円環の蛇 破壊と再生の神印(ギフト)

小狐丸

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十九話 思わぬ再会

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 僕達は、ハヴァルセーを出発して、西へと馬車を走らせていた。
 何かの拍子にアグニ達の正体がばれるのを防ぐ為、わざわざ人の往来の少ない北のルートに戻って進んでいる。
 アグニ達は、僕のローブと同じカーキ色のフード付きのローブを羽織っているのが、ヘルムの角の所為でフードを被れないので、注意するに越したことはない。
 このローブは、ルカ用のローブを買い求めた時に、序でに買った物だ。

主人アルジ、あのハンター協会の支部長には気を付けた方がいいぞ」

 馭者を務めるアグニが、ハヴァルセーのハンター協会で、僕が支部長と揉めた事で、警戒した方がいいと忠告してくれた。

「何か仕掛けて来るかな? 一応、威圧して脅しておいたけど……」
「シグ様、あの手の輩は時間が経てば、怖さなど忘れて愚かな選択をすると思いますよ」
「坊、あんなのはサクッとっちゃえばよかったんだよ」

 ヴァルナが言うには、あの手の人間は僕みたいな子供に舐められたままじゃ我慢できないと言い。インドラはサクッと始末しておけば良かったと言う。
 どちらにしても、何かちょっかいを掛けて来るのは確定みたいだ。

「はぁ~、ルカが居るから面倒な事は止めて欲しいんだけだなぁ」
「ルカがどうしたの?」
「うん、ルカは何もないよ。大丈夫、ルカは良い子だからね」
「うん! ルカ良い子にしてるよ!」

 自分の名前が出てきて不安になったのか、僕の膝の上で座るルカが僕を見上げて問いかけるので、安心させるように頭を撫でてあげる。

「ごめんなさい。私のトラブルに巻き込んでしまって……」
「いや、セレネさんの所為じゃないよ」

 セレネさんが申し訳なさそうに謝ってくるけど、セレネさんが悪い訳じゃない。寧ろ彼女は被害者だ。それに思わずキレてしまった僕も悪い。
 ただ、ハンター協会の支部長が亜人狩りと手を組んで、Aランクハンターを奴隷にしようと企んだ事を揉み消す為に、セレネさんと僕の口を封じようとする可能性がある。もしくは、もう一度拐おうとするか。それ程までにエルフはというか、セレネさんには価値があるんだろう。誰だってセレネさんみたいな男好きするスタイルの美女だったら、お近付きになりたいと思うだろうけど、拐って奴隷にするのは違うだろう。

「シグ様を恫喝したあの男、シグ様の様な少年の威圧に恐怖した自分が許せないと思うの」
「ああ、あの手のプライドばかり高いが肝っ玉の小さそうな男は、必ず坊に何かして来るぞ。あの男の顔は、そんな愚かな人間の顔をしていたぜ」
「送還してたのに、よく見てたね」

 アグニ達は、あの場の光景は、僕の目と耳から全て正確に見聞きしていたらしい。

「当然の事だぞ主人。もし主人の身に何かあれば、イグニートがそれこそこの国を更地になるまで暴れただろうからな」
「あの、アグニさん、イグニートとは誰なのですか? エルフの古くからの伝承に、同じ様な名前が出て来るのですが、まさか、違いますよね」

 アグニの話の中で、イグニートの名前を聞いてセレネさんが質問してきた。僕達の話の中で、時々出て来るイグニートの名前が気になったみたいだ。

「ふむ、某のいうイグニートと、セレネ殿の知っているイグニートが同じかどうかは分からんが、イグニートとは古龍の頂点に立つ至高の龍の名だ」
「……エルフの伝承に出て来る、悠久の時を生きる、最も神に近い存在。至高龍イグニート…………って、どうしてシグ君に何かがあれば、龍の頂点であるイグニート様が暴れるのですか!」

 へえ、エルフの伝承にイグニートの事が語られているんだ。さすが悠久の時を生きる古龍だな。
 セレネさんが叫ぶように聞いてきた事にインドラがさも当たり前の事のように答える。

「どうしてってイグニートは今、龍の墓場の墓守りをしているからな。坊はその地でイグニートや俺達と一緒に8年暮らしたんだよ」
「は、墓守り? イグニート様は、今この大陸に居られるのですか……え、一緒に暮らしていた? どういう事なの?」

 面白いように狼狽えているセレネさんを見てられないので、ちゃんと僕の生い立ちから話そうと決心した時だった。

「ああ、ちょっと待って。なんか知ってる奴が近付いて来るね」
「あ~、龍の墓場を発つ時に居なかったなアイツ」
「はぁ、迷惑な子ね。こんな場所に飛んで来て、人に見られればパニックになるわよ」
「まあそう言うな、彼奴は主人とは仲が良かったからのう」

 最初に気が付いたのは僕だった。続けて気が付いたアグニやインドラが馬車を引く馬が暴れない様に、停車して馬が暴れないように抑える。

「え? え? どうしたの? 何か来るの?」
「シグお兄ちゃん、何か来るの?」

 突然、馬車を止めて馬を押さえるアグニ達に、セレネさんはキョロキョロと周りを見渡し、ルカが不思議そうに僕に聞いてきた。

「大丈夫だよ。僕の友達と言うか兄弟みたいな奴が来るだけだから」
「シグお兄ちゃんのお友達? ルカもお友達になれるかな?」

 僕の友達と聞いてルカは安心したようだ。

 ゴオォォォォーー!! と暴風が吹いたと思うと、ドォォーーンと何かが地面に降り立ち大地が揺れる。その所為で馬が暴れるのをアグニとインドラが必死で押さえる。

「このバカヤロウ! なんて降り方しやがるんだ!」
「どう、どう!」

 インドラが空から降りて来た迷惑な奴に怒鳴り、インドラとアグニが馬を懸命に落ち着かせる。

「ファニール! なんて無茶するんだ! こんな所で人に見られたら大変な事になるだろ!」
『シグ! 俺がお使いに行ってる間に旅立つなんて、酷いじゃないか!』

 僕がファニールと呼んだのは、体長15メートルを超える一体の龍だった。血の様な紅い鱗はその龍がイグニートの血脈だと告げている。龍としてはまだまだ若い500歳を少し超えたくらいの若造らしい。

「お使いに行って半年も帰らない貴方が悪いんでしょう。早くその身体なんとかなさい」
『ちょっ、ヴァルナまで冷たいぞ!』
「ファニール、主人が困った事になるから、先ずは小さくなれ」
『むぅ、じゃ、じゃあ馬に変化しようか。それならシグと一緒に居れるだろう』

 ファニールはそう言うと、ドンドン縮み始め、深い紅い毛色の馬の姿に変化した。
 普通の馬と言うには、立派過ぎる馬体は威圧感たっぷりだけど、どうにか馬の範疇にはある。

「はぁ、まあその姿なら大丈夫か。だいたい、僕が15歳になったら旅立つって前から聞いて分かっているのに。ファニールが全然戻って来なかったのが悪いんだよ」
『仕方ないじゃないか、龍にとって半年なんて一瞬と同じなんだ。時間の感覚が人とは違うんだよ!』
「あ、あ、ど、ドラゴン!?」

 僕がファニールと普通に話をしていると、青い顔をしたセレネさんが口をパクパクさせていた。

「ドラゴンさんがお馬さんになった! このお馬さんが、シグお兄ちゃんのお友達なの?」

 セレネさんの青い顔とは対照的に、ルカは全く物怖じしない。僕が友達だと言ったからにしても肝が太い。

『うん? このチッコイ獣人は何だ?』
「僕の妹になったルカだよ」
『シグが妹にした? どんな理由があるか知らねぇが、シグの妹なら俺の妹でもあるな。ルカと言ったか、ファニールだ。よろしくな』

 どういう理由でファニールまでルカのお兄ちゃんなのか分からないけど、言われたルカはまんざらでもなさそうだ。

「お馬さんもルカのお兄ちゃんになるの?」
『馬に化けているけど、馬じゃなくて俺は龍な。そこは間違ったらダメだぞ』
「ルカの名前はルカです。シグお兄ちゃんの妹です。よろしくお願いします」
『おう、俺の事はファニールお兄ちゃんでもファフお兄ちゃんとでも呼んでくれ』

 見た目は馬のクセに、お兄ちゃんなのは確定なんだ。
 その横で余りの情報量にパニックで固まったセレネさんが呆然としていた。

「……………………」
「シグ様、セレネには刺激が強過ぎたみたいね」
「はぁ~、後でちゃんと説明するよ」

 8年を共に過ごした親友兼兄弟との思わぬ再会に、さすがにそのままスルーとはいかず、セレネさんに説明する為に、その日は早めに野営する事にした。



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