異世界立志伝

小狐丸

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戦争の噂

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 エルと連れだって、十日ぶりに冒険者ギルドにやって来た。

 ギルドの建物に入ると、受付のアンさんに手招きされる。

「「おはようございます」」

「おはようございますカイトさん。早速ですが、魔物の肉や素材の納品はありませんか?有れば是非とも納品して欲しいのですが」
「ええっと、結構有るには有りますけど、何かあったんですか?」

 ギルドに着いていきなりの素材納品依頼に、不思議に思って受付のアンさんに聞いてみる。

「実は、何時ものゴンドワナ帝国との戦争なんですけど、今回は少し事情が違うみたいなの」

 アンさんの真剣な表情に、余り良い話ではないと感じる。

「いつものって言うことは、よく戦争してるんですか?」
「帝国との戦争自体は定期的にあったのよ、国境を接するバスターク辺境伯と帝国のチラーノス辺境伯との間でね」
「でも今回は少し何時もと違うと?」

「ええ、何時もの戦争では両辺境伯軍共に五千人動員するのが精一杯なんです。ところが今回チラーノス辺境伯は、傭兵や近隣貴族家からも兵を借り、一万の軍を動員してきたみたいなんです」

 話を聞いているエルの顔色が悪くなっているのが分かった。

「それでギルドに食料や、軍事物資の提供依頼が有ったんですね」
「戦力としての依頼も出ています」

 その後、ギルドの倉庫にアイテムボックスの中に入っていた魔物を、必要な物以外を放出した。

「カイトさん、大量に納品ありがとうございます。査定は後日でお願いします」




 ギルドや酒場で情報を集めたあと、暗い顔をしたエルを連れて家に帰った。

「エル、心配なんだろう」

 エルがハッとした顔をして俺を見る。なんだろう?俺が気がついていないと思ってたのかな?

「……カイト、気付いてたの?」

「エルに言ってたか忘れたけど、俺、鑑定スキル持ってるから、最初から貴族の出身だと知ってたよ。だいたいアンナさんがお嬢様って言ってるのに、それだけでも良家の子女だと分かるよ」

 エルが呆然としている。

「いや、エル驚いてるけど、その歳で家事を一切出来ないなんて普通じゃないからね」

「全部じゃないし、洗い物なら出来るし」

「18枚」

「へっ?」

 アンナさんが唐突に言った数字に、エルがおかしな声をだす。

「お嬢様が割ったお皿の数です」
「何で数えてるのよー!」

 エルが膝から崩れ落ちる。

「おっ、お皿が悪いのよ!形が落とし易いの!」

 エルが絶叫する。

「エルおねえちゃん、コップも壊してたよー」

 ルキナが追い討ちをかける。

「ううっ、ルキナまでぇ~」

「まぁエルが家事を出来ないのは、この際どうでも良いから。エルはバスターク領が心配なんだろう。出来れば帰りたいくらいに」
「……私が帰っても、何も役に立たないわ」

 ギルドや酒場で集めた情報によると、バスターク辺境伯は領都バンスで籠城するそうだ。そのための兵糧を集めているらしい。
 このままでは領都以外の町や村は、帝国に蹂躙されるだろう。全ての領民をバンスに入れて籠城は出来ない。

「役に立たないなら、俺が役に立てるようにしてやるよ」
「カイト?」

 エルは俺の言った言葉の意味がわからず、困惑している。

「まあ俺に任せておけ」




 俺は工房に向かい、L-ATV擬きの軍用車両を取り出す。
 今回、装甲銃塔キットを開発して取り付けた。
 遠隔操作式銃塔にして、安全に車内から攻撃出来るようにする。
 銃塔は、Aランク魔石を五つ使用。
 火魔法・風魔法・氷魔法・無属性魔法の法撃用に四つの魔石を使用。制御用に一つの魔石を使った。
 車内の改造を済ませ、エル達のもとへ戻る。



「エル、アンナさん、食料や必要な物を買って来てくれる。明日の朝一でバスタークへ行こう」
「いいのカイト?」

 エルは複雑な表情をしている。俺に悪いと思っているのだろう。

「エルの故郷だろ、親や知り合いもいるんだろう」

 エルが泣きながら抱きついて来る。俺はエルを抱きしめ背中を摩る。

「エル、俺に任せておけ。一万なんて俺が蹴散らしてやる」
「お嬢様急ぎます。泣いてないで行きますよ!」

 アンナさんがエルを連れて家を飛び出して行った。


「ルキナも着替えを鞄に入れておいで」
「ルキナも一緒に行けるの?」

 ルキナが不安そうに俺を見上げる。

「あゝ、今回はみんなで行こう。大丈夫、ルキナを護る仕掛けも造ったからね」

 ルキナがひしっと抱きついて来る。

「カイトおにいちゃんありがとう」



 その後、俺は料理の作り置きを作りにキッチンに向かう。ルキナもお手伝いしてくれた。
 シチューを何種類か作る。他にも唐揚げやオーク肉の薄切りを使って豚天を作る。ちなみに油は、錬金術で自作しているので安あがりだ。
 マヨネーズも追加で作っておく。
 自作の天然酵母を使って、石窯で焼いたパンも多めに持って行く。

「カイトおにいちゃん……、プリン」

 ルキナがプリンも作って欲しそうに俺を見る。そんな目に逆らえる訳がないじゃない。

「分かったよ、プリンも作ろうね」
「やったー!」

 ルキナがその場でクルクル回って喜んでいる。

 プリンを蒸し終えて、冷蔵庫で冷やした頃に、エルとアンナさんが帰って来た。

「「ただいま(戻りました)」」
「「おかえり(なさい)」」

 空間拡張した鞄を持って行っていたので、鞄一つを手に持ち帰って来た。

「肉は魔物肉がまだ一杯あるから、小麦粉と野菜類を買ってきたわ。あと調味料とポーション類を買ったわ」
「あゝ、最近ポーション類を作ってなかったな。やっぱりいざという時の為に作り置きしておくべきだったな」

 最近、調合スキルの訓練をサボっていた事を反省した。



 今日は、早めの夕食を食べて、冷蔵庫で冷やしいたプリンをアイテムボックスに収納する。多めに作っていたプリンを見た、エルとアンナさんも喜んでいた。

 交替でお風呂に入り、魔法でエルとルキナの髪の毛を乾かして、何時もより早くベッドに入った。

 翌日の早朝、アイテムボックスから装甲軍用車両を取り出し、全員が乗り込むと南に向けて出発した。

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