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第三十二話 夏季休暇の準備を始める
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カジムが押しかけ弟子になり、学園生活が賑やかになったが、ホクトとサクヤにとっては、カジムの存在は有り難かった。
授業の合間の時間に、ホクト達の教室にこまめに押しかけて来る。それによってホクトとサクヤからカジムに目が行く事で、興味の対象がバラけたのは、ホクトとサクヤは少し楽になった。
武術の面でも、カジムと一緒に斧や棍の稽古が出来る様になった事は、ホクトにとっても嬉しい出来ごとだった。
ホクトにとって斧術は必要な技師だった。
それは将来的にホクトが想定している長柄武器に関係していた。
ホクトは対人戦だけでなく、対大型の魔物に於いて、ただの槍では破壊力が足りないと感じていた。
そこでホクトが考えているのは、戟・ハルバード・バルディッシュ系の分厚い斧刃と槍の複合武器だった。
その為に斧を扱う技術は必須だと感じていた。
ガンツと要相談だなと考えていた。
「アニキ、アニキは夏季休暇はどうするんだ。実家に帰るのか?」
昼の学食でホクトにカジムが聞いてきた。
最近はだいたいこの三人でお昼ご飯を食べている。時々何故かフランソワ王女が参加する事があるが、基本はホクトとサクヤにカジムが合流するという流れだ。
「実家にも一度顔を出す予定だけど、鍛治師のガンツさんと鉱石ダンジョンにも行く予定かな」
「おっ!ダンジョン行くのかアニキ!
俺も連れてってくれよ!」
カジムが目をキラキラさせて身を乗り出す。
「私が実家に帰るからその後よ」
「姐さんの実家ってアニキと同じだよな。早くても往復で十日以上は掛かるんじゃないのか?」
ホクトの実家であるヴァルハイム領は、ロマリア王国の南西部にある辺境の地だ。それ程大きくないロマリア王国だが、王都から辺境のヴァルハイム領まで、馬車を飛ばして五日以上はかかる。
「ああ、ちょっとした裏ワザがあるから大丈夫なんだ」
ホクトがそうごまかすとカジムは深く考えないのか、それ以上突っ込んで話して来なかった。
ホクトとサクヤは、既に長距離転移の魔法を何度も使用しており、実はサクヤは実家に何度も帰っていた。ホクトは王都に母のフローラや侍女のアマリエが居るが、サクヤの両親はヴァルハイム領に居るので、時折顔を見せに帰っている。
「なぁアニキ、そのダンジョンはどんな魔物が出るんだ?」
「なんでもゴーレム系が多いらしいよ」
ホクトが答えるとカジムは腕を組んで考え込む。
「う~ん、ゴーレムじゃ大剣はダメだよな。斧はまだマシか、どうしようアニキ」
カジムのメイン武器は大剣と斧だが、マッドゴーレムやウッドゴーレムなら大丈夫だが、ストーンゴーレム以上なら相性が悪い。
「カジムは、石や鉄は斬れないか……、それならメイスか戦鎚かな」
「もしかして、アニキと姐さんは石や鉄が斬れるのか、…………斬れるんだな。
凄えー、さすがアニキと姐さんだな。どうやって石や鉄を斬るんだ?」
カジムが疑いもせず純粋にホクトとサクヤの事を尊敬の眼差しで見ている。也は大きいが、まだまだ十二歳の真っ直ぐなカジムをホクトも気に入っていた。
「カジムは種族特性から言うと、魔力があまり多くないから、魔剣の類いの手を借りないと難しいだろうな。
僕達は剣や槍に魔力を纏わせる事が出来るからね。カジムもミスリルの剣辺りなら魔力を流すだけで斬れ味も上がるだろうけど、纏わせるとなると獣人族の魔力量じゃ難しいかな。
僕とサクヤは、魔力量はエルフの中でも豊富な方だからね。でもカジムは、僕達と同じ場所を目指さなくても良いんだよ」
ホクトは獣人族であるカジムに、自分の出来る事を伸ばす様にアドバイスする。それでも少し落ち込むカジムに、別の可能性を指し示す。
「永い修行の時間がかかるけど、獣人族のカジムでも習得出来る技術あるけどやってみるかい」
そう言うとカジムが分かり易いほど元気になる。
「教えてくれアニキ!」
ホクトはいきなり自分の髪の毛を一本抜くと、その髪の毛に気を纏わせる。すると青味がかった銀髪が、針金のように硬い暗器になる。
それをカジムに触らせる。
「……す、凄えよ、アニキ!!」
「これは魔力じゃなくて、誰にでも有るけど、誰にでも使える訳じゃない〈氣〉を練る技術で、〈内功〉とも言うんだ。
ただ、この〈氣〉の修行は、地味な修行を長く続けて初めて得られる技術だから、一朝一夕には習得できないからね。それに魔力を纏わせるよりも強化幅が小さいから」
ホクトはカジムを座禅させ、背後に回ると背中に手を当て自らの気を流す。
「分かる?氣の存在が?この氣を自在に操れるようになるには、長い修行が必要だけど、カジムは寿命が長い獣人族だから、何時か出来ると思うよ」
「あゝ、何だか力が入って来たのは分かるけど、自分でこの力を把握して使いこなすのは無理だな。だけどアニキと姐さんが出来るんだ。時間が掛かってもやってみせるよ」
「そうだな、取り敢えずゴーレムにはメイスか戦鎚を用意すれば良い。
それよりもカジムは実家に帰らなくても良いのか?」
王都からバーキラ王国まではヴァルハイム領よりも当然さらに遠い。片道三週間は掛かるだろう。
「ああ、俺はもう巣離れしたからな。別に帰らなくても良いんだ。俺達虎人族は一定の年齢になると、家を離れて独り立ちするんだ。だいたい大人になって番いが出来ると国に帰る奴が多いかな」
十二歳で独り立ちなんて獣人族は凄いとホクトとサクヤは感心する。エルフは逆に長く家族と一緒に住む傾向がある。そのせいでフローラはホクトと供に王都へ出て来たし、エヴァもサクヤと離れるのを淋しがった。
そこでホクトとサクヤは、時間が空くと長距離転移でヴァルハイム領の屋敷へと帰っていた。
「カジム、なら夏季休暇に入ったらダンジョンアタックするから準備はしておいてね」
「おう!まかせとけ!」
一度カジムをガンツの工房に連れて行かないとと思いながら、初めてのダンジョンに気分が高揚するホクトだった。
授業の合間の時間に、ホクト達の教室にこまめに押しかけて来る。それによってホクトとサクヤからカジムに目が行く事で、興味の対象がバラけたのは、ホクトとサクヤは少し楽になった。
武術の面でも、カジムと一緒に斧や棍の稽古が出来る様になった事は、ホクトにとっても嬉しい出来ごとだった。
ホクトにとって斧術は必要な技師だった。
それは将来的にホクトが想定している長柄武器に関係していた。
ホクトは対人戦だけでなく、対大型の魔物に於いて、ただの槍では破壊力が足りないと感じていた。
そこでホクトが考えているのは、戟・ハルバード・バルディッシュ系の分厚い斧刃と槍の複合武器だった。
その為に斧を扱う技術は必須だと感じていた。
ガンツと要相談だなと考えていた。
「アニキ、アニキは夏季休暇はどうするんだ。実家に帰るのか?」
昼の学食でホクトにカジムが聞いてきた。
最近はだいたいこの三人でお昼ご飯を食べている。時々何故かフランソワ王女が参加する事があるが、基本はホクトとサクヤにカジムが合流するという流れだ。
「実家にも一度顔を出す予定だけど、鍛治師のガンツさんと鉱石ダンジョンにも行く予定かな」
「おっ!ダンジョン行くのかアニキ!
俺も連れてってくれよ!」
カジムが目をキラキラさせて身を乗り出す。
「私が実家に帰るからその後よ」
「姐さんの実家ってアニキと同じだよな。早くても往復で十日以上は掛かるんじゃないのか?」
ホクトの実家であるヴァルハイム領は、ロマリア王国の南西部にある辺境の地だ。それ程大きくないロマリア王国だが、王都から辺境のヴァルハイム領まで、馬車を飛ばして五日以上はかかる。
「ああ、ちょっとした裏ワザがあるから大丈夫なんだ」
ホクトがそうごまかすとカジムは深く考えないのか、それ以上突っ込んで話して来なかった。
ホクトとサクヤは、既に長距離転移の魔法を何度も使用しており、実はサクヤは実家に何度も帰っていた。ホクトは王都に母のフローラや侍女のアマリエが居るが、サクヤの両親はヴァルハイム領に居るので、時折顔を見せに帰っている。
「なぁアニキ、そのダンジョンはどんな魔物が出るんだ?」
「なんでもゴーレム系が多いらしいよ」
ホクトが答えるとカジムは腕を組んで考え込む。
「う~ん、ゴーレムじゃ大剣はダメだよな。斧はまだマシか、どうしようアニキ」
カジムのメイン武器は大剣と斧だが、マッドゴーレムやウッドゴーレムなら大丈夫だが、ストーンゴーレム以上なら相性が悪い。
「カジムは、石や鉄は斬れないか……、それならメイスか戦鎚かな」
「もしかして、アニキと姐さんは石や鉄が斬れるのか、…………斬れるんだな。
凄えー、さすがアニキと姐さんだな。どうやって石や鉄を斬るんだ?」
カジムが疑いもせず純粋にホクトとサクヤの事を尊敬の眼差しで見ている。也は大きいが、まだまだ十二歳の真っ直ぐなカジムをホクトも気に入っていた。
「カジムは種族特性から言うと、魔力があまり多くないから、魔剣の類いの手を借りないと難しいだろうな。
僕達は剣や槍に魔力を纏わせる事が出来るからね。カジムもミスリルの剣辺りなら魔力を流すだけで斬れ味も上がるだろうけど、纏わせるとなると獣人族の魔力量じゃ難しいかな。
僕とサクヤは、魔力量はエルフの中でも豊富な方だからね。でもカジムは、僕達と同じ場所を目指さなくても良いんだよ」
ホクトは獣人族であるカジムに、自分の出来る事を伸ばす様にアドバイスする。それでも少し落ち込むカジムに、別の可能性を指し示す。
「永い修行の時間がかかるけど、獣人族のカジムでも習得出来る技術あるけどやってみるかい」
そう言うとカジムが分かり易いほど元気になる。
「教えてくれアニキ!」
ホクトはいきなり自分の髪の毛を一本抜くと、その髪の毛に気を纏わせる。すると青味がかった銀髪が、針金のように硬い暗器になる。
それをカジムに触らせる。
「……す、凄えよ、アニキ!!」
「これは魔力じゃなくて、誰にでも有るけど、誰にでも使える訳じゃない〈氣〉を練る技術で、〈内功〉とも言うんだ。
ただ、この〈氣〉の修行は、地味な修行を長く続けて初めて得られる技術だから、一朝一夕には習得できないからね。それに魔力を纏わせるよりも強化幅が小さいから」
ホクトはカジムを座禅させ、背後に回ると背中に手を当て自らの気を流す。
「分かる?氣の存在が?この氣を自在に操れるようになるには、長い修行が必要だけど、カジムは寿命が長い獣人族だから、何時か出来ると思うよ」
「あゝ、何だか力が入って来たのは分かるけど、自分でこの力を把握して使いこなすのは無理だな。だけどアニキと姐さんが出来るんだ。時間が掛かってもやってみせるよ」
「そうだな、取り敢えずゴーレムにはメイスか戦鎚を用意すれば良い。
それよりもカジムは実家に帰らなくても良いのか?」
王都からバーキラ王国まではヴァルハイム領よりも当然さらに遠い。片道三週間は掛かるだろう。
「ああ、俺はもう巣離れしたからな。別に帰らなくても良いんだ。俺達虎人族は一定の年齢になると、家を離れて独り立ちするんだ。だいたい大人になって番いが出来ると国に帰る奴が多いかな」
十二歳で独り立ちなんて獣人族は凄いとホクトとサクヤは感心する。エルフは逆に長く家族と一緒に住む傾向がある。そのせいでフローラはホクトと供に王都へ出て来たし、エヴァもサクヤと離れるのを淋しがった。
そこでホクトとサクヤは、時間が空くと長距離転移でヴァルハイム領の屋敷へと帰っていた。
「カジム、なら夏季休暇に入ったらダンジョンアタックするから準備はしておいてね」
「おう!まかせとけ!」
一度カジムをガンツの工房に連れて行かないとと思いながら、初めてのダンジョンに気分が高揚するホクトだった。
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