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戦略会議
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永禄十二年(1569年)六月 伊勢国 桑名城
桑名城に織田信長が訪れた。
目的は、今後の戦略についての会談である。
話し合う議題は、遠江、駿河の問題。
武田信玄に勝利したが、徳川家だけは惨敗に等しく、浜松城を守ることも難しくなって来た。
後は織田家に対しても戦端を開いた、武田家に対する対応だ。
「遠江は難しいですね。織田家にとっても北畠家にとっても、飛び地になりますからね」
「で、あろう。ただ東美濃の岩村城を拠点に信濃に出陣せねばなるまい。遠江にしても軍を動かさねば、徳川家だけでは守りきれん」
信長が難しい顔で言う。
「では、織田家は二面作戦という事ですね」
「なかなかそれも考え物でな、信濃は良いが、甲斐は金山くらいしか旨味がない土地だからな」
源太郎も考え込んでしまう。
出来れば遠江、駿河は抑えた方が良い。
駿河に北條が侵攻して来る前に、遠江は盤石にする必要がある。
「北條が武田と手切れになり、上杉と同盟を結んだのも話がややこしくなる原因よ」
北條家には、今川氏真が身を寄せている。駿河は必ず取り戻したいだろう。
「徳川殿は厳しいですか」
「三河一国を治めるのも精一杯よ。国人や重臣の不満も溜まっているようだ。
あそこは地侍の力が強いからのう。徳川殿も苦労しておるようだな」
北畠家としては播磨から備前、美作、周防、長門山陰、山陽、因幡、出雲、阿波、讃岐、伊予、高知と西国へ進出する予定だったが、遠江、駿河を先に片付けた方が良いのか悩む所ではある。
毛利元就の先も長くないと報告が上がっている。
そうなれば西国の事情も変化があるだろう。
北條が上杉と同盟を結んだことも話を複雑にしている。
北畠家と上杉家は、直接敵対した事は無く、寧ろ交易を通して、その関係は良好である。
「遠江はまだしも、駿河に進出すれば、北條が黙ってないでしょうね」
「そうなると上杉がどう動くか読めなくなる」
源太郎と信長が、揃って難しい顔をする。
「一度徳川殿の意向を聞いてみますか」
「で、あろうの」
結局、一旦時間を置いて、何時でも動ける準備だけはしておく事になった。
永禄十二年(1569年)六月 美濃国 岐阜城
信長が岐阜に戻り、直ぐに徳川家より面会を求める人物が現れた。
「で、徳川殿から何か報せがあるのかな」
信長が目の前に控える武将に問い掛ける。
「はっ、先の戦さにおける徳川家の被害大きく、徳川家のみで遠江を治める事かなわぬと。
つきましては、織田家に助力して頂きたいとの事です」
信長にそう言ったのは、石川数正。徳川家康の片腕と目される知将。酒井忠次と共に徳川家を支えた武将である。
史実では、小牧長久手の戦いの後、出奔して豊臣秀吉に臣従した。
「ふむ、徳川殿は三河を纏める事に力を注ぐか」
「三方ヶ原で、酒井左衛門尉殿が討死した事が、御家内部の動揺は大きかったようです」
信長は家康から泣きついて来た事に驚いていた。
織田家が遠江に入るという事は、徳川家が織田家の服属大名となるという事だ。
武田、北條と直接接する事は無くなるが、今川の元から抜け出て、武田と謀り遠江を切り取ったが、多くの家臣を失い、三河一国を治めるのも四苦八苦している状況だった。
「三左衛門、五郎左に浜松城へ入るよう伝えよ」
信長が森可成に、丹羽長秀を浜松城の代官とする人事を告げる。
「それと、左中将殿にも、この事を伝えよ」
信長は遠江と信濃を攻める事に決めた。
未だ武田軍は、戦国一の軍団だろう。北畠家を除けばと言う注釈が付くが。
織田家は、東美濃と遠江で武田家と対峙する事になる。
東美濃の岩村城を抜く事は武田軍でも難しいだろう。問題は、遠江を織田家だけで防衛出来るのかという問題がある。
石川数正が退出した後の部屋で、信濃と遠江に送る家臣の人選を考える。
岩村城は、引き続き柴田勝家でいいだろう。そこに佐々成政と前田利家を付けるか。
どちらにしても遠江へ北畠の援軍が、素早く駆けつけれるよう、街道の整備も急がねばならない。
北畠領内と織田領内は、広くて整備された街道が完成しているが、三河から遠江は以前のままだ。
「三左衛門、遠江に抜ける三河領内の街道の整備を徳川殿に依頼しておいてくれ」
「御意」
森可成が一礼して退出して行く。
織田家が遠江に入った事により、北條と敵対する事になるかもしれないが、出来れば謙信とは戦いたくない信長だった。
桑名城に織田信長が訪れた。
目的は、今後の戦略についての会談である。
話し合う議題は、遠江、駿河の問題。
武田信玄に勝利したが、徳川家だけは惨敗に等しく、浜松城を守ることも難しくなって来た。
後は織田家に対しても戦端を開いた、武田家に対する対応だ。
「遠江は難しいですね。織田家にとっても北畠家にとっても、飛び地になりますからね」
「で、あろう。ただ東美濃の岩村城を拠点に信濃に出陣せねばなるまい。遠江にしても軍を動かさねば、徳川家だけでは守りきれん」
信長が難しい顔で言う。
「では、織田家は二面作戦という事ですね」
「なかなかそれも考え物でな、信濃は良いが、甲斐は金山くらいしか旨味がない土地だからな」
源太郎も考え込んでしまう。
出来れば遠江、駿河は抑えた方が良い。
駿河に北條が侵攻して来る前に、遠江は盤石にする必要がある。
「北條が武田と手切れになり、上杉と同盟を結んだのも話がややこしくなる原因よ」
北條家には、今川氏真が身を寄せている。駿河は必ず取り戻したいだろう。
「徳川殿は厳しいですか」
「三河一国を治めるのも精一杯よ。国人や重臣の不満も溜まっているようだ。
あそこは地侍の力が強いからのう。徳川殿も苦労しておるようだな」
北畠家としては播磨から備前、美作、周防、長門山陰、山陽、因幡、出雲、阿波、讃岐、伊予、高知と西国へ進出する予定だったが、遠江、駿河を先に片付けた方が良いのか悩む所ではある。
毛利元就の先も長くないと報告が上がっている。
そうなれば西国の事情も変化があるだろう。
北條が上杉と同盟を結んだことも話を複雑にしている。
北畠家と上杉家は、直接敵対した事は無く、寧ろ交易を通して、その関係は良好である。
「遠江はまだしも、駿河に進出すれば、北條が黙ってないでしょうね」
「そうなると上杉がどう動くか読めなくなる」
源太郎と信長が、揃って難しい顔をする。
「一度徳川殿の意向を聞いてみますか」
「で、あろうの」
結局、一旦時間を置いて、何時でも動ける準備だけはしておく事になった。
永禄十二年(1569年)六月 美濃国 岐阜城
信長が岐阜に戻り、直ぐに徳川家より面会を求める人物が現れた。
「で、徳川殿から何か報せがあるのかな」
信長が目の前に控える武将に問い掛ける。
「はっ、先の戦さにおける徳川家の被害大きく、徳川家のみで遠江を治める事かなわぬと。
つきましては、織田家に助力して頂きたいとの事です」
信長にそう言ったのは、石川数正。徳川家康の片腕と目される知将。酒井忠次と共に徳川家を支えた武将である。
史実では、小牧長久手の戦いの後、出奔して豊臣秀吉に臣従した。
「ふむ、徳川殿は三河を纏める事に力を注ぐか」
「三方ヶ原で、酒井左衛門尉殿が討死した事が、御家内部の動揺は大きかったようです」
信長は家康から泣きついて来た事に驚いていた。
織田家が遠江に入るという事は、徳川家が織田家の服属大名となるという事だ。
武田、北條と直接接する事は無くなるが、今川の元から抜け出て、武田と謀り遠江を切り取ったが、多くの家臣を失い、三河一国を治めるのも四苦八苦している状況だった。
「三左衛門、五郎左に浜松城へ入るよう伝えよ」
信長が森可成に、丹羽長秀を浜松城の代官とする人事を告げる。
「それと、左中将殿にも、この事を伝えよ」
信長は遠江と信濃を攻める事に決めた。
未だ武田軍は、戦国一の軍団だろう。北畠家を除けばと言う注釈が付くが。
織田家は、東美濃と遠江で武田家と対峙する事になる。
東美濃の岩村城を抜く事は武田軍でも難しいだろう。問題は、遠江を織田家だけで防衛出来るのかという問題がある。
石川数正が退出した後の部屋で、信濃と遠江に送る家臣の人選を考える。
岩村城は、引き続き柴田勝家でいいだろう。そこに佐々成政と前田利家を付けるか。
どちらにしても遠江へ北畠の援軍が、素早く駆けつけれるよう、街道の整備も急がねばならない。
北畠領内と織田領内は、広くて整備された街道が完成しているが、三河から遠江は以前のままだ。
「三左衛門、遠江に抜ける三河領内の街道の整備を徳川殿に依頼しておいてくれ」
「御意」
森可成が一礼して退出して行く。
織田家が遠江に入った事により、北條と敵対する事になるかもしれないが、出来れば謙信とは戦いたくない信長だった。
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