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兎人族のイリア
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朦朧とする意識が、浮上しては沈み、寝ているのか、起きているのか、死んでいるのか、生きているのか、何もかも分からない。
あぁルキナ、私の可愛いルキナは……。
あれは、亜人排斥運動の激しいローラシア王国から、種族間差別を法律で禁じる、サーメイヤ王国への逃避行の途中だった。
私は兎人族のイリア。
獣人の中でも、狼や獅子などの戦闘種族と違い、兎人族は普通非戦闘種族だが、私は兎人族には珍しい、戦闘職を選択していた。
獣人の高い身体能力と兎人族特有のジャンプ力を活かし、近接戦闘を行う純粋なファイターだった。
異変に気付いたのは、サーメイヤ王国の国境付近だった。
魔物の臭いに気付き、ルキナを夫に任せ、私が魔物を惹きつけ、戦う決意を固めた。
現れたのはレッドウルフの群れだった。
レッドウルフ単体ではそんなに強い魔物ではないが、群れで行動するレッドウルフはそれだけで、脅威になる。
夫と娘を逃し、必死にレッドウルフを葬り続ける私は、気が付けば右手はなくなり、耳は千切れ、片目も潰れて見えなかった。片足も動かないまま這いつくばる私は意識を手放した。
朦朧とする意識の中、奴隷商に拾われ、何処かに連れて行かれ、暗い湿った部屋で死を待つのみだった。
ルキナのお母さんの状態を確認する為に、部屋に入るとルキナがルフトと遊んでいた。ルキナも大分落ち着いたみたいだ。
「あっ!カイトおにいちゃん!」
ルキナが飛びついて来るのを、受け止め抱き上げる。
「カイトおにいちゃん、ママ元気になるよね」
「あゝ、直ぐに目を覚ますよ」
ルキナのお母さんの顔色も良くなっている。呼吸も安定しているから、意識を取り戻すのも、もう直ぐだろう。
「ルキナねえ、ルキナがママを守ってあげるの。ママにルキナが強くなったの、教えてあげるの」
「そうだな、ルキナ強くなったもんな」
その後、ルキナがルフトに乗って、部屋の中を歩き回るのを眺めて過ごした。
ルキナの楽しそうな声が聞こえる。
誰かと一緒?パパに遊んで貰っているの?
あの人とは違う若い少年の声?
ここはどこ?
段々、意識がはっきりとして来る。
ゆっくりと目を開ける。
綺麗な天井が見える。
フカフカのベッドに寝ているの?
「あっ!ママが起きてる!ママーー!」
私の視界にルキナが飛び込んで来る。
「……ルキナ!ルキナなのね。無事だったのね」
自然と涙が溢れて、ルキナの顔が見たいのに、ぼやけてよく見えない。
「気がつきましたか?」
綺麗な銀髪の少年が笑顔で聞いてきた。
誰だろう。
そうだ、私は奴隷商に売られたんだ。
じゃあ、私を買った人?
じゃあルキナはどうしているの?
「もう大丈夫ですからね」
「ママ良かったね」
首を横に向けると視界に巨大な虎が入る。
「ッ!」
「あぁ大丈夫ですよ。あれはルキナを守る為に造った物ですから」
「ママ!ルフト凄いでしょう。ルキナのなんだよ」
ルキナの?造った?
「あれは僕が造ったゴーレムみたいな物です」
私が不安に思ったのが分かったのか、説明してくれた。
「あの、ここは、私はどうなったのですか?」
「今説明しても身体は大丈夫ですか?」
「あっ!気がついたの!」
その時、部屋に眩しいほど美しい金髪の少女が入って来た。
「あぁ、これからルキナのお母さんが、どうしてここに居るのか説明するところだよ」
「お水飲みます?」
金髪の少女が、私の身体を起こして水を飲ませてくれた。
「……美味しい」
「じゃあ順番に説明しますね」
それからルキナがマドゥークで保護された経緯を聞いた。夫が亡くなっていた事も。
それは奇跡だと思った。
このカイトという銀髪の少年が、今にも消え入りそうなルキナの気配を感じたという、信じられない偶然。魔物に襲われ欠損していた怪我まで治してしまう奇跡の術。
それから私を奴隷商で見つけた経緯も教えてくれた。正直、魔力の波長がルキナの物と似ていたと、いう説明には理解出来なかったけど、この時になって初めて、私の無くなった右手がある事に気付いた。目も両方の目が見える。
あぁこの人だから私達親子は生きているんだ。
「助けて頂いてありがとうございます。カイト様の奴隷として、精一杯仕えますのでよろしくお願いします」
そう言って深く頭を下げると、カイト様とエルレイン様に笑われた。
「えっとイリアさんですね。イリアさんはもう奴隷じゃないですよ」
「えっ?」
慌てて身体を調べてもどこにも奴隷紋がない。
「ルキナのお母さんを、奴隷のままにしておけないでしょう」
「そうよね。それも違法奴隷だもの。解放するのが当然よね」
お二人は普通に言ってるけど、お金を払って私を買って解放すれば、カイト様に一つも特にならないのでは?と聞いてみた。
「特なんて一杯有りますよ。ほらルキナもあんなに喜んでる。それだけで十分です」
「そうよね。ルキナは私達の妹でもあるんだから」
この家で、ルキナが本当に大事にされているのが分かった。
「早く元気になって、それからゆっくり将来の事を考えましょう」
「そうね、じゃあ夕食の時間にまた来ますね」
そう言ってお二人は部屋を出て行った。
「ママ!大丈夫?」
ルキナもこんなに明るく笑う様になって。
「ルキナはカイト様やエルレイン様が好きなのね」
「そうなの!ルキナを妹にしてくれたの。美味しいご飯を一杯食べさせてくれるの。ルキナはプリンが好きなの!」
あぁ、神様、カイト様を遣わして頂いてありがとうございます。ルキナを救って頂いてありがとうございます。もう一度ルキナに会わせて頂いてありがとうございます。
あぁルキナ、私の可愛いルキナは……。
あれは、亜人排斥運動の激しいローラシア王国から、種族間差別を法律で禁じる、サーメイヤ王国への逃避行の途中だった。
私は兎人族のイリア。
獣人の中でも、狼や獅子などの戦闘種族と違い、兎人族は普通非戦闘種族だが、私は兎人族には珍しい、戦闘職を選択していた。
獣人の高い身体能力と兎人族特有のジャンプ力を活かし、近接戦闘を行う純粋なファイターだった。
異変に気付いたのは、サーメイヤ王国の国境付近だった。
魔物の臭いに気付き、ルキナを夫に任せ、私が魔物を惹きつけ、戦う決意を固めた。
現れたのはレッドウルフの群れだった。
レッドウルフ単体ではそんなに強い魔物ではないが、群れで行動するレッドウルフはそれだけで、脅威になる。
夫と娘を逃し、必死にレッドウルフを葬り続ける私は、気が付けば右手はなくなり、耳は千切れ、片目も潰れて見えなかった。片足も動かないまま這いつくばる私は意識を手放した。
朦朧とする意識の中、奴隷商に拾われ、何処かに連れて行かれ、暗い湿った部屋で死を待つのみだった。
ルキナのお母さんの状態を確認する為に、部屋に入るとルキナがルフトと遊んでいた。ルキナも大分落ち着いたみたいだ。
「あっ!カイトおにいちゃん!」
ルキナが飛びついて来るのを、受け止め抱き上げる。
「カイトおにいちゃん、ママ元気になるよね」
「あゝ、直ぐに目を覚ますよ」
ルキナのお母さんの顔色も良くなっている。呼吸も安定しているから、意識を取り戻すのも、もう直ぐだろう。
「ルキナねえ、ルキナがママを守ってあげるの。ママにルキナが強くなったの、教えてあげるの」
「そうだな、ルキナ強くなったもんな」
その後、ルキナがルフトに乗って、部屋の中を歩き回るのを眺めて過ごした。
ルキナの楽しそうな声が聞こえる。
誰かと一緒?パパに遊んで貰っているの?
あの人とは違う若い少年の声?
ここはどこ?
段々、意識がはっきりとして来る。
ゆっくりと目を開ける。
綺麗な天井が見える。
フカフカのベッドに寝ているの?
「あっ!ママが起きてる!ママーー!」
私の視界にルキナが飛び込んで来る。
「……ルキナ!ルキナなのね。無事だったのね」
自然と涙が溢れて、ルキナの顔が見たいのに、ぼやけてよく見えない。
「気がつきましたか?」
綺麗な銀髪の少年が笑顔で聞いてきた。
誰だろう。
そうだ、私は奴隷商に売られたんだ。
じゃあ、私を買った人?
じゃあルキナはどうしているの?
「もう大丈夫ですからね」
「ママ良かったね」
首を横に向けると視界に巨大な虎が入る。
「ッ!」
「あぁ大丈夫ですよ。あれはルキナを守る為に造った物ですから」
「ママ!ルフト凄いでしょう。ルキナのなんだよ」
ルキナの?造った?
「あれは僕が造ったゴーレムみたいな物です」
私が不安に思ったのが分かったのか、説明してくれた。
「あの、ここは、私はどうなったのですか?」
「今説明しても身体は大丈夫ですか?」
「あっ!気がついたの!」
その時、部屋に眩しいほど美しい金髪の少女が入って来た。
「あぁ、これからルキナのお母さんが、どうしてここに居るのか説明するところだよ」
「お水飲みます?」
金髪の少女が、私の身体を起こして水を飲ませてくれた。
「……美味しい」
「じゃあ順番に説明しますね」
それからルキナがマドゥークで保護された経緯を聞いた。夫が亡くなっていた事も。
それは奇跡だと思った。
このカイトという銀髪の少年が、今にも消え入りそうなルキナの気配を感じたという、信じられない偶然。魔物に襲われ欠損していた怪我まで治してしまう奇跡の術。
それから私を奴隷商で見つけた経緯も教えてくれた。正直、魔力の波長がルキナの物と似ていたと、いう説明には理解出来なかったけど、この時になって初めて、私の無くなった右手がある事に気付いた。目も両方の目が見える。
あぁこの人だから私達親子は生きているんだ。
「助けて頂いてありがとうございます。カイト様の奴隷として、精一杯仕えますのでよろしくお願いします」
そう言って深く頭を下げると、カイト様とエルレイン様に笑われた。
「えっとイリアさんですね。イリアさんはもう奴隷じゃないですよ」
「えっ?」
慌てて身体を調べてもどこにも奴隷紋がない。
「ルキナのお母さんを、奴隷のままにしておけないでしょう」
「そうよね。それも違法奴隷だもの。解放するのが当然よね」
お二人は普通に言ってるけど、お金を払って私を買って解放すれば、カイト様に一つも特にならないのでは?と聞いてみた。
「特なんて一杯有りますよ。ほらルキナもあんなに喜んでる。それだけで十分です」
「そうよね。ルキナは私達の妹でもあるんだから」
この家で、ルキナが本当に大事にされているのが分かった。
「早く元気になって、それからゆっくり将来の事を考えましょう」
「そうね、じゃあ夕食の時間にまた来ますね」
そう言ってお二人は部屋を出て行った。
「ママ!大丈夫?」
ルキナもこんなに明るく笑う様になって。
「ルキナはカイト様やエルレイン様が好きなのね」
「そうなの!ルキナを妹にしてくれたの。美味しいご飯を一杯食べさせてくれるの。ルキナはプリンが好きなの!」
あぁ、神様、カイト様を遣わして頂いてありがとうございます。ルキナを救って頂いてありがとうございます。もう一度ルキナに会わせて頂いてありがとうございます。
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