私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第9部 夢の先にあるもの

5-2世界中の人々の希望を背負うのがエンプレスの仕事

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 仕事が終わったあとの夜。私は、自宅の物置部屋にこもり、ボーッと、空中モニターを眺めていた。会社を出て、家に帰ってくるまでの間のことを、よく覚えていない。頭の中がグルグルしていて、周りのことが、何も入って来なかったからだ。

 手紙の内容が、あまりにも衝撃的すぎて、まだ、現実が受け止められていない。まさか、私に『エンプレス』の指名が来るだなんて、一ミリも思っていなかったのだ。普通に考えれば、私が選ばれる可能性は、皆無に近い。

 だって、あんなに優秀なクイーンが、八人もいるのだから。その中から選ばれるのが、当然だ。その点、私はまだ、プリンセスだし。経験も浅く、特別、優秀でもない。

 例えば、ナギサちゃんが選ばれるなら、まだ分かる。彼女は、全てにおいて完璧で、能力も高く、品行方正だからだ。今までに、これといった、ミスも問題も起こしていない。

 対して、私は、過去に何度も、問題を起こしていた。査問会に呼ばれたり、墜落事故を起こしたり、何度も営業停止処分を受けている。それに、異世界人なので、私をよく思っていない理事たちも、いたはずだ。なのに、なぜ……?

 いくら考えても、よく分からない。延々と、思考が同じところを、グルグルするだけで、全く答が見えてこなかった。

 ただ、一つだけ、分かったことがある。以前、リリーシャさんに指名が来た時、何であんなに苦悩していたのか。あまりにも、責任が重すぎて、プレッシャーの大きさが、半端ないのだ。

 私が、上位階級になった時も、世界が一変したけど。たぶん、エンプレスになれば、また、百八十度、世界が変わってしまうのだと思う。皆の、私への見方が変われば、当然、私も変わらなければならない。

 プリンセスですら、こんなに大変なんだから。エンプレスの立場に見合った人間とは、どれほど、立派な存在なのだろうか――?

 歴代のエンプレスたちを調べてみたが、いずれも、物凄い人たちばかりだった。能力もさることながら、人間性も素晴らしい。まさに、頂点に相応しい人物で、なるべくしてなったのだと思う。

 しかし、今の私が、立派な人間かといえば、間違いなく『ノー』だ。プリンセスの立場ですら、背伸びして、何とか収まっている程度なのだから。エンプレスにふさわしい人間になれるとは、とうてい思えない。

 リリーシャさんは『自分の最も幸せな道を選ぶように』と、言っていた。もし、選択を誤れば、望まぬ道を進み、一生、苦悩しながら、生きることになるかもしれない。立場が立場なので、一度、踏み出したら、けっして後戻りできないのだ。

 私は、シルフィードが、心から大好きだった。天職だと思うし、一生やって行こうと思う。でも、それは、風が大好きで。色んな人と、仲良くなれるのが楽しくて。自由な環境で、伸び伸びやってこれたから、ではないだろうか……?

 当然、エンプレスになったら、伸び伸びなんて、絶対にできないだろうし。楽しくやっていけるかも、全く分からない。

 何より、日々とんでもないプレッシャーを感じながら、生きなければならないはずだ。エンプレスの指名が来ただけで、胃が重くて、吐きそうなぐらいの、大変な重圧なのだから――。

 私が、悶々と悩んでいると、メッセージの着信音が鳴った。いつも通り、この時間は、ユメちゃんからだ。いつもなら、とても嬉しいのに、今は、何だか凄く怖い。どう切り出していいのか、全く分からないからだ。

 話せば、間違いなく、祝福してくれるだろう。でも、こんな気持ちでは、全然、喜べないし。まだ、私自身の答えも出ていない。

 でも、隠していたって、どうせすぐにバレてしまう。私って、嘘をつくのが、超下手だから。それに、ユメちゃんには、隠し事をしたくない。今まで、何でも言い合ってきた、特別な仲なんだから。

 私は、大きく息を吐き出したあと、そっとメッセージを開く。

『風ちゃん、こんばんはー! 元気してるー?』
『ただいま、超死んでます……』
 もう、自分でも、訳が分からないので、思い切り、ぶっちゃけることにした。

『ええぇぇーー?! 風ちゃん、どうしたの?』
『何かもう、天と地が、ひっくり返りそうな気分――』

『ねぇ、何があったの? 何でも言ってよ。私、全力で相談に乗るから!』
『うん、ありがとう。でも、超ビックリすると思うよ……』

『全然、大丈夫! 私、普段から、たくさん小説とか読んで、ビックリ展開や、衝撃的な話には、慣れてるから。私自身も、割と重い人生、送って来たし』

 確かに、ユメちゃん自身、歳の割りには、重い人生を送ってきている。死の恐怖以上に、重いことってないもんね。
 
『実は、協会から、手紙が送られてきまして――』
『もしかして、お叱りの手紙?』

『いや、そういうんじゃ、ないんだけど。私に、指名が来たんだよね』
『何の?』

『エンプレスの』
『へぇー……って、ええぇぇぇぇーー?!』

 やっぱ、そういう反応になるよね。私も、手紙の中を見た直後、そんな感じだったし。驚く以外の感情が、湧いてこなかった。

『もうね、衝撃的すぎて、なんにも考えられないんだけど――』
『おめでとう!! 風ちゃん、ついにやったじゃん!! 超おめでたいじゃん!!』

『そうでも、ないんだよねぇ。頭クラクラするし、胃も痛くて吐きそうだし。本当に、死にそうな気分』
『えっ……どういうこと?』
 
『プレッシャーが、尋常じゃなくて。リリーシャさんに指名が来た時、何で苦悩していたのか、ようやく分かったよ』
『そんなに、プレッシャー凄いの?』

 この重圧は、本人にしか分からないと思う。最高の権威と共に、最高の責任も、セットでついて来るのだから。それに、この町だけではなく、世界中の人々の、希望や期待を背負うことになるのだ。

『うん、言葉にできないぐらいね。たぶん、エンプレスになったら、今までのような、自由な生き方は、できないと思う。上位階級になってからも、色々制限があったけど、その比じゃないから』

『確かに、エンプレスは、特別な立場だもんね。とても、神聖な存在だし。シルフィードのトップだけじゃなくて、あらゆる世界でのトップだから』

 そう、問題はそこだ。立場としては『国家元首よりも上』とまで言われている。立場が高いほど、求められる能力、人間性、責任などが、より大きくなるのだ。

『そうなんだよね。それだけ、責任も重大で、ミスも軽率な行動も、一切、許されないから。今の私のままじゃ、絶対に無理だと思う。ただでさえ、背伸びしてたのに。これ以上、できるかどうか……』

『なるほどねぇ。風ちゃんは、自信が持てないんだ?』
『今のところは、さっぱり。自分がエンプレスになった姿が、全く思い浮かべられないんだよね。これじゃ、自信を持つことなんて、できないよ』

 リリーシャさんの、エンプレスの姿なら、容易に想像できる。でも、自分の姿は、どうしても思い浮かばないのだ。
 
『でも、私には見えるよ。風ちゃんが、エンプレスになって、大活躍している姿が。それに、ずっと前から、いずれ来るだろうとは、想像してたし』
『えっ、そうなの――?』

『流石に、こんなに早くとは、思ってなかったから、ビックリしたけど。でも、それだけの実績があるもん』
『いや、他の上位階級の人に比べたら、大したことないと思うけど』

 今の上位階級の人たちは、世界レベルで有名な人が多い。それに、ぽっと出の私とは違い、その人気も実績も、ずっと前からだ。

『十分すぎるほど有るじゃん。「ノア・グランプリ」や「ノア・マラソン」の優勝もあるし。でも、一番は「グリュンノア名誉市民勲章」だと思うよ』
『これって、そんなに凄い物なの?』

『超凄いに、決まってるじゃん! 四魔女に匹敵する働きをした人に、与えられるんだから。「英雄の証」みたいなものだよ』
『えぇっ!? 私、そんな凄いことしてないけど……』

 異世界人初の受賞と、最年少受賞で、世間的に、大騒ぎにはなっていた。でも、そこまで凄いものだとは、全然、知らなかった。
 
『人の命を救う以上に、凄いことなんてないよ。「人一人の命は、国よりも重い」って、大地の魔女の言葉を知らない? 何かで有名になったり、人気になったりするよりも、はるかに凄い行為なんだよ』

『そもそも〈グリュンノア〉は、世界平和のため、人々の命を守るために、作られた町なんだから。この勲章は、その意思を継ぐ人が受け取るもので、物凄く、特別な意味のあるものなんだよ』

 そういえば、この世界の歴史の教科書には、必ず〈グリュンノア〉が出て来るらしい。今は、観光都市として有名だけど。歴史的には『世界平和の象徴』として、扱われているのだ。

『風ちゃんは、今回の震災のあと、みんなを助けるために、必死になって走り回ってたでしょ? しかも、命懸けで』 
『無我夢中だったから、命懸けだったかどうかまでは、よく覚えてないけど』

『普通は、崩れた建物の中なんかに、入って行かないよ。しかも、見ず知らずの人を助けるために』
『でも、目の前に、助けが必要な人がいたら、普通、助けるでしょ?』

『それは、自分の身が安全ならね。死と隣り合わせなら、怖くてできないよ。風ちゃんだって、一歩、間違えれば、命を落としてたんだよ。それ、分かってる?』
『うっ、それは、そうかも――』

 頭では、危ないと分かっていても、勝手に体が動いてしまうのは、昔からだ。でも、悪運だけは強いし、特に、怖いとも思わなかった。
 
『まぁ、後先を考えずに行動するのは、風ちゃんらしいけどね』
『あははっ……。見習い時代から、そういうところは、成長してないよね』

『でも、だからこそ、エンプレスの指名が来たんじゃない?』
『えっ――?』

『シルフィードは、平和と希望の象徴でしょ?』
『まぁ、そうだね』
 そもそも、平和の維持を目的として結成されたのが、シルフィードの始まりだ。

『風ちゃんは、これからも、困っている人がいたら、助けに行く?』
『もちろんだよ。だって、そのために、シルフィードをやってるんだもん』

『例え、どんなに危険で、命懸けでも?』
『うん。絶対に助けると思う』

 世界中の人たちを、幸せにしたい。それは、言い換えれば、世界中の人を助けることでもある。

『なら、やっぱり、風ちゃんにピッタリだよ。私は、ただ、人気があるだけの人よりも、体を張って、みんなを守ってくれる人に、上に立って欲しいな。私だけじゃなくて、世界中の人たちが、そう思ってるはずだよ』

『それが、物凄く大変なのは、分かってる。風ちゃんが、プレッシャーを感じてるのもね。世界中の人々の期待を背負うのは、とんでもなく重いと思う。それでも、私は、風ちゃんに、エンプレスになって欲しい』

 おそらく、このプレッシャーの大きさは、人々の期待の大きさなんだと思う。その期待に答えられるのか、自信が持てないのだ。

『それに、どうせ風ちゃんは、エンプレスにならなくたって、命懸けで人を助けるんでしょ?』
『うん。だって、立場と人助けは、関係ないから』

『なら、なおのこと、なったほうがいいよ。エンプレスになれば、絶大な権力や発言力が、手に入るから。今まで以上に、たくさんの人が救えるよ』
『なるほど。でも、そこまで変わるかな……?』

 エンプレスは、非常に大きな権力を持っていると、話では聴いたことがある。でも、どれぐらい凄いのか、今一つ、ピンと来ない。

『普通の上位階級とは、まるで別次元だよ。エンプレスは、文字通り「女帝」だから。言葉一つで、国を動かせるぐらいの、絶大な発言力を持ってるんだよ。つまり、エンプレスになるって、女王に即位するようなものだね』

『えぇっ⁈ そこまで凄いの――? なら、とんでもなく責任重大じゃん! 今の私じゃ、どう考えても役不足だよ。女王なんて、柄じゃないし……』

『風ちゃんは、今のままで大丈夫。誰よりも、シルフィードらしい生き方をしているもん。むしろ、変わらないほうが、上手く行くと思うよ』
『うーむ、シルフィードらしい生き方かぁ――』

 シルフィードは、平和と希望の象徴だ。そうありたいと、強く想いながら、日々頑張って来た。でも、本当に、今のままの私で、上手く行くんだろうか……?

 何となく、エンプレスのビジョンは見えて来た。それに、誰かの役に立てるなら、体を張ることだって、喜んでやるつもりだ。

 ただ、それでも、能力不足は否めない。おそらく、上位階級の中では、私が一番、能力が低いと思う。それに、この世界の経験だって、誰よりも少ない。

 自分が異世界人であることや、シルフィード学校に行っていないことも、少なからず、コンプレックスに思っている。

 何から何まで、力不足な私に、こんな大役が、無事に務まるのだろうか――? 果たして、世界中の人々の期待に、応えられるのだろうか……?
 
 昔から、自信だけは、無駄にあったけど。今回の件に関してだけは、どうしても、勇気を持って、一歩を踏み出せないのだった……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『想いの強さだけなら誰にも負けない自信がある』
 
 人生には、無知と自信さえあれば良い。そうすれば、成功は確実だ
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