私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

文字の大きさ
145 / 363
第4部 理想と現実

3-3お嬢様が挑む人生初のタイムセール争奪戦

しおりを挟む
 仕事上がりの夕方。私は〈西地区〉の上空を飛んでいた。いつもだと、これからパン屋に夕飯を買いにいくところだ。でも、今日は〈スマイル・マート〉という、スーパーに向かっていた。

 スーパーは、閉店間際を狙って、半額のお弁当やお惣菜を買いに行くことが、たまにある。いくら、この町のパンが美味しいと言っても、さすがに毎日三食だと、他の物が食べたくなってくるからね。

 夕方なので、まだ時間が早いけど、スピで『ある情報』をゲットした。この〈スマイル・マート〉は、十七時から十九時の間に『飛び込みタイムセール』をやっているらしい。時間が決まっている訳ではなく、突然、始まるタイムセールだ。

 しかも、三割から五割引。時には、七割引きになる場合もあるんだって。つまり、閉店間際まで粘らなくても、運がよければ、半額弁当などが買えるのだ。

 これは、行くっきゃないよね!! 絶対に美味しいお弁当をゲットするぞー!

 てな訳で〈西地区〉まで、やって来た。いつも行く〈ウインド・ストリート〉からは、少し離れた場所にある。スーパーの横にある大きな駐車場は、ほぼ満車状態で、かなりの人が来ているようだ。

 私は空きスペースを見つけて、サッと着陸する。小型のエア・ドルフィンなら、小さなスペースでも停められるし、こういう時は便利だよね。

 私はエア・ドルフィンから降りると、さっそくスーパーの入口に向かう。しかし、入り口付近で、不審な動きをしている人物を発見した。それに、よく見たら、見覚えのある顔だった。

 何やってるんだろ、こんな所で? しかも、物凄く場違いな気が……。

 私は一瞬、考えこむ。声を掛けるべきなんだろうけど、何か面倒なことになりそうな気がしたからだ。悪い印象はなくなったけど、特に仲がいいわけでもない。とはいえ、さっきからオロオロしている様子なので、放っておくのも忍びなかった。

 私は意を決すると、彼女に近付いて行く。

「こんにちは、アンジェリカちゃん」 
「あら、風歌さん、ごきげんよう」
 彼女は笑顔で答える。

 相変わらず、よく通る声だ。上品だけど力強く、声に自信が満ちあふれている。あと、金髪の縦ロールが、物凄く目立っていた。通り過ぎる人たちが、チラチラと彼女に視線を向けている。

「こんな所で、何をしているの? というか、中に入らないの?」
「よくぞ、聴いてくれましたわ」  
 彼女は、まるで子犬のように、目をキラキラさせた。

「私、今日は、お弁当を買いに来ましたのよ」
「なら、中に入って、さっさと買えばいいのでは?」

 当たり前すぎる答えに、少しがっかりする。何か特別な事情がある訳では、なさそうだ。じゃあ、何で店の前で、ウロウロしてたんだろ――?

「でも私、スーパーの作法を知りませんの……」
「へっ?」
 何を言ってるのか分からなくて、私は一瞬、固まった。

「ですから、中の人たちを観察して、どのようにお買い物するのか、研究していましたのよ」 

 どういうこと? スーパーに作法なんてあったっけ? 私は今まで、一度も気にしたこと無いんだけど。いや、待てよ――。

「もしかして、スーパーに来るのって、初めてとか?」
「はい、今日が生まれて初めてですのよ。お弁当を買うのも、初めてですわ」
 彼女は力一杯に答える。いや、そんなこと自信満々に言われても……。

「まさかとは思うけど、お弁当を食べたことが無い、ってのはないよね?」
「いえ、食べたことは有りませんわ。だから、とても興味がありますの」

 目を輝かせながら、物凄く嬉しそうに語る。これ、冗談とかじゃなくて、本気で言ってるみたいだ。

「今まで、遠足とかキャンプとか、行ったことないの?」
「もちろん、ありますわよ。でも、いつも専属の料理人が一緒でしたので、その場で作って貰っていましたわ。外で調理したものは、お弁当に含まれるのかしら?」

 彼女は真顔で答えた。

「いいえ、断じて含まれません!」
「では、やっぱり初めてですわ」
 私は頭が混乱してきて、額に手を当て考えを整理する。

 何と言うか、とんでもないカルチャーショックだ。ちょっとどころか、さっぱり訳わかんない。以前、高級ホテルに連れていかれた時、物凄いお嬢様だとは思ってたけど。これ程までとは――。

 どれだけ過保護にされたら、こうなるんだろうか? 住んでる世界が、あまりに違いすぎる。

 私もよくナギサちゃんに、物を知らなさすぎると言われるけど、これはレベルが違いすぎだ。私でも、一般的な生活知識は持ってるから。

 しかし、彼女の場合は、かなり重症だ。何か、放っておくのも危なっかしいし、最低限の常識は教えてあげないと……。

「私、これからタイムセールを狙いに行くけど、よかったら一緒に行く?」
「まぁ、ご一緒してくださるとは、心強いですわ。ところで、タイムセールとは、何のことですの?」

 って、そこからっ?! でも、お嬢様が、タイムセールに行くわけないか。お金なら、いくらでも持ってるだろうし。
 
「つまり、特定の時間になると、商品が割引になるの。だから、その時間を狙うのが基本なんだけど。分かる――?」
「なるほど、スーパーとは、そういうシステムなのですわね。勉強になりますわ」

 いや、全てのスーパーで、タイムセールやってる訳じゃないんだけど。説明しても分からなさそうだから、とりあえず、実践したほうがいいかも。

「見たほうが早いから、中に入ろ」
「はいっ、喜んで」

 こうして成り行きで、私たち二人は、一緒にスーパーに行くことになった……。


 ****** 

 
 私は店内を歩きながら、アンジェリカに、買い物の仕組みを説明した。最初は、欲しいものを見つけたら、店員を呼んで、その場で会計すると、勘違いしていたようだ。

 私は彼女にかごを持たせ、どのコーナーに何が置いてあるかなどを、細かく説明していく。ちなみに、買い物かごを持つのも、生まれて初めてらしい。

「風歌さん、これは何ですの?」 
「それは、ポテトチップス。食べたことないの?」
「ありませんわ。今日、初めて見ましたもの」

 まぁ、お嬢様は、ポテチとか食べないのかもね……。

「どうやって、食べるんですの?」
 彼女は袋を回転させながら、不思議そうな顔をしていた。

「袋を両側に引っ張れば開くから。って、お菓子たべたこと無いの?」
「お菓子は、毎日ティータイムに、いただいていますけど。いつもは、お皿の上にのって出てきますもの」

 さも、当たり前のように答える。

「じゃあ、これなんかも食べたことないの?」 
 私はチョコパイの箱を、持ち上げて見せる。

「これは、箱の中にお菓子が入っていますの? お皿やフォークも、一緒に入っているのかしら?」
「いやいや、写真はイメージで、お菓子だけだから――」

 私は彼女の反応に、少し目まいを覚えた。

 これはマズイ……。私の無知や女子力の低さなんて、比べもにならないぐらいのレベルだよ。よくこんなので、今まで生きて来れたよね? 

 今までは、誰かが全て、用意してくれていたんだろうけど。今は、寮暮らしなはずだよね? しかし、こんな生粋のお嬢様が、何で激安スーパーなんかに?

「ねぇ、何でスーパーに買い物に来たの? 別に、無理にお弁当を買わなくても、社員食堂とかレストランで済むでしょ?」 

「実は、先日、ナギサさんが、スーパーの袋を持っているのを見たんですの。何でも、自炊をするとかで。それで『スーパーに行ったことが無い』と言ったら、信じられない、と言われてしまって――」

 あぁー、なるほど。ナギサちゃんなら、言いそうなセリフだ。何でもハッキリ言うからね。でも、ナギサちゃんが買いに行くの、デパ地下や高級スーパーだと思う。

「スーパーなら〈南地区〉にもあるでしょ? 何でわざわざここに?」
「スピで調べて見ましたら、ここが一番上に出てきましたのよ。口コミというのも、いい評価が付いていましたので」

 だいたい事情は分かった。全てにおいて、完全な素人だ……。一番上に出てたところを選んだ時点で、素人、丸出しだよ。

「とにかく今日は、お弁当だけ買おう」
「他の物は買いませんの? お菓子も一杯ありますのに」

「いい、スーパーをなめちゃダメ。初心者なんだから欲張らずに、まずは一つから攻略するのよ」
「分かりましたわ」

 あまりに無知すぎるので、今日はお弁当だけ買って、帰らせたほうが良さそうだ。一度、お弁当を食べれば、もう二度と来ないと思う。普段、かなり豪華な料理を、食べ慣れてるだろうから、口に合わないだろうし――。

 私は彼女に、始まったら、すぐに買いに走るように『飛び込みタイムセール』の説明をした。あとは、開始するまで、ブラブラ店内を歩いて時間を潰す。もちろん、弁当や総菜売り場を、重点的に回って行く。

 私は弁当売り場の隣にある、調理場に続く扉が開いたのを見逃さなかった。中から出てきたワゴンには、何段にも積み重なったトレーに、沢山の弁当が置かれていた。おそらく、作り立ての弁当だ。

 だが、気付いたのは、私だけではない。売り場の空気が一瞬で変わる。タイムセールを狙っていた人たちが、一斉に臨戦態勢に入ったのだ。

「始まるよ……」
「え、何がですの?」
 私は声を掛けた瞬間、素早く身構える。

 次の瞬間、ワゴンを押していた人が、カランカランと鐘を鳴らした。 

「ただいまより、タイムセールを始めます!! このワゴンの弁当は、全て半額です! 現品限りです」

 私は一瞬で、ワゴンに詰め寄り、弁当に手を伸ばす。しかし、ほぼ同時に、周囲から集まって来たご婦人たちも、一斉に弁当に手を伸ばした。続々と人が集まり、すぐにもみ合いが始まる。

 だが、私はすぐに弁当を一つ確保した。弁当は、まだホカホカで温かった。日ごろの練習飛行で鍛えた、動体視力のよさは、伊達ではない。

 私はほんの一瞬、人の隙間から、アンジェリカちゃんのほうを覗き込んだ。だが、彼女はボーッと突っ立って、驚いた表情で見つめているだけだった。

 やっぱり、初心者に、いきなりこれは厳しかったかな? しょうがない、ここは私が頑張って、お手本を見せないと――。

 私は、今の弁当を死守しつつ、もう一つの獲物に手を伸ばす。しかし、とろうとする前に、スッと持って行かれた。でも、めげずに、目標を替え何度もトライする。

 それは、あっという間の出来事だった。ワゴンに積まれていた、沢山のお弁当が、一瞬にして消え去っていた。

 店員さんは『お買い上げ、ありがとうございました』と一礼すると、空のワゴンを引きずりながら、静かに調理室に戻って行く。

 いやー、なかなか激しい攻防だった。私は、息を整えながら、アンジェリカちゃんの元に戻る。

「何で参加しなかったの? せっかくのタイムセールなのに?」
「いえ、余りにも突然でしたし。皆さん、凄い勢いでしたので」
 初めてあれを目の当りにしたら、驚くよね。まして、お嬢様なら。

「はい、これ。あなたの分も、一応とって来たから」
「まぁ、これがお弁当ですのね。嬉しいですわ、人生初のお弁当」
 私はアンジェリカちゃんに、ロースかつ弁当を渡した。

「これに懲りて、もう、スーパーは止めたほうがいいよ。あなたには、向いてないと思う。特にこのお店は……」 

 完全に、来るお店を間違えてるよ。そもそも、お金持ちなんだから、タイムセールに参加する意味ないし。

「いいえ、次こそは、必ず自力で取って見せますわ! とれるまで、何度だって、挑戦しますわよ」

 何か知らないけど、目をキラキラさせて、完全にやる気になっていた。何で、そこまで? やっぱり、お嬢様はよく分からないや。
 
 結局このあと、レジでの清算の仕方とか、袋の詰め方とか、全てレクチャーする。あと、持って帰ってから、あっためて食べることとか。案の定、袋の詰め方も、温め方も知らなかった。

 ちょっと、変わったお嬢様だよね。何不自由ないのに、お弁当を食べたいとか、タイムセールに参加したいとか。

 本人は凄く満足そうなので、よかったけど。もうちょっと、一般常識を覚えてもらわないと、これから先が心配過ぎる――。

 ナギサちゃんも、いつもこんな気持ちで、私に色々教えてくれているのだろうか……?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『数式を見ると頭が真っ白になるのって私だけ……?』

 数字の中には信用できないのがあるのよ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...