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若い王の悩み
王城の一室で、壮年の男が深く刻まれた眉間のシワを見せていた。
「どうなってしまうのであろうこの国は、…………バージェス王よ、この国の行く末を見守ってくだされ」
サーメイヤ王国宰相メルコムは、自身の力不足を嘆いていた。
サーメイヤ王国騎士団団長、ランクス・リッター・フレイバードも先代バージェス王を護れなかった事を悔いていた。同時に、現国王クレモンとの距離を感じていた。
クレモンは、同年代の貴族の子息の若者を集め、親衛隊を結成させると、従来の近衛騎士を遠ざけ始めた。騎士団長のランクスも遠ざけられ、実力不足の若者を側に置く愚を指摘すると、ますますランクスは、遠ざけられる事になる。
若くして王位を継いだクレモンは、バージェス王の時代からこの国に仕える宰相のメルコムや騎士団長のランクスを疎ましく思うようになったのだ。
王としての実力も未だない自分から見ると、国を長年動かして来たメルコムやランクスに対して劣等感を持たずにいられなかった。
やがてクレモンは、若い家臣を身近に置くようになる。自分に対して諫言する事のない、自分にとって甘い言葉しか言わない者ばかりを側に置くようになる。弟の第二王子ノーランが忠告しても、聞く耳は持たなかった。
第一王妃のアレクシアと第二王妃のロマーヌも危機感を持ってクレモンへ何度か諫言するが、クレモンはすでに母達の言葉も耳に入らないようだった。
クレモンだけが悪い訳じゃない。超えられない壁として王国を治めていた偉大なる父バージェス王。しかし、突然の王弟モーティスによる王弑虐、その後のテンプルトン伯爵と謀っての反乱。そこにクレモンはお飾りとして初陣を飾ったが、文字通りお飾りでしかなかった。
王弟モーティスとテンプルトン伯爵によるゴンドワナ帝国と連携した反乱は、バスターク辺境伯とドラーク子爵(現伯爵)によって蹴散らされた。
クレモンは結局どんどん楽な方へと歩んで行く。
貴重な諫言をしてくれる、宰相のメルコムと騎士団長のランクスを遠ざけ、バスターク辺境伯とドラーク伯爵の武力に嫉妬し、仲の良かった母や弟からの言葉も耳に届かなかった。
王の居室で独り、飲めない酒を手にクレモンが暗い目をして窓の外を眺めていた。
賢王と称えられた父バージェスが身罷って、荒れるかと思われた国内は落ち着きを取り戻し、むしろ発展を続けている。そこに自分の力は関与していない。全てテンプルトン伯爵領の一部を引き継いだバスターク辺境伯と、ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯領の半分を攻め取ったドラーク伯爵のお陰だと、国民の誰もが知っている。
かたや長年、王国の盾としてサーメイヤ王国を護って来たバスターク辺境伯。
そして、彗星のように現れた英雄ドラーク伯爵。
サーメイヤ王国でも突出した武を誇るこの二家に、武を持って敵対したい貴族家はいない。
クレモンに擦り寄る者達は、ドラーク伯爵領の割譲を具申して来るが、落ち度のないドラーク伯爵に、クレモンとてそれは言えない。もし、ドラーク伯爵が王家に敵対すれば、自分達はたちまち滅ぼされてしまうだろう。それは王弟の反乱時、ドラーク伯爵軍の強烈な強さと、それ以上にバケモノだったドラーク伯爵本人の武を目の当たりにしているクレモンには、その選択は出来なかった。
国内の経済は、クレモンが何もせずとも宰相のメルコムやバスターク辺境伯とドラーク伯爵が引っ張り発展を続けている。
全てのプレッシャーから逃れるように、やがてクレモンは、何も考えなくなって行く。
ただ酒と女に溺れ享楽の日々を過ごす。
あれだけ可愛がった幼い妹のクララ王女も、クレモンを怖がるようになった。
愛した母の顔も見たくなくなった。
カイトが知らぬうちに、静かにサーメイヤ王国が腐って行く。
「どうなってしまうのであろうこの国は、…………バージェス王よ、この国の行く末を見守ってくだされ」
サーメイヤ王国宰相メルコムは、自身の力不足を嘆いていた。
サーメイヤ王国騎士団団長、ランクス・リッター・フレイバードも先代バージェス王を護れなかった事を悔いていた。同時に、現国王クレモンとの距離を感じていた。
クレモンは、同年代の貴族の子息の若者を集め、親衛隊を結成させると、従来の近衛騎士を遠ざけ始めた。騎士団長のランクスも遠ざけられ、実力不足の若者を側に置く愚を指摘すると、ますますランクスは、遠ざけられる事になる。
若くして王位を継いだクレモンは、バージェス王の時代からこの国に仕える宰相のメルコムや騎士団長のランクスを疎ましく思うようになったのだ。
王としての実力も未だない自分から見ると、国を長年動かして来たメルコムやランクスに対して劣等感を持たずにいられなかった。
やがてクレモンは、若い家臣を身近に置くようになる。自分に対して諫言する事のない、自分にとって甘い言葉しか言わない者ばかりを側に置くようになる。弟の第二王子ノーランが忠告しても、聞く耳は持たなかった。
第一王妃のアレクシアと第二王妃のロマーヌも危機感を持ってクレモンへ何度か諫言するが、クレモンはすでに母達の言葉も耳に入らないようだった。
クレモンだけが悪い訳じゃない。超えられない壁として王国を治めていた偉大なる父バージェス王。しかし、突然の王弟モーティスによる王弑虐、その後のテンプルトン伯爵と謀っての反乱。そこにクレモンはお飾りとして初陣を飾ったが、文字通りお飾りでしかなかった。
王弟モーティスとテンプルトン伯爵によるゴンドワナ帝国と連携した反乱は、バスターク辺境伯とドラーク子爵(現伯爵)によって蹴散らされた。
クレモンは結局どんどん楽な方へと歩んで行く。
貴重な諫言をしてくれる、宰相のメルコムと騎士団長のランクスを遠ざけ、バスターク辺境伯とドラーク伯爵の武力に嫉妬し、仲の良かった母や弟からの言葉も耳に届かなかった。
王の居室で独り、飲めない酒を手にクレモンが暗い目をして窓の外を眺めていた。
賢王と称えられた父バージェスが身罷って、荒れるかと思われた国内は落ち着きを取り戻し、むしろ発展を続けている。そこに自分の力は関与していない。全てテンプルトン伯爵領の一部を引き継いだバスターク辺境伯と、ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯領の半分を攻め取ったドラーク伯爵のお陰だと、国民の誰もが知っている。
かたや長年、王国の盾としてサーメイヤ王国を護って来たバスターク辺境伯。
そして、彗星のように現れた英雄ドラーク伯爵。
サーメイヤ王国でも突出した武を誇るこの二家に、武を持って敵対したい貴族家はいない。
クレモンに擦り寄る者達は、ドラーク伯爵領の割譲を具申して来るが、落ち度のないドラーク伯爵に、クレモンとてそれは言えない。もし、ドラーク伯爵が王家に敵対すれば、自分達はたちまち滅ぼされてしまうだろう。それは王弟の反乱時、ドラーク伯爵軍の強烈な強さと、それ以上にバケモノだったドラーク伯爵本人の武を目の当たりにしているクレモンには、その選択は出来なかった。
国内の経済は、クレモンが何もせずとも宰相のメルコムやバスターク辺境伯とドラーク伯爵が引っ張り発展を続けている。
全てのプレッシャーから逃れるように、やがてクレモンは、何も考えなくなって行く。
ただ酒と女に溺れ享楽の日々を過ごす。
あれだけ可愛がった幼い妹のクララ王女も、クレモンを怖がるようになった。
愛した母の顔も見たくなくなった。
カイトが知らぬうちに、静かにサーメイヤ王国が腐って行く。
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