異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸

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第一章

十三話 婿養子、煉瓦を作る

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 朝早くから僕は、川の近くに来ていた。

 本当なら確保した木材の加工をする予定だったが、皐月から待ったが掛かった。

「木だけより煉瓦の壁もあった方が可愛いから、修ちゃん煉瓦お願いね」

 と、朝ごはんを食べている途中に言われたんだ。

 僕的にも煉瓦は色々使い道があるので、構わないんだけど、この世界に飛ばされてから皐月が強くなっている気がする。

 それは兎も角、煉瓦は色々使い道あるのは事実だし、お義父さんからそのうち鍛治も頼まれるだろう。その時に炉を造るのにも必要だし、パンやピザを焼く窯も造りたい。

 炉の材料となる耐熱煉瓦は、ただの粘土ではダメなので、それは追い追い皐月に錬金術で何とかしてもらうとして、今は普通の粘土を探そう。

 今僕が来ているのは、湖から流れ出る川の方だ。

 湖に流れ込む川も何本かあるが、この流れ出る川の方が大きく水量も多い。

 川の流域には湿地もあり、この丘周辺の自然環境は恵まれているのだと分かる。

「おっ、この辺を掘ってみるか」

 土が露出している場所を何ヶ所か試しに掘ってみて、使えそうな粘土質の土を確保していく。

「確か、耐火煉瓦に使う粘土は、灰色のを探せばいいって聞いた事があるな。本当かどうか分からないけど、トライしてみる価値はあるな」

 煉瓦を焼くのも魔法で焼ければいいんだが、自分が出来ない事を皐月に頼むのも気がひける。

「僕が火魔法を練習するか」

 少し練習して使える様になったとしても、初心者の火魔法が役立つとは思えないが、今後の事も考えれば、魔法の練習はしておいた方がいいだろう。

 時々独り言を呟きながら粘土を探していると、上手い具合に灰色っぽい粘土を見つけた。

 取り敢えずコレで試してみて、ダメならその時考えよう。


 せっせと粘土を掘りだし無限収納に放り込んでいく。

「よし! このくらい有ればいいか」

 余裕を持って粘土を確保し、丘の上に戻る。



「修ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま。木材の乾燥は終わったみたいだね」
「うん。でも疲れちゃたから、お昼ご飯はお母さんに頼んじゃた」
「佐那は?」
「今、お昼寝よ。もう少ししたら起きると思うわ」
「じゃあ、お昼ご飯まで、煉瓦造りの準備でもしてるよ」
「分かった。頑張ってね」

 ヒラヒラと手を振る皐月に手を振り返して、予め作ってあった木枠を持って拓けたスペースに移動する。

 この煉瓦を造る為の木枠は、枝打ちした太めの枝から即興で作った物だ。

 無限収納から粘土を取り出し、小石などが混ざらないよう取り除きながら練る。

 あとは粘土を型取りするのだが……

「乾燥用の板が要るな。今から丸太から板を作るのも面倒だしなぁ。無限収納に入ってないかな……って、有るのかよ」

 無限収納の中にある物のリストから探すと、何故か3×6のコンパネが何枚も入っていた。

 ご都合主義と思わないでもないが、三柱の神様のお陰だと感謝して、有り難く使わせて貰おう。


 コンパネの上に、粘土を型取りした物を並べていく。

 数だけは大量に必要だから、掘ってきた粘土を全部使い切る積もりで黙々と作業を続ける。


 並べる場所がなくなったので、乾燥を待つ間に火魔法の練習をしようと地面に胡座をかく。

 土魔法は、ハッキリと言うと微妙な結果だったが、それでも少しずつ出来る事は増えている。なら火魔法も簡単なものは出来るんじゃないかと、淡い期待を持っていた。

 最初は簡単な基礎魔法にあるトーチを火魔法で再現してみる。

 これが意外や簡単に再現できた。

 元々基礎魔法っていうのが、過酷な環境に生きる子供達へのキシャール様からのプレゼント的な意味合いがあるそうで、魔法が不得意な者でも使えなくはない難易度らしい。

 逆に同じ事をそれぞれの属性魔法で再現しようすると、そこからは才能や適性が関わってくる。

 僕が火魔法を簡単に使えたのは、暇があれば土魔法を練習していたのが原因だと思う。

 重要なのは魔力を制御する事と、明確なイメージを持つ事なんだろう。

「うん、何とかなりそうだな。まぁ、火魔法で煉瓦を焼成出来るくらい、僕の魔力があるかは別問題だけど」

 煉瓦は暫く放置になったので、家の図面から必要な柱や板を製材する作業に移る。

 昔の大工は凄かったんだとつくづく思う。

 板を製材する作業を工作機械を使わないで加工するという事は、もの凄く大変な作業だった。

 途中から壁に関しては、ログハウス方式に切り替えた。

 ほどほどの太さの木材を追加で調達に行く羽目になったが、大量の板を製材する事に比べれば、まだマシだろう。

 そしてこの製材作業が進まない。

 進まない製材とは別に、煉瓦は順調だった。煉瓦が乾いて、日干し煉瓦となった物を使って煉瓦を焼成する窯を造る。

 そこからは、薪による火力と火魔法の合わせ技で、煉瓦を焼いていく。

 無駄に揃った大工道具を駆使した製材作業と煉瓦の焼成を交互に行いながら、数日を過ごす羽目になる。

 同時にお義父さんが炭焼き釜を造っている。僕が作った煉瓦を使って……

 終わらない。煉瓦作りが終わらない。

 何度か粘土を採りに行き、完成した煉瓦を無限収納へと入れていく。

 結局、耐火煉瓦もどきとは別に、普通の煉瓦も大量に作った。

 家に使う煉瓦を耐火煉瓦にする必要はないからな。

 そのうち漆喰用に、珪藻土や石灰岩を探しに行きたい。

 僕達には鑑定スキルがあるから大丈夫だろう。

 僕が製材に、煉瓦作りにと忙しい中、皐月はどうしているのかと言えば、光魔法と錬金の練習に取り組んでいる。

 光魔法は、佐那が図らずも協力してくれているみたい。

 だいたいは、お義母さんが見ていてくれるのだけど、そこは二歳児だからじっとはしていない。走りまわっては転けて擦り傷を作っている。

 その度に皐月が回復魔法を使って治しているので、結果的に魔法の訓練になっているようだ。


 ただ、時々僕の手も止まる。

「パパとあそぶの!」
「佐那、パパは忙しいから今度ね」
「や! サナ、パパとあそぶの!」
「そっか、パパと遊ぼうなぁ」

 もともとパパっ子の佐那は、仕事と道場で時間をとられていた日本に居た頃より、僕と頻繁に顔を合わせているのに、遊んで貰えないストレスが爆発したみたいだ。

「もう、修ちゃんは佐那に甘いんだから」
「勘弁してよ。佐那がパパ、パパって言ってくれるのなんて、ちょっとの期間なんだから」

 世のお父さん達の話では、どんなにお父さんっ子だった娘でも、避けられる日が来るって言ってたけど、僕の佐那は大丈夫だと思うけど、ベタベタ遊べるうちに遊んでおかないとね。

「よし! おいで佐那!」
「えい!」
「うおっと!」

 僕が手を広げておいでとすると、佐那が勢いよく飛びついて来た。ただ、その勢いが二歳児の能力を超えているので、抱きとめる僕が少し焦ってしまった。

 幼い子供だけに、レベルアップによる能力の上昇にリミッターがかかっている感じもする。そうじゃないと危なくて仕方がない。



 仕事の合間に佐那と一杯遊びながらも、製材と煉瓦作りに精を出す事数日、お義父さんの焼いた炭を使える様になってから、煉瓦作りが楽になった。

 相変わらず製材には四苦八苦しているけど、佐那と遊ぶ事でストレス解消し、必要な木材を加工していく。

 それと僕の魔法の練習は、火魔法と土魔法の両方を頑張っているのだが、ここ最近は土魔法を重点的に行っている。

 それは、家を建てる時の基礎工事を、土魔法を使う予定だからだ。

 ボソッとお義父さんが地下室も欲しいと呟いていたのは、そういう事なんだと思う。だって、わざわざ僕に聞こえる距離で呟いていたもの。


 そうして十分な量の煉瓦が完成し、木材の製材が終わるのには、一ヶ月近く掛かってしまった。

 魔法とレベルアップがなければ、何倍も掛かっていたと思う。



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