私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第4部 理想と現実

2-3白熱する商店街の命運をかけたイベント会議

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 私は〈東地区〉にある〈緑風公園〉に来ていた。折りたたみ椅子が沢山おかれており、そこには『東地区町内会』の人たちが座っている。町内会の活動がある場合は、いつもこの公園に集まっていた。

 今日は、会議をするのが目的だけど、この町の伝統の『広場会議』にのっとり、屋外で話し合いが行われる。なお、今回の議題は『風歌フェア』の開催についてだった。

 みんなは、ワイワイ盛り上がって、かなりやる気満々な様子だ。でも、それとは逆に、私は激しく動揺していた。
 
 どうして、こうなっちゃたの? なんで、止めなかったの私? どうするのよ、いったい……?

 あまりにも、みんなの勢いがあり過ぎて、何となく流されてしまったのだ。しかも、滅茶苦茶、みんな喜んでるし。普段、色々お世話になってるから、なんか断り辛くて。

 そもそも、ただの冗談で、本当にやるとは思っていなかった。だって、私なんて、まだ駆け出しの、無名シルフィードだよ? こんなのやったって、誰も来るはずないよー。

 というか、まだ見習いで修行中の身なんだから、こんなことやってる場合じゃないし。また、協会に目を付けられたら、大変なことになってしまう――。 

「さて、みなさん。今日は、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。風歌ちゃんも、ありがとうね」
 まずは、町内会長さんの挨拶から始まる。 

「いよっ、我らが英雄!」
「風歌ちゃん、最高!」   

 みんなから、拍手が沸き起こる。私は立ち上がると、少し引きつった笑顔で頭を下げた。

「さて、今回の議題は、以前から挙がっていた〈東地区商店街〉の活性化についてです。近年〈南地区〉〈西地区〉の発展に加え、大型スーパー出店の話も出ており、我が商店街も、何らかの手を打たないと、まずい状況になって来ました」

 町内会長は、皆に向かって、議題の説明を始める。先ほどまでは、明るくはしゃいでいた商店街の人たちも、急に真面目な顔になって、真剣に話を聴いていた。どうやら、かなり重要な話らしい。 

「特に〈ダイナミックス〉の進出は、場合によっては、かなり深刻的な状況になる可能性も、抱えておりまして……」
 町内会長さんの、この一言で、急にざわざわとし始めた。

「まさか、あれがここに店を構えるとはなぁ」 
「よりにもよって〈東地区〉に作るだなんてねぇ……」
「あれが出来たせいで、つぶれた商店街があるって、前MVで見たことあるぞ」

 続々と不安げな意見があがって来る。

「あの、一ついいでしょうか?」  
「何かな、風歌ちゃん?」
「その、ダイナ何とかって、なんのことなんでしょうか――?」

 みんなが、何を騒いでいるのか、さっぱり分からないので、手を挙げて質問してみた。

「まぁ、風歌ちゃんは、こちらの世界をあまり知らないから、聴いたことないかもしれないね。〈ダイナミックス〉とは、大陸でチェーン展開している、安くて有名な『ディスカウント・ストア』のことなんだよ」

「あー、なるほど」 

 向こうの世界にも、色んなディスカウント・ストアがあったよね。まぁ、私はコンビニしか行かなかったから、よくは知らないけど。スーパーとか、安いお店に行くようになったのも、こっちに来てからだし。

「それがねぇ、物凄く量が多いうえに、安いらしいのよ」
「そうそう、普通のスーパーでも、太刀打ちできないぐらいの、激安らしくてな」

「量が多くて、激安……」 

 私はみんなの説明を聴いて、ごくりとつばを飲み込んだ。だって、そんなお店ができたら、最高じゃない。私の食卓が、ちょっぴり豪華になるかも――。

「お蔭で、みんなそっちに流れちゃうから、商売あがったりだよ」
「特に、うちらみたいな個人商店は、とうてい太刀打ちできないからなぁ」
「下手したら、客が全く来なくなってしまうかもしれんな」

 みんな、ため息交じりに、不安の声をあげている。

 って、いけない、いけない。いくら激安スーパーができて、安く買えたって、商店街が潰れちゃったら意味ないじゃん……。私、ここの商店街も、みんなも、物凄く大好きだもん。十分に安いし、人情味もあるし、美味しいし。

「えー、そこで、先日、話が出た『風歌フェア』をやろうという件ですが。皆さんは、どうでしょうか? もちろん、風歌ちゃんの、お祝いでもあるんですが。この商店街の、活性化にもつながる訳でして」

 町内会長さんが話すと、次々に賛成の声が上がる。 

「もちろん、賛成だとも」
「当然、やるわよね」
「風歌ちゃんも、商店街も、バンバン推して行こう」

 先ほどの重い空気から一転し、みんな盛り上がって来た。

「それで、風歌ちゃんは、どうかな?」
 町内会長さんに尋ねられると、周囲の視線が一斉に、私に集まった。みんな、期待に満ちた目をしている。

 うーん、どうしよう? みんな盛り上がってるし、凄く期待しているみたいだし。私も日ごろの恩返しがしたい。とはいえ、先日の一件があるからなぁ。下手したら私、営業停止になっちゃうから――。

 実に悩ましい問題だった。いつもなら、勢いで、気の赴くままに行動するんだけど。流石に、今回はそうもいかない。私は少し考えたあと、静かに口を開いた。

「あの……その件なんですが。色々あって『風歌フェア』は、できないんです」
 私が答えると、一瞬、静まり返る。そのあと、次々と声が上がった。

「どうしたの風歌ちゃん、何かあったの?」
「珍しく、消極的だね。何か訳ありかい?」
「風歌ちゃんらしくないね。大丈夫なの?」

 みんな心配そうな顔を向けてくる。いつもなら、ノリで一発返事だからね。確かに、私らしくないかもしれない。でも、今後はもう、勢いだけでの行動はできないと思う。

 うーむ。ここは、ちゃんと話しておいたほうが、いいのかも。今後も、似たようなことが、あるかもしれないし――。

 私は言葉を慎重に選びながら、先日の話をした。もちろん、査問会については触れず、激しく突っ込まれたことも言わない。ただ『呼び出されて注意された』とだけ伝えておく。

「って、どうしてさ? 風歌ちゃんは、何も悪くないじゃない?」
「そうだ、そうだ。まったく、協会のやつらめ。余計なこと言いやがって」
「こうなったら、協会に抗議に行くか?」

 何か、別の方向に盛り上がってしまった。

「いえ、ちょっと待ってください! 言われたことは、もっともなんです。本来、新人は、一人前になるための練習に、専念するべきなんです。今の一流のシルフィードたちも、みんな見習い時代は、そうやっていましたので」

 誰だって、見習いの時は、こつこつ雑用と練習をこなしてきたのだ。リリーシャさんだって、それは同じ。実際に、どんなことでも、手際よくこなしてしまうのは、見習い時代の積み重ねがあるからだ。

「まぁ、それはそうだが。イベントに、参加しちゃいけない訳じゃないんだろ?」
「そうよ。あんなに頑張っていたのに。酷いわよね」

 まぁ、頑張ったは、頑張ったけど。『頑張る方向性が違う』ってことだよね。それを、もっとシルフィードのほうに、使うべきということだ。

「この件は、私に非があったと反省しています。それに、下手なことをすると、私、営業停止処分になってしまいますので……」

 次に何かやらかしたら、間違いなく『営業停止』か『ライセンスはく奪』になってしまう。一度、問題を起こしているんだから、もう後がない。

 周りから、続々と不満の声が上がるが、

「我々の勝手で、風歌ちゃんに、迷惑をかける訳にはいきません。みなさん、まずは落ちついてください」

 町内会長さんの言葉で、みんな冷静になる。

「しかし、そうなると『風歌フェア』は厳しいな。下手に目立って、また協会に突つかれたりしたら、困るからな」 
「確かにそうね。風歌ちゃんは、応援してあげたいけど、困ったわねぇ」

 一応、納得はしてくれたようだ。私はホッと胸をなでおろす。

「それより、どうする? 他に、何か商店街を活性化させる、良いアイディアってあるかね?」

「これ以上、価格を下げたら、経営が成り立たなくなってしまうし。価格で勝負するのは、厳しいわよねぇ――」

 みな難しい顔をして、すっかり黙り込んでしまった。急に空気が重くなる。

 うーん、どうしよう。せっかく、みんなが考えてくれたのに。でも、今の私は、これ以上、目立つ訳にはいかない。せめて、一人前になるまでは、大人しくしてないと。

 とはいえ、この商店街のために、何とかして力になりたい。いつも、お世話になってるんだから。

 私は頭をフル回転して考える。考えるのは、苦手なんだけど、そうも言っていられない状況だ。

 うーむ。価格に頼らないとなると、何かのフェアしかないんだけど……。そうだっ、これなら行けるかも?

「あの、一つご提案なんですが――」
「おや、風歌ちゃん。何か良いアイディアでも、あるのかな?」

「タイアップするのは、私じゃなくて〈ホワイト・ウイング〉にしたらどうでしょうか?『ホワイト・ウイング・フェア』なら、私も変に目立たないので、問題ないと思うんですけど……」

 うちの会社は、かなり知名度があるし、これなら人も集まると思う。みんな、リリーシャさん目当てで来ると思うし。私が参加しても、会社のお手伝いだから、何も問題ないはずだ。

「それは、いいアイディアじゃない」
「確かに〈ホワイト・ウイング〉は、この町の人間なら、皆知っているからな」

「でも、問題は、ライセンス料だよなぁ」
「おそらく〈ホワイト・ウイング〉ほど有名な会社だと、百万ベルは下らないでしょう」

 町内会長のその一言で、急にみんなの元気がなくなる。

 そういえば、ナギサちゃんが言っていた。シルフィードや会社には『使用権』があり、名前や写真などを使う際は、ライセンス料が必要だと。特に、上位階級で人気のあるシルフィードは、かなり高額だとも。

「私、リリーシャさんに、お願いしてみます! その、上手くいくかは分かりませんが、とりあえず、私に任せてもらえないでしょうか?」

 私は立ち上がると、力一杯に提案する。

 上手くいくか分からないし、お金のからむ問題は、私の専門外だ。ライセンス料のことも、実はよく知らないし。それでも、やっぱりこの商店街のことは、放っておけない。みんな、私の家族のような存在だから。

 こうなったら、土下座してでも、リリーシャさんに頼み込んでみよう……。


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次回――
『文才はないけど頑張ってお手紙を書いてみよう』

 私の生涯において、郵便料金に値する手紙は一つか二つだった
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