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クララ達の来訪
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ドラーク伯爵が治める、元は未開地だった場所に、王都にも負けない、いや、はるかに進んだ都市が出来ていた。既に街を囲む防壁は二度大きく広げられ、その人口も急激に増加している。
それでも無秩序に人口が増加すれば治安の悪化が懸念されるが、このドラーク伯爵が治める領都にはそれは当てはまらなかった。
広く綺麗に整備された大通りの先に、大きな城と言っても過言ではない屋敷が鎮座する。そこは領主が住まう屋敷。高度な結界と防衛設備とゴーレム騎士に護られ、アラクネ、ラミア、ハーピーの戦闘メイドと、カイト製の護衛獣ゴーレムのお陰で、無類の防御力を誇る領主館だった。
その領主館に珍しい客が訪れていた。
「ふぁ~~、かわいいのです~」
ベビーベッドに寝かされた赤ちゃん達の顔を順番に覗きながら、赤ちゃんの頬っぺたをツンツンして興奮している小さな女の子。
「クララ、あまり触ってはいけませんよ」
母親の元ロマーヌ王妃、今はロマーヌ王太后が注意する小さな女の子は、サーメイヤ王国の王女、クララ王女だった。
「はい、おかあしゃま!やさしくです!」
どうやら触るのはやめないようだ。
「ふふっ、クララは自分より小さな子供と接する機会はあまりないから仕方ないわね」
アレクシア王太后が苦笑する。
ここはドラーク伯爵の領主館にある子供部屋。ジークフリートやルル、ルーファリスの部屋だ。
「アレクシア様、ロマーヌ様、クララ様、お茶の用意が出来ました」
イリアがジークフリート達を見ていたアレクシア達を呼びに部屋に入って来た。
「ありがとう。クララ、行きますよ」
「ウゥ~、また、会いにきましゅからね~」
ロマーヌに言われて泣く泣くベビーベッドから離れるクララ。ロマーヌに手を引かれて応接室へと戻って来た。
「わざわざこんな田舎まで来て頂きありがとうございます」
応接室でお茶を淹れて、お菓子を食べて一息ついた頃に、俺はさりげなく何故この時期にドラーク領へ来たのかとの意味を込めて聞いてみた。
応接室には、アレクシア様、ロマーヌ様、クララ様とお付きの侍女が二人、あと俺とエル、ルシエル、イリアが居た。
「ドラーク卿、嫡男の誕生おめでとう。女の子もとても愛らしいわ。将来が楽しみね」
最初、アレクシア様は当たり障りのないお祝いの言葉を俺とエル、ルシエル、イリアに言って来た。
その微笑んだ顔が少しくもる。
「ドラーク卿ならもう掴んでいると思うけど…………、最近のクレモンがおかしいの……」
一転つらそうな表情になったアレクシア様。それだけクレモン王の事を心配しているのだろう。
確かに、俺の耳にも諜報部と義父上のバスターク辺境伯から王都の情報は入って来ていた。
「あの子は、宰相のメルコムや騎士団長のランクスの諫言を遠ざけ、私やロマーヌ、弟のノーランの言う事にも聞く耳を持ちません」
クレモン王が宰相のメルコムやランクス騎士団長を遠ざけ、自身の周りを同世代で固め、親衛隊を造っているのは知っていた。酒と女に溺れ、政を疎かにしているとも聞いている。その所為もあってか、王都の治安の悪化が懸念されている。
そして、それを煽るモノが居ることも…………。
「裏で煽っているのはベルトルト公爵ですね」
その名を聞いたアレクシア様とロマーヌ様の表情が苦いものに変わる。
「はぁ~、やはりドラーク卿にはわかっていましたか……、ベルトルト公爵はモーティスなどと違い暴発などしないでしょうが……」
「裏でクレモン王を操るか……、最終的には取って代わるつもりだろうけど、大きなリスクを取らない狡猾さはさすが貴族筆頭の公爵家と言ったところですか」
最終目標は王家に取って代わる事なのは当然として、モーティスのように暴発する訳ではなく、実権を握ってからゆっくりと事を成すんだろう。ノーラン様を暗殺、その後、クレモン王は突然病死という筋書きだろう。
ふとクララ様を見る。俺の膝の上に陣取って、夢中になってクッキーを頬張るクララ様。この小さな女の子に、これ以上悲しい思いをさせたくないな…………。
最近になって、やっとバージェス王の死から立ち直り始めたらしい。
「アレクシア様、暫く我が家でゆっくりして下さい。私は義父上とも相談してメルコム殿やランクス殿と会って話を聞いてみます。ノーラン様にもお会いして、ドラーク領へお誘いしてみます」
「ありがとうございますドラーク卿。お言葉に甘えて暫く滞在させて頂きますわ」
アレクシア様は明らかにホッとした様子を見せた。よほど切羽詰まっていたのかもしれない。
これは早急に対処しないとまずい事になるかもしれない。
それでも無秩序に人口が増加すれば治安の悪化が懸念されるが、このドラーク伯爵が治める領都にはそれは当てはまらなかった。
広く綺麗に整備された大通りの先に、大きな城と言っても過言ではない屋敷が鎮座する。そこは領主が住まう屋敷。高度な結界と防衛設備とゴーレム騎士に護られ、アラクネ、ラミア、ハーピーの戦闘メイドと、カイト製の護衛獣ゴーレムのお陰で、無類の防御力を誇る領主館だった。
その領主館に珍しい客が訪れていた。
「ふぁ~~、かわいいのです~」
ベビーベッドに寝かされた赤ちゃん達の顔を順番に覗きながら、赤ちゃんの頬っぺたをツンツンして興奮している小さな女の子。
「クララ、あまり触ってはいけませんよ」
母親の元ロマーヌ王妃、今はロマーヌ王太后が注意する小さな女の子は、サーメイヤ王国の王女、クララ王女だった。
「はい、おかあしゃま!やさしくです!」
どうやら触るのはやめないようだ。
「ふふっ、クララは自分より小さな子供と接する機会はあまりないから仕方ないわね」
アレクシア王太后が苦笑する。
ここはドラーク伯爵の領主館にある子供部屋。ジークフリートやルル、ルーファリスの部屋だ。
「アレクシア様、ロマーヌ様、クララ様、お茶の用意が出来ました」
イリアがジークフリート達を見ていたアレクシア達を呼びに部屋に入って来た。
「ありがとう。クララ、行きますよ」
「ウゥ~、また、会いにきましゅからね~」
ロマーヌに言われて泣く泣くベビーベッドから離れるクララ。ロマーヌに手を引かれて応接室へと戻って来た。
「わざわざこんな田舎まで来て頂きありがとうございます」
応接室でお茶を淹れて、お菓子を食べて一息ついた頃に、俺はさりげなく何故この時期にドラーク領へ来たのかとの意味を込めて聞いてみた。
応接室には、アレクシア様、ロマーヌ様、クララ様とお付きの侍女が二人、あと俺とエル、ルシエル、イリアが居た。
「ドラーク卿、嫡男の誕生おめでとう。女の子もとても愛らしいわ。将来が楽しみね」
最初、アレクシア様は当たり障りのないお祝いの言葉を俺とエル、ルシエル、イリアに言って来た。
その微笑んだ顔が少しくもる。
「ドラーク卿ならもう掴んでいると思うけど…………、最近のクレモンがおかしいの……」
一転つらそうな表情になったアレクシア様。それだけクレモン王の事を心配しているのだろう。
確かに、俺の耳にも諜報部と義父上のバスターク辺境伯から王都の情報は入って来ていた。
「あの子は、宰相のメルコムや騎士団長のランクスの諫言を遠ざけ、私やロマーヌ、弟のノーランの言う事にも聞く耳を持ちません」
クレモン王が宰相のメルコムやランクス騎士団長を遠ざけ、自身の周りを同世代で固め、親衛隊を造っているのは知っていた。酒と女に溺れ、政を疎かにしているとも聞いている。その所為もあってか、王都の治安の悪化が懸念されている。
そして、それを煽るモノが居ることも…………。
「裏で煽っているのはベルトルト公爵ですね」
その名を聞いたアレクシア様とロマーヌ様の表情が苦いものに変わる。
「はぁ~、やはりドラーク卿にはわかっていましたか……、ベルトルト公爵はモーティスなどと違い暴発などしないでしょうが……」
「裏でクレモン王を操るか……、最終的には取って代わるつもりだろうけど、大きなリスクを取らない狡猾さはさすが貴族筆頭の公爵家と言ったところですか」
最終目標は王家に取って代わる事なのは当然として、モーティスのように暴発する訳ではなく、実権を握ってからゆっくりと事を成すんだろう。ノーラン様を暗殺、その後、クレモン王は突然病死という筋書きだろう。
ふとクララ様を見る。俺の膝の上に陣取って、夢中になってクッキーを頬張るクララ様。この小さな女の子に、これ以上悲しい思いをさせたくないな…………。
最近になって、やっとバージェス王の死から立ち直り始めたらしい。
「アレクシア様、暫く我が家でゆっくりして下さい。私は義父上とも相談してメルコム殿やランクス殿と会って話を聞いてみます。ノーラン様にもお会いして、ドラーク領へお誘いしてみます」
「ありがとうございますドラーク卿。お言葉に甘えて暫く滞在させて頂きますわ」
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これは早急に対処しないとまずい事になるかもしれない。
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