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三十五話 蛮族攻防戦 三
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巨大な戦斧を振りかぶり、先頭を駆けて来た蛮族の男が襲いかかる。
「死にやがれ、くそガキ!」
僕は振り下ろされる戦斧に、ワザと砕牙を合わせて斜めに振り上げる。
バキャン!
「へっ?」
戦斧の分厚い斧刃が粉々に破壊され、蛮族の男は、突然軽くなった柄を握ったまま、現実が受け入れられず呆然とする。
『邪魔だ蜥蜴の分際で、俺の前に姿を見せるな!』
ファニールがランドリザードの頭を踏み付け潰す。
ランドリザードが殺され急ブレーキがかかり、蛮族の男の身体が前に泳ぐところに、頭上から砕牙を振り下ろす。
蛮族の男は声を発する事もなく、正中から真っ二つに左右に別れて地面に沈んだ。
「族長ぉー!」
周りの蛮族が叫び、今の戦斧の男が蛮族の族長だったと分かる。
トップが斃された事で、蛮族達に動揺が広がる。だけど逃がさないよ。最低でもバルスタン氏族よりも数を減らさないとね。
僕とヴァルナは、猛然と蛮族達に襲いかかる。
さあ、狩りの時間だ。
「ふむ、砕牙に問題はなさそうじゃのう」
南側の城壁の上で、ベルグがシグの戦いを確認していた。
その横で、ローグとレイラの兄妹が、まるで現実感のない、夢でも見ているかのように目の前の状況を見ていた。
「……ねえ兄さん、アレは人なの?」
「……分からない。とてもじゃないが、同じ人には思えないのは確かだな」
シグとヴァルナの援護に、バルスタン氏族の戦士を率いて城壁に陣取っていたローグとレイラは、シグが発動した開戦当初の魔法の威力に驚き、その後の砕牙とベルグが呼んだ長柄武器を振り回しての蹂躙劇を見て、現実に感情が付いてこない。
「あっ! あれ蛮族の族長じゃないの?」
レイラの目に、ランドリザードを駆る巨漢の男が、縦に真っ二つにされたのが見えた。
「……あの巨漢と巨大な戦斧は間違いないだろうな」
ローグの目にもそれは見えていた。
そこからの戦闘は、ただ雑草を刈り取る様にも見えた。
さらに北側の敵に対峙していた筈の、二人が合流してからは、更に殲滅速度が上がり、流れ作業のように蛮族が狩られていく。
時折、矢を射かけていた者も、今は呆然と目の前の光景を眺めていた。
僕とヴァルナが戦場を縦横無尽に駆け回っていると、アグニとインドラが合流して来た。
「何だ、もう半分も居ないじゃねえか」
「ふむ、こちらに戦力を集中していたようだな」
「アグニ! インドラ! 向こうは終わったの?」
「ああ、向こうは陽動だったからか、数が少なかったぜ!」
「物足りないので、主人の方を手伝おうと思いましてな」
「貴方達は……仕方ないですね。確かにその方が早く終わりますからね」
どうやら北に向かった蛮族の数は、防衛側の人数を分散させるだけの陽動だったようで、手早く片付けて南側に来たらしい。
「じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃおうか」
「御意!」
「おう!」
「はい!」
僕はアグニ達に声を掛けて、彼等と一緒に蛮族の騎馬部隊(馬ばかりじゃないんだけどね)を蹴散らしていく。
僕達が蛮族相手に無双状態で殲滅していると、ファニールが暴れさせろと言ってきた。
『シグ! 俺が脅せば二度と来ないんじゃないか?』
「……それアリだな」
族長が倒れ、アグニ達が参戦した事で、蛮族は逃げ始めている。
僕はファニールから跳び下りると、鞍を手早く外す。
「良し! 全員殺すなよ!」
『ああ、全員殺しちゃあ意味ないからな』
ファニールがそう言うと、赤い馬体が光に包まれ、ドンドンと大きくなっていく。
最終的に15メートルを超える体長、イグニートの系譜を継ぐ炎の龍が出現する。
巨大な翼を広げ一羽ばたきすると、長い尾まで入れると20メートルを超えるその巨体が
、フワリと上昇して行く。
その日、空白地帯と呼ばれる何処の国にも属さない地で暮らす一つの部族が、同じ空白地帯を縄張りとする、蛮族と呼ばれる掠奪のみを糧とする集団に襲撃された。
それはこの地ではよくある話。
蛮族は、空白地帯の内外問わず掠奪を繰り返す。空白地帯に暮らす遊牧民とて例外はない。
空白地帯には幾つもの蛮族の集団が存在するが、その中でも最大にして最凶の蛮族に標的にされたのは、空白地帯に暮らす部族の中では奇特な部族。他者から奪う事を良しとせず、友好的な部族とは手を取り合い暮らす部族。
そしてそんな部族にも厄災は降り掛かる。
友好部族が蛮族の襲撃に壊滅すると、その避難民を受け入れる。当選、蛮族の次の標的にされ襲撃されるも、一度の襲撃を跳ね返す。
そして空白地帯に暮らす者達の伝説になる日が訪れる。
一度の襲撃に失敗した蛮族が、全戦力をもって、再度襲いかかった。
そこで蛮族達が見たのは、数日前まで申し訳程度の防壁があるだけだった集落の筈が、要塞もかくやと思える城壁がそびえ立っている光景だった。
それでも蛮族は数で圧倒している。空白地帯最強を自負する蛮族の族長は、突撃の号令をかけた。
蛮族はその数、十倍以上の戦力をもって、なだらかな丘の上へと突撃を開始する。
空白地帯の外の世界では、剽悍無比と怖れられ、一人の蛮族の戦士を相手にするには五人の騎士が必要だと言われた戦闘集団にとって、悪夢の一日が始まった。
蛮族の前に立ち塞がった一騎と三人。その四人によって、蛮族達は散々に蹂躙されるという、彼等の理解が及ばないバケモノに遭遇してしまう。
それは一騎当千という言葉が軽く感じてしまう蹂躙劇だった。
武勇でならした蛮族の族長が一蹴され、逃走する蛮族の戦士達を、この世に存在する厄災の極みが襲う。
体長15メートル、尾の長さまで含めると全長20メートルを超えるソレは、この世界では絶対的な存在だった。
古代龍と呼ばれるソレは、亜神の領域に居る存在。ワイバーンや地竜とはまったく違う圧倒的な存在感がその場を支配する。
それはこの世の絶望を体現したカタチ。
それはこの世界の力の象徴。
力こそ全ての弱肉強食の理(ことわり)が支配する空白地帯に、究極の力が顕現した。
狼狽え逃げ惑う蛮族に、無慈悲な灼熱のブレスが襲いかかり、魔法耐性の低い蛮族達は、跡形も残さず消えていく。
逃げ切れた蛮族は、百人を切っていたという。
◇
ファニールが戻って来て馬の姿に戻る。
確かにファニールは手加減したんだろう。ブレスも加減していたのは分かる。だけど、所どころ地面が高熱に晒され結晶化しているのを見て、一言言わないと収まらない。
「やり過ぎだよファニール!」
「そうだぜ、せっかくの坊の初陣なのによ」
「であるな。少々目立ち過ぎだと某も思うぞ」
「ファニール、貴方罰に死体の片付け手伝いなさい」
『ええーー! 勘弁してくれよぉ!』
皆んなから責められてガックリとするファニール。馬の姿でもガックリしているのが分かる。
まぁ、どちらにしても、蛮族の死体の処理をローグさん達に手伝ってもらわないとな。
「でも流石蛮族だな。レベルが一つだけ上がったよ」
「それは良かったじゃねえか。坊と違って俺達は、この辺りの雑魚じゃレベルはなかなか上がらねえからな」
久しぶりに身体に力が漲る感じがあった。それでもアグニ達レベルになると、この程度のレベルの相手を何百と倒してもレベルは上がらないのだろう。
「取り敢えず……戻ろうか」
「そうですね。ルカもシグ様と離れて不安でしょうから、早く顔を見せてあげましょう」
僕は蛮族の死体が散乱するなか、アグニ達やファニールと雑談しながらバルスタン氏族の集落へと戻る。
砕牙の使い心地もベルグに教えてあげないとな。
「死にやがれ、くそガキ!」
僕は振り下ろされる戦斧に、ワザと砕牙を合わせて斜めに振り上げる。
バキャン!
「へっ?」
戦斧の分厚い斧刃が粉々に破壊され、蛮族の男は、突然軽くなった柄を握ったまま、現実が受け入れられず呆然とする。
『邪魔だ蜥蜴の分際で、俺の前に姿を見せるな!』
ファニールがランドリザードの頭を踏み付け潰す。
ランドリザードが殺され急ブレーキがかかり、蛮族の男の身体が前に泳ぐところに、頭上から砕牙を振り下ろす。
蛮族の男は声を発する事もなく、正中から真っ二つに左右に別れて地面に沈んだ。
「族長ぉー!」
周りの蛮族が叫び、今の戦斧の男が蛮族の族長だったと分かる。
トップが斃された事で、蛮族達に動揺が広がる。だけど逃がさないよ。最低でもバルスタン氏族よりも数を減らさないとね。
僕とヴァルナは、猛然と蛮族達に襲いかかる。
さあ、狩りの時間だ。
「ふむ、砕牙に問題はなさそうじゃのう」
南側の城壁の上で、ベルグがシグの戦いを確認していた。
その横で、ローグとレイラの兄妹が、まるで現実感のない、夢でも見ているかのように目の前の状況を見ていた。
「……ねえ兄さん、アレは人なの?」
「……分からない。とてもじゃないが、同じ人には思えないのは確かだな」
シグとヴァルナの援護に、バルスタン氏族の戦士を率いて城壁に陣取っていたローグとレイラは、シグが発動した開戦当初の魔法の威力に驚き、その後の砕牙とベルグが呼んだ長柄武器を振り回しての蹂躙劇を見て、現実に感情が付いてこない。
「あっ! あれ蛮族の族長じゃないの?」
レイラの目に、ランドリザードを駆る巨漢の男が、縦に真っ二つにされたのが見えた。
「……あの巨漢と巨大な戦斧は間違いないだろうな」
ローグの目にもそれは見えていた。
そこからの戦闘は、ただ雑草を刈り取る様にも見えた。
さらに北側の敵に対峙していた筈の、二人が合流してからは、更に殲滅速度が上がり、流れ作業のように蛮族が狩られていく。
時折、矢を射かけていた者も、今は呆然と目の前の光景を眺めていた。
僕とヴァルナが戦場を縦横無尽に駆け回っていると、アグニとインドラが合流して来た。
「何だ、もう半分も居ないじゃねえか」
「ふむ、こちらに戦力を集中していたようだな」
「アグニ! インドラ! 向こうは終わったの?」
「ああ、向こうは陽動だったからか、数が少なかったぜ!」
「物足りないので、主人の方を手伝おうと思いましてな」
「貴方達は……仕方ないですね。確かにその方が早く終わりますからね」
どうやら北に向かった蛮族の数は、防衛側の人数を分散させるだけの陽動だったようで、手早く片付けて南側に来たらしい。
「じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃおうか」
「御意!」
「おう!」
「はい!」
僕はアグニ達に声を掛けて、彼等と一緒に蛮族の騎馬部隊(馬ばかりじゃないんだけどね)を蹴散らしていく。
僕達が蛮族相手に無双状態で殲滅していると、ファニールが暴れさせろと言ってきた。
『シグ! 俺が脅せば二度と来ないんじゃないか?』
「……それアリだな」
族長が倒れ、アグニ達が参戦した事で、蛮族は逃げ始めている。
僕はファニールから跳び下りると、鞍を手早く外す。
「良し! 全員殺すなよ!」
『ああ、全員殺しちゃあ意味ないからな』
ファニールがそう言うと、赤い馬体が光に包まれ、ドンドンと大きくなっていく。
最終的に15メートルを超える体長、イグニートの系譜を継ぐ炎の龍が出現する。
巨大な翼を広げ一羽ばたきすると、長い尾まで入れると20メートルを超えるその巨体が
、フワリと上昇して行く。
その日、空白地帯と呼ばれる何処の国にも属さない地で暮らす一つの部族が、同じ空白地帯を縄張りとする、蛮族と呼ばれる掠奪のみを糧とする集団に襲撃された。
それはこの地ではよくある話。
蛮族は、空白地帯の内外問わず掠奪を繰り返す。空白地帯に暮らす遊牧民とて例外はない。
空白地帯には幾つもの蛮族の集団が存在するが、その中でも最大にして最凶の蛮族に標的にされたのは、空白地帯に暮らす部族の中では奇特な部族。他者から奪う事を良しとせず、友好的な部族とは手を取り合い暮らす部族。
そしてそんな部族にも厄災は降り掛かる。
友好部族が蛮族の襲撃に壊滅すると、その避難民を受け入れる。当選、蛮族の次の標的にされ襲撃されるも、一度の襲撃を跳ね返す。
そして空白地帯に暮らす者達の伝説になる日が訪れる。
一度の襲撃に失敗した蛮族が、全戦力をもって、再度襲いかかった。
そこで蛮族達が見たのは、数日前まで申し訳程度の防壁があるだけだった集落の筈が、要塞もかくやと思える城壁がそびえ立っている光景だった。
それでも蛮族は数で圧倒している。空白地帯最強を自負する蛮族の族長は、突撃の号令をかけた。
蛮族はその数、十倍以上の戦力をもって、なだらかな丘の上へと突撃を開始する。
空白地帯の外の世界では、剽悍無比と怖れられ、一人の蛮族の戦士を相手にするには五人の騎士が必要だと言われた戦闘集団にとって、悪夢の一日が始まった。
蛮族の前に立ち塞がった一騎と三人。その四人によって、蛮族達は散々に蹂躙されるという、彼等の理解が及ばないバケモノに遭遇してしまう。
それは一騎当千という言葉が軽く感じてしまう蹂躙劇だった。
武勇でならした蛮族の族長が一蹴され、逃走する蛮族の戦士達を、この世に存在する厄災の極みが襲う。
体長15メートル、尾の長さまで含めると全長20メートルを超えるソレは、この世界では絶対的な存在だった。
古代龍と呼ばれるソレは、亜神の領域に居る存在。ワイバーンや地竜とはまったく違う圧倒的な存在感がその場を支配する。
それはこの世の絶望を体現したカタチ。
それはこの世界の力の象徴。
力こそ全ての弱肉強食の理(ことわり)が支配する空白地帯に、究極の力が顕現した。
狼狽え逃げ惑う蛮族に、無慈悲な灼熱のブレスが襲いかかり、魔法耐性の低い蛮族達は、跡形も残さず消えていく。
逃げ切れた蛮族は、百人を切っていたという。
◇
ファニールが戻って来て馬の姿に戻る。
確かにファニールは手加減したんだろう。ブレスも加減していたのは分かる。だけど、所どころ地面が高熱に晒され結晶化しているのを見て、一言言わないと収まらない。
「やり過ぎだよファニール!」
「そうだぜ、せっかくの坊の初陣なのによ」
「であるな。少々目立ち過ぎだと某も思うぞ」
「ファニール、貴方罰に死体の片付け手伝いなさい」
『ええーー! 勘弁してくれよぉ!』
皆んなから責められてガックリとするファニール。馬の姿でもガックリしているのが分かる。
まぁ、どちらにしても、蛮族の死体の処理をローグさん達に手伝ってもらわないとな。
「でも流石蛮族だな。レベルが一つだけ上がったよ」
「それは良かったじゃねえか。坊と違って俺達は、この辺りの雑魚じゃレベルはなかなか上がらねえからな」
久しぶりに身体に力が漲る感じがあった。それでもアグニ達レベルになると、この程度のレベルの相手を何百と倒してもレベルは上がらないのだろう。
「取り敢えず……戻ろうか」
「そうですね。ルカもシグ様と離れて不安でしょうから、早く顔を見せてあげましょう」
僕は蛮族の死体が散乱するなか、アグニ達やファニールと雑談しながらバルスタン氏族の集落へと戻る。
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