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第6部 飛び立つ勇気
4-3一人前になってちょっぴり大人になったかも?
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午後、五時半。私は〈東地区〉にある、イタリアンレストラン〈アクアマリン〉に来ていた。今日は、外のテラス席に座っている。三月になってから、だいぶ気温が上がって来た。ちょっと肌寒いけど、これぐらいなら、全然、平気だ。
冬の間の飛行で、だいぶ寒さに強くなった気がする。特に、風の強い日の上空って、超寒いからね。冷房の強風を、全身に浴びてるみたいな感じで……。
ちなみに、今日は、いつもの女子会だ。この集まりは、月一回の、恒例行事になっていた。一人前になったあとも、変わらずに続けている。見習いの時に比べ、会う機会が、極端に減ってしまったので、とても貴重な時間だからだ。
私は、いつもどおり、一番乗りでやって来た。会社が近いし、うちは、残業が全くない。雑用は、午前中に全て終わらせてしまうし、リリーシャさんが、何でもやってしまうので。一年やってて、一度も残業をしたことがない。
でも、二人は大企業だから、業務後も色々あるみたいだ。業務報告、雑用、ミーティングなど。人数が多い会社は、情報伝達や、すり合わせだけでも、大変みたいだ。
私は、通りの様子を眺めながら、ボーッと時間をつぶす。しばらくすると、上空からエンジン音が、二つ同時に聞こえてきた。この音は、間違いなく、ナギサちゃんたちだ。エンジン音で、誰だか分かるんだよね。
ほどなくして、並んで着陸したエア・ドルフィンから、ナギサちゃんとフィニーちゃんが、ゆっくり降りて来る。
「二人とも、お疲れー! 一緒に来るなんて、珍しいね」
「途中で、偶然、会っただけよ」
「超疲れた……死ぬほどお腹すいた」
フィニーちゃんは席に着くなり、突っ伏して、ぐだーっと伸びた。
「ちょっと、フィニーツァ。来て早々、だらしないわね」
「もう無理。食べないと、起きられない」
さっそく、二人の言い合いが始まる。変わらないよねぇ、こういうところは。
「まぁまぁ、久しぶりなんだから。仲良くやろうよ」
私は、店員さんにオーダーを済ませると、言い合いをしている二人を止める。
「別に、久しぶりじゃないでしょ? ELは、毎日やっているのだから」
「でも、以前は、ほとんど毎日、一緒だったじゃない? だから、会えないと、ちょっと寂しいよ」
「あのねぇ、学生じゃないんだから。練習で、仕方なく一緒にいただけでしょ」
「えぇー、仕方なくなの? 私は、超楽しかったのに」
ナギサちゃんの目を見つめると、彼女は、サッと視線をそらした。どうやら、ただの照れ隠しのようだ。本当に嫌なら、あんなに、付き合いがいい訳ないもんね。お誘いを、一度も断られたことないし。
「二人とも、一人前になってからは、どんな感じ? 仕事は、忙しい?」
私は、一番、気になっていたことを、訊いてみる。
「あまり、変わらないわね。固定のお客様は、いないし。会社から、時々お客様を、紹介してもらってるけど。あとは、自分で見つけるしか、ないのだから」
「うちも同じ。上が忙しい時だけ、こっちに回って来る」
「へぇー。やっぱり、大企業は凄いね。お客様、紹介してもらえるんだ」
大企業は、その圧倒的な知名度で、物凄くたくさん予約が入る。MVや雑誌なんかでも、バンバン広告を出してるからね。
そのため、上位階級の人が、予約を受けきれない場合、新人のほうに、回してもらえるらしい。また、個人指名だけでなく、会社で選んで来るお客様も多いんだって。それだけ、会社の知名度が重要ということだ。
ただ、うちの場合は、完全に、リリーシャさんの御指名だし。対応可能な、少人数しか受けていない。お客様も、それを承知の上で、予約待ちをしてくれている。つまり、どんなに待ってでも、リリーシャさんの接客を受けたいのだ。
完全な個人指名じゃ、私が変わりにやる訳には、行かないもんね。あぁ、早く私も、御指名が欲しい――。
「私は、100%自分で探さなきゃだから、凄く大変だよ。全くお客様がいない日のほうが、多いからね……」
「最初は、そんなものよ。誰だって、そこから、スタートするのだから」
「私は、そのほうが、楽でいい」
フィニーちゃんは、ぐでーっと、椅子に寄り掛かりながら答える。
ナギサちゃんは、フィニーちゃんを睨みつけるが、口を開く前に、私は、サッと話題を変えた。
「そういえば、もうすぐ、イベントだよね。『シルフィード・フェスタ』って、どんな感じなの? やっぱり、いっぱいお客様が来るの?」
「世界中から、大勢のお客様が来るわよ。年に一度の、ファン感謝祭だし。それに、全シルフィードが集まるのは『魔法祭』と『シルフィード・フェスタ』だけだから」
もう間もなく、三月のイベントの『シルフィード・フェスタ』が開催される。名前の通り、シルフィードが主役のお祭りだ。『魔法祭』以上に、活躍の場が多い。
「一人前になったから、私たちも、参加できるんだよね?」
「もちろん、参加可能よ。ただ、私たちの場合は、パレードがメインね。人気投票は、上位階級しか入らないし。クルージングも、上位階級がメインだから」
「でも、パレードに参加できるだけでも、超嬉しいよ。全シルフィードが、参加するんだから。ようやく、一員になった、実感がわくし」
「ただ、私たちは、前座のようなものだけどね」
私は、ワクワクしてるけど、ナギサちゃんは、つまらなそうに答える。フィニーちゃんに至っては、全く話を聴いていない。まぁ、三人の温度差が激しいのは、いつものことだけど――。
ちなみに、パレードは、リトル・ウイッチ以上の、全シルフィードが終結する、大イベントだ。階級の低いシルフィードから順に、徒歩で行進していく。ある意味、新しく昇進したシルフィードの、お披露目みたいな感じだ。
階級順に進んで行き、上位階級の人たちは『魔法祭』と同様に、大きなゴンドラに乗って、派手にパレードをする。当然、観光客のお目当ては、上位階級の乗るゴンドラだ。なので、私たちは、前座とも言える。
「人気投票って、やっぱり、シルフィード・クイーンが上位になるの? 」
「順当にいけば、そうなるわね。毎年トップは、シルフィード・クイーンだし」
「ナギサちゃんのお母さんも、現役時代は、一位になってたんだよね?」
「えぇ……まぁ、そうね」
人気投票では、アリーシャさんを抜いて、堂々の一位。毎年、人気投票では二人の激戦だったらしいけど、通算成績では、彼女のほうが上だった。
査問会のあと、詳しく調べて見たんだけど『白金の薔薇』って、とんでもなく、凄い人だったんだよね。グランド・エンプレスも、最有力候補だったらしいし。
「ねぇ、リリーシャさんも、ランキング上位に入るの?」
「昨年は、未参加だったけど。一昨年は、七位だったはずよ」
おそらく、昨年は、会社を再開したばかりだったころだ。一年ほど、仕事を休んでいたみたいだし。アリーシャさんの件があって、イベントどころでは、なかったんだろうと思う――。
「でも、こんなに沢山いる中で七位って、結構、凄くない?」
「結構どころじゃないわよ。上位六人は、グランド・エンプレスと、シルフィード・クイーン。つまり、スカイ・プリンセスの中では、トップなんだから」
「ほへぇぇーー。リリーシャさんって、超絶、凄いじゃん!!」
一昨年と言えば、まだ、アリーシャさんが、生きていたころだ。元々凄いとは思ってたけど。やっぱ、リリーシャさんって、とんでもない人気なんだね。大人しくて謙虚な性格だから、普段は、全然そんな風に見えないだけで。
そもそも、リリーシャさんって、自分の実績とか、全く話さないもんね。もうちょっと、誇ったり自慢しても、いいと思うんだけど……。
「まぁ、私たちには、関係ない話よ。パレードのことだけ、考えておきなさい」
「うん、パレード超楽しみー。ねぇ、フィニーちゃん」
先ほどから、ぐでーっとして無言だったフィニーちゃんに、声を掛ける。
「超めんどう。できれば、サボりたい」
「って、何言ってるのよ! 私たちの、初の晴れ舞台なのよ」
「そんなの、いらない。観光の仕事だけで、十分」
「イベントを盛り上げるのも、私たちの、重要な仕事でしょ。もう少し、一人前の自覚を、持ちなさいよ!」
一人前になっても、全く変わらないフィニーちゃんに、当然のごとく、ナギサちゃんのお説教が始まる。
「まぁまぁ。フィニーちゃんは、やる時はやるタイプだから、大丈夫だよ」
「本番も大事だけど、心構えが重要なのよ」
相変わらず、ナギサちゃんは真面目で、一切の心の隙を許さない。私も、真剣には考えてるけど、そこまで重くはないんだよね。割と楽しんでるし。
「ところで、クルージングって何やるの? 私たちは、全く出番なし?」
「クルーズ船を用意して、川の遊覧をするのよ。あと、各種料理を用意して、シルフィードが接待をする、水上パーティーのようなものね」
「うわぁー、何か楽しそう! でも、シルフィードが水上で活動って、珍しいね」
「空の観光がメインになって、水上観光が減ってしまったから。その活性化の目的もあるわ。だから『水上観光協会』とも、提携して開催するのよ」
なるほど、大人の事情ってやつね。昔は『水の町』と言われていたけど、今では、完全に『空の町』になっている。
船の数も、全盛期に比べ、半分以下に減ってしまったらしい。しかも、水空両用のゴンドラを使えば、シルフィードが、水上の観光案内もできちゃうので。
「でも、一番の目的は、ファンサービスよ。いつもとは、違う接客が受けられるうえに、長時間、上位階級シルフィードと、一緒にいられるのだから。シルフィード・ファンには、たまらないイベントでしょ」
「確かに。それは、ファンも大喜びだよね。じゃあ、私たちは、出番なしかぁー。ちょっと残念」
イベント事は大好きなので、いずれは参加してみたい。
「百人以上が乗れる、大型のクルーザーなのだから。無名なシルフィードがやったって、人が集まる訳ないでしょ。手伝いで呼ばれる場合は、あるかもしれないけど。エア・マスターとか、もっと上位の人でしょうね」
ナギサちゃんは、つまらなそうに語る。きっと、ナギサちゃんも、参加したいんだろうね。もっとも、楽しそうだからではなく、単純に、プライド的な問題の気がするけど。
「でも、せっかくのイベントなんだから、楽しくやろうよ。今、私たちに出来ることに、専念して」
「地上も水の上も、楽しくない。空がいい――」
前菜を食べていたフィニーちゃんが、ボソッとつぶやく。
「私たちの観光案内は、空だけじゃないのよ!」
「私は、空だけでいい」
「あははっ……」
こうして、いつも通りの楽しい女子会は、平穏無事に進んで行くのだった。
ここしばらく、立て続けのトラブルに加えて、試験勉強の毎日だったから、久しぶりの大イベントは超楽しみ。今回は、初の運営側の参加だけど、思いっきり楽しんじゃおーっと。
よーし、シルフィード・フェスタに向けて、気合を入れて頑張りまっしょい!
冬の間の飛行で、だいぶ寒さに強くなった気がする。特に、風の強い日の上空って、超寒いからね。冷房の強風を、全身に浴びてるみたいな感じで……。
ちなみに、今日は、いつもの女子会だ。この集まりは、月一回の、恒例行事になっていた。一人前になったあとも、変わらずに続けている。見習いの時に比べ、会う機会が、極端に減ってしまったので、とても貴重な時間だからだ。
私は、いつもどおり、一番乗りでやって来た。会社が近いし、うちは、残業が全くない。雑用は、午前中に全て終わらせてしまうし、リリーシャさんが、何でもやってしまうので。一年やってて、一度も残業をしたことがない。
でも、二人は大企業だから、業務後も色々あるみたいだ。業務報告、雑用、ミーティングなど。人数が多い会社は、情報伝達や、すり合わせだけでも、大変みたいだ。
私は、通りの様子を眺めながら、ボーッと時間をつぶす。しばらくすると、上空からエンジン音が、二つ同時に聞こえてきた。この音は、間違いなく、ナギサちゃんたちだ。エンジン音で、誰だか分かるんだよね。
ほどなくして、並んで着陸したエア・ドルフィンから、ナギサちゃんとフィニーちゃんが、ゆっくり降りて来る。
「二人とも、お疲れー! 一緒に来るなんて、珍しいね」
「途中で、偶然、会っただけよ」
「超疲れた……死ぬほどお腹すいた」
フィニーちゃんは席に着くなり、突っ伏して、ぐだーっと伸びた。
「ちょっと、フィニーツァ。来て早々、だらしないわね」
「もう無理。食べないと、起きられない」
さっそく、二人の言い合いが始まる。変わらないよねぇ、こういうところは。
「まぁまぁ、久しぶりなんだから。仲良くやろうよ」
私は、店員さんにオーダーを済ませると、言い合いをしている二人を止める。
「別に、久しぶりじゃないでしょ? ELは、毎日やっているのだから」
「でも、以前は、ほとんど毎日、一緒だったじゃない? だから、会えないと、ちょっと寂しいよ」
「あのねぇ、学生じゃないんだから。練習で、仕方なく一緒にいただけでしょ」
「えぇー、仕方なくなの? 私は、超楽しかったのに」
ナギサちゃんの目を見つめると、彼女は、サッと視線をそらした。どうやら、ただの照れ隠しのようだ。本当に嫌なら、あんなに、付き合いがいい訳ないもんね。お誘いを、一度も断られたことないし。
「二人とも、一人前になってからは、どんな感じ? 仕事は、忙しい?」
私は、一番、気になっていたことを、訊いてみる。
「あまり、変わらないわね。固定のお客様は、いないし。会社から、時々お客様を、紹介してもらってるけど。あとは、自分で見つけるしか、ないのだから」
「うちも同じ。上が忙しい時だけ、こっちに回って来る」
「へぇー。やっぱり、大企業は凄いね。お客様、紹介してもらえるんだ」
大企業は、その圧倒的な知名度で、物凄くたくさん予約が入る。MVや雑誌なんかでも、バンバン広告を出してるからね。
そのため、上位階級の人が、予約を受けきれない場合、新人のほうに、回してもらえるらしい。また、個人指名だけでなく、会社で選んで来るお客様も多いんだって。それだけ、会社の知名度が重要ということだ。
ただ、うちの場合は、完全に、リリーシャさんの御指名だし。対応可能な、少人数しか受けていない。お客様も、それを承知の上で、予約待ちをしてくれている。つまり、どんなに待ってでも、リリーシャさんの接客を受けたいのだ。
完全な個人指名じゃ、私が変わりにやる訳には、行かないもんね。あぁ、早く私も、御指名が欲しい――。
「私は、100%自分で探さなきゃだから、凄く大変だよ。全くお客様がいない日のほうが、多いからね……」
「最初は、そんなものよ。誰だって、そこから、スタートするのだから」
「私は、そのほうが、楽でいい」
フィニーちゃんは、ぐでーっと、椅子に寄り掛かりながら答える。
ナギサちゃんは、フィニーちゃんを睨みつけるが、口を開く前に、私は、サッと話題を変えた。
「そういえば、もうすぐ、イベントだよね。『シルフィード・フェスタ』って、どんな感じなの? やっぱり、いっぱいお客様が来るの?」
「世界中から、大勢のお客様が来るわよ。年に一度の、ファン感謝祭だし。それに、全シルフィードが集まるのは『魔法祭』と『シルフィード・フェスタ』だけだから」
もう間もなく、三月のイベントの『シルフィード・フェスタ』が開催される。名前の通り、シルフィードが主役のお祭りだ。『魔法祭』以上に、活躍の場が多い。
「一人前になったから、私たちも、参加できるんだよね?」
「もちろん、参加可能よ。ただ、私たちの場合は、パレードがメインね。人気投票は、上位階級しか入らないし。クルージングも、上位階級がメインだから」
「でも、パレードに参加できるだけでも、超嬉しいよ。全シルフィードが、参加するんだから。ようやく、一員になった、実感がわくし」
「ただ、私たちは、前座のようなものだけどね」
私は、ワクワクしてるけど、ナギサちゃんは、つまらなそうに答える。フィニーちゃんに至っては、全く話を聴いていない。まぁ、三人の温度差が激しいのは、いつものことだけど――。
ちなみに、パレードは、リトル・ウイッチ以上の、全シルフィードが終結する、大イベントだ。階級の低いシルフィードから順に、徒歩で行進していく。ある意味、新しく昇進したシルフィードの、お披露目みたいな感じだ。
階級順に進んで行き、上位階級の人たちは『魔法祭』と同様に、大きなゴンドラに乗って、派手にパレードをする。当然、観光客のお目当ては、上位階級の乗るゴンドラだ。なので、私たちは、前座とも言える。
「人気投票って、やっぱり、シルフィード・クイーンが上位になるの? 」
「順当にいけば、そうなるわね。毎年トップは、シルフィード・クイーンだし」
「ナギサちゃんのお母さんも、現役時代は、一位になってたんだよね?」
「えぇ……まぁ、そうね」
人気投票では、アリーシャさんを抜いて、堂々の一位。毎年、人気投票では二人の激戦だったらしいけど、通算成績では、彼女のほうが上だった。
査問会のあと、詳しく調べて見たんだけど『白金の薔薇』って、とんでもなく、凄い人だったんだよね。グランド・エンプレスも、最有力候補だったらしいし。
「ねぇ、リリーシャさんも、ランキング上位に入るの?」
「昨年は、未参加だったけど。一昨年は、七位だったはずよ」
おそらく、昨年は、会社を再開したばかりだったころだ。一年ほど、仕事を休んでいたみたいだし。アリーシャさんの件があって、イベントどころでは、なかったんだろうと思う――。
「でも、こんなに沢山いる中で七位って、結構、凄くない?」
「結構どころじゃないわよ。上位六人は、グランド・エンプレスと、シルフィード・クイーン。つまり、スカイ・プリンセスの中では、トップなんだから」
「ほへぇぇーー。リリーシャさんって、超絶、凄いじゃん!!」
一昨年と言えば、まだ、アリーシャさんが、生きていたころだ。元々凄いとは思ってたけど。やっぱ、リリーシャさんって、とんでもない人気なんだね。大人しくて謙虚な性格だから、普段は、全然そんな風に見えないだけで。
そもそも、リリーシャさんって、自分の実績とか、全く話さないもんね。もうちょっと、誇ったり自慢しても、いいと思うんだけど……。
「まぁ、私たちには、関係ない話よ。パレードのことだけ、考えておきなさい」
「うん、パレード超楽しみー。ねぇ、フィニーちゃん」
先ほどから、ぐでーっとして無言だったフィニーちゃんに、声を掛ける。
「超めんどう。できれば、サボりたい」
「って、何言ってるのよ! 私たちの、初の晴れ舞台なのよ」
「そんなの、いらない。観光の仕事だけで、十分」
「イベントを盛り上げるのも、私たちの、重要な仕事でしょ。もう少し、一人前の自覚を、持ちなさいよ!」
一人前になっても、全く変わらないフィニーちゃんに、当然のごとく、ナギサちゃんのお説教が始まる。
「まぁまぁ。フィニーちゃんは、やる時はやるタイプだから、大丈夫だよ」
「本番も大事だけど、心構えが重要なのよ」
相変わらず、ナギサちゃんは真面目で、一切の心の隙を許さない。私も、真剣には考えてるけど、そこまで重くはないんだよね。割と楽しんでるし。
「ところで、クルージングって何やるの? 私たちは、全く出番なし?」
「クルーズ船を用意して、川の遊覧をするのよ。あと、各種料理を用意して、シルフィードが接待をする、水上パーティーのようなものね」
「うわぁー、何か楽しそう! でも、シルフィードが水上で活動って、珍しいね」
「空の観光がメインになって、水上観光が減ってしまったから。その活性化の目的もあるわ。だから『水上観光協会』とも、提携して開催するのよ」
なるほど、大人の事情ってやつね。昔は『水の町』と言われていたけど、今では、完全に『空の町』になっている。
船の数も、全盛期に比べ、半分以下に減ってしまったらしい。しかも、水空両用のゴンドラを使えば、シルフィードが、水上の観光案内もできちゃうので。
「でも、一番の目的は、ファンサービスよ。いつもとは、違う接客が受けられるうえに、長時間、上位階級シルフィードと、一緒にいられるのだから。シルフィード・ファンには、たまらないイベントでしょ」
「確かに。それは、ファンも大喜びだよね。じゃあ、私たちは、出番なしかぁー。ちょっと残念」
イベント事は大好きなので、いずれは参加してみたい。
「百人以上が乗れる、大型のクルーザーなのだから。無名なシルフィードがやったって、人が集まる訳ないでしょ。手伝いで呼ばれる場合は、あるかもしれないけど。エア・マスターとか、もっと上位の人でしょうね」
ナギサちゃんは、つまらなそうに語る。きっと、ナギサちゃんも、参加したいんだろうね。もっとも、楽しそうだからではなく、単純に、プライド的な問題の気がするけど。
「でも、せっかくのイベントなんだから、楽しくやろうよ。今、私たちに出来ることに、専念して」
「地上も水の上も、楽しくない。空がいい――」
前菜を食べていたフィニーちゃんが、ボソッとつぶやく。
「私たちの観光案内は、空だけじゃないのよ!」
「私は、空だけでいい」
「あははっ……」
こうして、いつも通りの楽しい女子会は、平穏無事に進んで行くのだった。
ここしばらく、立て続けのトラブルに加えて、試験勉強の毎日だったから、久しぶりの大イベントは超楽しみ。今回は、初の運営側の参加だけど、思いっきり楽しんじゃおーっと。
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