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2巻

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 一話 帰還した二人


 魔王国まおうこくの王都にそびえる巨大な城――魔王城と呼ばれる、魔王が住まう城。
 政治の中枢ちゅうすうであり、一番の精鋭部隊が守る場所。
 その城の一室に、地獄から帰還した夫婦がひざまずいていた。
 先代魔王の執事セブールの息子であるルードと、その妻ラギアだ。
 二人は魔王国から失踪しっそうした、セブールを訪ねるために、世界最大の魔境まきょうと呼ばれる広大な森林地帯、深淵しんえんもりに向かい帰ってきたところだった。
 二人の前には、この魔王国の宰相さいしょうデモリスと文官の長アバドン、武官の長イグリスの三人がいる。
 ここに魔王ヴァンダードの姿はない。だが、部屋の中は重苦しい空気で満たされていた。
 話の切っ掛けを作ったのは宰相のデモリスだった。

ずは無事の帰還、喜ばしい事だ」
「……ありがとうございます」

 固い表情のままルードが応える。

「我々の想定通り、セブール殿が迎えに来たようだな」
「……はい。そうでなければ、私とラギアはここにはいないでしょうから。まぁ、迎えに来たのは私達の娘であるリーファでしたが」
「んっ、んん、そうだな」

 デモリスは気まずそうにうなずく。
 セブールの家族であるルードが行けばセブール本人が現れるだろうという予測のもと、博打ばくちのような命令を出した後ろめたさを、彼も一応感じているのだ。
 二人を向かわせたのはいいが、リーファの迎えがなければ確実に死んでいた。これでは作戦とは言えない。死んでこいと命令するのと同義なのだから。

「それで、深淵の森に彼らの拠点は存在したのか?」
「ええ、中央部から少し西寄りの辺りに、広く開拓された場所がありました」
使つかで確認したのはまぼろしではなかったという事か。……それで、セブール殿がつかえているというくだんの人物と面識を得たのか?」
「はい。父上から紹介していただきました」
「おお! そうか!」

 ルードの返答に、魔王国の重鎮達は興奮気味に声を上げる。

「それでどうであった!」
「どんな奴だ?」

 デモリスが先をうながし、イグリスが興味津々きょうみしんしんに聞くのをアバドンが制止する。

「お二人とも少し落ち着いてください」

 しかしアバドンも早く報告を聞きたいので、改めてルードに促す。
 ルードは緊張しつつ告げる。

「では、先ずあの地の主人の名はシグムンド殿。外見の年齢は二十代なかばですが、あくまで外見上なので、あまり意味はないと思います」
「ふむ、シグムンドというのか。それでやはり貴種きしゅ吸血鬼きゅうけつきだったのか?」

 デモリスは「シグムンド」という名を興味なさそうに聞き流すと、種族の確認を優先した。セブールが姿を消せるようになっていたのを実際に目にしたため、気になっていたのだ。

「……分かりません」
「分からないとはどういう事だ」
「私の父と娘はおそらく吸血鬼の眷属けんぞくだと思います」
「それなら、二人の主人であるシグムンドも吸血鬼で間違いないだろう」
「シグムンド殿を吸血鬼と言っていいのか……」

 ルードにはシグムンドが吸血鬼だと断定する事が出来なかった。
 そもそも、セブールもリーファも日の光の下で普通に活動していた。何より吸血鬼の特徴である赤い目をしていないのだ。だからルードははっきりと判断出来なかった。
 一応、セブールとシグムンドが会話の中で、自分達の種族を吸血鬼だと匂わせるような話をしていたのを聞いたが、それでもルードが知る吸血鬼とは違い過ぎた。
 ルードのはっきりしない態度に苛いたイグリスが怒鳴る。

「どっちなんだ!」
「…………」
「イグリス様、ここからは私が報告します」

 慎重で間違った発言を嫌う夫のルードに代わり、ラギアが話し出す。

「先ず、義父と娘は完全にデイウォーカーでした。しかも深淵の森を一人で余裕をもって活動出来る程強くなっています。そこからの推測と実際に目にしたシグムンド殿の印象を併せますと、吸血鬼なのは間違いありません。ルードが言うように、あの方を単純に吸血鬼と呼んでいいのか迷いますが……」

 ラギアは深淵の森から戻ったあと、ルードと二人で古い文献をあさり、吸血鬼について調べていた。結果、ある仮説を立てたのだ。

「私とルードの推測ですが、あの方は貴種吸血鬼以上の存在なのではないかと考えます」
「……むぅ、つまり、バンパイアロードだというのか」

 デモリスが口にした「バンパイヤロード」という存在は、ルードやラギアに確認したのではなく、自身も想定していた可能性の一つだった。
 そこへ、今まで黙って聞いていたアバドンが情報をまとめる。

「吸血鬼系なのは間違いないでしょうね。しかし、眷属であるセブール殿やリーファ嬢がデイウォーカー。しかも目が赤くない。となれば、二人の主人であるシグムンド殿はバンパイアロードに近い何かだと考えていいでしょう」

 バンパイアロードは、魔王国でもお伽話とぎばなしの中の存在だ。魔王国だけでなく、西方諸国や歴史の古いジーラッド聖国でも同様に扱われている。
 強大な魔力と身体能力を持つとされ、限りなく不死に近い闇の王という意味を込め、「不死王ふしおう」と呼ばれるのだ。
 そんな存在が、魔王国から離れているとはいえこの大陸に現れたとなれば、その厄介さは魔王国と対立関係にあるジーラッド聖国どころの話ではない。

「それで、そのシグムンドという奴は強そうだったのか?」

 そう問うたのは、武官の長であるイグリスだ。彼は脳筋のうきんという訳ではないが、それでも強さを重視する傾向にあった。

「イグリス様も、義父の実力が陛下を超えていると感じられたのでしょう? その主人であるシグムンド殿がそれ以下であるとは思えませんが? 正直に申しますと、私やルードにシグムンド殿の実力など分かりませんよ。あの方の実力を測るには、私達は矮小わいしょうに過ぎますから」

 イグリスは、ラギアからそう聞いて、シグムンドの実力の程を理解した。

「…………そりゃバケモノだな」

 イグリスや魔王ヴァンダードは、ともすればその力故に周りの者を怖がらせる。身体から漏れ出す魔力や気配が他者を威圧するためだ。
 それがなかったという事は、シグムンドが魔力を完璧に制御している事になる。
 魔力は強くなればなる程制御が難しくなる。それが膨大な魔力を持つといわれているバンパイアロードなら尚更だ。
 イグリスの口から漏れ出た「バケモノ」という言葉に、アバドンも頷いていた。そしてアバドンは、文官らしく少しでも多くの情報を得ようとする。

「……そのシグムンド殿の事を詳しく聞きたい」

 ラギアが細かく情報を話していく。

「そうですね。先ず、粗暴そぼうではありません。偉ぶる事もありませんでした。髪の色は銀色で、目の色は赤ではなく青です。魔力は大きいのでしょうが、周りを、というか私達をでしょうが、気遣って少しも漏らさなかったので、正確には分かりません」

 そこへ、ルードがつけ加える。

「そうだ。シグムンド殿は光魔法を使っていました」
「そうね。自身に浄化魔法を、汚れ落としで使ってましたね」

 二人から与えられた情報に、その場の面々は驚愕きょうがくする。

「「「なっ⁉」」」

 高い不死性を持つバンパイアロードにも弱点はある。光属性の魔法だ。それにもかかわらず、光属性魔法を汚れ落としとして使うというのも理解に苦しむが、自分に掛けて平気なのであれば、シグムンドはバンパイアロードの弱点を持たない事になる。

「不死王……まさか私の生きる時代に現れるなんて……」

 アバドンが独り言のように呟いたのを、イグリスが訂正する。

「アバドン、ただの不死王じゃないぞ。弱点らしい弱点を持たない究極の不死王だ」

 深淵の森に住まうのは――光属性、聖国でいう神聖属性に弱いとされる闇の王ではなく、その光属性の魔法すら操る特別な存在だったようだ。

「……王城の文献を隅々すみずみまで調べるか。もしその不死王が魔王国にきばいた時、対応不可能では済まんからな」

 デモリスがそう言うと、イグリスとアバドンは意見する。

「宰相、そこは不死王と敵対する可能性を潰す努力をするべきだぞ」
「ええ。今までも深淵の森に向かう者などいませんでしたし、我らから戦いを仕掛けなければ大丈夫でしょう」

 武官と文官の長だけあって、イグリスとアバドンはリアリストだった。現魔王をはるかに超えるだろう存在と敵対するよりも、共存する道を選ぶのは当然の選択だ。
 それでも、デモリスは不死王に屈する事を拒否したいと考えていた。
 魔王国の宰相として、大陸随一の強国である魔王国が、個人に屈するのは彼の中ではあり得ないのだ。
 もっとも、シグムンドがただの不死王ではなく、ゴースト系、スケルトン系、バンパイア系の三つの最終進化形態を経た存在だと知れば、デモリスの考えも違っただろうが……



 二話 聖国の間者かんじゃ


 先代魔王バールは、西方諸国連合に戦争を仕掛けていた。しかし、バールの息子であるヴァンダードがバールをたおした事で、魔王国と西方諸国との戦争はあっけなく終結してしまう。なお、魔王国を敵視している聖国とだけは、現在も停戦しているのみだ。
 争いがなくなった事で、魔王国と西方諸国の間に、交易以外の人的交流が徐々に広がっていった。
 魔族は外見が人族と変わらない者も多い。また人族とは掛け離れた姿でも、多くの魔力を持つ者は、セブールやリーファのように完全な人型に変化する術が使える。
 基本的に普段の生活は人型の方が何かと便利なので、魔王国で人型から掛け離れた姿のまま生活する者は少ない。
 西方諸国との戦争が落ち着いてからの魔王国では、人型で暮らす魔族達が更に多く見られるようになった。
 ただしそうなると、西方諸国やジーラッド聖国の人間が間者として紛れ込むようになる。
 西方諸国の間者の諜報ちょうほうは、魔王国の農作物の収穫量など、交易での方針を決めるためという意味合いが強いが、ジーラッド聖国からの間者がしているのは100パーセント敵対的な諜報活動だった。
 だが、人族が増えたとはいえ、まだまだ魔王国では少数派なので、間者の割り出しは容易だった。
 そのような間者に対しデモリスは、排除するのではなく、わざと泳がせて監視する方法を取っていた。
 漏れても問題のない情報を渡す事で、逆に聖国の動向を探っているのだ。


 そのジーラッド聖国の間者がたむろする酒場が、街外れにあった。
 魔王国は、隠密おんみつ気配遮断けはいしゃだんに特化した使い魔に彼らを常時監視させているが、聖国の間者では気付く事は出来ない。
 魔族やエルフと比べると、人族は魔力の感知や扱いに関して、一段も二段も劣っている。それは種族特性なので仕方ない。
 普通なら人族を間者にせず、魔法適性の高い他種族の人材を間者に使うのだろうが、ジーラッド聖国は自分達を神の子孫だと言ってはばからないため、奴隷以外で他種族を使う事はないのだ。
 その日は、三日ごとにある、ジーラッド聖国の間者が集まる日だった。
 魔王城のある王都に潜伏する間者の数は十人程だが、一回の会合で集まるのは通常三人から四人だ。
 出来るだけ固定のメンバーにならないよう、潜り込んだ職種によって幾つかのグループを作り、その中から交代で情報交換する人間を決めていた。
 今回は、商人風の男と職人風の男、人足風にんそくふうの男が、一つのテーブルに集まり話している。
 なお、こういった平民のような格好をしているのは、魔王国に魔物の討伐を生業なりわいとする冒険者や傭兵がいないからだ。
 人族が見るからに傭兵の姿をしていると、魔王国ではそれだけで警戒対象になる。これは長年戦争してきた種族同士なので仕方ない。
 これまで、この会合で重要な情報がやり取りされる事はあまりなかった。デモリスがわざと重要度の低い情報だけを漏らしていたので、それも当然だ。
 他愛もない雑談のあと、商人風の男が掴んだ情報を話す。

「どうやら先代魔王のバールに仕えた執事の爺さんと孫娘、この魔王国から消えたらしい」

 職人風の男が言う。

「ふーん、そんな話はどこにでもありそうだがな」

 治安のよくないこの世界、人の一人や二人いなくなる事など珍しくもない。

「いや、あの先代魔王の執事だぞ。その辺のジジイとは訳が違う。あの悪夢のような先代魔王に諫言かんげんしてたって話だぞ」

 商人風の男に告げられ、職人風の男は驚く。

「あの傍若無人ぼうじゃくぶじんの先代魔王にか。それはすげえな」

 人類全てに戦いを挑んだ恐怖の代名詞のようなあの先代魔王に諫言出来る人間が、当時どれだけいただろうか。あの先代魔王の執事というだけで、並々ならぬ人物だと想像出来る。
 人足風の男が話す。

「それ、俺も掴んだな。執事の爺さん達は隠居して、酔狂すいきょうにも深淵の森の北側外縁がいえんを設けていたらしい」

 商人風の男が信じられないという顔をする。

「正気か、そのジジイ」
「深淵の森の北側はまだマシらしい。まあ、俺達にとっちゃ真ん中も北側も変わらないがな」

 ジーラッド聖国の人間にとって、深淵の森とは足を踏み入れるべき場所ではない。そこは彼ら人族にとって地獄と同義だった。
 そもそも、人族と魔族の魔力や身体能力には大きな差がある。人族が種族として優れているのはその数だ。他の種族と比べ、この大陸では圧倒的に数が多い。個としては平凡な能力だが、その数で国を興し繁栄してきた。
 かく、そんな魔族に比べて能力の低い人間にとっては、外縁部とはいえ深淵の森で暮らすなんて自殺行為なのだ。


 それからしばらく経った数日後、執事の息子とその妻が深淵の中心部へ派遣されたという情報が広まった。
 最初、その話を聞いたジーラッド聖国間者全てが、偽の情報だと判断した。
 深淵の森へ派遣するという事は、死刑判決と変わらないのだ。
 だというのに、二人は無事に帰ってきたらしい。深淵の森の調査を断念したのかと思ったが、どうもはっきりしない。
 そもそも深淵の森に、二人を派遣した理由はただの調査なのか? 例の元執事と、そして一緒に消えたとされる孫娘が、まだマシだといわれる北側の外縁部から、中心部寄りに移り住んだとでもいうのか?
 それこそあり得ないと、王都の間者達は数回にわたり話し合った。
 魔王国は深淵の森で何かを計画しているのか? この情報をそのまま本国へ報告しても大丈夫なのか?
 もしも深淵の森を調べろなんて指示が来れば、自分達は自ら死にに行く事になる。
 今のジーラッド聖国の王バキャルは、それを平気で言う王だった。
 まこととうとき血筋は王族であり、バキャルであると、そしてそのバキャルのために死ぬのは光栄な事だと、真顔で言う王なのだ。
 特に最近のバキャル王は機嫌が悪いので、その指示を出す確率は高い。
 何故なら最近ジーラッド聖国は、西方諸国を出し抜いて大陸の南に位置する草原地帯へ侵攻し、領土を広げる計画を立てたのだが、それが頓挫とんざしてしまったからだ。
 というのもなんの冗談か、今まで深淵の森でも確認されていなかった厄災級の魔物、グレートタイラントアシュラベアが、その縄張りを草原まで広げたのだ。
 グレートタイラントアシュラベアの基本的な縄張りは、深淵の森。しかし数日に一度森を出て、南の草原にやって来る。その行動は完全にランダムで、数日続けて姿を見せたと思えば、三日おきの時もある。もっと間隔がく場合もある。
 もしジーラッド聖国が草原地帯に進軍中に出くわせば、壊滅的な被害が出る可能性が高い。いや、間違いなくそうなるだろう。
 聖国は領土を拡大し国力を増強、草原で暮らす遊牧民を奴隷にして、魔王国との戦争の際には最前線で突撃部隊として使う予定だった。
 しかし、グレートタイラントアシュラベアの出現で、その目論見もくろみが根底からくつがえってしまった。
 結局、侵攻計画を中止するより選択肢がなかった。
 それでも諦めきれないバキャル王は、グレートタイラントアシュラベアの討伐が出来ないか、何度も軍や傭兵組織、冒険者ギルドに問い合わせたが、軍も傭兵も冒険者ギルドも無駄死にさせるために人員を派遣するのは拒否した。
 軍は戦争ともなれば死地へも赴くが、勝利を求めて行くのだ。勝てる見込みが初めからない勝負はしない。
 そんな事もあり、深淵の森で魔王国に動きありとなれば、機嫌の悪いバキャル王から間者達へ、詳しい情報を掴めという命令が下るのは間違いなかった。
 王都に潜伏する間者達はそのように考えて、確かな情報を集めてからもう一度判断するという事で意見が一致した。
 間者には特に愛国心の強い者が選ばれているが、彼らも国のためとはいえ無駄死にはしたくないのだ。深淵の森の調査など、ろくな情報も得られず死ぬと確定しているような仕事だ。
 いずれにしてもこうして、ジーラッド聖国がシグムンドの存在を知るには、まだ暫く時間が掛かる事になるのだった。



 三話 子供プール


 俺――シグムンドは今、広いキッチンにいる。金属製のボウルに入れた果汁を、魔法で冷やしながらかき混ぜている最中だ。
 季節は夏に差し掛かり、この森でも気温が高くなってきた。
 俺や、俺の眷属となったセブールとリーファは暑さ寒さに強い。更に二人が着ている服には温度調節のエンチャントがほどこしてある。
 けれどエルフのルノーラさんや、その子供のミルとララ姉妹は、同じ服を着ていても暑いみたいだ。
 屋敷の中は魔導具まどうぐで一定の温度に保たれているが、外で遊ぶミルとララは汗だくになっている。
 水分補給には気を付けているものの、何か涼しくなるような夏の楽しみを考えた方がいいかな。

「魔王国では、夏の子供の遊びってどんなのがある?」

 俺の斜め後ろで控えているリーファに聞いてみた。

「夏の遊びですか?」
「ああ、ミルとララが外で遊ぶと汗だくになってるだろ? まぁ、それも夏を肌で感じるって考えると悪くはないがな」

 子供の頃は夏休みになると海に行ったり、市民プールで遊んだり、夜店に出掛けたりして遊んだものだ。
 だけど、この世界での子供の夏の娯楽を俺は知らない。
 リーファが答える。

「川で水遊びをした記憶はありますね。ただ、水が綺麗きれいで魔物の少ない川に限りますけど」
「ああ、水の中にも魔物がいたな」

 森の中には川が流れている。上流の水深が浅い場所は魔物の姿はなく安全だけど、下流に行くにつれ水深が深くなり、川幅は広くなる。そうなると、水棲すいせいの魔物を見るようになるのだ。
 で、そいつらは馬鹿なのか、俺にも平気で襲い掛かってくる。水中から飛び出して突撃してくるんだ。
 まぁ、そんなのが百匹来ようが二百匹来ようが平気だし、そういう魔物は食べられるから、俺は楽な漁と考えているんだけど。
 でも、ミルとララを川で遊ばせるのは心配だな。

「じゃあ、安全に遊べるようにプールでも作るか」
「プール?」

 リーファが首を傾げている。リーファには「プール」という言葉は通じないみたいだ。
 それから俺はリーファに、プールについて簡単に説明してあげた。

露天ろてんの浴場ではないのですね」
「ああ、泳いで遊ぶ場所だな」
「つまり、水浴びの場所を作るのですね」
「ま、まぁ、そんなものかな」

 プールで遊ぶという事はリーファにとって理解しがたいようだ。
 魔王国はつい最近まで大陸の全国家を相手に戦争をしていた。子供が水遊びをするような余裕がなかったのか。それとも、一般の国民は子供でも働かないといけないからそんな暇がなかったのか。
 その辺はあとで教えてもらう必要があるな。日本人の感覚じゃ皆とズレてるだろうしな。
 おっと、そうだ。プールといえば、リーファには大事なお願いがあるんだ。

「……水着?」
「ああ、服のままだと泳ぎにくいだろ。水遊び専用の服を作ってほしいんだ」
「どのようなものか教えていただいてもよろしいですか?」
勿論もちろん。ちょっと待ってくれ、あとで絵を描くから」

 俺はかき混ぜる手を止め、魔導具の冷凍庫にボウルをしまう。
 そう、実は俺はミルとララのために、ジェラートを作ってたんだ。
 まだ牛乳や卵、バニラビーンズを手に入れていないので、アイスクリームは作れない。だから代わりに、果樹園で採れた果物の果汁からジェラートを作った。
 因みに俺がキッチンに入る事について、セブールもリーファも最初はいい顔をしなかった。だが、俺は貴族でもなんでもないからな。その辺はもう諦めてもらってる。

「ミルとララが喜んでくれるといいな」
「ジェラートというのですか。私は初めて見ました」
「そう? 美味おいしいと思うから、リーファも楽しみにしててよ」
「はい!」


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