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第7部 才能と現実の壁
5-10たった1つのキッカケで変わり始めた世界……
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白い羽の大きな看板が見えてくると、私は、エア・カートの高度を、ゆっくりと落として行った。下方を確認しながら〈ホワイト・ウイング〉の敷地に、静かに着陸する。私は、すぐに運転席を降り、足早に後部座席に向かった。
扉を開けると、お客様に声を掛ける。
「長時間、お疲れ様でした。足元に、お気を付けください」
私は、そっと手を差し出し、お客様の手を取って、車外にエスコートした。
今日のお客様は、若い女性の二人組。まだ、高校生で、大陸から旅行にやって来たのだ。初めての遠出なのもあってか、観光中も、ずっとはしゃいでいた。
わかるなぁー、その気持ち。私も学生時代は、ちょっと遠出するだけで、テンション上がってたもん。しかも、友達だけで旅行ともなれば、なおさらだよね。
今回の観光は、かなり前から、二人で計画していたらしい。しかも、私に会いたくて、わざわざ〈ホワイト・ウイング〉を選んでくれた。『ノア・マラソン』の時に、MVで私を見て、それから、ずっと注目してくれてたんだって。
会った瞬間、握手とサインを求められ『有名人に会えた!』と、物凄く興奮していた。気恥ずかしさ半分、嬉しさ半分で、私も戸惑ってしまった。でも、歳が近いせいもあり、すぐに仲良くなって、ワイワイ言いながら、観光地めぐりをした。
観光スポットを移動する度に、三人で一緒に写真を撮ったり、食べ歩いたり。まるで、学校の友達と、修学旅行にでも、来ているようなノリだった。
「超楽しかったー!!」
「ねー、めっちゃ楽しかった! 食べ物も、すっごく美味しかったしー!」
二人とも、とても明るい笑顔で、楽しそうに声を上げる。終始テンションが高かっけど、まだまだ、元気があり余っている様子だ。
ちなみに、最初に『お小遣いを貯めて、ギリギリの予算で来た』と、言っていた。観光も一泊だけで、格安の民宿に、泊まっているらしい。
学生だから、資金が少ないのは、当然だよね。私も、中学時代は、お小遣いが少なかったので、いつも、カツカツだったし。
なので、なるべく、リーズナブルな場所を、回って行った。食べ物も、安い屋台や、地元の人が行く店を選んだ。激安店や、コスパのいいお店の紹介は、誰にも負けない自信がある。
安い観光をするなら、おそらく、全シルフィード中でも、トップレベルの案内ができると思う。そのせいかどうかは、分からないけど。私を指名するお客様は、十代の若者が多い。
「ご満足、いただけましたか?」
「はい、超大満足です!」
「星五つ、いや、星百個でしたー!」
「それは、よかったです!」
私も、笑みを浮かべながら、元気に返す。ここまで大絶賛されるのは、初めてなので、滅茶苦茶、嬉しい。
「最後に、記念写真いいですか?」
「はい、喜んで」
私たちは、事務所の前に並んで、笑顔で記念撮影をした。
撮影が終わると、世間話をしながら、入口まで、お見送りをする。二人は、何度も振り返りながら、笑顔で手を振ってくれた。私も、姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続ける。
本当に、明るく元気な、気持ちのいい子たちだった。しかも『私の大ファン』とか、去り際には『必ずまた来ます』と言ってくれた。今になって、心の底から、大きな感動が、沸き上がって来る。
つい先日まで、ほとんど、ファンがいなかったし。誰も、私のことなんて、気にも留めていなかった。なのに、こんな事って、あり得るのだろうか? あまりにも嬉し過ぎて、涙が出てきそうだ。
ここのところ、私の指名で、どんどん予約が入っている。今日も午前中から、立て続けに、観光案内を行っていた。
なお、急に予約が入り始めたのは、先日、行われた『EX500』での優勝が、キッカケだった。ただ『EX500』は、ローカルMVだけの放送で、そこまで影響は大きくない。しかし、その翌日、会社にたくさんの、取材依頼が舞い込んだ。
『ノア・マラソン』の時は、全て断ってしまったけど、今回は、受けることにした。リリーシャさんにも、取材を受けるように、おすすめされたからだ。
結局、全ての依頼を受け、1つ1つ、丁寧に対応して行った。ローカルMVの取材だったり、スピのニュースの取材。あと、レース関連の、雑誌の取材もあった。
でも、さほど、メジャーな取材ではなかった。私は、上位階級じゃないし。ノーラさんや、ミルティアさんのように、最高峰である『GSR』などで、優勝している訳ではないからだ。
『EX500』の優勝は、確かに凄いけど、そこまで、グレードは高くなかった。それに、前例として、もっと凄い人たちがいるので、特別に、快挙というほどでもない。
しかし、あるニュースで『異世界人初「EX500」の出場&優勝!』の見出しが、大変な話題になった。加えて『シルフィード史上初のノア・マラソン完走者と同一人物』ということで、ますます話題になり、情報が一気に拡散した。
スピでは、連日この話題ばかりで『如月風歌』『ホワイト・ウイング』『EX500』が、検索のトレンド・ランキング上位を占めることに。しかも、トレンド入り、二回目なので、前回にもまして、検索数が多くなっていた。
その後、さらに、取材の依頼が舞い込んだ。その中には、メジャー誌の『月刊シルフィード』もあった。なんでも『次代のクイーン候補のエア・マスターたち』という、巻頭特集を組むらしい。
シルフィードにとって、この雑誌は、特別な存在だった。『月刊シルフィードに載ることが、人気シルフィードのステータス』と、言われているぐらいだ。実際、この雑誌に出てから、上位階級になった人も多い。
次々と、取材の対応に追われていたら、私の指名の予約が、急に入り始めたのだ。おかげで、取材と観光案内で、目の回るような、忙しい日々が続いていた。
最初は、あまりの環境の変化に、物凄く戸惑っていた。こんなに、ちやほやされるのは、初めての経験だし。仕事のスタイルが、がらりと変わってしまったからだ。
でも、今は、とっても楽しい。常に、緊張感があって、かなり気疲れするけど。毎日が、滅茶苦茶、充実していた。
やっぱり、色んな人が、私に興味を持ってくれるのは、凄く嬉しかった。これこそ『シルフィード冥利に尽きる』というものだ。
『ノア・グランプリ』が終わってから、すでに、三週間が経過した。それでも、継続して予約が入って来るし、スピでも、相変わらず、話題になっている。
町内会長の孫のユキさんも、かなり派手に、情報を拡散してくれたらしい。さらに、ユメちゃんも、ここぞとばかりに、あちこちの掲示板に書き込んだり、学校でも、一生懸命、布教活動してくれたそうだ。
あと〈東地区商店街〉では『風歌ちゃんEX500優勝おめでとう!』という、横断幕やポスターが、至る所に飾られている。また、以前お蔵入りになった『風歌フェア』も行われていた。
結局、優勝は、ただのキッカケで、たくさんの人たちの応援のお蔭で、これだけ話題になった訳だ。私一人の力では、到底、こうはならなかったと思う。
本当に、みんなには、心の底から、感謝の気持ちで一杯だ。特に、今回、全面的に協力してくれた、ノーラさんには、頭が上がらない。
ちなみに、ノーラさんに優勝報告したところ『私の機体を貸したんだから、勝って当然だろ』と、一蹴された。でも、その表情は、どこなく嬉しそうだった。
あ、そうそう。あと『EX500』は、優勝トロフィーの他に、優勝賞金も貰えたんだよね。何と、賞金額は、400万ベル! あまりの額の大きさに、金額を知った瞬間、私は、気を失いそうになった。
勝つことだけに集中して、賞金のことは、全く気にしてなかったし。ゼロを一個、減らしたって、私には、とんでもない大金だもん。
どうしていいか分からず、ノーラさんに相談したところ、コーチとメカニックに、お礼を渡すように言われた。本来なら、報酬を払って雇うので、当然と言えば当然だ。二人には、丁重にお礼を述べて、それぞれ、100万ベルずつ渡した。
残りの200万ベルは、ノーラさんに渡そうとしたが、頑として受け取らなった。その代わりに『たまに、クルミパンを買って来ればいい』と言われた。
普段は、物凄く厳しいけど。いつも、無償で助けてくれるし。本当に、優しくて、欲のない人だ。それとも、過去の収入を考えると、この程度は、はした金なんだろうか……?
結局、大金過ぎて、使い道が分からなかったので、私は1ベルも手を付けず、貯金しておくことにした。
あとで、調べて知ったんだけど、私が出たのは『オープンレース』だった。これは、アマチュアでも参加できる。優勝賞金は、どのレースも、数百万ベル。
この上のレースだと、プロのライセンスがないと、参加できない。『グレード2』『グレード1』のレースだと、賞金額は数千万ベル。さらに、最高峰の『GSR』になると、賞金額は数億ベルになる。
どうりで、現役時代の、ノーラさんの収入が、凄かったわけだ。月収が、一億を超えてたって、言ってたもんね――。
まぁ、私は、最初から、賞金目当てじゃなかったので。その点は、割とどうでもよかった。一番、欲しかったのは、シルフィードの足しになる、実績なので。
なお、レースに優勝したあと、すぐに『シルフィード名鑑』の、私のページが更新されていた。ユメちゃんに教えてもらって、目を通したんだけど。相変わらず、脚色が凄すぎる……。
『世界歴2062年7月に行われた
ノア・グランプリの「EX500」に出場。
複数のプロやベテラン選手が参加する中
初出場でありながら、破竹の勢いで勝ち進み
見事に優勝を手にした。
その鋭くも美しい飛行は
現役時代の「疾風の剣」を、彷彿とさせるものであり
世界中のレースファンたちを魅了した。
なお、彼女のレースタイムは
十二年間、破られなかった、コースレコードを更新。
加えて、異世界人の
公式スカイレース出場、及び優勝は史上初。
さらに、初出場での
コースレコード更新も
史上初の快挙である。
なお、最下位人気からの優勝も
ノア・グランプリ始まって以来
初の出来事であり
短勝の払い戻しオッズが496倍と
これもまた、史上最高額となった。
ノア・マラソンの完走に続き
またもや、偉業を成し遂げ
歴史に新たな記録を刻み込んだ。
その勢いは、留まるところを知らず
今後の活躍に期待が集まっている。
現在、MVを始めとした各種メディアで
大変な話題になっており
上位階級への昇進も間近ではないかと
各筋でも噂されている。
※異世界出身で情報が少ないため
引き続き、彼女の情報を募集中
なお、彼女の二つ名については
「二つ名予想スレ」のほうに書き込みを』
ユメちゃんは、大喜びで興奮していたけど。あまりにも、カッコよく書かれ過ぎていたので、私は、読んだあと、滅茶苦茶、恥ずかしくなった。
だって、操縦技術は未熟で、ノーラさんの、足元にも及ばないし。レースだって、たまたま、運よく勝てただけで、かなりギリギリだった。コースコードも、フィニーちゃんが、異常に速く飛んでいた影響だ。
スピって怖いよね。いい情報も、悪い情報も、色々と、尾ひれ背びれが付いちゃうのだから――。
ただ、スカイレース系は、空の仕事では、かなりの実績になると、以前、聴いた記憶がある。シルフィード協会に、どれぐらい評価されるかは、分からないけど。少なくとも、仕事は増えたので、私としては、大満足の結果だった。
私は、ガレージに、エア・カートを停めたあと、ほうきを手に、庭に戻って来た。敷地の隅から、丁寧にはいていく。ここ数日、予約がいっぱい入っているけど、気を抜いてはいけない。なぜなら、これは、一過性のものかもしれないからだ。
話題なんて、一瞬で、冷めてしまうことも多い。だから、こういう時ほど、気を引き締めなければならなかった。
一つ一つを、基本に忠実に。どんな雑用でも、心を込めて、丁寧に。いかなる時も、けっして、おごらず、初心を持って……。
私は、自分を戒めると、せっせと、ほうきを動かして行く。それでも、つい顔が緩んでしまう。観光案内で、お客様が喜んでくれるのも、ファンだと言ってくれるのも、飛び上るほど嬉しい。
毎日、暇していたのに。まるで、世界が変わったかのように、突然、忙しくなった。でも、滅茶苦茶、嬉しい忙しさだ。浮かれるな、というほうが難しい。
リリーシャさんも、毎日、こんな気持ちなんだろうか? いつも忙しいのに、とても楽しそうなのが、何となく分かった気がする。でも、あんなに、ちやほやされて、浮かれることって、全くないのかなぁ――?
リリーシャさんは、いつも、おしとやかで冷静だから、ハイテンションになっているのを、一度も見たことがない。お酒を飲んでも、ずっと、あの感じのままだし。
それに、いつも笑顔だから。嬉しい笑顔なのか、通常の笑顔なのか、見分けが、つき辛いんだよね。大人だから、浮かれないのか。それとも、とても優秀だから、褒められ慣れているんだろうか?
「おっと、いけない、いけない……。仕事に集中!」
再び、黙々と掃除を開始する。
しばらくすると、上空から、エンジン音が聞こえて来た。視線を上に向けると、赤い色の、小型のエア・コンテナだった。あの目立つ色は『レッド・ホライズン』の、配送用の機体だ。
目の前に、ゆっくり着地すると、すぐに、制服を着た配送員の人が出てきた。私は、ほうきを壁に立てかけると、彼に近付いて行った。
「こんにちは、レッド・ホライズンです。お届け物を、持ってまいりました」
「配達、お疲れ様です」
「ホワイト・ウイングの、如月 風歌様宛てに、特別郵便です」
「それなら、私です」
特別郵便とは『書留』のことだ。直接、本人に手渡しすることになっている。でも、私に、特別郵便が来るのは、初めてだ。
「それでは、魔力認証を、お願いします」
彼は、手に持っていたマギコンを操作すると、目の前に、空中モニターが現れた。私が、画面を軽くタッチすると、一瞬、青く光り『承認完了』の文字が表示される。
「こちらが、郵送物になります」
「はい、ありがとうございます」
配送員の人は、軽く会釈すると、すぐに立ち去って行った。
私が渡されたのは、少し大きめの封筒だった。封筒の裏には、シルフィード協会のマークが、描かれていた。
「うーん、何だろう――? ここ最近、特に、問題も起こしてないし。まさか、また、お叱りの呼び出しとかじゃないよね……?」
ふと、査問会の時のことを思い出す。
あの時は、本当に酷かった。十人以上の、お偉いさんに囲まれて、言葉の暴力で、コテンパンにされたからだ。前向きな私でも、しばらく間、凄くへこんでいた。
「もしかして、先日の『ノア・グランプリ』で、目立ち過ぎたから? いやいや、まさかね。だって、もう、見習いじゃないんだし――」
それでも、私の心に、不安がよぎる。
私は、ドキドキしながら、早足で、事務所に入って行った。自分の机に戻ると、ペーパーナイフで、慎重に封筒を開ける。少し震える手で、そっと手紙を取り出した。
私は、一行目から、ゆっくりと目を通して行く。どうやら、呼び出しの手紙のようだ。理由は……。
「って、えぇぇぇぇーー?! ちょっ――嘘でしょぉぉぉぉーー?!」
静かな事務所の中に、私の驚愕の声が響き渡った。
それは、おそらく、この世界に来て。いや、私の人生の中で、一番の驚きだったと思う……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第8部 予告――
「えぇぇぇ-!! 何でっ?! どういうこと?」
「顔色が悪いみたいだけど、大丈夫?」
「みんな、同じなのね。考えることは……」
『成長は、未来にしかないのだから……』
「伝統あるシルフィードを、汚す行為だ!」
「客寄せパンダとしては、最高の素材じゃありませんか?」
「徹底的に叩いて、叩き潰すだけだ」
『はぁー……。何か、気分が重いなぁー』
「それで、今日の相談は何?」
「こんな緊急事態に、のんびり、仕事をしている場合じゃないでしょ?」
「ごめんなさい。これは、私が進むべき道じゃないの……」
『そんな……。これからも、ずっと一緒だと信じていたのに……』
coming soon
扉を開けると、お客様に声を掛ける。
「長時間、お疲れ様でした。足元に、お気を付けください」
私は、そっと手を差し出し、お客様の手を取って、車外にエスコートした。
今日のお客様は、若い女性の二人組。まだ、高校生で、大陸から旅行にやって来たのだ。初めての遠出なのもあってか、観光中も、ずっとはしゃいでいた。
わかるなぁー、その気持ち。私も学生時代は、ちょっと遠出するだけで、テンション上がってたもん。しかも、友達だけで旅行ともなれば、なおさらだよね。
今回の観光は、かなり前から、二人で計画していたらしい。しかも、私に会いたくて、わざわざ〈ホワイト・ウイング〉を選んでくれた。『ノア・マラソン』の時に、MVで私を見て、それから、ずっと注目してくれてたんだって。
会った瞬間、握手とサインを求められ『有名人に会えた!』と、物凄く興奮していた。気恥ずかしさ半分、嬉しさ半分で、私も戸惑ってしまった。でも、歳が近いせいもあり、すぐに仲良くなって、ワイワイ言いながら、観光地めぐりをした。
観光スポットを移動する度に、三人で一緒に写真を撮ったり、食べ歩いたり。まるで、学校の友達と、修学旅行にでも、来ているようなノリだった。
「超楽しかったー!!」
「ねー、めっちゃ楽しかった! 食べ物も、すっごく美味しかったしー!」
二人とも、とても明るい笑顔で、楽しそうに声を上げる。終始テンションが高かっけど、まだまだ、元気があり余っている様子だ。
ちなみに、最初に『お小遣いを貯めて、ギリギリの予算で来た』と、言っていた。観光も一泊だけで、格安の民宿に、泊まっているらしい。
学生だから、資金が少ないのは、当然だよね。私も、中学時代は、お小遣いが少なかったので、いつも、カツカツだったし。
なので、なるべく、リーズナブルな場所を、回って行った。食べ物も、安い屋台や、地元の人が行く店を選んだ。激安店や、コスパのいいお店の紹介は、誰にも負けない自信がある。
安い観光をするなら、おそらく、全シルフィード中でも、トップレベルの案内ができると思う。そのせいかどうかは、分からないけど。私を指名するお客様は、十代の若者が多い。
「ご満足、いただけましたか?」
「はい、超大満足です!」
「星五つ、いや、星百個でしたー!」
「それは、よかったです!」
私も、笑みを浮かべながら、元気に返す。ここまで大絶賛されるのは、初めてなので、滅茶苦茶、嬉しい。
「最後に、記念写真いいですか?」
「はい、喜んで」
私たちは、事務所の前に並んで、笑顔で記念撮影をした。
撮影が終わると、世間話をしながら、入口まで、お見送りをする。二人は、何度も振り返りながら、笑顔で手を振ってくれた。私も、姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続ける。
本当に、明るく元気な、気持ちのいい子たちだった。しかも『私の大ファン』とか、去り際には『必ずまた来ます』と言ってくれた。今になって、心の底から、大きな感動が、沸き上がって来る。
つい先日まで、ほとんど、ファンがいなかったし。誰も、私のことなんて、気にも留めていなかった。なのに、こんな事って、あり得るのだろうか? あまりにも嬉し過ぎて、涙が出てきそうだ。
ここのところ、私の指名で、どんどん予約が入っている。今日も午前中から、立て続けに、観光案内を行っていた。
なお、急に予約が入り始めたのは、先日、行われた『EX500』での優勝が、キッカケだった。ただ『EX500』は、ローカルMVだけの放送で、そこまで影響は大きくない。しかし、その翌日、会社にたくさんの、取材依頼が舞い込んだ。
『ノア・マラソン』の時は、全て断ってしまったけど、今回は、受けることにした。リリーシャさんにも、取材を受けるように、おすすめされたからだ。
結局、全ての依頼を受け、1つ1つ、丁寧に対応して行った。ローカルMVの取材だったり、スピのニュースの取材。あと、レース関連の、雑誌の取材もあった。
でも、さほど、メジャーな取材ではなかった。私は、上位階級じゃないし。ノーラさんや、ミルティアさんのように、最高峰である『GSR』などで、優勝している訳ではないからだ。
『EX500』の優勝は、確かに凄いけど、そこまで、グレードは高くなかった。それに、前例として、もっと凄い人たちがいるので、特別に、快挙というほどでもない。
しかし、あるニュースで『異世界人初「EX500」の出場&優勝!』の見出しが、大変な話題になった。加えて『シルフィード史上初のノア・マラソン完走者と同一人物』ということで、ますます話題になり、情報が一気に拡散した。
スピでは、連日この話題ばかりで『如月風歌』『ホワイト・ウイング』『EX500』が、検索のトレンド・ランキング上位を占めることに。しかも、トレンド入り、二回目なので、前回にもまして、検索数が多くなっていた。
その後、さらに、取材の依頼が舞い込んだ。その中には、メジャー誌の『月刊シルフィード』もあった。なんでも『次代のクイーン候補のエア・マスターたち』という、巻頭特集を組むらしい。
シルフィードにとって、この雑誌は、特別な存在だった。『月刊シルフィードに載ることが、人気シルフィードのステータス』と、言われているぐらいだ。実際、この雑誌に出てから、上位階級になった人も多い。
次々と、取材の対応に追われていたら、私の指名の予約が、急に入り始めたのだ。おかげで、取材と観光案内で、目の回るような、忙しい日々が続いていた。
最初は、あまりの環境の変化に、物凄く戸惑っていた。こんなに、ちやほやされるのは、初めての経験だし。仕事のスタイルが、がらりと変わってしまったからだ。
でも、今は、とっても楽しい。常に、緊張感があって、かなり気疲れするけど。毎日が、滅茶苦茶、充実していた。
やっぱり、色んな人が、私に興味を持ってくれるのは、凄く嬉しかった。これこそ『シルフィード冥利に尽きる』というものだ。
『ノア・グランプリ』が終わってから、すでに、三週間が経過した。それでも、継続して予約が入って来るし、スピでも、相変わらず、話題になっている。
町内会長の孫のユキさんも、かなり派手に、情報を拡散してくれたらしい。さらに、ユメちゃんも、ここぞとばかりに、あちこちの掲示板に書き込んだり、学校でも、一生懸命、布教活動してくれたそうだ。
あと〈東地区商店街〉では『風歌ちゃんEX500優勝おめでとう!』という、横断幕やポスターが、至る所に飾られている。また、以前お蔵入りになった『風歌フェア』も行われていた。
結局、優勝は、ただのキッカケで、たくさんの人たちの応援のお蔭で、これだけ話題になった訳だ。私一人の力では、到底、こうはならなかったと思う。
本当に、みんなには、心の底から、感謝の気持ちで一杯だ。特に、今回、全面的に協力してくれた、ノーラさんには、頭が上がらない。
ちなみに、ノーラさんに優勝報告したところ『私の機体を貸したんだから、勝って当然だろ』と、一蹴された。でも、その表情は、どこなく嬉しそうだった。
あ、そうそう。あと『EX500』は、優勝トロフィーの他に、優勝賞金も貰えたんだよね。何と、賞金額は、400万ベル! あまりの額の大きさに、金額を知った瞬間、私は、気を失いそうになった。
勝つことだけに集中して、賞金のことは、全く気にしてなかったし。ゼロを一個、減らしたって、私には、とんでもない大金だもん。
どうしていいか分からず、ノーラさんに相談したところ、コーチとメカニックに、お礼を渡すように言われた。本来なら、報酬を払って雇うので、当然と言えば当然だ。二人には、丁重にお礼を述べて、それぞれ、100万ベルずつ渡した。
残りの200万ベルは、ノーラさんに渡そうとしたが、頑として受け取らなった。その代わりに『たまに、クルミパンを買って来ればいい』と言われた。
普段は、物凄く厳しいけど。いつも、無償で助けてくれるし。本当に、優しくて、欲のない人だ。それとも、過去の収入を考えると、この程度は、はした金なんだろうか……?
結局、大金過ぎて、使い道が分からなかったので、私は1ベルも手を付けず、貯金しておくことにした。
あとで、調べて知ったんだけど、私が出たのは『オープンレース』だった。これは、アマチュアでも参加できる。優勝賞金は、どのレースも、数百万ベル。
この上のレースだと、プロのライセンスがないと、参加できない。『グレード2』『グレード1』のレースだと、賞金額は数千万ベル。さらに、最高峰の『GSR』になると、賞金額は数億ベルになる。
どうりで、現役時代の、ノーラさんの収入が、凄かったわけだ。月収が、一億を超えてたって、言ってたもんね――。
まぁ、私は、最初から、賞金目当てじゃなかったので。その点は、割とどうでもよかった。一番、欲しかったのは、シルフィードの足しになる、実績なので。
なお、レースに優勝したあと、すぐに『シルフィード名鑑』の、私のページが更新されていた。ユメちゃんに教えてもらって、目を通したんだけど。相変わらず、脚色が凄すぎる……。
『世界歴2062年7月に行われた
ノア・グランプリの「EX500」に出場。
複数のプロやベテラン選手が参加する中
初出場でありながら、破竹の勢いで勝ち進み
見事に優勝を手にした。
その鋭くも美しい飛行は
現役時代の「疾風の剣」を、彷彿とさせるものであり
世界中のレースファンたちを魅了した。
なお、彼女のレースタイムは
十二年間、破られなかった、コースレコードを更新。
加えて、異世界人の
公式スカイレース出場、及び優勝は史上初。
さらに、初出場での
コースレコード更新も
史上初の快挙である。
なお、最下位人気からの優勝も
ノア・グランプリ始まって以来
初の出来事であり
短勝の払い戻しオッズが496倍と
これもまた、史上最高額となった。
ノア・マラソンの完走に続き
またもや、偉業を成し遂げ
歴史に新たな記録を刻み込んだ。
その勢いは、留まるところを知らず
今後の活躍に期待が集まっている。
現在、MVを始めとした各種メディアで
大変な話題になっており
上位階級への昇進も間近ではないかと
各筋でも噂されている。
※異世界出身で情報が少ないため
引き続き、彼女の情報を募集中
なお、彼女の二つ名については
「二つ名予想スレ」のほうに書き込みを』
ユメちゃんは、大喜びで興奮していたけど。あまりにも、カッコよく書かれ過ぎていたので、私は、読んだあと、滅茶苦茶、恥ずかしくなった。
だって、操縦技術は未熟で、ノーラさんの、足元にも及ばないし。レースだって、たまたま、運よく勝てただけで、かなりギリギリだった。コースコードも、フィニーちゃんが、異常に速く飛んでいた影響だ。
スピって怖いよね。いい情報も、悪い情報も、色々と、尾ひれ背びれが付いちゃうのだから――。
ただ、スカイレース系は、空の仕事では、かなりの実績になると、以前、聴いた記憶がある。シルフィード協会に、どれぐらい評価されるかは、分からないけど。少なくとも、仕事は増えたので、私としては、大満足の結果だった。
私は、ガレージに、エア・カートを停めたあと、ほうきを手に、庭に戻って来た。敷地の隅から、丁寧にはいていく。ここ数日、予約がいっぱい入っているけど、気を抜いてはいけない。なぜなら、これは、一過性のものかもしれないからだ。
話題なんて、一瞬で、冷めてしまうことも多い。だから、こういう時ほど、気を引き締めなければならなかった。
一つ一つを、基本に忠実に。どんな雑用でも、心を込めて、丁寧に。いかなる時も、けっして、おごらず、初心を持って……。
私は、自分を戒めると、せっせと、ほうきを動かして行く。それでも、つい顔が緩んでしまう。観光案内で、お客様が喜んでくれるのも、ファンだと言ってくれるのも、飛び上るほど嬉しい。
毎日、暇していたのに。まるで、世界が変わったかのように、突然、忙しくなった。でも、滅茶苦茶、嬉しい忙しさだ。浮かれるな、というほうが難しい。
リリーシャさんも、毎日、こんな気持ちなんだろうか? いつも忙しいのに、とても楽しそうなのが、何となく分かった気がする。でも、あんなに、ちやほやされて、浮かれることって、全くないのかなぁ――?
リリーシャさんは、いつも、おしとやかで冷静だから、ハイテンションになっているのを、一度も見たことがない。お酒を飲んでも、ずっと、あの感じのままだし。
それに、いつも笑顔だから。嬉しい笑顔なのか、通常の笑顔なのか、見分けが、つき辛いんだよね。大人だから、浮かれないのか。それとも、とても優秀だから、褒められ慣れているんだろうか?
「おっと、いけない、いけない……。仕事に集中!」
再び、黙々と掃除を開始する。
しばらくすると、上空から、エンジン音が聞こえて来た。視線を上に向けると、赤い色の、小型のエア・コンテナだった。あの目立つ色は『レッド・ホライズン』の、配送用の機体だ。
目の前に、ゆっくり着地すると、すぐに、制服を着た配送員の人が出てきた。私は、ほうきを壁に立てかけると、彼に近付いて行った。
「こんにちは、レッド・ホライズンです。お届け物を、持ってまいりました」
「配達、お疲れ様です」
「ホワイト・ウイングの、如月 風歌様宛てに、特別郵便です」
「それなら、私です」
特別郵便とは『書留』のことだ。直接、本人に手渡しすることになっている。でも、私に、特別郵便が来るのは、初めてだ。
「それでは、魔力認証を、お願いします」
彼は、手に持っていたマギコンを操作すると、目の前に、空中モニターが現れた。私が、画面を軽くタッチすると、一瞬、青く光り『承認完了』の文字が表示される。
「こちらが、郵送物になります」
「はい、ありがとうございます」
配送員の人は、軽く会釈すると、すぐに立ち去って行った。
私が渡されたのは、少し大きめの封筒だった。封筒の裏には、シルフィード協会のマークが、描かれていた。
「うーん、何だろう――? ここ最近、特に、問題も起こしてないし。まさか、また、お叱りの呼び出しとかじゃないよね……?」
ふと、査問会の時のことを思い出す。
あの時は、本当に酷かった。十人以上の、お偉いさんに囲まれて、言葉の暴力で、コテンパンにされたからだ。前向きな私でも、しばらく間、凄くへこんでいた。
「もしかして、先日の『ノア・グランプリ』で、目立ち過ぎたから? いやいや、まさかね。だって、もう、見習いじゃないんだし――」
それでも、私の心に、不安がよぎる。
私は、ドキドキしながら、早足で、事務所に入って行った。自分の机に戻ると、ペーパーナイフで、慎重に封筒を開ける。少し震える手で、そっと手紙を取り出した。
私は、一行目から、ゆっくりと目を通して行く。どうやら、呼び出しの手紙のようだ。理由は……。
「って、えぇぇぇぇーー?! ちょっ――嘘でしょぉぉぉぉーー?!」
静かな事務所の中に、私の驚愕の声が響き渡った。
それは、おそらく、この世界に来て。いや、私の人生の中で、一番の驚きだったと思う……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第8部 予告――
「えぇぇぇ-!! 何でっ?! どういうこと?」
「顔色が悪いみたいだけど、大丈夫?」
「みんな、同じなのね。考えることは……」
『成長は、未来にしかないのだから……』
「伝統あるシルフィードを、汚す行為だ!」
「客寄せパンダとしては、最高の素材じゃありませんか?」
「徹底的に叩いて、叩き潰すだけだ」
『はぁー……。何か、気分が重いなぁー』
「それで、今日の相談は何?」
「こんな緊急事態に、のんびり、仕事をしている場合じゃないでしょ?」
「ごめんなさい。これは、私が進むべき道じゃないの……」
『そんな……。これからも、ずっと一緒だと信じていたのに……』
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その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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