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初心者講習最終日
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初心者講習も最終日となり、後は無事に村へ帰れば終了だ。
昨日からヒューイ、ドルジ、アンナの三人は口数も減り、暗い雰囲気で、ただ歩いている。
この世界の人は逞しいとムサシは感心する。昨日から、かなりの距離を歩いているが、ヒューイ達にとっては普通の事なのだろう。
交通機関が発達した、現代日本で暮らしていたムサシは、長距離を歩く経験がなかった。
アーミーアント戦を通してレベルが上がり、身体能力が上がっていなければ、とてもじゃないが歩ける自信はなかった。
黙々と歩いていると、腕の中のフランがプルプルと震える。
『……ウサ、ギ、ミツケ、タ』
フランが一角ウサギを見つけたようだ。
「セドリックさん、一角ウサギを見つけたんですけど、お昼ご飯用に狩っても良いですか?」
「お昼はウサギ肉にしますか」
セドリックの許可が出たので、ムサシはフランを降ろす。
「フラン、お願い」
フランは、音を立てずに一角ウサギへと近付いて行く。
その後ろをムサシが距離を置き、足音を立てないように慎重にあとを追う。
草を食べている一角ウサギの背後から、フランが忍び寄る。
一角ウサギを目前に、フランが跳び掛かる。
一瞬で一角ウサギの体を覆い込み拘束する。
ムサシは、フランが跳び掛かるのを確認すると、ナイフを手に走りだす。
動けずにもがく一角ウサギの首筋に、ナイフを突き立てる。
最近やっと生き物の命を奪う事に、自分の中で折り合いが付いて来た。
仕留めた事を確認すると、何時もの様にフランに血抜きをお願いする。
「良い連携ですね。
アーミーアントの時もそうでしたが、スライムとは思えない戦闘力です」
ムサシが一角ウサギを担いで帰ると、セドリックがムサシとフランを褒める。
セドリックにとって、スライムがアーミーアントを斃せるスライムというのは、ただただ驚きだった。
「フランちゃん可愛いわね。抱いても良い?」
「フラン、アンナさんが抱いても大丈夫?」
『……ウ、ン』
「大丈夫だって、はいどうぞ」
フランをアンナに渡すと、嬉しそうに抱きしめる。
「ちょうど良い機会です。一角ウサギの解体を覚えて貰いましょう」
お昼休憩をする時、セドリックがそう言って、ムサシが一角ウサギの解体をする事になる。
ナイフの入れ方や、皮の剥ぎ方を教えられ、涙目になりながら解体を進める。
内臓をフランにあげて、皮を剥いだ肉を枝肉に別けて行く。
ドルジとヒューイは火の準備。アンナは、切り分けた肉を串に刺して焼き始める。味付けは塩のみだ。
落ちた脂が焼けて、香ばしい匂いがして来ると、彼方此方で唾を飲み込む音がする。
焼きあがるそばから、肉にかぶりつくムサシ達、無言で食べ続ける。
「はぁ~、美味かった」
全てが食べ尽くされた後、全員がお腹をさすって満足そうだった。
かなりの量が有った筈の、一角ウサギの肉を、五人で食べ尽くしたのだから。
食べ過ぎたので、少し長めの休憩を取っている時、ムサシは、ドルジとアンナから依頼達成率が悪い理由を聞いていた。
薬草採取の時に、丁寧に採取しなかった為に傷んだ薬草を納品した事や、解体が雑で討伐証明部位の納品が出来なかったり、自分達の力量以上の依頼を受けて、結果達成出来なかったりと、聞くとどれも少し気を付ければ改善出来る事ばかりだった。
「それなら直ぐに依頼達成率も良くなるよ」
「そうね、自分達の力量を知って、驕らず丁寧に依頼に取り組めばいいのだからね」
「……そうだな」
アンナもドルジも初心者講習に参加した事を良かったと考える様になっていた。
「では、そろそろ出発しますよ」
セドリックの号令で、ルッツ村へ帰る道を歩き始める。
先頭をドルジとヒューイが交代しながら、周囲の警戒をしながら村へと帰り着いた。
ムサシ達初心者講習受講者一行は、何とか冒険者ギルドの会議室にたどり着いた。
「お疲れ様でした。これで初心者講習は終了です。
これでヒューイ君達も、漠然と依頼を受ける事はないでしょう。
これをもってムサシ君はFランクに昇格です」
ギルドポイント自体は、既にFランク昇格条件を満たしていたが、ムサシがギルドに登録して僅か五日だったので、初心者講習で問題が無ければFランクへ昇格させると、ギルドマスターと決めていたと言う。
新しいFと記されたギルドカードを渡されて、少し嬉しいムサシだった。
「ムサシ君、機会があれば一緒に依頼を受けましょう。ムサシ君なら大歓迎よ」
「……うん、ムサシなら安心して組める」
「ありがとう、アンナさん、ドルジ。
また一緒する時には、よろしく頼むよ」
ムサシは、アンナ達に挨拶すると宿屋へ向かう。
後ろでは、ヒューイがアンナとドルジに怒られていた。ムサシに対する態度を怒られていた。
ムサシは、まぁ反抗的になる年頃だよな、なんて考えていたが、ムサシとアンナが仲良く話していたのが原因だなんて思ってもいなかった。
宿屋に戻るとマーサさんが、二日分の宿泊費を取らずに、延長扱いにしてくれていた。
その日は早めの夕食を食べると、早々にベッドに潜り込むと直ぐに寝息が聞こえて来た。
昨日からヒューイ、ドルジ、アンナの三人は口数も減り、暗い雰囲気で、ただ歩いている。
この世界の人は逞しいとムサシは感心する。昨日から、かなりの距離を歩いているが、ヒューイ達にとっては普通の事なのだろう。
交通機関が発達した、現代日本で暮らしていたムサシは、長距離を歩く経験がなかった。
アーミーアント戦を通してレベルが上がり、身体能力が上がっていなければ、とてもじゃないが歩ける自信はなかった。
黙々と歩いていると、腕の中のフランがプルプルと震える。
『……ウサ、ギ、ミツケ、タ』
フランが一角ウサギを見つけたようだ。
「セドリックさん、一角ウサギを見つけたんですけど、お昼ご飯用に狩っても良いですか?」
「お昼はウサギ肉にしますか」
セドリックの許可が出たので、ムサシはフランを降ろす。
「フラン、お願い」
フランは、音を立てずに一角ウサギへと近付いて行く。
その後ろをムサシが距離を置き、足音を立てないように慎重にあとを追う。
草を食べている一角ウサギの背後から、フランが忍び寄る。
一角ウサギを目前に、フランが跳び掛かる。
一瞬で一角ウサギの体を覆い込み拘束する。
ムサシは、フランが跳び掛かるのを確認すると、ナイフを手に走りだす。
動けずにもがく一角ウサギの首筋に、ナイフを突き立てる。
最近やっと生き物の命を奪う事に、自分の中で折り合いが付いて来た。
仕留めた事を確認すると、何時もの様にフランに血抜きをお願いする。
「良い連携ですね。
アーミーアントの時もそうでしたが、スライムとは思えない戦闘力です」
ムサシが一角ウサギを担いで帰ると、セドリックがムサシとフランを褒める。
セドリックにとって、スライムがアーミーアントを斃せるスライムというのは、ただただ驚きだった。
「フランちゃん可愛いわね。抱いても良い?」
「フラン、アンナさんが抱いても大丈夫?」
『……ウ、ン』
「大丈夫だって、はいどうぞ」
フランをアンナに渡すと、嬉しそうに抱きしめる。
「ちょうど良い機会です。一角ウサギの解体を覚えて貰いましょう」
お昼休憩をする時、セドリックがそう言って、ムサシが一角ウサギの解体をする事になる。
ナイフの入れ方や、皮の剥ぎ方を教えられ、涙目になりながら解体を進める。
内臓をフランにあげて、皮を剥いだ肉を枝肉に別けて行く。
ドルジとヒューイは火の準備。アンナは、切り分けた肉を串に刺して焼き始める。味付けは塩のみだ。
落ちた脂が焼けて、香ばしい匂いがして来ると、彼方此方で唾を飲み込む音がする。
焼きあがるそばから、肉にかぶりつくムサシ達、無言で食べ続ける。
「はぁ~、美味かった」
全てが食べ尽くされた後、全員がお腹をさすって満足そうだった。
かなりの量が有った筈の、一角ウサギの肉を、五人で食べ尽くしたのだから。
食べ過ぎたので、少し長めの休憩を取っている時、ムサシは、ドルジとアンナから依頼達成率が悪い理由を聞いていた。
薬草採取の時に、丁寧に採取しなかった為に傷んだ薬草を納品した事や、解体が雑で討伐証明部位の納品が出来なかったり、自分達の力量以上の依頼を受けて、結果達成出来なかったりと、聞くとどれも少し気を付ければ改善出来る事ばかりだった。
「それなら直ぐに依頼達成率も良くなるよ」
「そうね、自分達の力量を知って、驕らず丁寧に依頼に取り組めばいいのだからね」
「……そうだな」
アンナもドルジも初心者講習に参加した事を良かったと考える様になっていた。
「では、そろそろ出発しますよ」
セドリックの号令で、ルッツ村へ帰る道を歩き始める。
先頭をドルジとヒューイが交代しながら、周囲の警戒をしながら村へと帰り着いた。
ムサシ達初心者講習受講者一行は、何とか冒険者ギルドの会議室にたどり着いた。
「お疲れ様でした。これで初心者講習は終了です。
これでヒューイ君達も、漠然と依頼を受ける事はないでしょう。
これをもってムサシ君はFランクに昇格です」
ギルドポイント自体は、既にFランク昇格条件を満たしていたが、ムサシがギルドに登録して僅か五日だったので、初心者講習で問題が無ければFランクへ昇格させると、ギルドマスターと決めていたと言う。
新しいFと記されたギルドカードを渡されて、少し嬉しいムサシだった。
「ムサシ君、機会があれば一緒に依頼を受けましょう。ムサシ君なら大歓迎よ」
「……うん、ムサシなら安心して組める」
「ありがとう、アンナさん、ドルジ。
また一緒する時には、よろしく頼むよ」
ムサシは、アンナ達に挨拶すると宿屋へ向かう。
後ろでは、ヒューイがアンナとドルジに怒られていた。ムサシに対する態度を怒られていた。
ムサシは、まぁ反抗的になる年頃だよな、なんて考えていたが、ムサシとアンナが仲良く話していたのが原因だなんて思ってもいなかった。
宿屋に戻るとマーサさんが、二日分の宿泊費を取らずに、延長扱いにしてくれていた。
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