張ってるんだから」

 事実、今のところは、運動だけが取り柄なんだけど。だからこそ、体を使うイベントでは、死んでも負けられない。
 
 私、勝負事で負けるの嫌いだし、元体育会系の意地がある。学校の運動会で、運動部が、絶対に負けられないアレと同じだ。

 よーし、今日は張り切って一杯とるぞー!!

 私は開始前から、メラメラと闘志を燃やすのだった……。


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次回――
『疾風怒涛のウイングマドレーヌ争奪戦』

 誇りだから譲らないんじゃない。譲れないから誇りなのさ
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