異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸

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第一章

十一話 婿養子、魔法使いになる

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 お風呂に入り、夜は見張りがあったものの、質の良いベッドで眠る事が出来た僕は、朝食を食べた後、皐月達から少し離れた場所で、魔法の訓練をしていた。

 僕のジョブである婿養子ジョブは、成長速度は遅いが、その短所が気にならないくらいの長所がある。普通、剣士の様に剣術に関するスキルしか習得出来ないものが、婿養子ジョブは戦闘職、非戦闘職に拘らず、様々なスキルが習得可能だ。

 ただ、成長速度に難のある婿養子ジョブの能力じゃなく、セカンドジョブを魔法使いにすれば問題解決だと思った時期が僕にもあった。

 勿論、折角剣と魔法の世界に来たのだから、魔法が使いたいと思った僕が、それを試さない訳がなかった。

 結果から言うと、それは無理だった。

 どうやら剣士ジョブをある程度のレベルまで上げる必要があるみたいだ。

 それを最初から知っていれば……

 適当にセカンドジョブを決めた、あの時の僕を殴ってやりたい。

 まあ、成長速度の問題はあるが、習得可能なのは分かっている。

 なら、あとは鍛錬のみだ。



 目を閉じ精神を研ぎ澄ませ、自分の中の魔力を探す。

 自分の中の魔力は直ぐに掴むことが出来た。これは魔力感知のスキルのお陰だと思う。

 千葉流で言う「気」とも違う何か。

 それが胸の奥にあるのが分かった。

 お腹(丹田)じゃないんだな。

 ジョブで回復魔法や錬金を持ち、スキルスクロールで土魔法を習得した皐月は、キーワードを口にするだけで魔法が発動する。

 当然、魔法スキルを持たない僕が「ファイヤーボール!」などと叫んでみたところで、何も起こる筈がない。


 この世界に来た時に、車ごとキシャール様に保護され、この世界のシステムに沿うように身体が創り変えられたのだが、その時に魔法やスキルというこの世界特有のものについて、大まかに知識は与えられていた。

 それによると、魔法とはその身を通して魔力を変換し、事象を改変する力だという。
 魔力を使い周辺の水を使ったり、その場にある土や石を利用する訳ではない。
 魔力という不思議な存在自体が、火に水に土や石に変換される。
 ただ、勿論その場に存在する水や土を利用した方が魔力の消費は少ない。

 重要なのは、魔力を操作、制御する技術らしい。

 自分の中にある魔力が動く感覚は、魔力感知スキルのお陰で、トーチやクリーンを使えば何となく理解できた。

 あとは僕に土魔法の適性があれば、訓練次第で習得できる筈だ。

 人差し指へと自分の中の魔力を動かす事を意識する。

〔魔力操作スキルを習得しました〕

 魔力感知スキルのお陰で、基礎魔法を使った時の魔力の流れが感じれてた所為なのか、魔力操作スキルは簡単に習得できた。

 スキルを習得すると、ゆっくりとしか動かす事が出来なかった魔力が、先程と比べスムーズに動かせるようになった。

 問題はここからだ。

 意識を集中して集めた魔力を使い、地面が平らになるよう魔法を発動してみる。

「…………しまった。見た目が分かりづらい」

 何となく地面が平らになった様な気がするが、劇的な変化でもないので、もの凄く微妙な気持ちになる。

「いや、最低でも土魔法の適性があるって事が分かっただけでも良しとしよう」

 次はもっと分かりやすい形で使ってみよう。

 ロックパイルやストーンランスなんて危なくない魔法を、と考えて次に試したのが、アースウォール土の壁だ。

「アースウォール!」

 ズズズズッと地面が四角く盛り上がる。

「…………煉瓦は壁じゃないと思う」

〔土魔法スキルを習得しました〕

 土の壁を作る積もりが、少し大きめの煉瓦になった。
 思っていたのとは違うが、それでも土魔法のスキルは習得出来たので、あとは練習あるのみだと思う。

 さて、もう少し練習しようと思っていたところで、お義父さんから声が掛かる。

「修二君、整地の続きをお願い出来るかね」
「はい。分かりましたお義父さん」

 うん、僕の魔法の練習より優先順位が高いよな。

 僕は再び人力での地ならしに汗をかく。

「修ちゃん、私も土魔法の練習がてらお手伝いするね」
「ありがとう、助かるよ」

 皐月が魔法で手伝ってくれると言うのでお願いする。

 皐月の土魔法も少しずつ上達しているのか、何となく整地出来ている気がする。

 そんな皐月の後をチョコチョコと追いかけて、佐那が皐月の真似をして地面に手をかざして唸っているのが、可愛くてずっと見てたくなるが、頭を振って作業の続きをする。



 そして、その日の夕方近く、人力と時々練習がてらの土魔法、それに皐月の土魔法での手伝いもあり、何とか100坪程の土地を整地できた。

 テントの中のお風呂で一日の汗を流し、皆んなと夕食を食べ終え、大人四人でお茶を飲んでいた時、お義父さんから明日の予定を聞かされた。

 佐那は日中元気に遊んでいた反動で、夕食を食べてお腹いっぱいになると、直ぐに寝てしまった。

「修二君、明日からは木材の伐採作業だ」
「えっと、お義父さん、木材の伐採は分かるんですけど、伐採した木材の乾燥とかは大丈夫ですか?」

 木材は伐採しても直ぐには使えない。長い乾燥の時間が必要なのは、素人の僕でも知っている。

「そこで私の出番なのよ修ちゃん!」
「えっ、皐月が?」
「うむ、皐月が木材の水分を魔法で何とか出来ると言うのでな」
「えっと、皐月は水魔法は使えなかった筈だよね?」

 皐月の魔法スキルは、回復魔法と錬金だった筈だ。

「使うのは錬金術よ。錬金術って、物質の分解や抽出、合成が出来るの」
「ああ、水分を抽出するのか」
「アタリ。まぁ、大きな木材の上手く乾燥させるのに練習は必要だと思うし、使用する魔力の量もあるから、出来るって断言は出来ないけどね」
「へぇ、凄いな錬金術。僕も覚えたいくらいだよ」

 皐月は、大きな木材を上手く乾燥出来るか、多少心配らしいのだが、練習すれば大丈夫だろうと楽観的だ。

「エヘヘヘッ、凄いでしょう」
「すごいでしょ」

 僕が皐月を褒めると、胸を張り自慢する皐月の横で、佐那も真似して腰に手を当て胸を張ってドヤ顔している。

 佐那の様子を目を細めて見ていたお義父さんから、僕の魔法の習熟度に関して聞かれた。

「それで修二君は魔法の練習はどうなったのかね?」
「あ、はい、お義父さん。土魔法はあと何日か練習すれば、何とか使い物になる程度だと思います」
「なる程、皐月の様に純粋な魔法職でなくとも、魔法が使えるようになるなら、修二君のジョブは優秀なのだな」
「は、ははっ、名前がちょっとアレですけどね」

 お義父さんのジョブは剣士なので、魔法を習得出来ない。
 絶対に無理かと問われれば、可能ではあるが、剣士としての鍛錬を積む方が確実に強くなる。

 魔法への適性がなければ、威力のある魔法は使えないし発動速度も速くない。おまけに魔力の消費も増えるらしい。

 それなら魔力を身体や武器に纏わせる方が遥かに威力のある攻撃が可能だ。

 お義父さんも、この魔力を身体強化や刀に纏わせる練習を重ね、今では普通に魔物との戦闘で使用している。
 古流の武術は、多かれ少なかれ気を練り用いるので、それの魔力バージョンと考えれば、お義父さんとしては難しくなかったようだ。今は、魔力と気の併用を練習しているらしい。

 とはいえ、お義父さんも普通に魔法と呼ばれるものに、少なからず興味があったのは確かで、今のジョブでは難しいと分かり、少しがっかりとしていた。


 さて、明日からは木樵に変身だ。

 きっと斧術なんてスキルが生えてくるんだろうな。



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