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第十六話 ホクトの立ち位置
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あれから取り敢えず夕食を済ませ、家族が集うリビングへと移動した。
「先ず先に僕とサクヤの事を認識出来ない様に、魔法で誤魔化していた事を謝罪します。
マリー義姉上にも薄々分かったと思いますが、これは僕達に注目が集まるのを避けたかったからです」
ホクトは魔導具関連の商会に関わっている事もあり、有象無象が砂糖に集まる蟻の如く集まって来るだろう事を話した。
ホクトが話している間も、マリーは何処かポォッとしているようで少し頬が赤い。
「ホクト君の言う事は良くわかります。ヴァルハイム家は躍進していますが、男爵家ですから。なら、お父様に後ろ盾となって頂いた方が良いですね。お父様は辺境伯です。例え王家とは言え無茶な横槍は入れれません。私からもお父様にお手紙を出してみます」
ここでこの世界におけるエルフと言う種族について説明する。
エルフの魔法適性や能力は別にして、エルフと言う種族全体に当て嵌まる特長として、その優れた容姿にある。エルフの中でも容姿に優劣は有れど、百人居ればその百人全員が美男美女だ。
その為、心無い貴族や豪商から狙われる事も多く、エルフの国には強力な結界が張られ、同胞以外の侵入を拒んでいる。
その為、エルフの国を出て活動するエルフは、自分の身は自分で守れるだけの実力を持っている。
ホクトとサクヤの母親であるフローラやエヴァは、その見かけによらず高い戦闘力を持つ冒険者だった。
ホクトとサクヤは、エルフの中でも飛び抜けて優れた容姿をしている。その能力の高さを考えると、王都で学園に通うとトラブルに巻き込まれない訳がない。物理的に襲われても跳ね除ける力はあるが、権力を持って実家への圧力や陥れる高位貴族は必ず出て来る。
「お義父様、多分私の父ならある程度の問題は解決出来ると思うのですが」
マリーに何か考えがあるようだ。カインに父親のアーレンベルク辺境伯へ連絡する許可を得る。
「お父上に会談の手配をお願い出来るか」
カインも寄親で、同じ武官として戦場を駆けたアーレンベルク卿は、数少ない信頼出来る人物だった。マリーからの申し出に即答する。
一台の馬車と護衛の騎乗した兵士が、アーレンベルク辺境伯の領都へ着いたのは、あれから十日の後だった。
マリーが父親に連絡するのと同時に、アーレンベルク卿から会談の申し出があったのだ。急ぎ日程を調整しアーレンベルク辺境伯の領都へ向かう事になった。
巨大な城壁に囲まれた城塞都市アールスタット。アーレンベルク辺境伯領の領都だ。辺境伯という性質上、堅固な街が必須だった為に、ロマリア王国最大の城塞都市になっている。
王都も城壁で囲まれているが、国の中央部に位置する王都には城塞都市としての機能は必要ない為、少し立派な壁で囲まれていると言う程度だ。
そのアールスタットの中心に正に城がそびえ立っている。ここがアーレンベルク辺境伯が住む住居兼要塞、アールスタット城だ。
馬車が中央の車止めに停められ、カインを先頭にアルバンとマリーが続き、最後にホクトとサクヤが降り立った。
「凄いですね。……本当にお城なんですね」
ホクトが珍しく驚いているのを見て、カインとアルバンがニヤついている。
「他国との盾となる辺境伯ですから、街も屋敷もそれに備えていますから」
マリーが促して城の中へ進む。
部屋に通されると、そこに壮年の男が待っていた。醸し出される雰囲気が父のカインに似た匂いを感じたホクト。
「ヴァルハイム卿、今日は良く来てくれた。
アルバン殿も先日ぶりだな。
マリーも元気にしておるか」
席に座るように促され、侍女がお茶を淹れタオル後退室すると挨拶が始まった。
「アーレンベルク卿、今日はお招き頂き恐縮です」
「先日の結婚式ではありがとうございます」
「お父様、旦那様や義父様、義母様もお優しくして頂いているので楽しく過ごしています」
そこでエルビスがホクトとサクヤを見る。
「お主がホクト殿とサクヤ嬢だな。儂がエルビス・フォン・アーレンベルクじゃ。初めてではないが、おかしな気分じゃのう」
エルビスはまだ十歳の少年と少女の、息を呑むほどの美しさに、ここまで徹底して二人を秘匿する意味を納得する。
「カイン・フォン・ヴァルハイムの三男、ホクトのフォン・ヴァルハイムです」
「バグス・シュタインベルクの長女、サクヤ・シュタインベルクです」
実際は初めましてでは無いのだが、認識阻害の魔法を掛けずに会うのは初めてなので自己紹介をするホクトとサクヤ。
「…………確かに馬鹿な王都の貴族供が騒ぎそうじゃ。しかもヴァルハイム卿、御子息を鍛えすぎではないか」
エルビスにはホクトから感じられる武の匂いを敏感に感じ取っていた。
「いえ、放って置いても勝手に強くなるので、私が教えたのは最初のうちだけですよ」
カインの言葉をエルビスは冗談だとは思わなかった。益々ホクトの事を気にいるエルビスは、考えていた提案を持ちかける事にした。
「単刀直入に言うぞ。ホクト殿、お主に爵位を与えれば良いと思っとる。
いや、ヴィルハイム卿、話は全部聞いてから返事をしてくれ。」
爵位と聞いたホクトが何かを言いかけたのをエルビスが止める。
「辺境伯ともなれば、褒美に与える爵位を幾つか確保しておるもんじゃ。ヴィルハイム家も子爵に陞爵した。そこで儂は王に願い出て、男爵位をヴィルハイム家に寄親からの祝いとする事を許しを得た。
すると王家も思う事があるのじゃろう爵位を三つ下されたわ。
そこで男爵位のひとつをホクト殿に与え、サクヤ嬢を儂の養女としてホクト殿との婚約をお披露目すれば、王都の有象無象の貴族供や王家ですら、簡単に手出しできん様になる。
残る爵位を将来的に二男のジョシュア殿に与えれば良いじゃろう。
サクヤ嬢の養女も形式だけの話じゃ。本来なら男爵でも辺境伯とは釣り合わんが、養女なら文句も出んだろう。しかも今は男爵でも成人する頃には陞爵してるかもしれんしのう。
それに男爵と言うても領地を持つ訳でわない。ヴィルハイム卿が与えた爵位じゃ、カイン殿が許せば冒険者でも何でも自由にすれば良い。ただ、他国に移住する場合だけは手続きが必要になるがな」
ホクトはアーレンベルク卿の申し出を聞き、考えていた。アーレンベルク辺境伯との関係性は今更だ。兄の義父親でヴァルハイム家と寄親寄子の関係だ。そう開き直れば悪い申し入れじゃない。サクヤが養女になると言うのもどうせ方便だ。形式上だけで実際に養女に入る訳でもない。
ホクトはカインの顔を見る。カインが頷くのを見て腹を決める。
「分かりました。前向きに考えさせて下さい」
「おぉ!そうか!そうしてくれるか!」
エルビスが満面の笑みで喜ぶ。
エルビスは寄子の子息を他の貴族家や王家に取り込まれるのは、メンツの面でも許容できなかった。王家がゴリ押しでホクトを取り込めば、エルビスとて王の臣下である以上、例えメンツを潰されても面と向かって逆らえないが、大きなシコリを残す。
逆にホクトがアーレンベルク辺境伯の根回しで爵位を与えられ、養女となったサクヤと婚約披露してしまえば、王家と言えども簡単に手出し出来なくなった。
自由に冒険者生活を希望していたホクトの人生設計は早くも修正を余儀なくされた。
「先ず先に僕とサクヤの事を認識出来ない様に、魔法で誤魔化していた事を謝罪します。
マリー義姉上にも薄々分かったと思いますが、これは僕達に注目が集まるのを避けたかったからです」
ホクトは魔導具関連の商会に関わっている事もあり、有象無象が砂糖に集まる蟻の如く集まって来るだろう事を話した。
ホクトが話している間も、マリーは何処かポォッとしているようで少し頬が赤い。
「ホクト君の言う事は良くわかります。ヴァルハイム家は躍進していますが、男爵家ですから。なら、お父様に後ろ盾となって頂いた方が良いですね。お父様は辺境伯です。例え王家とは言え無茶な横槍は入れれません。私からもお父様にお手紙を出してみます」
ここでこの世界におけるエルフと言う種族について説明する。
エルフの魔法適性や能力は別にして、エルフと言う種族全体に当て嵌まる特長として、その優れた容姿にある。エルフの中でも容姿に優劣は有れど、百人居ればその百人全員が美男美女だ。
その為、心無い貴族や豪商から狙われる事も多く、エルフの国には強力な結界が張られ、同胞以外の侵入を拒んでいる。
その為、エルフの国を出て活動するエルフは、自分の身は自分で守れるだけの実力を持っている。
ホクトとサクヤの母親であるフローラやエヴァは、その見かけによらず高い戦闘力を持つ冒険者だった。
ホクトとサクヤは、エルフの中でも飛び抜けて優れた容姿をしている。その能力の高さを考えると、王都で学園に通うとトラブルに巻き込まれない訳がない。物理的に襲われても跳ね除ける力はあるが、権力を持って実家への圧力や陥れる高位貴族は必ず出て来る。
「お義父様、多分私の父ならある程度の問題は解決出来ると思うのですが」
マリーに何か考えがあるようだ。カインに父親のアーレンベルク辺境伯へ連絡する許可を得る。
「お父上に会談の手配をお願い出来るか」
カインも寄親で、同じ武官として戦場を駆けたアーレンベルク卿は、数少ない信頼出来る人物だった。マリーからの申し出に即答する。
一台の馬車と護衛の騎乗した兵士が、アーレンベルク辺境伯の領都へ着いたのは、あれから十日の後だった。
マリーが父親に連絡するのと同時に、アーレンベルク卿から会談の申し出があったのだ。急ぎ日程を調整しアーレンベルク辺境伯の領都へ向かう事になった。
巨大な城壁に囲まれた城塞都市アールスタット。アーレンベルク辺境伯領の領都だ。辺境伯という性質上、堅固な街が必須だった為に、ロマリア王国最大の城塞都市になっている。
王都も城壁で囲まれているが、国の中央部に位置する王都には城塞都市としての機能は必要ない為、少し立派な壁で囲まれていると言う程度だ。
そのアールスタットの中心に正に城がそびえ立っている。ここがアーレンベルク辺境伯が住む住居兼要塞、アールスタット城だ。
馬車が中央の車止めに停められ、カインを先頭にアルバンとマリーが続き、最後にホクトとサクヤが降り立った。
「凄いですね。……本当にお城なんですね」
ホクトが珍しく驚いているのを見て、カインとアルバンがニヤついている。
「他国との盾となる辺境伯ですから、街も屋敷もそれに備えていますから」
マリーが促して城の中へ進む。
部屋に通されると、そこに壮年の男が待っていた。醸し出される雰囲気が父のカインに似た匂いを感じたホクト。
「ヴァルハイム卿、今日は良く来てくれた。
アルバン殿も先日ぶりだな。
マリーも元気にしておるか」
席に座るように促され、侍女がお茶を淹れタオル後退室すると挨拶が始まった。
「アーレンベルク卿、今日はお招き頂き恐縮です」
「先日の結婚式ではありがとうございます」
「お父様、旦那様や義父様、義母様もお優しくして頂いているので楽しく過ごしています」
そこでエルビスがホクトとサクヤを見る。
「お主がホクト殿とサクヤ嬢だな。儂がエルビス・フォン・アーレンベルクじゃ。初めてではないが、おかしな気分じゃのう」
エルビスはまだ十歳の少年と少女の、息を呑むほどの美しさに、ここまで徹底して二人を秘匿する意味を納得する。
「カイン・フォン・ヴァルハイムの三男、ホクトのフォン・ヴァルハイムです」
「バグス・シュタインベルクの長女、サクヤ・シュタインベルクです」
実際は初めましてでは無いのだが、認識阻害の魔法を掛けずに会うのは初めてなので自己紹介をするホクトとサクヤ。
「…………確かに馬鹿な王都の貴族供が騒ぎそうじゃ。しかもヴァルハイム卿、御子息を鍛えすぎではないか」
エルビスにはホクトから感じられる武の匂いを敏感に感じ取っていた。
「いえ、放って置いても勝手に強くなるので、私が教えたのは最初のうちだけですよ」
カインの言葉をエルビスは冗談だとは思わなかった。益々ホクトの事を気にいるエルビスは、考えていた提案を持ちかける事にした。
「単刀直入に言うぞ。ホクト殿、お主に爵位を与えれば良いと思っとる。
いや、ヴィルハイム卿、話は全部聞いてから返事をしてくれ。」
爵位と聞いたホクトが何かを言いかけたのをエルビスが止める。
「辺境伯ともなれば、褒美に与える爵位を幾つか確保しておるもんじゃ。ヴィルハイム家も子爵に陞爵した。そこで儂は王に願い出て、男爵位をヴィルハイム家に寄親からの祝いとする事を許しを得た。
すると王家も思う事があるのじゃろう爵位を三つ下されたわ。
そこで男爵位のひとつをホクト殿に与え、サクヤ嬢を儂の養女としてホクト殿との婚約をお披露目すれば、王都の有象無象の貴族供や王家ですら、簡単に手出しできん様になる。
残る爵位を将来的に二男のジョシュア殿に与えれば良いじゃろう。
サクヤ嬢の養女も形式だけの話じゃ。本来なら男爵でも辺境伯とは釣り合わんが、養女なら文句も出んだろう。しかも今は男爵でも成人する頃には陞爵してるかもしれんしのう。
それに男爵と言うても領地を持つ訳でわない。ヴィルハイム卿が与えた爵位じゃ、カイン殿が許せば冒険者でも何でも自由にすれば良い。ただ、他国に移住する場合だけは手続きが必要になるがな」
ホクトはアーレンベルク卿の申し出を聞き、考えていた。アーレンベルク辺境伯との関係性は今更だ。兄の義父親でヴァルハイム家と寄親寄子の関係だ。そう開き直れば悪い申し入れじゃない。サクヤが養女になると言うのもどうせ方便だ。形式上だけで実際に養女に入る訳でもない。
ホクトはカインの顔を見る。カインが頷くのを見て腹を決める。
「分かりました。前向きに考えさせて下さい」
「おぉ!そうか!そうしてくれるか!」
エルビスが満面の笑みで喜ぶ。
エルビスは寄子の子息を他の貴族家や王家に取り込まれるのは、メンツの面でも許容できなかった。王家がゴリ押しでホクトを取り込めば、エルビスとて王の臣下である以上、例えメンツを潰されても面と向かって逆らえないが、大きなシコリを残す。
逆にホクトがアーレンベルク辺境伯の根回しで爵位を与えられ、養女となったサクヤと婚約披露してしまえば、王家と言えども簡単に手出し出来なくなった。
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