円環の蛇 破壊と再生の神印(ギフト)

小狐丸

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二十一話 懲りない襲撃者

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 昨夜、セレネさんには、僕の生い立ちから龍の墓場を旅立つまでと、この国に来てからルカを助けて妹にするまでの事を話した。その話の延長線で説明しないといけないイグニートのことやファニールのこと、アグニ達のことを話した。
 セレネさんは、あまりに想定外の話に精神的なキャパがオーバーしたのか、理解する事を一旦放棄して早々に退散した。

 そして港町パルミナに向けて出発したのだけど……

『なあなあシグ、俺に乗れよ』

 ファニールが変化した馬だけど、力を抑えてはいても、動物には感じるものがあるのか、馬車を引く馬が怯えてファニールが馬車に近寄れない。なら俺が馬車を引くとファニールが言うけど、馬車を引いていた馬は、スパルトイのアグニ達を乗せるのはストレスが大きいみたいだ。馭者ならまだ大丈夫なんだけどね。

『なぁって、シグ』
「ハイハイ、分かったよ。ちょっと待って、鞍を造るから」

 寂しいのか、僕を乗せたがるファニールの言う通りにしようと諦める。
 アグニに馬車を止めてもらい、ファニールの側に近付いて、鞍の素材となる魔物の皮を取り出す。

「確かこんな感じだったかな……創造」

 ファニールに合わせて鞍と鐙を造り上げる。馬銜ハミは必要ないだろう。ファニールとは意思の疎通が可能なのだから。

「……ここを留めて……よし、こんな感じかな」
「シグお兄ちゃん、ファフお兄ちゃんに乗るの? ルカも乗ってもいいの?」
『ルカも乗せてやるぞ』
「だってさ。よっこいしょと」

 ルカを鞍の前に乗せて、僕もファニールの背に乗る。

『フフフッ、さあ、出発だ!』
「そこは、ヒヒーンって鳴けよ」
『馬じゃねぇよ!』

 ファニールが馬車の横を並走し始めると、ルカも楽しいのかはしゃいでいる。

「キャハハハハッ! シグお兄ちゃん! 高いよ、高ーい!」
「楽しいか?」
「うん! ルカ楽しい!」
『そうだろ、そうだろう。ルカは俺の妹だからな。いつでも乗せてやるぞ』

 ルカは馬に乗るのは当然初めてだろうけど、普通の馬じゃなくファニールは知能が高い龍なので、危険な事はないだろう。

「ファニールはまだまだガキだな」
「ええ、寂しいなんて龍のくせに」
「まぁそう言うな、某達も交代で乗ってやろうではないか」
『お前ら、聞こえてるからなー!』

 インドラ、ヴァルナ、アグニがファニールを子供扱いする。アグニ達の元になった龍は、寿命かもしくは何らかの原因で亡くなった龍だけど、ファニールと比べると、はるかに長い時間を生きた龍だ。ファニールを子供扱いするのも分かるし、ファニール自身もそれについては文句はないらしい。



 僕とルカがファニールに乗ったり、アグニ達と交代したりしながら、のんびりと馬車を走らせる事しばらく、どうやらこの世界は、僕が思っていた以上に、本当に血生臭い世の中らしい。






 立派な髭をたくわえた男とスレンダーな少年のような少女が戦いながら駆けていた。
 追いかけて来る奴等の中には、騎乗する者もいる。男は馬が走れない森を抜けて逃げようとするも、小さな森は回り込まれてしまいそうだ。

 男の身長は150センチ程度だが、その腕や脚は丸太のように太く、胴も樽のように太いが、全てが鍛え抜かれた筋肉で覆われていた。

 浅黒い肌の男と少女は、ドワーフと呼ばれる種族だった。
 ドワーフは、エルフと比較される事の多い種族で、エルフが水か風の神印を授かって生まれるのに対し、ドワーフは火か土の神印を授かって生まれる。
 またドワーフは力が強く手先が器用な種族で、神印の力を使い鍛治や鉱山での仕事を得意とする。
 ベルグも孫娘のポーラを連れて、大陸を旅して鍛治の腕を磨いていた。滞在する街々で鍛治の腕を振るい、次の街を目指す。だが皮肉にもベルグの鍛治の腕は良すぎた為に、亜人狩りの標的に狙われる羽目になる。

「ポーラ! 儂を置いて先に行け!」
「嫌だ! お爺を犠牲になんて出来ない!」

 男のドワーフの名をベルグ、その孫の少女がポーラ。二人は非道な亜人狩りから逃げている所だった。
 ベルグは巨大な戦鎚を振り回し、亜人狩りを既に10人以上葬っている。ポーラもその体格に似合わない怪力で、総金属製の六角棒で追手を撃退していた。

 二人なら何十人亜人狩りが来ようとも、撃退は可能だと思っていたのだが、そこに十数人の配下を連れた頭のイカれた三兄弟が乱入するまでは……

「ヒャハハハハッ! 楽しい狩りをしようじゃねぇかぁ!」
「エルフをる前の前菜にちょうどいいぜぇ!」
「おう! お前ら! 俺達牙狼三兄弟が手を貸してやるんだ! 死ぬ気で襲え! じゃねぇと俺が殺すぞぉ!」

 ベルグとポーラの不運は、元Bランクのバウンティハンター崩れの殺人狂三兄弟が、配下を引き連れ仕事に向かう途中に鉢合わせた事か。
 さすがに歴戦の戦士でもあるベルグでも、孫娘のポーラをかばいながら、それぞれがBランクハンターだった牙狼三兄弟の相手は難しかった。

 ドワーフはエルフとは別の意味で亜人狩りの標的となる。
 エルフはその美しい容姿故に、王族や貴族、豪商に求められるのとは違い、ドワーフは、彼等が生み出す武具や魔道具を求めて奴隷として囲うため狩られる。



 森の木々を抜けたベルグとポーラの目の前に、一台の馬車とその横を並走する、血のような紅い毛色の軍馬のような筋肉質の馬に跨った少年が映った。

「そこのお人! ここから逃げるんじゃ!」

 ベルグは大声で叫び、巻き込まない為に覚悟を決めて戦鎚を固く握り締め立ち止まる。





『シグ、沢山の気配が近付いて来るぞ』
「主人、またですな」
「シグ様、どうされますか?」
「坊、殺るんだろう?」

 ファニールが僕達に近付いて来る沢山の気配を感じて警戒を促した。アグニ達の見解は何時もの奴等だと。
 アグニが馬車を止めて、賊を待ち受ける準備を始めると、セレネさんが馬車から顔を出し、どうしたのか聞いてきた。

「ねえ、どうしたの馬車を止めて?」
「ああ、セレネさん。どうやら複数の賊の気配があるそうです」
「えっ!? それは大変じゃない」
「はい、だから殲滅します。ルカ、ファニールに乗ってじっとしていれる?」
「ルカ、ファフお兄ちゃんに乗ってればいいの?」
「うん、何時ものように、おメメを瞑ってればいいからね。頼めるかなファニール」
『任せとけ。妹を護るのは兄貴の役目だからな』

 僕はファニールから降りると、着ていたローブを脱ぐとルカに被せる。これで弓矢で射ろうが魔法を撃とうが大丈夫だろう。まぁ、ファニールがさせないだろうけど保険は必要だ。

 気配が近付いて来る方向へと歩きだすと、僕の両側にアグニとインドラが並び、少し後ろをヴァルナが歩く。僕の背中を護るように。

 セレネさんも理解したのか、馭者席の上に立つと、弓を取り出し矢をつがえる。

 僕達が待ち受ける場所に姿を見せたのは、二人のドワーフを追う人族や獣人族が混ざった亜人狩りと思われる奴等だった。

「そこのお人! ここから逃げるんじゃ!」

 髭のドワーフが叫ぶ。

「またこのパターンか……」

 チラッとセレネさんを見ると、目を逸らされた。
 僕は右手にダークホールから取り出したバスタードソード持ち肩に担ぐと、左手にショートソードをダラリと下にさげて持つ。

 さあ、馬鹿どもを退治しようか。



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