私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第4部 理想と現実

5-10えっ……私の人生ってここで終わりなの……?

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 午前中の仕事を全て終えたあと。私は練習飛行で〈東地区〉の上空を飛んでいた。やはり、一仕事おえたあとの飛行は、格別に気持ちがいい。風を全身に浴びて飛んでいるだけで、とても幸せな気分になって来る。

 ここしばらく雨の日が多く、内勤が続いていたせいもあってか、空を飛ぶのが、物凄く楽しく感じられた。そういえば、シルフィードを始めたばかりのころも、こんな気持ちだったよね。

 毎日、空を飛ぶのが楽し過ぎて、興奮で夜も眠れなかったりとか。今はそこまでじゃないけど、やっぱり一番、楽しいのは、空を飛んでいる時だ。

 ただ、相変わらず、この時期は天気がスッキリしない。毎日、どんよりとした空模様だ。当分は、こんな天気が続くらしい。

 空は曇っているけど、降水確率は、10%の予報だ。雲も薄いので、たぶん雨は大丈夫だと思う。風速も1メートルなので、飛行コンディションは、そんなに悪くなかった。

 でも、今日は朝から、エア・ドルフィンの調子が、今一つなんだよね。エンジンをかける際に、起動に時間が掛かったし。アクセルを開いても、加速が今一つだった。何か、加速がワンテンポ遅れてくる感じだ。

 ただ、魔力制御はデリケートなので、体調や集中力の影響を受けやすい。悩み事があったり、気持ちが落ち込んでいる時なんかでも、影響が出る。そのため、日によって、精度や出力が違うのは、割とよくあることだ。

 もっとも、一流のシルフィードになると、常に最高のレスポンスみたいだけど。私の場合は、まだまだ経験が浅いので、魔力制御に波がある。

 でも、特に体調が悪いわけじゃ無いんだよね。『ノア・マラソン』の疲労は、完全に抜けてるし、体もピンピンしている。まだ、足には包帯をまいてるけど、動くのに支障はない。それに、特に悩み事があるわけでもなかった。

 まぁ、色々トラブルはあったけど、すぐに忘れて元気になるのが、私のいいところだ。心身ともに、滅茶苦茶、回復力が高いので。

 エア・ドルフィンの計器パネルにも、特に異常は見られなかった。魔力ゲージは『グリーンゾーン』の一杯まで、振り切っている。

 ちなみに『魔力ゲージ』とは、供給されている『魔力量』を示すメーターだ。これを見れば、操縦者が、どれぐらいの魔力を供給しているかが分かる。

 魔力ゲージは、レッド・イエロー・グリーンの、三つのゾーンに分かれていた。『イエローゾーン』を越えていれば、浮力を得て飛ぶことができる。ただし、安全飛行をするためには『グリーンゾーン』の魔力供給が必要だ。

 最初のころは、イエローゾーンすら行かなくて、大変な苦労をした記憶がある。しかも、乗る前に準備体操をしたり、瞑想をしたりと、大変な作業だった。魔力のイメージが、全くできなかったので。

 結局、イエローゾーンに行くのに一週間。グリーンゾーンに行くのに、さらに一週間かかった。今は、集中すれば、すぐにグリーゾーンまで行くし、ゲージ一杯まで振り切っている。

 ただ、ゲージはあくまで目安だ。なので、グリーンゾーンまで行っても、加速・最高速・制動力は、日によって違う。

 体の調子はバッチリで、計器類も異常なし。となると、見えない疲労でも、溜まってるとかかな? しばらく内勤が続いてたので、体力は、あり余ってるはずなんだけどなぁ――。

 ようやく、リリーシャさんから、全エリア飛行の許可をもらった。なので、今日は〈新南区〉あたりまで、遠出をしようと思ってたんだけど。魔力制御の調子が今一つなので、リハビリもかねて、近場の〈東地区〉回ることにした。

 今日は、いつもよく行っている〈東地区商店街〉よりも、ずっと北のほうまで来ている。〈東地区〉は、戸建ての住宅が多いが、北のほうに行くと『アパートエリア』があった。五階建てのアパートが、密集している場所だ。

 なお、向こうの世界とこの世界では『アパート』の定義が違う。向こうの世界では『二階建て』までの建物がアパートで、それ以上はマンションの区分になっている。

 ただ、こちらでは『五階建て』までがアパートで、六階以上の建物がマンションと呼ばれていた。この町でアパートと言えば、ほぼ全てが五階建てだ。私の住んでるアパートも、五階建てだからね。

 ちなみに、六階建て以上の建物は『フローター』の設置が、法律で義務付けられている。ただ、フローターの設置には、結構お金がかかるので、ギリギリセーフの五階建てが多いんだって。

 今は、だいぶ安くなったので、マンションが増えてきた。でも、昔はフローターが非常に高価だったので、古い建物は、アパートタイプが多い。

 そのため、古くからある〈東地区〉や〈北地区〉は、アパートが多かった。逆に、比較的、新しく作られた〈西地区〉や〈南地区〉は、マンションがほとんどだ。地区によって、レトロやオシャレに見えるのは、この建物の違いだった。

 普段は、住宅街の上空を飛ぶことは、ほとんどない。特に、アパートエリアは、同じような形の建物しかないので、特に見どころがないからだ。でも、いつも中心部や観光スポットばかり回ってるから、気分転換にはいいかもね。

 しばらく北に向かって飛んでいると、赤い瓦の屋根が見えてきた。マンションの場合は、最上階が屋上になっている建物が多い。でも、アパートの場合、ほとんどが瓦屋根になっている。

 この町で使われている瓦は、向こうの世界でよく見かける、灰色のものと違って、赤茶色をしている。これは『素焼き瓦』と言われるもので、この町の屋根では、一般的なものだ。詳しくは知らないけど、焼き方で色が変わるんだって。

 向こうの世界だと、ヨーロッパのほうで、よく使われている。この町がヨーロッパ風に見えるのも、レンガと素焼き瓦の建物が、多いからだと思う。

 アパートエリアが近づいてくると、私はゆっくり高度を上げて行った。住宅街は平屋が多いので、そんなに高くは飛ばない。でも、五階建てのアパートだと、十メートル以上あるので、上を通過するには、結構、高度が必要だ。

 最初は『アパートなんか見ても、面白くない』と思っていた。でも、五階建てのアパートが、たくさん並んでいるのは、なかなか見ごたえがある。なので、上空から、アパートエリアの全景を見てみたくなった。

 練習飛行は、もちろん、勉強のためにやるんだけど、やっぱ楽しくやらないとね。見たことのない物を見たり、絶景ポイントを見つけるのも、練習飛行の楽しみの一つなので。

「今日はここで写真を撮って、ユメちゃんに送ってあげよーっと」

 ユメちゃんには、ほぼ毎日、写真を送っていた。写真を見るのが、大好きらしくて、送ると凄く喜んでくれるからだ。なので、撮影の『ベストスポット』を探すのも、日課になっていた。 

 やがて、アパートの上空に差し掛かると、高度計は二十メートルを指していた。空は曇っているけど、微風なので、高度が高くても飛びやすい。通常は、高度を上げるほど、風が強くなるんだよね。

「もうちょい、上のほうがいいかなぁー」
 私は、立ち並ぶアパートの全体像を、視界に収めるため、さらに高度を上げた。だが、非常にゆっくりしか、上昇しなかった。

 うーむ、今日は加速だけじゃなくて、上昇もダメな日かぁー。調子悪い時って、とことんダメだよね。

 私は意識を集中し、体中に魔力を循環させるイメージをする。これは、最初ころ、散々イメージ・トレーニングした方法だった。魔力は、血液と同じようなものだ。体内のめぐりが悪くなると、出力が低下してしまう。  

 しかし、上昇スピードは上がるどころか、むしろ遅くなった。ついには、ピタリと上昇が停止する。次の瞬間、エア・ドルフィンの浮力が失われ、物凄いスピードで落下し始めた。

「えっ、嘘でしょっ……?!」

 私は、慌ててアクセルを全開にするが、うんともすんとも言わない。そのまま、一直線に落下し、アパートの屋根に激突した。

 ぶつかった瞬間の激しい衝撃で、私は機体から放り出された。私の視界に映ったのは、はるか下に見える地面だった。高さは十メートル以上はある。地面に激突したら、とても無事に済む高さではなかった。

 私はなす術もなく、吸い込まれるように、下に向かって落ちて行く。恐怖する間もなく、ただ、迫る地面を見つめるしかできなかった。

 私――死ぬの――?  

 地面が目前に迫った刹那、体からスーッと力が抜け、私の意識は、闇の中にフッと消えていった……。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

第5部 予告―― 


「やっぱ、天国なのかな、ここ?」

「どこ――どこにいるの……?」

「ん――なんだろ、アレ?」

「どうして、私の言うことを聴いてくれないの?」 

『え、何……どういうこと?!』

「思いっ切り聞こえてたよ。朝の爽やかな空気が台無しさ」

「お前、本物の馬鹿だな。本気で言ってるなら、救いようがないぞ」

「フライドポテトは、野菜」

「それは『風の加護』だよ。間違いなく」

『ど、どうしよー……。誰か、助けてー!』

「気分は、最悪よ……。もう、死ぬかも」

「そんなことない、素敵な夢だよ。絶対に叶えるべきだと思う」

「今日限りで、辞めてもらうから」

『そ、そんな……。本気で言ってるんですか、リリーシャさん……?』


             coming soon
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