異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸

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第一章

十二話 婿養子、木樵のち大工

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 丘を下り暫く湖の方へと歩くと、立派な樹々の生い茂る大きな森に着く。

 その大樹の太い幹へと一心不乱に斧を振り下ろす。

 コーンッ!

 ただ単に斧を打ち付けるだけでは、このクラスの大木を斧では切れないとお義父さんから教えて貰っている。

 どういう様に刃を入れるのか、実際に一本伐採する所を見学させて貰った。

「お義父さん、斧も使えたんですね」
「千葉流は、刀や槍、小太刀は勿論、薙刀や杖、鎌、手裏剣から身の回りの物を武器とする技も伝えている。斧を使えるのは当然だよ修二君」

 あっさりと大木を伐採したお義父さんにそう聞くと、武人なら当然だと言われた僕は、乾いた笑い声も出ない。

 ほれ、やってみろと斧を渡され、お義父さんは例の如く周辺の探索に出かけた。

 一応、皐月や佐那の居る車の周囲に、結界を張る道具は設置したままだ。

 これのお陰か、それともこの周辺には魔物が少ないのか、ここに来てから丘の上に魔物が近付く気配はない。

「此処がどこの国の土地でもなくて、尚且つ自然豊かで安定した土地ならいいんだけどな」

 この世界で、僕たち家族だけで引き篭もるのもどうかと思うが、僕とお義父さんの共通認識では、魔物よりも人間の方が厄介だという事。

 此処が、ただ単に辺境でどこの国にも属さない様願っている。



 何本か伐り倒しては、無限収納に入れて丘の上に運ぶ。

 そこで皐月が待ち受けていて、切り出した木材の水分抽出にチャレンジする。

「どう? 上手くいきそう?」
「うーん、多分大丈夫だと思うけど、失敗して多少破れても何かに使えるわよね」
「ま、まあ、色々と造る物は多いから、何かに使えるだろうけど、出来れば成功させて欲しいな」
「うん、任せておいて修ちゃん!」

 皐月が自信満々に胸を叩く。

 いつも通りの皐月に苦笑いしながら、佐那はどうしてるのかと視線を彷徨わせると、裁縫するお義母さんの横で、お絵かきしているようだ。

 取り敢えず安心して、収納していた木材を全部取り出すと、再び木の伐採へと向かう。

 ただ、やる気はあるのだが、その先の作業を考えると、気が滅入るのは仕方ないと思う。

 家を建てるのに必要な事だとはいえ、木樵の次は、大工仕事が待っているのだから。

 あの木材を加工して、柱や板にしないといけない。

「お義父さん、手伝ってくれないだろうなぁ」

 千葉家の道場や主屋は、少なく見積もっても築百年以上の建物だった。いや、もっとか。兎に角、古くて立派な建物だけど、日々のメンテナンスも必要となってくるんだ。

 特に道場の方は、激しい稽古で板壁などが壊れるなんて日常茶飯事だった。

 それの修復を一手に任されていたのが僕で、時々は他のお弟子さんが手伝ってくれた事もあったけど、お義父さんがカナヅチやノコギリを持っているのを見た事がない。

「あっ、釘って有るのかな?」

 ふと思い付いたので無限収納の中を探ってみると、大工道具と共に釘や木ネジもしっかりと収納されていた。

「はぁ、有り難いんだけど、出来たら家のキットなんかが欲しかったよ」

 そう零してしまう僕は悪くないと思う。

 しかし、釘や木ネジを確認して、家を建てた後、鍛治小屋も建てないとダメだな。

 木ネジは無理だが、釘は作れると思う。あれ? その前に鉄を手に入れる事が出来るのか?

「ああ、皐月の錬金術で何とかなるか」

 そこまで考えて頭を振る。先の鍛治より目先の伐採だ。

 森へと戻り、伐採の続きをする。

 何せ、家の材料となる木材確保以外にもやる事は一杯ある。

 丘の上の邪魔になる木の伐採も必要だし、野生動物や魔物に対する備えも必要だ。

 カンッ! カンッ! カンッ!

 斧も振るっているうちに、段々と慣れて来たのか、スムーズに刃が深く入るようになってきた。

 この辺りは、日頃の道場での猛稽古のお陰だろうな。

 給料は程々だったけど、朝8時~夕方5時までの比較的ホワイトな職場から家に帰ると、6時から2時間みっちりと稽古。夕食の後は9時から1時間から2時間の自主練をする。
 ヘトヘトに疲れた身体でお風呂に入り、日が変わる頃に布団に潜ると泥のように眠るという毎日だった。

 三十路を迎えた身体の体力維持の為、筋トレもしていたので体幹は強いのだろう、重い斧を振るってもブレる事もない。

 まぁ、レベルアップの恩恵の方が大きいのだろうが。

 そろそろ日が傾いてきた頃、お義父さんから今日の仕事の終了を伝えられる。

「修二君、今日の伐採はその辺にして、そろそろ夕食の時間だ」
「は、はい、お義父さん」

 切り倒した木材と斧を収納すると、お義父さんのあとに続く。

「それで周辺の様子はどうでした?」
「少なくともこの周辺に、人の手の入った痕跡はなかったな。周辺に危険な魔物も居ないようだから、明日はもう少し足を伸ばして探索するつもりだ」
「それは少し安心ですね。結界石があるとはいっても、危険な魔物や人の痕跡がないと聞いてホッとします」

 皐月と佐那、お義母さんの三人と離れて木を切っていると、どうしても安心できないから、皐月たちの様子を確認する為に、こまめに伐採した木材を運んでいたからな。

「修二君は、木材の伐採が終わったら、家の設計を頼むよ。出来るだろう?」
「は、はい。頑張ります」

 お義父さんに「出来るだろう?」と言われれば、NOと言えないのは仕方ない。弟子で婿養子なんだから。




 丘の上に戻ると、木材の側で皐月が座り込んでいた。

「どうした皐月!」
「あ、修ちゃん、お帰り。大丈夫よ、魔力を使い過ぎて疲れただけだから」
「よ、良かったぁ。驚くじゃないか」
「それで、本当に大丈夫なのか皐月」
「大丈夫よお父さん。ちょっと頑張り過ぎただけだから」

 皐月が頑張ったと言うように、積み上げられた木材は、全て上手く乾燥出来たようだ。

「明日の分も出しておくね」
「うん、明日も木を切るの?」
「いや、木材は多分十分だと思うから、明日は家の設計に入るんだよ」
「やった! お母さんと相談しなきゃ!」
「へっ!?」

 グッタリと座り込んでた筈の皐月が、元気よく立ち上がると、お義母さんの居るテントへと走って行った。

「なっ、あんなもんだ皐月は」
「…………」

 お義父さんは、そう言ってパンパンと僕の肩を叩いてテントに入って行った。


 何故かドッと疲れが出た気がするが、僕もテントへと向かう。

 お風呂に入り夕食を済ませ、佐那とひとしきり遊んだ僕は、テーブルに紙を拡げて家の図面を描いていた。

「修ちゃん、リビングはもう少し広くお願い」
「うん、このくらいかな?」
「そのくらいで良いんじゃない。修二君、私とお父さんの部屋は、あまり大きくなくて大丈夫よ。ベッドが二つ置けて、チェストと小さなテーブルと椅子があればいいわ」
「はい。分かりました」
「修ちゃん、お風呂はこのテントにあるバスルームより狭くなっちゃ嫌よ」
「なあ皐月、お風呂はこのテントのを使うのはダメかな?」
「ダメよ。わざわざお風呂に入る為に、表にテントを設営するなんて面倒じゃない」

 お風呂は僕が造るには、少しハードルが高い。

 既にこのテントなら、高級なホテル並みのバスルームを経験しているので、家のバスルームがあまりにショボイと満足して貰えないだろう。

 そう思って皐月に言ってみたんだけど、当然のように答えはNOだった。

「あ、あと錬金術や調薬する部屋も欲しいわ」
「あら、なら私はお裁縫の部屋が欲しいわね。機織り機や糸紡ぎ機を置けるスペースは必要ね」
「もの凄く大きな家になりそうなんだけど…………」

 夫婦の寝室が二つに、将来的に佐那が使う子供部屋、錬金術や調薬をする部屋に、お義母さんの裁縫用の部屋、広めのリビングにダイニングとキッチン、それとバスルームにトイレ。

「ああ、修二君、私の書斎と修二君用の部屋も要るな」
「お義父さんの書斎はまだしも、僕用の部屋は必要ないと思いますよ」
「修二君は、色々と作業も必要だろう? 流石に鍛治小屋は家から離して建てて貰うが」
「そうでしたね……は、ハハッ」

 7LDKの家を建てるのか……建てれるのか?

 皐月やお義母さんの意見を聞き、何度も図面を描き直し、完成したのは深夜だった。

 先に寝ていた皐月と佐那を起こさないよう、そっとベッドに潜り込むと、僕は五分もかからず眠りに就いた。


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