私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第2部 母と娘の関係

2-3いくらなんでも突っ込みどころが多過ぎよ

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 一日の仕事を終えた夕方。私は本館の西側にある『ロズマリン館』の社員食堂に来ていた。本館にも社員食堂があるが、あちらは『スカイ・マスター』以上専用だ。内装も豪華で、メニューの内容も違うらしい。

 あちらのほうに行ってみたいという新人もいるが、私は別に興味はなかった。栄養さえ取れれば、あまり味にはこだわらない。それに、ほぼ毎食、自炊をしている。

 ただ、今日は少し疲れていたので、社員食堂で、簡単に済ませることにした。食堂と言っても、レストランと遜色のない料理が出て来るし、種類も豊富だった。常に新メニューが出るし、季節の食材も、ふんだんに使っている。

 大手は、どこも社員食堂があるが、その中でも〈ファースト・クラス〉は、最もレベルが高いらしい。以前、雑誌の特集で、そう書かれていた。

 なお、ビュッフェ形式なので、自分で好きなものが選べる。いくら食べても定額だが、山盛りにする人は見たことがない。上品さを貴ぶ社風なので、たとえ見習いといえども、皆、淑女として振る舞っているからだ。

 もし、風歌やフィニーツァが来たら、大はしゃぎして、容赦なく盛りまくるだろうけど……。

 私はサラダと魚のムニエル、サンドイッチをトレーにのせる。最後にドリンクサーバーで、アイスティーを入れると準備完了だ。

 あまり食べ過ぎると、夜の勉強に響くし、そもそも、私は小食なほうだった。なので、よく食べる風歌やフィニーツァを見ると、いつも呆気にとられる。二人とも、私よりも小柄なのに、一体どこに入るのだろうか?

 私は、外の景色が見える窓側の席に着くと、アイスティーを飲みながら、マギコンを起動した。まずは、会社の掲示板を見て、新しい情報がないか確認する。

 緊急の場合は、メールで送られてくるが、それ以外の連絡事項は、全て掲示板に書かれていた。館内設備のメンテナンスの予定や、今後のイベントの情報など。また、階級別の連絡事項ものっている。

 業務連絡を全て確認し終わると『ELエル』を開いて、新着メッセージのチェックを始めた。見ると、かなりの数の未読メッセージがあった。
 
 すべて風歌とフィニーツァの、二人のやり取りだ。履歴を見ると、昼間の時間帯と、今もまた、やり取りをしている最中だった。

 暇さえあれば『EL』を見ている子も多い。だが、私は基本、勤務時間中は、一切みないことにしている。そのため、勤務が終わってから、溜まっているメッセージを、一気にチェックするのだ。

「まったくあの子たちは、ちゃんと仕事や勉強をしているのかしら?」
 長々と続くメッセージを読みながら、私はそっと呟いた。

 すべて読み終わると、食事を開始する。だが、続々と新しいメッセージが送られて来た。私は二人の会話を横目で見ながら、静かに食事を進める。

 取り立てて重要な話でもなく、ダラダラと世間話が続く。時おり写真も送られてきて、二人の夕飯が映っていた。

 風歌は、いつも通りパンだけ。美味しそうではあるが、相変わらず、栄養バランスが悪い。相当、食費を切り詰めているのだろう。

 フィニーツァは、社員食堂のメニューだ。うちと同じで〈ウィンドミル〉も、ビュッフェ形式らしい。カレー、パスタ、バケットサンド、シチュー、フライドポテト、ハンバーグ、ケーキ。予想はしていたが、どれも山盛りになっている。

 所狭しと料理が並べられ、向かい側には、メイリオさんが映っていた。こちらは量は多いが、糖質だらけだし、カロリーも取り過ぎで、バランスが悪すぎる。というか、いくらなんでも、食べ過ぎでしょ?

『ちゃんと野菜も食べなさいよ』などと突っ込みたくなるが、私は黙々と食事を進めた。食事中は、マナーが悪いので、書き込みはしない。

 食事を終え、トレーをカウンターに返し、お茶を飲んで落ち着いてから、再び画面に向き合う。私はコンソールを開いて、メッセージを打ち込んだ。

『こんばんは』 
『ナギサちゃん、こんばんはー!』
『ばんわん』

 メッセージを送った直後、返信が来る。ずっと見っぱなしなのか、いつも物凄く返信が速い。

『二人とも、食事中ぐらい静かにできないの?』
『だって、一人で食べてても、つまんないしー。うち、同期もいないし、社員食堂もないから、ワイワイできないんだもん』

 私は静かなほうが好きだけど。風歌は賑やかじゃないとダメらしい。

『私はご飯食べられれば、どこでもいい』
 いかにもフィニーツァらしい、情緒のかけらもない考え方だ。

『ねー、ナギサちゃんは、もうご飯食べた? 今日は何だったの?』
『今日は、サラダ・ムニエル・サンドイッチよ』

『何か、いつも同じだねぇ』
『ナギサの食事は、年寄りくさい』
『って、誰が年寄りよ!』

 すると、風歌はゲラゲラ笑っているスタンプを。フィニーツァは、ネコが床でのたうち回っているスタンプを送って来た。

 くっ……何かイラッとするわね。

『今度の休みの日、みんなでお出掛けしない?』
『私は美味しい物、食べに行きたい』

 風歌の提案に、フィニーツァがすぐに返信する。普段は、トロトロ動いているのに『EL』では妙に反応が速い。

『いつも遊んでばかりで、ちゃんと勉強はしているの?』

 普段も、お昼の休憩や仕事終わりに、ちょこちょこ食事やショッピングに行っていた。基本、誘われれば、よほど重要な用事がない限りは断らない。この二人だけで行動させるのは、危なっかしくて心配だからだ。

『雨の日とか、時間が空いてたらしてるよー』
『気が向いたらやる』

 二人とも、しれっと答える。

『それじゃ、ほとんどやってないじゃない』
『えー、平日にやってるもん。休日ぐらい気分転換しないと』
『休日は、休むためにある』

 予想通りの答だが、やっぱり、この二人はダメだ。あまりにも、無計画すぎる……。

『勉強とは、毎日やるものなんだから、休日にもするのは当然よ』

 予習と復習をやっていれば、自然に毎日やるはずだ。そもそも、一日でも間を空けて、不安にならないのだろうか?

『ナギサちゃん、お母さんみたいなこと言うね』
『ナギサは、ガリ勉』
『母親でもガリ勉でもないわよ!』

 また、先ほどと同じ、笑ってるスタンプと、ネコがのたうち回るスタンプが送られて来た。

 もー、いい加減にしなさいよねっ!

 この二人と話していると、突っ込んでばかりになる。あまりにも、突っ込み所が多すぎるからだ。いつものことなので、さすがに慣れてきたが――。

『美味しいものと言えば、やっぱりこの町の名物かな。B級グルメなんか、食べてみたいかも』
『フフフ……B級グルメなら任せて』

 フィニーツァから、ネコがグッと親指を立てているスタンプが送られて来た。風歌からは、ウィンクして親指を立てているスタンプが――って、スタンプ多いわよ!

 私はスタンプを全く使わない。使い方もよく分からないし、会話中に入れるのも、何か変な感じがするからだ。

『私まだ、この町のB級グルメって、知らないんだよね。楽しみー』
『適当に歩いてれば、結構みつかる』
『じゃあ、適当にブラブラしよっかー』

 フィニーツァから、ネコが手を挙げて賛成しているスタンプが送られて来た。いつも、ネコのスタンプばかり使っている。

『ちょっと待ちなさい。勉強はどうしたの勉強は?』

 私が厳しく言わないと、この二人は、真面目に行動しない。風歌は、最近ようやく、勉強するようになったみたいだけど。フィニーツァは、勉強をしている気配が、全くない。

『町の中を回るのも勉強だよ。特に私たちシルフィードにとっては』
『美味しいものを知るのも勉強。接客で役に立つ』
『それらしいことを言って……遊びに行きたい魂胆が丸見えよ』

 二人同時に、テヘペロのスタンプを送って来た。

  私は再びイラッとして、突っ込みを入れようとしたが、

『ねぇ、ナギサちゃん、また色々教えてよ。地元だから詳しいでしょ?』
『美味しいもの、色々おしえて』

 私が打ち込むより早く、二人のメッセージが送られて来る。

『まったく、しょうがないわね。後日、行先と待ち合わせの日時を送るわ』
 いつもの癖で即答していた。

 だが、送信してから『しまった』と顔に手を当てる。頼まれると条件反射で、すぐにOKしてしまうのだ。

 基本、この二人からの頼まれ事は、断ったことがない。友人として、というよりは、単に二人が頼りないからだ。そのせいも有って、二人のペースに巻き込まれてばかりだった。

 元々私は、実のない話はしない主義だ。だが、二人と関わり始めてから、どうでもいい世間話をする機会が多くなった。『EL』を使い始めたのも、風歌たちと出会ってからだ。最近は、夕食後に『EL』で話をするのが、習慣になっていた。

 最初は、時間の無駄だと思っていたが、今は『悪くもないかな』と感じている。同期の子たちが、くだらない世間話で盛り上がっているのも、何となく分かる気がした。

『EL』の画面を見ながら、時折り私もメッセージを打ち込んで行く。だが、私の場合は、ほとんどが突っ込みだ。二人そろって、物を知らないし、考えなしなので、度々フォローしなければならない、

 ふと時計を見ると『EL』で、三十分近くも時間を使ってしまった。

『それじゃ、私はそろそろ抜けるわよ』
『えー、もうやめちゃうの? もっと、お話ししようよー』
『夜は、まだこれから』

 すぐに、二人からメッセージが返ってくる。

『私は部屋に帰って、勉強したいのよ』
 
 食後は、しっかりと勉強をして、明日のスケジュール確認などの準備も怠らない。夜は、私にとっては、とても大切な時間なのだ。

『もう、ナギサちゃんは、真面目だなぁー』
『ガリ勉優等生』

 予想通りの答がすぐに返って来た。

『だから違うって! じゃ、また明日ね』
『またねー』
『ばいばい』

 私はマギコンを閉じ、ポケットにしまうと、静かに席を立つ。

『また明日ね』か……。昔なら、絶対に言わなかった台詞だ。一人で行動するのが当り前で、必要なこと以外では、誰とも絡まなかったからだ。

 まぁ、一般的な友人なら、普通の挨拶だし、気にする必要はないと思う。だが、最近あの二人に、色々と毒されている気がする。もっと気を引き締めないと――。

 さて、やるべきことを、しっかりやるわよ。

 私は背筋をピンと伸ばし、いつも通りに表情を引き締めると、食堂をあとにした……。


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次回――
『母と私の幸せの場所はデパートの屋上だった』

 幸せというものは空にある嵐の前触れの雲のようなもの
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