酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第二十話 初依頼

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 道具屋で採取セットを購入した後、北門を抜けて10分程歩くと森の外縁部に着いた。

 森の中へ分け入り三種類の薬草を探す。

「魔物への警戒は僕がするから、サクヤは薬草を見つけるのに集中しても大丈夫だよ」

「うん、分かった」

 エルフのホクトとサクヤにとって森の中は自分達のテリトリーと言っても過言ではない。それは森の中には多くの精霊が居て、ホクトやサクヤに危険を知らせたり力を貸してくれたりするからだ。

「あっ、これがヒルク草ですね」

「コッチにも有ったよ」

 薬草は比較的簡単に見つける事が出来た。実は精霊達が教えてくれるのだ。上位の精霊でもなければ話す事は出来ないが、意思の疎通は出来るのだ。

 採取した薬草をアイテムボックスへドンドン入れていく。アイテムボックスの中では時間が止まった状態なので薬草は良好な状態を維持できる。

 その後も依頼数を簡単にクリアした二人は、採取出来るだけ採取しようと、三種類の薬草を集めていった。

「ん、6、いや、7か、サクヤ、魔物が近付いて来る。多分狼の魔物だと思う」

 ホクトの索敵に魔物の群れが引っかかる。

「この辺りならフォレストウルフでしょうか。狼系の魔物は群れますから」

 ホクトはロングソードを抜いて近付いて来る方向を見据える。サクヤもショートソードを引き抜き、両手に持ち構える。



 やがて直ぐにホクトとサクヤの目にも魔物が視認出来た。この森に生息するくすんだ緑色の狼系魔物、フォレストウルフがホクトとサクヤに襲いかからんと走り寄る。

 フォレストウルフは、冒険者ギルドの討伐ランクではFランク。群れになるとEランクの依頼になる。


 先頭のフォレストウルフがホクトに跳び掛かる。それをゆらりと躱すと同時にフォレストウルフの頸を斬り落としていた。まるで豆腐でも切る様に抵抗なく頸を落とされ息絶える。
 サクヤは踏み込んで双剣を振るう。躱しながら斬りつけ突き刺し、確実に息の根を止めて行く。

 ホクトもまるで舞う様に剣を振るい、フォレストウルフの間を抜けて行く。その後に残されたのは、一太刀で頸を落とされたフォレストウルフの死体だった。

 それは1分にも満たない僅かな時間。

 七匹のフォレストウルフは全て斃された。

「フォレストウルフって討伐依頼あったっけ?」

 ホクトがサクヤに聞く。サクヤは魔物事典が好きでよく読んでいた。魔物事典には、その魔物の討伐部位や買取対象の部位が書かれている。

「依頼があったかどうかは分からないけど、討伐部位は右の牙よ。あと毛皮も買取の対象よ」

「じゃあ解体しちゃおうか」

 馴れた手つきでフォレストウルフを解体していくホクトとサクヤ。解体は何度もカインに練習させられた。
 討伐部位の牙を取り買取対象の皮を剥ぐ。

「さすがにゴブリンの魔石より少しだけ大きいな」

 フォレストウルフから魔石を取り出すホクト。魔石も買取対象だが、魔導具造りに幾ら有っても良いので、父のカインに買い取って貰おうと考えたホクト。浄化魔導具付き水洗便器用に、魔石は幾ら有っても足りないくらいだ。
 浄化魔導具付き水洗便器は、屑魔石でも大丈夫なので、最近ヴァルハイム領周辺のゴブリンは良い小遣い稼ぎになっている。そのお陰でヴァルハイム領でのゴブリンの被害は非常に少なくなっている。

「よし!こっちは終わったよ」

 サクヤが自身に浄化魔法をかけて汚れを落とす。

「こっちも終わったよ」

 ホクトも解体したフォレストウルフをアイテムボックスへ収納し、残りのいらない残骸を土魔法で穴を開け埋める。

「さあ、帰ろうか。あまり遅くなると母上とアマリエが心配するからね」

「そうね、帰りましょう」





 ホクトとサクヤは、森を出て冒険者ギルドへと戻りカウンターで並ぶ。
 夕方になり混雑し始めた冒険者ギルドに、グレーのローブに付いたフードを目深に被った子供が並ぶ。それだけで注目を集めるが、ホクトの持つ無言のプレッシャーにちょっかいを掛ける冒険者はいなかった。

「あら、ホクト様とサクヤ様ですね。薬草の採取依頼でしたね。では薬草をこのトレイに出して下さい」

 冒険者登録時に対応してくれたギルド職員の女性がホクトとサクヤの事を覚えていたようだ。

「はい、少し量が多いのですが大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 ホクトは腰に付けた鞄から取り出すフリをして薬草の束を出して行く。

「……本当に多いですね。
 ちょっとお待ち下さい。直ぐに調べますので。

 あっ、それとステータスプレートをお願いします」

 ホクト達は三種類の薬草をそれぞれ50束採取していた。採取した薬草を提出し、ステータスプレートを渡す。
 暫く待つとギルド職員の女性が戻って来た。

「お待たせしました。状態に関しては最高の状態でした。
 それで買取額ですが、ヒルク草が10束で大銅貨5枚。50束有りましたので銀貨2枚と大銅貨5枚です。キキル草とゲール草も同じ金額で買取致しますので、それぞれ銀貨2枚と大銅貨5枚づつ。合計で銀貨7枚と大銅貨5枚になります。お確かめ下さい」

 小袋に入った報酬をホクト達は受け取った。



 この大陸では共通の通貨が採用されている。

 鉄貨10枚=銅貨1枚
 銅貨10枚=大銅貨1枚
 大銅貨10枚=銀貨1枚
 銀貨10枚=金貨1枚
 金貨100枚=白金貨1枚
 白金貨100枚=大白金貨1枚

 鉄貨1枚≒約10円
 銅貨1枚≒約100円
 大銅貨1枚≒約1,000円
 銀貨1枚≒約10,000円
 金貨1枚≒約100,000円
 白金貨1枚≒約10,000,000円
 大白金貨1枚≒約1,000,000,000円

 という種類の貨幣と価値になっている。

 ホクトとサクヤは、一日でおよそ75,000円を稼いだ事になる。これはGランク冒険者としては破格の稼ぎだと言える。

「あっ、フォレストウルフを忘れてた。
 あの、フォレストウルフの討伐依頼って出てますか?」

「フォレストウルフですか?少しお待ち下さい」

 ギルド職員の女性は掲示板を見に席を立ち上がろうとした。

「ありました。これですよね」

 そこに何時の間にかサクヤが一枚の依頼書を剥がして持って来た。

「あっ、そうですね。えっと、フォレストウルフの討伐依頼は三匹。討伐部位は右の牙ですね。あと毛皮が買取対象になります」

 立ち上がりかけたギルド職員が座り直して依頼書を受け取る。

「毛皮も買い取って頂きたいのですが、ここに出していいんですか?」

「いえ、ここでは右の牙だけ提出して下さい。毛皮は裏にある素材引き取り窓口でお願いします」

「じゃあこれを」

 ホクトがフォレストウルフの牙を渡す。

「……七匹、フォレストウルフは群れだとEランクなんですが……、フォレストウルフ一匹で大銅貨5枚になります。七匹ですから銀貨3枚と大銅貨5枚ですね」

 そう言ってお金の入った小袋をホクトに渡す。

「それとホクト様とサクヤ様は、依頼数がランクアップの規定数に達しましたので、これでFランクに上がりました」

 そう言ってステータスプレートを返してきた。
 返して貰ったステータスプレートには、確かにギルドランクがFと記してある。

「ありがとうございます。
 じゃあ毛皮を買い取って貰って帰ります」

 その後、フォレストウルフの毛皮は全部で銀貨2枚と大銅貨1枚で買い取って貰えた。

 今日一日で約十三万円稼いだ事に、冒険者は意外と儲かるのか?と思ってしまう二人だった。

 精霊の助けを借りれる二人と違い、本来大量の薬草を見つける事は難しい。フォレストウルフにしても群れの相手を二人ではしない。最低でも四人パーティーで討伐するので報酬も四分の一になる。

 その事には気付かない二人は、遅くなるとフローラやエヴァが心配するからと家路を急いだのだった。



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