円環の蛇 破壊と再生の神印(ギフト)

小狐丸

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二十話 僕の家族

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 野営の準備をして、少し早めの夕食を食べながら、セレネさんにファニールの紹介を兼ねて、生い立ちを含め僕が何処から来たのか話す事にした。

 僕がガーランド帝国の辺境に領地を持つボーナム男爵家の次男として、側室の母から生まれた事から話し始める。

「だいたいどこの国も変わらないけど、授かる神印の種類で扱いが酷く違うんだ。まぁ僕はガーランド帝国の事もあまり知らないけどね」
「人族だけじゃないわね。獣人族も似たようなものね」

 セレネさんがルカを見てそう言う。

「そんな中、僕は蜘蛛の神印を授かって生まれて来た。その時点で僕を心の底から愛してくれたのは母さまだけになったよ」
『何度聞いても胸糞悪い話だな』

 僕の事情を知っているファニールも、何度聞いても怒ってくれる。優しい奴だ。

「蜘蛛の神印なんて授かった僕を、父は地下室に幽閉したんだ。男爵家の血筋に僕が生まれたのが許せなかったんだろうね。そして5歳の時に母さまが死んで、その時の悲しさと寂しさと、何だか分からない感情が爆発して、気が付いたら左手に新たな神印が覚醒したんだ。それがこのウロボロスさ」
「えっと、輪を描く蛇か竜?」

 左手の籠手を外して、魔力を込めると浮き上がるウロボロスの神印をセレネさんに見せる。

「死と再生、破壊と創造、陰と陽、聖属性と闇属性、対極の力を司る神印がウロボロスなんだ」
「……なっ!? デ、デタラメな能力ね。もはや神の力の一端と言っても過言じゃないわね」

 エルフのセレネさんでもウロボロスのような神印は知らなかった。当然だろう、イグニートでも知らない神印なのだから。

「それで僕が7歳の時かな。僕は蜘蛛の死骸を使ってアンデッドを造って、情報収集していたんだ。そしてその時初めて知ったんだ」

 父と兄が、僕の母さまを階位を手っ取り早く上げる為に、毒殺して経験値にした事を話した。そして僕も兄が経験値としようとしている事をその時知った事を話した。

「……酷い話ね」

 セレネさんがそう言って絶句する。

「それから僕は迷わず逃げ出す事を選んだんだ。まだ小さな子供だったからね。神印の力で復讐しても、その後どうなるか想像出来なかったから。その僕が逃げ出した先が、龍の墓場がある森だったんだ」

 ウロボロスの力で、極力魔物と遭遇しないように、逃げ続け辿り着いたのが龍の墓場だった。そこで龍の牙や骨からアグニを生み出した。そしてヴァルナをインドラを生み出した僕は、龍の墓場で暮らし始めた事を話した。

「えっと、ごめんなさい。アグニさん達は、スケルトンじゃなく龍牙兵という事?」
「そうだよ」

 セレネさんもスパルトイは知っていた。ただ闇属性が希少な事と、龍の素材を手に入れる事が難しい事で、もはや伝説上の魔物だという。

「まあ、アグニ達は普通のスパルトイじゃないけどね」
「え? それはどういう事?」
「まぁ、それは置いといて、龍の墓場で暮らし始めた僕は、ちょうど余生を墓守りとして過ごそうとやって来たイグニートと出会ったんだ。イグニートは僕を自分の孫の様にして育ててくれたんだ」
『そうだ。だから同じ孫の俺とは兄弟みたいなもんなんだぜ』
「ファニールと会ったのは、イグニートと出会って少し経った頃かな」
『ああ、イグニート老の所に遊びに行った時だったな』

 そうあの時からファニールとは、500歳以上歳の離れた友達であり兄弟になった。

「15歳になるまでの8年間、色々な事を学んだよ。イグニートには魔法だけじゃなく、様々な事を教えてもらったんだ。それに僕の革鎧や剣もイグニートが創造魔法で創ってくれたものだしね」

 僕のバスタードソードやショートソードがイグニートの牙や爪から出来ていると聞いて、セレネさんの目がこれでもかと開いている。

『イグニートの牙と爪は凄いんだぞ。死んだ龍の牙や爪じゃない、生きた龍が、それも頂点に立つ龍が、シグだけの為に造ったんだ』
「至高龍の牙……創造魔法? な、何それ?」

 セレネさんの理解が追いつかなくなってきている。
 エルフの知識でも創造魔法は知らないみたいで、もの凄く聞きたそうにしている。

「もしかして、そのローブや革鎧の下に着ている服も特別じゃないの?」
「さすがエルフですね。イグニートが過保護なもので、色々と付与されているよ」

 その後、成人したのを機に、イグニートの勧めもあり龍の墓場を旅立つに至った事を話し、ルカとの出会い、妹にした事を話した辺りでふと膝の上に陣取るルカを見ると、スヤスヤと眠っていた。

「ルカちゃんも大変だったのね。でもその懐き具合を見て、シグ君とまだ出会ってそんなに経っていないなんて、とてもじゃないけど信じられないわね」
「ルカも僕も、家族が欲しかったのかもね」

 僕とルカ、共に家族に恵まれなかった同士、共依存とまでは言わないけど、ルカに関しては僕に対して、この短期間で異常に思える程に依存している。

『人族も獣人族もくだらねーな。神印なんて、オマケみたいなものじゃねえか』
「まあね。でもそれはファニールが生き物の頂点に立つ龍だから分かる事なんどよ。地面を這う様に生きている全ての種族には、なかなかその事に気が付かないんだ」

 龍は神印が無くても何らかの属性を持っている。それ以前に、神印が無くても龍が圧倒的な強者なのには変わらない。神印一つに一喜一憂して、あまつさえ他人を蔑む心が信じられないのだろう。

『神印なんて無くても生きるのに支障ないだろう。前から不思議だったんだ。変わった神印を授かっただけで赤ちゃんのシグを地下室に閉じ込める親なんて、もう親じゃないだろう』
「そうだよね。僕にとっての家族は母さまだけだったよ。でも僕には、アグニやヴァルナ、インドラやイグニートが家族になってくれた。今はルカもかな」
『おい! 俺もだろ!』
「分かってるよ。ファニールも家族さ」

 わざとファニールの名前を言わなかったら、本気で拗ねはじめたので、直ぐにフォローしておく。ファニールが拗ねると面倒くさいんだよ。

「龍族やスパルトイと家族ですか……何だか色々と一杯一杯です」

 セレネさんが疲れたように言う。
 その日、セレネさんは早々に眠りに就き、朝まで起きてこなかった。
 一度に話す内容としては濃すぎたかな?



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