私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第9部 夢の先にあるもの

4-6光り輝く太陽のような人間からは誰も目を背けられない

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 私は〈シルフィード協会〉の会議室で、理事会に参加していた。ここ最近は、理事会の回数が、非常に多い。震災後の、町の復興支援計画について、度々議論が行われているからだ。

 町の復興は、本来、行政府の仕事だが、我々シルフィード業界も、一丸となって、支援を行っている。というのも『行政府』も『シルフィード』も、観光をメインの収入源にしているため、一蓮托生なのだ。

 被災者の生活の問題に加え、町が崩壊したままでは、観光業が、全く成り立たない。なので、今は、一刻も早く町を復興し、元の状態に戻すのが、急務だった。

 全シルフィードは、通常営業を中止し、日々飛び回って、被災者の手助けをしていた。我々理事も、それぞれの、権限や人脈を生かし、あらゆる手段で、町の復興に従事している。

 幸い理事には、大手企業や財閥、政治家たちと、繋がりのある人が多く、次々と大きな支援を引き入れていた。また、自分が経営する企業や、関連企業を、復興支援のために、直接、指揮している者もいる。

 私も〈ファースト・クラス〉に赴き、陣頭に立って、全社員の指揮を行った。あれほどの、大災害のあとにもかかわらず、皆、冷静かつ、迅速に動いていた。

 流石は、伝統ある〈ファースト・クラス〉の社員だ。各自が、強い誇りと意思を持ち、毅然とした態度で行動していた。これこそが、日ごろの厳しい教育の、賜物と言える。

 さらには、世界中から、資金・物資・人的資源の援助が、多数、送られて来た。〈グリュンノア〉は、世界を平和に導いた象徴であり、特別な存在だ。また、日ごろから、行政府による、外交努力が行われていた。

 その甲斐もあって、世界中の国の協力のもと、驚異的なスピードで、復興が進んでいる。まだ、完全な復興には、時間が掛かるが。行政関連の施設や、空港に港。大型施設や、メインストリートなど。主だった部分は、修復が、ほぼ終わっている。

 町の復旧が、予想以上に早く進んでいるのもあり、先日、全シルフィード会社の、営業停止を解除。ようやく、通常営業が、再開されたばかりだ。

「それでは、本日の会議を始めたいと思います。各理事たちの、多大なご協力のお蔭で、順調に町の復旧が進み、ようやく、本業の再開にこぎつけました。皆様の献身的な活動に、心より感謝いたします」

「さて、本日は、長らく保留になっていた『グランド・エンプレス』の選出を、議題にしたいと思います。まだ、色々と大変ですが、このような状況だからこそ、明るい話題が必要だからです」

 議長が淡々と話を進めると、聴いていた理事たちが、静かに頷く。

「間が空いてしまったので、一応、おさらいしておきます。最終的に絞られたのは『銀色の妖精シルバーフェアリー『金剛の戦乙女』ダイヤモンドヴァルキュリア白銀の薔薇ミスリルローズ』『天使の翼エンジェルウイング』でした。ただ、これは、以前の話ですので、意見が変わられた方々も、いるかと思います」

「一応、四名を中心としつつ、別の候補をあげたい方は、意見を出してください。なお、今は〈グリュンノア〉も〈シルフィード協会〉も、非常に大変な時期です。明るい未来のために、是非、私心を捨て、公正な判断をお願いします」

 議長が語り終えると、しばし、沈黙に包まれた。以前のように、気楽に意見が出せるような、雰囲気ではないからだ。誰もが、今の厳しい現状を、よく知っている。

「この四名は、今の状況下において、誰がなっても、問題なさそうですね」
「確かに。能力的にも、人格的にも、申し分ないと思います」
「四人とも、優れた部分が違うので、甲乙つけがたいですな」

 それぞれに、違った長所と個性がある。能力的には、皆、高水準なので、もはや、優劣の問題ではなく、どの方向性を目指すかによるだろう。

「知名度で言えば『銀色の妖精』ですし、威厳や力強さなら『金剛の戦乙女』ですね。気品や完璧さでは『白銀の薔薇』が、抜きん出ていますし。話題性で言うなら、やはり『天使の翼』でしょう」

 ある理事が発言すると、部屋の中が、ザワザワし始めた。

「いやー『天使の翼』の話題性は、相変わらず、凄いですね」
「いやはや、まったく。常に、予想の斜め上を行きますからな」
「しかし、あの救出劇は、本当に見事としか、言いようがありません」
「今回のMVPは、間違いなく、彼女でしょうな」

 前回は、賛否両論だったが、明らかに、皆の『天使の翼』を見る目が、変わっていた。なぜなら、彼女の奇跡の救出劇は、世界中に報道され、大変な話題になっていたからだ。

「それにしても、なぜ、あのようなことが出来たんでしょうね?」
「本人は『声が聞こえた』とか『シルフィードの勘』と、言っているようですが」
「もし、本当だとしたら『奇跡の力を持っている』ということですよね?」
「彼女にも、魔女の資質が、あるのではないですか?」

「彼女を『英雄』や『聖女』という声も、非常に多いですね」
「やはり、こんな時だからこそ、英雄が必要なのでは?」
「避難所でも、彼女の的確な指揮と対応は、評判だったらしいじゃないですか」
「これだけの実績を出すと、もはや、その能力は疑いようがないでしょう」

 次々と『天使の翼』の、好意的な意見が出て来た。前回までの、難しい表情とは違い、皆、笑顔で誇らしげに語っている。

 私も、今回の彼女の働きは、本当に、素晴らしかったと思う。人の本当の能力は、有事の際にこそ、分かるものだからだ。彼女の行動は、まさに、本物のシルフィードだった。

 彼女は、異世界人でありながら、本来のシルフィードの姿を、身をもって実践して見せたのだ。

「確かに、彼女の行動は、見事でしたし、人気も評判も、申し分ありません。しかし、こんな時だからこそ、この町とシルフィード業界の今後を、真剣に考えるべきでは有りませんか?」

 発言したグレゴリー理事に、皆の視線が集中した。彼は、保守派のゴドウィン理事と親しく、常に足並みをそろえている。

「話題や人気などは、すぐに収束するものです。そう考えると、今後の復興と発展に、最も貢献するシルフィードでなければ、なりません。彼女は確かに、勇敢で優秀です。しかし、あまりにも、バックが弱すぎます」

「個人企業に所属しているので、仮に彼女がエンプレスになっても、経済効果は、たかが知れているでしょう。平時ならいざ知らず、今は、町の経済の活性化が、最も重要な時期なのです」

「むろん、ビジネスだけで考えるのは、よく有りませんが。それでも、大震災以降、観光客の数は、激減しています。実際、倒産した会社も、多数、出ていますし。今後、さらに、悪化する可能性もあるのです」

 彼は、身振りを加えながら、大げさに語る。普段は、軽い性格だが、彼は、演説が非常に上手い。

「なるほど、確かにその通りですな……」
「大企業は、まだしも。中小企業は、かなり苦しい状況ですからね――」
「昨年に比べ、観光客数が、30%以上、減っていますし……」
「そう考えると、やはり、大企業からの選出が、安全でしょうか――?」

 他の三人の所属は、いずれも大企業で、唯一、個人企業の所属なのは『天使の翼』だけだ。もちろん、所属の企業で、選ぶべきではない。ただ、今は、この町とシルフィード業界の、一大事であるのも確かだった。

 次々と意見が出され、話が膠着状態になる。だが、頃合いを見て、議長が口を開いた。

「えー、皆さん、少しよろしいでしょうか。実は『天使の翼』について、ある方たちから、後見人の話が来ています」

「今後、彼女の後見人となり、全面的に援助してもいいと、おっしゃられております。ですので、彼女が、エンプレスになった暁には、宣伝はもちろん。〈シルフィード協会〉にも、多大なご支援を、いただけるかと思います」
 
 部屋が静まり返り、議長に視線が集中した。

 後見人とは、スポンサーのことだ。通常は、シルフィード会社につくものだが、極まれに、シルフィード個人につく場合がある。 

「その、後見人を申し出ているのは、どなたですか……?」
「一人は、ジークハルト・アッシュフィールド氏。もう一人は、ジェームズ・リッチモンド氏です」

 その直後、室内に驚きの声があふれた。

「あの『アッシュフィールド財閥』と『リッチモンド財閥』の、現当主がですか?!」
「世界四大財閥の内、二つが、後見人になると?!」
「まさか、あの気難しくて有名な、ジェームズ氏が?!」
「いったい、どういう風の吹き回しですか?! まったく、信じられません」

 四大財閥は、世界経済を動かすほどの、資金力と権力を持っている。そこらの大手シルフィード会社などとは、比べ物にならないぐらい、非常に大きな力を持っているのだ。

 そういえば『天使の翼』の昇進パーティーに、ジークハルト氏が来ているのを、見掛けた記憶がある。しかも、世界最大財閥の、リッチモンド家とまで繋がりを持っているとは、驚きだ。

 ここにいる理事たちも、いずれも、名家の出で、大きな権力と財力を持っている。そんな彼らが、取り乱すほど、四大財閥は、強い影響力を持つ存在なのだ。

「しかし、それが本当なら、何も問題ありませんな」
「いや、むしろ、彼らがバックにいるなら、大歓迎ですよ」
「それにしても、とんでもない人脈ですな」
「人脈もまた、立派な才能です。素晴らしいではありませんか」

「両財閥は、今回、多額の復興資金を、援助してくださったそうですし」
「もしや『天使の翼』と繋がりがあるから、協力的だったのでは?」
「四大財閥とつながりを持つのは、今後のために、大きなチャンスですよ」

 彼女に、強力な後見人が付いたと知るや否や、各理事から、次々と好意的な意見が出て来る。

 だが、一人だけ、納得のいかない表情をしている者がいた。以前『天使の翼』の昇進の時も、最後まで、強く反対していた、ゴドウィン理事だ。何か言いたげな表情だったが、一言も発しなかった。

 彼が、妙に静かなのが、少し気になるが。町やシルフィード業界の現状を考えると、強い希望の光になる存在が必要だ。さらに、とても大きなバックが付いたことで、今のところ『天使の翼』が、一歩リードしている状態だった。

 私としても『天使の翼』で、問題ないと思う。やや、不安定さを感じていたが、今回の件で、彼女の真の力が見て取れた。

 また、彼女は、何かある度に、大きく成長している。成長スピードが、他者と比べて、異常に速いのだ。今後も、もっと立派なシルフィードに、成長していくのだろう。十分に、将来性が期待できる存在と言える。

 一通り意見が出たところで、議長の提案で、いったん休憩を挟むことになった。皆、ぞろぞろと退出し、私も、考えをまとめながら、部屋をあとにするのだった……。


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次回――
『明るい未来のための最善の選択とは?』

 私たちができる最善は、私たち自身を変えることです
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