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第一章
第10話 『裏切りの刃と揺れる忠誠』
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深夜の地下通路を抜け、書斎へ戻ろうとしたアリシアとフェリクス卿の前に、暗がりから鋭い刃が伸びた。月明かりがわずかに反射し、まばゆい閃光を放ったその短剣は、彼らの逃走路を封じるように立ちはだかる。
「止まりなさい、王妃殿下!」
冷たい声で命じたのは、貴族会議で信頼を得たはずのアモン侯爵。仮面舞踏会での密約に続き、伯爵側の共謀者として暗躍していた人物だ。侯爵の瞳には、かつての友誼の影は消え、強欲と恐怖だけが宿っていた。
「アリシア王妃を人質に取れば、王子殿下も動かざるを得ないでしょう?」
侯爵は短剣の先をアリシアに向けながら、不気味に笑った。背後には複数の甲冑兵が控え、周囲は完全に包囲されている。
だがその瞬間――壁の向こうから轟く馬蹄と奏でられる号令。甲高い笛の音が地下通路に反響し、数十の鎧武者が扉を打ち破って飛び込んできた。
「退け! それ以上動くな!」
扉を突き破ったのは、レオン・アルヴァロ率いる王国親衛隊だった。先手を取って状況を察知し、アリシアを救出するために極秘展開された増援部隊だ。
アモン侯爵は驚愕の表情を浮かべ、盾をかざして迎え撃った。だが、親衛隊の剛将たちは侯爵ごとその手から短剣を弾き飛ばし、忠誠心を試すべく駆け寄る。
「王妃殿下、ご無事で何よりです」
レオンは駆け寄ると、アリシアの手をそっと取った。月明かりを受けてきらめくその手に、深い安堵と激しい怒りが入り混じった視線を向ける。
侯爵はすぐに捕縛され、短剣は没収された。だが彼の口から飛び出した言葉は、さらなる衝撃を呼んだ。
「陛下を…貴族連合を動かしているのは、伯爵だけではない! もっと上の“黒幕”がいる――!」
その告白は、アリシアとレオン、親衛隊の誰もが想像しなかった恐るべき事実を示唆していた。王国の中枢にまで浸透する陰謀が、二人の絆をいっそう試すことになる。
アリシアは侯爵の言葉を胸に刻みながら、レオンに寄り添った。
「まだ戦いは終わっていないのですね」
震える声を必死に抑えて言う。
「君を守るために、すべてを賭ける」
レオンは堅く応えた。その瞳には、嫉妬や独占欲ではなく、揺るぎない信頼と決意が映っていた。
こうして、第1章の山場はひとまず幕を閉じたものの、裏切りの刃はまだ王妃と王子の間に影を落とし続ける。これから訪れる真の敵は、“覇権”と“恐怖”を巧妙に操る黒幕――その正体を暴く旅路が、いよいよ本格化しようとしていた。
「止まりなさい、王妃殿下!」
冷たい声で命じたのは、貴族会議で信頼を得たはずのアモン侯爵。仮面舞踏会での密約に続き、伯爵側の共謀者として暗躍していた人物だ。侯爵の瞳には、かつての友誼の影は消え、強欲と恐怖だけが宿っていた。
「アリシア王妃を人質に取れば、王子殿下も動かざるを得ないでしょう?」
侯爵は短剣の先をアリシアに向けながら、不気味に笑った。背後には複数の甲冑兵が控え、周囲は完全に包囲されている。
だがその瞬間――壁の向こうから轟く馬蹄と奏でられる号令。甲高い笛の音が地下通路に反響し、数十の鎧武者が扉を打ち破って飛び込んできた。
「退け! それ以上動くな!」
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アモン侯爵は驚愕の表情を浮かべ、盾をかざして迎え撃った。だが、親衛隊の剛将たちは侯爵ごとその手から短剣を弾き飛ばし、忠誠心を試すべく駆け寄る。
「王妃殿下、ご無事で何よりです」
レオンは駆け寄ると、アリシアの手をそっと取った。月明かりを受けてきらめくその手に、深い安堵と激しい怒りが入り混じった視線を向ける。
侯爵はすぐに捕縛され、短剣は没収された。だが彼の口から飛び出した言葉は、さらなる衝撃を呼んだ。
「陛下を…貴族連合を動かしているのは、伯爵だけではない! もっと上の“黒幕”がいる――!」
その告白は、アリシアとレオン、親衛隊の誰もが想像しなかった恐るべき事実を示唆していた。王国の中枢にまで浸透する陰謀が、二人の絆をいっそう試すことになる。
アリシアは侯爵の言葉を胸に刻みながら、レオンに寄り添った。
「まだ戦いは終わっていないのですね」
震える声を必死に抑えて言う。
「君を守るために、すべてを賭ける」
レオンは堅く応えた。その瞳には、嫉妬や独占欲ではなく、揺るぎない信頼と決意が映っていた。
こうして、第1章の山場はひとまず幕を閉じたものの、裏切りの刃はまだ王妃と王子の間に影を落とし続ける。これから訪れる真の敵は、“覇権”と“恐怖”を巧妙に操る黒幕――その正体を暴く旅路が、いよいよ本格化しようとしていた。
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