円環の蛇 破壊と再生の神印(ギフト)

小狐丸

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二十五話 港町を満喫しよう

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 パルミナに着いた次の朝、ベルグ達が乗って来た馬の売却代金はベルグ達にそのまま渡した。

 そして僕達は朝食を食べながら、この町での予定を話し合っていた。
 セレネさんは僕と一緒に居るらしい。何故か僕への距離も近いしボディタッチも多い気がする。勘違いしそうだ。

「アグニさん達が側に居ないから、私がシグ君とルカちゃんの護衛をするわね」

 そう言ってピッタリと引っ付いてくる。

 ベルグとポーラは、武具や魔道具の工房巡りをするのだそうだ。他人の作品や仕事を見るのも修行の内らしい。

「まぁ、あまり期待はできんがな」
「……良いアイデアが浮かぶかもしれない」

 ドワーフの二人はブレない。

「ルカはねぇ、ルカはお船が見たいの」
「じゃあ、港に行ってみようか」
「うん!」

 セレネさんから護衛と言われて、街中でアグニ達が居ない時、ルカとセレネさんの安全を確保する手段を考えておいた方が良いな。
 セレネさんに、龍の爪で造った短剣でも渡しておこうかな。



 ルカを真ん中に、僕とセレネさんで手を繋いで歩く。ただ、多種族が暮らすバルディア王国でも僕達は目立つみたいで、周囲の人達からの視線を集めている。人族の僕とエルフの美女セレネさん、小さな兎人族の幼女ルカの三人の取り合わせは、不思議に映ったんだろう。

「シグお兄ちゃん、ルカあれ食べたい!」
「魚の串焼きか、うん、いいよ」

 屋台で魚が焼かれ香ばしい匂いが漂ってきた。あまり大きくないし、朝ご飯を食べて間がないけど大丈夫だろう。
 口のまわりを串焼きのタレで汚しながら、嬉しそうに食べるルカの口元をセレネさんがハンカチで拭いている。

「ねぇねぇ、周りから見たら、若い夫婦とその子供に見えるかな」
「いや、セレネさん、種族がめちゃくちゃですよ」
「もう、冷たいわね」

 そうは言われても、女性に免疫のない僕には、上手い受け答えなんて無理だよ。






「うわぁー! お船が一杯だよシグお兄ちゃん!」

 ルカが港に浮かぶ船を見てはしゃいでいる。キラキラ光る海の上に沢山の船が浮かぶ様子は壮観だった。僕も初めて見る光景に、ルカ程じゃないけどボォーと見つめ続けてしまう。

 パルミナが運用する船は、陸近くの沿岸部を航行する小型から中型の船が中心で、一本マストか二本マストだ。三角帆の縦帆船というものだろう。

「あっ! お魚跳ねたよ!」
「本当だね。そうだ、お魚屋さん見に行こうか?」
「うん! ルカ、お魚見たい!」
「いいですかセレネさん」
「ええ、勿論よ」

 ルカが歩き疲れたのか、甘えたいのか、抱っこをねだってきたので、片手で抱き上げ市場に向かって歩き出すと、何故かセレネさんが僕と腕を組んできた。
 あまりに自然な仕草に拒否も出来ず、僕も男なので嬉しい気持ちもあるしね。なんと言ってもセレネさんは、そこらには居ない美女だし、男の欲望を掻き立てる立派なモノをお持ちだし……現に今僕の腕が挟まれているし。



 市場に着くと、ルカは疲れが取れたのか、自分で歩くと言って僕から降りると、僕とセレネさんの手を引いて、気になった物を見るために、あっちこっちのお店を見て回る。
 パルミナの市場は露店なども多く、そこでは新鮮な魚介類は勿論、干物にした物や、珍しい調味料などが所狭しと並べられている。
 僕は料理は出来ないけど、ハンター歴の長いセレネさんは料理も上手だ。だから目につく美味しそうな魚や海老、烏賊や貝類を爆買いしていく。僕の収納空間は時間の概念が無いので、傷んだり腐ったりする事はない。

「無駄遣いし過ぎじゃない?」
「大丈夫ですよ。食料のストックは幾ら有っても無駄になりませんから」

 セレネさんには、僕の収納魔法の事は話してある。セレネさんは期間限定じゃなく、僕達と同行するつもりみたいだから、隠しながら生活するのは面倒だしね。

「お金は大丈夫なの?」
「大金持ちじゃあないですけど、結構持ってる方だと思いますよ」

 怒りに任せて盗賊狩りをした為、盗賊から奪ったお金が結構ある。それに創造魔法の練習用に、龍の墓場の周辺に生息する魔物の素材は大量に収納してある。幾らで売れるのかは分からないけど、不要な分を売却してもいいのだから、暫くはお金の心配はないと思っている。

 おっ、大麦が売ってるな。あれはお米っていう穀物か……僕の中に宿ったのか、僕の前世なのか、僕が母さまとイグニートから教わっていない知識はだいたいその人のものだ。男だったのか女だったのか、今では性別も分からない位に曖昧な記憶だけど、何故か色々な知識はしっかりと根付いていた。
 そんな僕が市場で見つけた大麦とお米から思い出したのは、水飴の作り方だった。

 何処の国も砂糖は高級品だ。特に僕が生まれたバラモス帝国は砂糖は希少だったので、虐げられた僕が口にできるものではなかった。

 これでルカに水飴を作ってあげよう。
 僕が大麦や餅米を買っていると、セレネさんが不思議そうに聞いてきた。セレネさんは僕が料理を出来ないと知ってるからね。

「大麦や餅米なんて買ってどうするの? シグ君、料理なんて出来なかったよね」
「完成してからのお楽しみかな」

 僕がニコニコしながら言うと、ルカが興味津々で聞いてきた。

「楽しい事なの?」
「うん、成功するか分からないから、完成したら教えてあげるね」
「うん! ルカ楽しみにしてるの!」

 ルカが僕と手を繋ぎながら、ぴょんぴょんと跳ねる。ルカも裕福とは言えない環境で生まれ、まともな食事を与えて貰えなかった生い立ちから、甘い物を口にした事はないだろう。喜ぶ姿が目に浮かぶ。

「セレネさん、鍋やジャムなんかを入れれるガラス瓶が欲しいんですけど」
「鍋は道具屋にあるけど、ガラス瓶はガラス工房で買わないとダメね。ジャムでも作るの? そういえば果物も沢山買ってたわね」
「ジャムも良いですね。それも今度作ってみたいですね」

 何を作るのか教えない僕に、拗ねるセレネさんも可愛く見える。随分と歳下の僕が可愛いなんて言ったら失礼だろうけど、セレネさんが何歳なのかは教えてくれないんだよね。

 鍋やガラス瓶などを買って宿屋に戻ると、ベルグとポーラも戻って来ていた。

 一階の食堂で夕食を食べながら、お互いに情報の交換と明日からの予定を話し合う。

「この町の鍛治師はまあまあの腕だったぞ」
「……ん、お爺にはほど遠い腕だったけど、人族にしてはマシな部類」
「へえ、まあ、港町だから武具よりも漁の道具や日用品がメインなのかな」

 ベルグが言うには、バルディア王国の鍛治師のレベルは、大陸中でも高い方だという。それはこの国が多種族国家で、ドワーフの人数も多いからだそうだ。

「ガーランド帝国に居るドワーフは、拐われた奴隷じゃからな。無理矢理命じられて打つ剣など、大した物は打てんわい」
「……大陸最大の帝国が戦力的に大陸統一が進まない数ある理由の内の一つ」
「……なるほどね」

 いずれ帝国でボーナム家の奴等に鉄槌を下す予定だけど……長い道のりだな。

「それでシグ殿に提案したい事があるんじゃ。シグ殿の馬車は盗賊供の持ち物だったと聞いておる」
「うん、そうだよ」
「儂とポーラも次からは馬車に同乗する訳じゃから、出来れば馬車を快適に改造させてくれんか?」
「……ん、最低でもサスペンションは付けたい」
「費用と時間は?」

 僕の中にある、誰かは分からない記憶と知識から、サスペンションとはどんなものか理解する事は出来た。乗り心地が良くなるならお願いしてもいいだろう。

「費用は材料費の鉄と木材が少しと、鍛治師の炉を借りる借り賃じゃからたいした額じゃないぞ」
「……ん、銀貨10枚もあれば十分。三日ちょうだい」

 ベルグとポーラの技術料無しの材料費だけだからか、それで快適な旅になるなら安いものだ。僕は銀貨10枚を取り出し渡す。

「お願いするよ」
「了解した。楽しみにしておけ」

 丁度、僕もルカに水飴を作ってあげたかったので、少しこの町でゆっくりしてもいいだろう。

 その後、この町で手に入る程度のこの国の情報と敵対する国との情勢を話しながら、港町ならではの食事を楽しんだ。



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