私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第9部 夢の先にあるもの

1-2エンプレスの存在意義とは何なのだろうか?

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 私は〈シルフィード協会〉の会議室で、理事会に参加していた。今日の議題は『グランド・エンプレス』の選出についてだ。毎回、上位階級を選ぶ際には、たくさんの意見が飛び交い、揉めることが多い。だが、今回は、少し様子が違っていた。

 ほとんど、意見が出てこないのだ。皆、疲れ切った様子で、今一つ、やる気が感じられなかった。以前は、物凄く活発に議論が交わされていたが、見る影もない。なぜなら、先日の、エンプレスの昇進面接の件を、引きずっているからだ。

 私は、滅多なことでは、動じない。だが、流石に、先日の面接での出来事は、強い衝撃を受けた。まさか、辞退するとは、思いもしなかったからだ。おそらく、エンプレスの指名を断ったのは、シルフィード史上、彼女が初めてだろう。
 
『グランド・エンプレス』になれば、地位・名声・富の、全てが手に入る。誰もが、喉から手が出るほど欲している、この世界で最高の地位だ。断る理由など、考えられない。

 ただ、元々『天使の羽エンジェルフェザー』は、謙虚で無欲な性格だった。しかし、いくら彼女が無欲で、何の利益も欲していなかったとしても、母親の遺志を継ぐという、大義がある。だから、素直に、エンプレスに就任するものだと、私も確信していた。

 だが、彼女は、あっさりと、辞退してしまったのだ。彼女の、母親に対する、強い想いは知っている。それだけに、あの選択は、不思議でならなかった。だが、彼女の表情を見る限り、そうとう悩んで決めたであろうことが、伝わって来た。

 彼女が、辞退して以降。何度か、別のエンプレスを選ぶための、会議が行われた。だが、話は、全く進んでいなかった。建設的な意見が、ほとんど出て来ないからだ。

「それにしても、いまだに、信じられませんね……」
「えぇ。こんな大役を断るだなんて、前代未聞ですよ――」
「全く、何を考えているのか……?」
「まさか、自分の人生を棒に振るとは――」

 出てくるのは、彼女に対しての、否定的な意見ばかり。だが、それだけ、彼女が期待されていた証拠でもあった。

「しかし、他のエンプレスを選ぶと言っても、すぐには、出て来ませんな」
「確かに『天使の羽』に比べると、難しいですね」
「何だかんだで、彼女は、優秀ですから」
「彼女がエンプレスになれば、色んな意味で、安泰だったのですが」
 
 数人の理事たちから、ため息が聞こえて来る。

 確かに、彼女は、極めて優秀だ。単に『白き翼』ホワイトウイングの娘というだけでなく、非常によくできた人間だ。仕事も立ち振る舞いも、全てが完璧。それでいて、無欲で謙虚な性格だ。これほどの逸材は、簡単に見つかるものではない。

 もちろん、他の上位階級たちも優秀だ。しかし、完成度の高さ、バランスのよさでは、彼女の代わりはいない。私も、彼女の人間性を、高く評価していた。性格的なものは、努力では、なかなか変わらないからだ。

 選出の際は、彼女にするかどうかも、かなり揉めていた。他の上位階級に比べ、地味な存在だったからだ。しかし、今になって初めて、皆、彼女の本当の優秀さに、気付いたようだった。

 ただ、歴代のエンプレスを振り返ると、彼女のように、地味な人間も多い。元々エンプレスとは、象徴であり、聖女のような存在だったからだ。しかし『白き翼』が就任して以降、業界の認識が変わっていった。

 地味で大人しい存在から、明るく個性的な存在に、変化したのだ。それ以降、上位階級は、個性的な人材が多くなった。つまり、アイドルや芸能人のような、立ち位置だ。

 ただ、時代の流れを考えると、それも、やむを得ないと思う。なぜなら、最近のお客様たちは、派手さや刺激を求めているからだ。また、ぱっと見の、第一印象で判断する人も多い。

 昔の、伝統や格式の『象徴』ではなく、完全に『娯楽』になって来ているのだ。ただ、これは、一概に悪いとも言えない。なぜなら、娯楽として認知されたからこそ、シルフィード業界が、大きく発展してきたからだ。

 もし、古い伝統だけであれば、ここまで人気には、ならなかっただろう。やはり、業界を牽引していくのは、今の流行にあった、先進的な若者たちなのだ。そう考えると、古風なシルフィードである『天使の羽』は、むしろ、珍しい存在と言える。

 ただ、いくら人気が大事な業界とはいえ。流石に、他の理事たちも『グランド・エンプレス』の選出ともなれば、伝統を重視する。しかし、今のこの業界には、優れた人材が多くとも、正統派のシルフィードは、数が少ない。

「しかし、毎度のことですが、色々問題の多い会社ですな」
「名門で人気があるとはいえ、やりたい放題な気がしますね」
「確かに『天使の翼』エンジェルウイングも、相変わらずのようですし」

「まさか『天使の羽』まで、こんな非常識な行動をするとは……」
「しょせんは、規則のゆるい個人企業、ということでしょう」
「やはり、しっかりした企業から、選んだほうがいいのでは?」
「そうなると、大企業のシルフィードが、確実ですね」

 今度は〈ホワイト・ウイング〉の批判が始まった。

 だが、それは、大変な勘違いだ。確かに『白き翼』は、とても自由で、大らかな性格だった。だが、本当に、尊敬に値する、偉大なシルフィードだった。

 そもそも、今のように、シルフィードが世界中に認知され、人気職業になったのは、彼女の存在が大きい。彼女は『アイドル・シルフィードの先駆け』とも言われている。

 シルフィードのアイドル化に関しては、賛否両論だが。彼女の人気のお蔭で、それまでは、お堅く神聖な職業だったシルフィードが、より身近な存在になったのだ。

 また『天使の翼』は、度々理事会で話題に出ているが、特に大きな問題を起こしたわけではない。何度か話したことがあるが、素直で礼節をわきまえた、好感の持てる人間だ。ちゃんとした、常識も身につけている。

 ただ『異世界人』という点を、認められない理事たちもいるのだ。おそらく、上位階級になったことを、いまだに、受け入れられない人もいるのだろう。

 あと、一番の勘違いは『天使の羽』についてだ。確かに『グランド・エンプレス』の指名を断ったのは、彼女が、史上初かも知れない。特別な地位かつ、これ以上ないほどの好条件なので、そもそも、断る理由がないからだ。 

 普通なら、絶対に断らないが、彼女は、あっさり辞退した。だが、思慮深い彼女のことなので、よくよく考えての判断だろう。先日の面接の際も、彼女の表情からは、苦悩が感じられた。

 ある意味、妥協して引き受けるよりも、断るほうが、はるかに勇気のいる行動だ。その点を考えると、むしろ、私の彼女に対する評価は、より高くなった。あれほど、ハッキリ言える性格だとは、思っていなかったからだ。

 他の理事たちは、彼女が反抗的だと批判しているが、それは、絶対にあり得ない。あれほど、謙虚で素直な若者は、今時、とても珍しいからだ。

 彼女の想いも悩みも、私には、よく分からない。だが、おそらく、母親絡みだと思う。まだ、事故の件を引きずっているか、母親と自分を、比較しているのではないだろうか?

 誰にだって、不完全な部分はあるし、大なり小なり、問題や悩みも抱えている。ただ、前に進むにあたって、そこまで気にする必要はない。だが、真面目な性格の彼女は、その不完全さが、許せなかったのではないだろうか?

「となると『銀色の妖精シルバーフェアリー』と『金剛の戦乙女』ダイヤモンドヴァルキュリアが筆頭。あとは『虹色の歌声レインボーヴォイス』と『深紅の紅玉クリムゾンルビー』に『癒しの風』ヒーリングウインドですかね?」 
「上位企業のシルフィードなら、間違いないでしょう」
「知名度も充分ですし。それで、いいのではありませんか?」

「何より、バックが、しっかりしていますからな」
「今後のことを考えると、妥当ではありませんか」
「全員、横並びなら、そのほうが安全ですね」
「売上的にも、業界の将来的にも、確実ですし」

 様々な意見が出て来るが、概ね、大企業所属のシルフィードで、皆、納得した様子だった。だが、これでは、話が進むどころか、また、後退してしまっている。

 ただ『天使の羽』の予想外の辞退と、話が非常に長引いているので、早く決めてしまいたいのだろう。しかし『グランド・エンプレス』は、そんな、いい加減な気持ちで、選ぶべき存在ではない。

 隣に視線を向けると、議長は小さく頷く。それを確認すると、私は、静かに話し始めた。

「それでは、最初のころに、話が戻ってはいませんか? 出自や所属は、シルフィード個人の評価には、全く関係のないことです。それに、売上などに関しては、我々の都合に、過ぎないのではありませんか?」

「そんな、くだらない選び方をするために、今まで時間を掛けて、議論して来た訳ではありません。いい加減、利害とは、切り離して考えてはどうですか?」

 私の発言で、急に部屋の中が、静まり返った。中には、ばつが悪そうに、うつむいている理事もいる。

「しかし、このままでは、永遠に決まらないと思うが。『白金の薔薇プラチナローズ』には、何かよい考えが、おありなのか?」
 誰もが黙り込んだ中、ゴドウィン理事が、鋭い視線を向け、質問してきた。

 私は、彼のことが、嫌いではなかった。ただ、伝統に固執するきらいがあるので、ここ最近は、意見が対立することが多い。だが、彼の言うことにも、一理ある。このまま続けても、永遠に決まらないだろう。

「私に一つ提案があります。まず、今回の選出の件ですが、一度、時間を置いてはどうでしょう? やはり『天使の羽』の辞退を、皆、引きずられているようですので。今、話し合っても、建設的な意見は、出てこないと思います」

 周囲では、皆、気まずそうな顔で聴いていた。だが、中には、小さく頷いている理事もいる。

「あと、選出の範囲を、広げて見てはどうでしょう? そうすれば、新しい答えが、見つかるかもしれません」
「あの――それは、どういう意味でしょうか、白金の薔薇?」

 理事の一人が、不思議そうな表情で訊ねて来た。

「今までは、クイーンの中だけで、考えていましたが。『プリンセスも、選考対象に入れる』という意味です」
 私が答えた瞬間、室内の空気が揺らいだ。

「し、しかし……それでは、ますます、決めるのが難しくなるのでは? それに、通例では、クイーンから、選ぶものだと思いますが?」

「だからこそ、時間を置くのです。それに、ルールとしては『上位階級の中から』と定義されており、クイーン限定ではありません」
 
 私が視線を横に向けると、

「実際に、過去には『スカイ・プリンセス』も、エンプレスの候補に挙がったケースが、何度かあります」

 議長は、表情を変えず、静かに説明した。

 どうしても、元々の四人のクイーンと、大企業所属のシルフィードに、皆の意識が行ってしまっている。それを変えるには、新しい選択肢が必要だ。

「ただ、ご指摘の通り、選択肢が増えれば、当然、選ぶのにも時間が掛かるでしょう。なので、思い切って、数ヶ月間、時間を空けて見てはどうでしょう? 今年も、残り僅かですし。年が明けてからでも、遅くはないと思います」

「そもそも、今まで四年以上も、空席だったのですから。焦って適当に決めるよりも、一度、考えをリセットして、一から、じっくり考えるほうがいいのでは? けっして、妥協すべき案件では、ありませんから」

 私が話し終えると、室内がザワザワし始めた。だが、概ね、私の意見に賛同している様子だ。いずれにせよ、今、話し合ったところで、正しい判断はできないだろう。

 しばらく様子を見たあと、議長が口を開く。
「それでは、決を採りましょう。今の『白金の薔薇』の意見に賛成の方は、挙手をお願いします」

 すぐに、皆の手があがった。一番、最後に、渋い顔をしたゴドウィン理事も、挙手した。

「全員、賛成ということで『グランド・エンプレス』の選出会議は、翌年、改めて行うものとします。つきましては、現在の上位階級、全員を対象とし、誰を選ぶか、各自、熟考しておいてください」

「会議の日程については、後日、お知らせします。それでは、本日の会議は、ここまでとします。皆さん、お疲れ様でした」

 議長が淡々と語ると、みな立ち上がり、ぞろぞろと退出していった。中には、ホッとした息を、ついている理事たちもいた。

 提案した私が、言うのも何だが。正直、まだ私にも、誰にすべきか、選べていない状態だった。今一度、最初から、考え直す必要がある。

 私は、出自や経歴に、こだわるつもりはないし、時代に逆らってまで、伝統に固執しようとも、思わない。だが『グランド・エンプレス』だけは、特別な存在だ。だからこそ、けっして、手を抜いた選出をしてはならない。

 シルフィード業界の、明るい未来はもちろん。それこそが『白き翼』への、最高の手向けになるのだから……。


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次回――
『選択の成否は未来にならないと誰にも分からない』

 未来はそれぞれの選択の先にある
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