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第一章
第7話 『密談の影と揺れる想い』
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夜明け前の城内書斎。唯一の明かりは、蝋燭の淡い炎だけだった。アリシアは、昨夜まとめた貴族会議の議題を最終チェックしながら、ふと背後に気配を感じた。
「殿下?」
振り返ると、レオンが静かに戸口に立っていた。厳しい表情の中にも、どこか憂いが漂う。
「夜分にすまない。だが、君に伝えておきたいことがある」
レオンは書斎の机を挟まず、歩み寄る。アリシアは椅子から立ち、緊張を押し殺して迎えた。
「ケルシュタイン伯爵の動きについて、追加の報告が来た。外交官フェリクス卿が密かに交渉を進めている最中、伯爵側の別働隊が我が国の裏通路を使って城へ接近しているらしい」
地図を指すレオンの声は低く、しかし確かな危機感を帯びていた。
「裏通路…? そんな――」
アリシアの心臓が一瞬止まる。先日の舞踏会で通った回廊や、夜の散策に使った回廊が思い浮かんだ。
「奴らは貴族の一部とも通じている可能性がある。貴族会議での連携は重要だが、君自身の安全も確保しなければならない」
レオンの瞳が真剣そのものだった。
「私…どうすれば?」
アリシアは問いかける。
「この後の貴族会議では、君はあえて後方に回ってくれ。貴族たちの不安を和らげる言葉は必要だが、狙われやすい中央発言は僕が担当する。君は我が国の“象徴”として全員の心をひとつにまとめてほしい」
レオンがそっと手を伸ばし、アリシアの手を包んだ。その手の温度が、暗闇の中で強い安心感を与える。
「わかりました。…殿下は、どうかご無理をなさらず」
アリシアは俯きつつも、毅然と答える。
「君がいるから、僕は前線で戦える。頼むよ、アリシア」
レオンの声に、アリシアは強く頷いた。
◆
朝の貴族会議。重厚な集会室には、有力貴族や侯爵たちが集う。だが、その表情には不穏な空気が漂っていた。
レオンが中央で演説を始める。彼の冷静な声が会場を引き締める中、アリシアは壇上の後ろに立ち、静かに貴族たちの視線を見渡した。
「皆さま、本日は緊急の御協力をいただき、深く感謝申し上げます」
アリシアはゆっくりと歩を進め、まるで舞踏会のような優雅さで登壇。威圧感を和らげる柔らかな笑みを浮かべた。
「我が国が直面する危機は、貴族の皆さま一人ひとりの協力なくしては乗り越えられません。どうか、王国の安泰と民の平穏のため、心を一つにしていただきたく存じます」
その声には、王妃としての品格と、令嬢時代から鍛えた誠実さが同居していた。
会場からはゆるやかな拍手が起こり、貴族たちの顔にも決意の色が浮かぶ。
——裏通路を使った襲撃計画は未然に露見。連携の約束も固まった。
貴族会議の成功により、潜む陰謀はひとまず食い止められた。だが、その裏で二人の想いはさらに深まりつつあった。
◆
会議後、レオンが再び書斎へアリシアを呼び寄せる。
「君の言葉が、貴族たちの心を動かした。感謝している」
彼は穏やかな表情で言い、肩に軽く手を置いた。
「王妃として、私にできることをしただけです」
アリシアは微笑んだが、その頬にほんのりと赤みが差していた。
「君は僕の誇りだ。…ただ、一つだけ心配がある」
レオンの声が少し揺れる。
「何でしょう?」
アリシアは眉を寄せた。
「…君がこの国で、孤独を感じないかどうか。僕がそばにいない時、心細くはないか」
王子の素顔が、初めてほんの一瞬だけ垣間見えた。
アリシアはそっと手を取り、真剣な眼差しを向ける。
「私は…もう、孤独ではありません。あなたがいるから」
その言葉に、レオンは深く息を吐き、小さく笑った。
夜明け前の書斎に、二人だけの静かな絆が確かに結ばれた瞬間だった。
「殿下?」
振り返ると、レオンが静かに戸口に立っていた。厳しい表情の中にも、どこか憂いが漂う。
「夜分にすまない。だが、君に伝えておきたいことがある」
レオンは書斎の机を挟まず、歩み寄る。アリシアは椅子から立ち、緊張を押し殺して迎えた。
「ケルシュタイン伯爵の動きについて、追加の報告が来た。外交官フェリクス卿が密かに交渉を進めている最中、伯爵側の別働隊が我が国の裏通路を使って城へ接近しているらしい」
地図を指すレオンの声は低く、しかし確かな危機感を帯びていた。
「裏通路…? そんな――」
アリシアの心臓が一瞬止まる。先日の舞踏会で通った回廊や、夜の散策に使った回廊が思い浮かんだ。
「奴らは貴族の一部とも通じている可能性がある。貴族会議での連携は重要だが、君自身の安全も確保しなければならない」
レオンの瞳が真剣そのものだった。
「私…どうすれば?」
アリシアは問いかける。
「この後の貴族会議では、君はあえて後方に回ってくれ。貴族たちの不安を和らげる言葉は必要だが、狙われやすい中央発言は僕が担当する。君は我が国の“象徴”として全員の心をひとつにまとめてほしい」
レオンがそっと手を伸ばし、アリシアの手を包んだ。その手の温度が、暗闇の中で強い安心感を与える。
「わかりました。…殿下は、どうかご無理をなさらず」
アリシアは俯きつつも、毅然と答える。
「君がいるから、僕は前線で戦える。頼むよ、アリシア」
レオンの声に、アリシアは強く頷いた。
◆
朝の貴族会議。重厚な集会室には、有力貴族や侯爵たちが集う。だが、その表情には不穏な空気が漂っていた。
レオンが中央で演説を始める。彼の冷静な声が会場を引き締める中、アリシアは壇上の後ろに立ち、静かに貴族たちの視線を見渡した。
「皆さま、本日は緊急の御協力をいただき、深く感謝申し上げます」
アリシアはゆっくりと歩を進め、まるで舞踏会のような優雅さで登壇。威圧感を和らげる柔らかな笑みを浮かべた。
「我が国が直面する危機は、貴族の皆さま一人ひとりの協力なくしては乗り越えられません。どうか、王国の安泰と民の平穏のため、心を一つにしていただきたく存じます」
その声には、王妃としての品格と、令嬢時代から鍛えた誠実さが同居していた。
会場からはゆるやかな拍手が起こり、貴族たちの顔にも決意の色が浮かぶ。
——裏通路を使った襲撃計画は未然に露見。連携の約束も固まった。
貴族会議の成功により、潜む陰謀はひとまず食い止められた。だが、その裏で二人の想いはさらに深まりつつあった。
◆
会議後、レオンが再び書斎へアリシアを呼び寄せる。
「君の言葉が、貴族たちの心を動かした。感謝している」
彼は穏やかな表情で言い、肩に軽く手を置いた。
「王妃として、私にできることをしただけです」
アリシアは微笑んだが、その頬にほんのりと赤みが差していた。
「君は僕の誇りだ。…ただ、一つだけ心配がある」
レオンの声が少し揺れる。
「何でしょう?」
アリシアは眉を寄せた。
「…君がこの国で、孤独を感じないかどうか。僕がそばにいない時、心細くはないか」
王子の素顔が、初めてほんの一瞬だけ垣間見えた。
アリシアはそっと手を取り、真剣な眼差しを向ける。
「私は…もう、孤独ではありません。あなたがいるから」
その言葉に、レオンは深く息を吐き、小さく笑った。
夜明け前の書斎に、二人だけの静かな絆が確かに結ばれた瞬間だった。
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