『婚約破棄された令嬢ですが、隣国の冷徹王子に溺愛されて困ってます』

Rough ranch

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第一章

第3話 『令嬢の選択、王子の真意』

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 モンテ・ベル城の夜。厚い石扉が閉ざされる中、アリシア・グランフォードは豪奢な客間でひとり紅茶をすする。薄明かりのシャンデリアが揺れ、外の寒風とは別世界のように暖かだったが、心はまだ揺れ動いていた。

「あなたが私に与えようとしているのは――本当に自由な選択なのでしょうか」

 アリシアの声は、先ほどの決意を固めたものとはいえ、どこか震えている。王妃という称号と引き換えに、自らの意志を奪われはしないかと不安だった。

 応接間の対面、レオン・アルヴァロはゆっくりと紅茶を口に含み、香りを楽しむかのように目を閉じた。やがて静かに言葉を紡ぐ。

「私は君を閉じ込めるつもりはない。むしろ、君自身がこの立場を使って、自分の生き方を選んでほしいと思っている」

 その言葉には、一切の嘘がなかった。氷の王子と噂される彼の声には、どこか温もりすら感じられる。

「例えばだ。君が王妃として外交の最前線に立ちたければ、私が君を全面的に支援しよう。貴族の集会で演説をしたり、民衆の前で慈善事業を主導したり――君の望む役割を与えたい」

 アリシアは一瞬、目を見開いた。政略結婚としてだけではなく、“パートナー”としての未来を示された気がした。

「……他には?」

 問いに、レオンは小さく微笑んだ。

「もし君が静かな宮廷生活を望むなら、その場でも尊厳を守る。家族や友人を呼び寄せてもよいし、学問や趣味を深めてもいい。君の“幸福”が私の最優先だからだ」

 アリシアの胸に、じわりと安心が広がる。王子が望んでいるのは、ただの政治的駒ではなく、自分自身――アリシアとしての幸せなのだと理解した。

 しかし、次の言葉が彼女を再び身を引き締めさせた。

「ただし、ひとつ条件がある。君が王妃として公の場に立つときは、必ず私の“意志”と合致させてほしい。互いの信頼が揺らぐような行動は、王国の安定を損なうからだ」

 アリシアは唇を結び、しばし沈黙した。自由と引き換えに“共闘”が条件――それは覚悟を要する約束だった。

「分かりました。私も王妃としてふさわしい責任を果たします。その代わり、あなたにも私を裏切らないでほしい」

 アリシアの声には、誓いの強さが宿っていた。

 レオンは深く頷き、両手をテーブルに置いた。

「君を裏切るなど、ありえない。互いに信じ合える関係を築こう」

 その瞳は真剣で、アリシアをまっすぐに見つめていた。彼女の胸に、新たな希望と決意が灯る。

 重い契約書の代わりに、二人は見えない“誓い”を交わしたのだった。
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