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第十三話 ゴブリン討伐
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ビッグホーンを仕留めたあと、森を広範囲に探索し、大型の猪型魔物ロックボアやキラーラビットなどを交代しながら狩って行く。
ホクトはここで探索魔法を使ってみる。これは無属性の魔法で、極々薄く魔力の波を広げるイメージで魔物や人間の位置を探索する魔法。これもホクトとサクヤのオリジナル魔法だった。
今回は、自身の気配察知能力を磨くために使っていなかったが、ふと気まぐれに使ってみると、森のそんなに深くない場所で反応があった。
「父上、多分ゴブリンの群れです。ここから北西に三百メートル先です。数は…………約四十ですね」
ホクトがそう言うと皆んなの緊張するのが分かった。ゴブリンと言えど群れとなると話が違う。十分脅威になる数だ。
「不味いな、出来たばかりの集落か」
「父上、引き返して兵を集めましょう」
考え込むカインにアルバンが不安そうに言うと、カインは首を横に振る。
「いや、私達で殲滅してしまおう。ゴブリンの集落は直ぐに大きくなる。誰かが犠牲になる前に対処しよう」
ゴブリンは繁殖力がとても強い。しかも人型の雌なら種族を選ばない。このまま集落が大きくなれば、領民が犠牲になる可能性も出て来る。
「兄上、大丈夫です。支配種はまだ生まれていないようですし」
顔を青くするアルバンをホクトが心配ないと言うが、アルバンは年の離れた弟のズレた慰めに、気分が楽になる。
「ホクト、僕が心配しているのは支配種が居るか居ないかじゃないからね。
はぁ、確かにゴブリンなら僕とバジルも大丈夫だろうな」
「そうだアルバン、肩の力を抜け。ただ慎重なのは悪くない。お前はヴァルハイム家の嫡男なのだからな。
ホクト、サクヤちゃん、大丈夫か?」
ホクトとサクヤの実力は分かっているが、実際の人型を相手に大丈夫か心配したカインがホクトとサクヤに聞く。
「「はい、大丈夫です」」
実際、ホクトにとって相手がゴブリンであろうと盗賊であろうと同じだった。
斃すべき相手という事。
それは酒呑童子として京の都を恐怖に陥れた鬼の頭領としての経験か、戦国の世に転生した時に戦さを幾度も経験していた為か、現代人の感覚としてはおかしいのだろう。
だけどここは魔物が跋扈し盗賊や山賊が当たり前に存在する危険な世界。前世とは違い護りたいものが増えたホクトには、その為に戸惑うことはなかった。
落ち着いたホクトとサクヤを見てカインが頷くと、ホクトに斥候を任せて全員に戦闘準備を指示する。
作戦は単純だ。
この人数では囲い込む事は難しいと考えたカインは、弓を持つ者の先制攻撃の後、全員で突撃するという作戦とも言えないモノだ。だが少数での奇襲攻撃で、ゴブリン相手ならシンプルが良いと決断した。そこには当然、ホクトとサクヤなら取りこぼしも無いだろうとの思いもあった。
先頭を歩くホクトが左手でゴブリンの集落を視界に入れたと合図を送る。
約五十メートル先に、小屋とも言えない様なボロボロの木の寄せ集めた物が幾つか確認出来た。その周りに緑色の醜悪なゴブリンを見て取れた。
(餓鬼に似ているな。結局、この世界に来ても鬼を滅するのが僕の仕事か……。だけど…………)
ゴブリンの姿を見て、自分はとことん鬼と縁があるんだとホクトは思った。ただ、以前のように鬼を滅する事が、自分に与えられた宿命として生きて来た時と違い、今は明確に護りたい対象がホクトにはある。これは大きな変化だった。
三十メートルまで近付くと、カインの合図で弓を射る。ホクトとサクヤは矢を放つと、弓を収納して走り出す。
三十メートルの距離を一瞬で詰めるホクトと、その後を追うサクヤ。
ホクトは、最初のゴブリンをすれ違いざまに抜き打ちに斬り捨てると、次のゴブリンを袈裟懸けに斬る。斬られたゴブリンが斃れる頃には、次のゴブリンの頸を刎ねていた。
ホクトが一息で三匹のゴブリンを斃した時、サクヤが腰からショートソードを二本抜き放ち、舞うようにゴブリンを斬り伏せて行く。
ギャ!ギャ!ギャ!その頃になると小屋の中に居たゴブリンもワラワラと出て来る。
そこにカイン達が襲いかかる。
「ハァーッ!」気合いと共に一刀の元にゴブリンを斬り伏せるカイン。伊達に武勲で叙爵された訳ではないと思わせる豪快な剣捌きで次々とゴブリンを斃して行く。
始め緊張していたアルバンとバジルも、危なげなくゴブリンに対応している。
ホクトは瞬歩を使い一瞬でゴブリンの懐に入ると、その頸を左手で逆手に持ったナイフで斬り裂く。返り血を浴びる前にそこにホクトはいない。
右手に剣を左手に逆手で持ったナイフを、流れるように剣とナイフを使うホクト。
サクヤもまるで剣舞を舞うように双剣を振るう。
四十匹のゴブリンの全てが息絶えるまで五分もかからなかった。
ヒュン、剣を一振りして空間収納から布を出すと、剣の汚れを拭って鞘に収める。その落ち着いた弟の様子を見て苦笑いするアルバン。
「いや、ホクトが強いのは分かっていたよ。分かってはいたけれど、少し落ち込むよ」
「クックックッ、心配するなアルバン。私も同じ気持ちだから」
父のカインがそう言うとアルバンはギョッとする。英雄と呼ばれた父でさえ、弟は規格外だと思っていたのかと。
だが次の瞬間スッと心が軽くなる。英雄の父ですらそうなのだから、自分が嫉妬や劣等感を持つなんて馬鹿らしいと。
「さあ!アルバンもバジルも、ぼうっとしている間があったら解体するんだ。今はゴブリンの屑魔石でも必要だからな」
アルバンとバジルが嫌々ゴブリンにナイフを突き立てる。戦うのと解体では違うようだ。黙々と心臓付近にナイフを突き立てるホクトとサクヤを尻目に、蒼い顔をして恐々ナイフを突き立てるアルバンとバジル。
全てのゴブリンから魔石を採ると、サクヤが土魔法で大きな穴を開けて、そこにゴブリンの死体をまとめて放り込む。
「父上、一応焼いておきますか?」
「そうだな。焼いた方が安心だな」
カインの許可が出たので、ホクトとサクヤが穴の中に火球を放つ。青く光る火球を打ち込まれ、ゴブリンの死体は骨も残さず灰になった。
穴を埋め戻し一息ついたホクト達は帰路につく。
狩は大成功だった。ホクトとサクヤの空間収納の魔法のお陰で、獲物を全て持って帰れる為だ。狩った獲物の数も多かった。さらにゴブリンの集落を大きくなる前に潰せた。
カインは時々はホクトを連れて行く事を決めた。
ホクトはここで探索魔法を使ってみる。これは無属性の魔法で、極々薄く魔力の波を広げるイメージで魔物や人間の位置を探索する魔法。これもホクトとサクヤのオリジナル魔法だった。
今回は、自身の気配察知能力を磨くために使っていなかったが、ふと気まぐれに使ってみると、森のそんなに深くない場所で反応があった。
「父上、多分ゴブリンの群れです。ここから北西に三百メートル先です。数は…………約四十ですね」
ホクトがそう言うと皆んなの緊張するのが分かった。ゴブリンと言えど群れとなると話が違う。十分脅威になる数だ。
「不味いな、出来たばかりの集落か」
「父上、引き返して兵を集めましょう」
考え込むカインにアルバンが不安そうに言うと、カインは首を横に振る。
「いや、私達で殲滅してしまおう。ゴブリンの集落は直ぐに大きくなる。誰かが犠牲になる前に対処しよう」
ゴブリンは繁殖力がとても強い。しかも人型の雌なら種族を選ばない。このまま集落が大きくなれば、領民が犠牲になる可能性も出て来る。
「兄上、大丈夫です。支配種はまだ生まれていないようですし」
顔を青くするアルバンをホクトが心配ないと言うが、アルバンは年の離れた弟のズレた慰めに、気分が楽になる。
「ホクト、僕が心配しているのは支配種が居るか居ないかじゃないからね。
はぁ、確かにゴブリンなら僕とバジルも大丈夫だろうな」
「そうだアルバン、肩の力を抜け。ただ慎重なのは悪くない。お前はヴァルハイム家の嫡男なのだからな。
ホクト、サクヤちゃん、大丈夫か?」
ホクトとサクヤの実力は分かっているが、実際の人型を相手に大丈夫か心配したカインがホクトとサクヤに聞く。
「「はい、大丈夫です」」
実際、ホクトにとって相手がゴブリンであろうと盗賊であろうと同じだった。
斃すべき相手という事。
それは酒呑童子として京の都を恐怖に陥れた鬼の頭領としての経験か、戦国の世に転生した時に戦さを幾度も経験していた為か、現代人の感覚としてはおかしいのだろう。
だけどここは魔物が跋扈し盗賊や山賊が当たり前に存在する危険な世界。前世とは違い護りたいものが増えたホクトには、その為に戸惑うことはなかった。
落ち着いたホクトとサクヤを見てカインが頷くと、ホクトに斥候を任せて全員に戦闘準備を指示する。
作戦は単純だ。
この人数では囲い込む事は難しいと考えたカインは、弓を持つ者の先制攻撃の後、全員で突撃するという作戦とも言えないモノだ。だが少数での奇襲攻撃で、ゴブリン相手ならシンプルが良いと決断した。そこには当然、ホクトとサクヤなら取りこぼしも無いだろうとの思いもあった。
先頭を歩くホクトが左手でゴブリンの集落を視界に入れたと合図を送る。
約五十メートル先に、小屋とも言えない様なボロボロの木の寄せ集めた物が幾つか確認出来た。その周りに緑色の醜悪なゴブリンを見て取れた。
(餓鬼に似ているな。結局、この世界に来ても鬼を滅するのが僕の仕事か……。だけど…………)
ゴブリンの姿を見て、自分はとことん鬼と縁があるんだとホクトは思った。ただ、以前のように鬼を滅する事が、自分に与えられた宿命として生きて来た時と違い、今は明確に護りたい対象がホクトにはある。これは大きな変化だった。
三十メートルまで近付くと、カインの合図で弓を射る。ホクトとサクヤは矢を放つと、弓を収納して走り出す。
三十メートルの距離を一瞬で詰めるホクトと、その後を追うサクヤ。
ホクトは、最初のゴブリンをすれ違いざまに抜き打ちに斬り捨てると、次のゴブリンを袈裟懸けに斬る。斬られたゴブリンが斃れる頃には、次のゴブリンの頸を刎ねていた。
ホクトが一息で三匹のゴブリンを斃した時、サクヤが腰からショートソードを二本抜き放ち、舞うようにゴブリンを斬り伏せて行く。
ギャ!ギャ!ギャ!その頃になると小屋の中に居たゴブリンもワラワラと出て来る。
そこにカイン達が襲いかかる。
「ハァーッ!」気合いと共に一刀の元にゴブリンを斬り伏せるカイン。伊達に武勲で叙爵された訳ではないと思わせる豪快な剣捌きで次々とゴブリンを斃して行く。
始め緊張していたアルバンとバジルも、危なげなくゴブリンに対応している。
ホクトは瞬歩を使い一瞬でゴブリンの懐に入ると、その頸を左手で逆手に持ったナイフで斬り裂く。返り血を浴びる前にそこにホクトはいない。
右手に剣を左手に逆手で持ったナイフを、流れるように剣とナイフを使うホクト。
サクヤもまるで剣舞を舞うように双剣を振るう。
四十匹のゴブリンの全てが息絶えるまで五分もかからなかった。
ヒュン、剣を一振りして空間収納から布を出すと、剣の汚れを拭って鞘に収める。その落ち着いた弟の様子を見て苦笑いするアルバン。
「いや、ホクトが強いのは分かっていたよ。分かってはいたけれど、少し落ち込むよ」
「クックックッ、心配するなアルバン。私も同じ気持ちだから」
父のカインがそう言うとアルバンはギョッとする。英雄と呼ばれた父でさえ、弟は規格外だと思っていたのかと。
だが次の瞬間スッと心が軽くなる。英雄の父ですらそうなのだから、自分が嫉妬や劣等感を持つなんて馬鹿らしいと。
「さあ!アルバンもバジルも、ぼうっとしている間があったら解体するんだ。今はゴブリンの屑魔石でも必要だからな」
アルバンとバジルが嫌々ゴブリンにナイフを突き立てる。戦うのと解体では違うようだ。黙々と心臓付近にナイフを突き立てるホクトとサクヤを尻目に、蒼い顔をして恐々ナイフを突き立てるアルバンとバジル。
全てのゴブリンから魔石を採ると、サクヤが土魔法で大きな穴を開けて、そこにゴブリンの死体をまとめて放り込む。
「父上、一応焼いておきますか?」
「そうだな。焼いた方が安心だな」
カインの許可が出たので、ホクトとサクヤが穴の中に火球を放つ。青く光る火球を打ち込まれ、ゴブリンの死体は骨も残さず灰になった。
穴を埋め戻し一息ついたホクト達は帰路につく。
狩は大成功だった。ホクトとサクヤの空間収納の魔法のお陰で、獲物を全て持って帰れる為だ。狩った獲物の数も多かった。さらにゴブリンの集落を大きくなる前に潰せた。
カインは時々はホクトを連れて行く事を決めた。
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