私と7人の龍たち

桜井 ミケ

文字の大きさ
9 / 14

第8話 言い伝え

しおりを挟む
「そういえば、今って何時くらいなんでしょうか?」

口論をしているユリエルさんにそっと聞くと、

「日も高いですし、多分お昼頃かと」

と返してくれた。

「え…私、そんなに寝てました?」

「まぁ、そうですね…」

「……ごめんなさい」

「いいのですよ、気になさらないで。…それよりも、今日、出発しようと思うのですが、大丈夫ですか?」

「出発?…どこに?」

「あ!昨日話していませんでしたね。失礼しました。…私たちは旅をしているのです」

「旅?」


私が聞きかえすと、ユリエルさんはニッコリと笑って、「えぇ、旅です」と繰り返した


「でも、どうして旅なんて…」

「俺たちの国を取り戻すためだ」

クラウスさんが話しに加わってきた

「…昨日、滅びたって…」

「あぁ、滅びた。だが、国のあった場所を今は、レッドスネイク軍が占拠している。俺たちはそこを取り戻すために旅をしている」

「レッドスネイク軍って?」

「レッドスネイク軍とは、十年ほど前から姿を表し始めた、蛇神信仰の極悪非道な奴らのことです。…彼らは、これまでに三つの大国と十何もの小国を滅ぼしました」

「どうして、そんなこと…?」

「遥か昔、この国には一国を飲み込めるほどの大きな蛇がいたそうです」

「え…」

…わぉ、ファンタジー

「…蛇を恐れた人々は、世界中から七人の、その当時勇者とされていた者を呼び集めて、蛇と闘わせようとしたらしいです。…ですが、勇者といえども人間。彼らはどうしたものかと悩みました。その時、天空から七色の光が差し、それは七人の勇者一人一人にそれぞれ特別な力を与え、見事、彼らは大蛇を封じ込めるのに成功したのです」

「倒せなかったんですか?」

「そうらしいですね。いいところまではいったけど、限界が来て、それぞれが持っていた一番大切な物に、その蛇を封じ込めたそうです。」

「はぁ…」

「まぁ、これは言い伝えですが。しかし…蛇神信者たちはこの言い伝えを信じて、蛇を蘇らせようとしているようです。…そのために、何国も滅ぼし、蛇が封じ込められた宝を集めているのです」

「…そうなんですか。それで、今は、その、母国を目指して冒険しているんですか?」

すごいファンタジー設定だなと苦笑を浮かべながら、聞くと、クラウスさんが冷めた目で、私を見つめた。

「は?たった二人であんな大軍に勝てるわけないだろ。俺たちは仲間を求めて、冒険している」

「仲間?」

「えぇ。先ほどの言い伝えの話に七人の勇者が登場したでしょう。王子は、七人の末裔で、その力を受け継いだものたちを探しているのです」

「へぇ…。それで、見つかったんですか?」

「いいえ。それが…。まだ私たちも旅を始めたばかりでして。」

「…はぁ。…でも、何故、その言い伝えってのを信じる気になったんですか?」

「それは……」

ユリエルさんは、クラウスさんをチラリと見た

「…俺たちに、その力が覚醒したからだ」

「え?」

「だから、旅にでることを決意した。」

「王子は説明が足りませんよ!私たちが出発したのは一ヶ月ほど前なのですが、そのさらに一ヶ月前に覚醒したのです。…言い伝えでは、覚醒すると、身体のどこかに竜のようなアザが現れると言います。そして、アザが現れた通しが近くにいると、アザが疼きます」

「…中二病…ぽい」

「え…?」

「いえ、なんでもないです」

「それで、そのアザが私たちにも現れたわけです。…まぁ、嘘のような話かと思われると思いますが、この世界には魔法の国や、妖精のいる国や、動物と共存する国もあると言われているので、こんな言い伝えも信じられるわけです」

「そんな国がっ…!」

「私は行ったことありませんが、噂ではよく聞きます」

「そうなんですか……旅では、そういう国にも寄るんですか?」

私はワクワク興奮する気持ちをなんとか押さえて質問した


「はい。必要があれば…ですけどね」

「わぁ、楽しみです!!」

「おい、待て。誰がお前を連れていくと言った」


クラウスさんは私を睨み付けた


「え、ケチ…」

「はぁ?」

「そうですよ!王子のケチー!」

「お前ら、ケンカ売ってんのか?」

「はい」

「あ?」


また二人の言い争いが始まってしまった 

「あのっ!本当に私、何でもするし、役にたてるように頑張るので、一人にしないでください!養ってください!」


「はぁ?養えってなんだよ!」


「私、無一文なんです。…本当に何でもしますから…」


私が必死に訴えかけるとクラウスさんは「うっ」と言い、後ろに後ずさった


「…分かった。だから、そんな捨てられた子犬みたいな顔するな!」

「本当ですか!」

「あぁ。…俺たちのアザの話まで、このバカがしちまったしな」

「それまさか、私のことですか?」

「お前意外に誰がいんだよ」

「言っておきますけど、私、あなたより勉強できますよ!物覚えもいいし、それに……」

「あー、もう!……そういうことじゃねぇんだよ!」


とりあえず、私はこの二人に養ってもらえることになった。一先ず安心できる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...