召喚術士は魔物と踊る

小狐丸

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ゴーレムは魔物ですか?

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 早朝、棍術の訓練と今日からはマーティンから剣術の訓練も併せて受けている。

 剣など使う気もないムサシだが、鈍器以外の攻撃手段を持っていた方が良いとマーティンに言われたのだ。


 朝食を済ませて、食料の買い出しを終えると、ガザ村を出発する。

 ガザ村を出て、二日経った頃だった。
 街道から見える景色が、見渡す限りの草原から、ゴツゴツとした岩ばかりの茶色い景色へと変わって来た。

「景色が一変したな」

「ええ、草原で一角ウサギやシングルホーンディアを狩れて良かったですね。
 私食べれませんけど」

 だんだんと緩やかな上り坂になってきた。

「これはレベルが上がってなければへばってたな」

 ムサシが一歩一歩踏み締める様に、緩やかな上り坂を歩いて行く。

「失敗しましたね」

「何が?」

 ムサシには、マーティンが言う意味が分からなかった。

「今日の野営で使える木が生えていません」

「あっ!」

「夜の警戒は私がいるので大丈夫だと思いますが、マスターの食事が干し肉だけになります」

 フランは肉を焼かなくても大丈夫だが、ムサシはさすがに生肉は無理だ。

「はぁ~、もうちょっと早く気付いてよ」

「それはマスターが気付いて下さい。
 ただでさえ、私は食事をしませんし、夜も明かりは必要有りません。気付くのが遅くなるのも仕方のない事です」

「うっ」

 スケルトンにやり込められて、言葉に詰まるムサシ。食事をしないマーティンが、食べる事に疎くなっても当然だ。




 日が暮れて来たので、街道を外れて野営をする場所を探す。

「マスター、この辺りでどうです?
 ここなら警戒をする範囲が絞れます」

 崖が少し窪んだような形になっている場所を、マーティンが選ぶ。ムサシは野営に向く場所など分からないので、マーティン任せだ。

「うん、良いと思うよ」

『マスター、お肉食べるー』

 フランが肉をオネダリして来たので、ムサシも食事にする。
 フランには、一角ウサギの肉を切り分けた物を渡し、自分は干し肉をかじり水を飲む。

「ダメだ、固くて塩辛い」

 干し肉侮り難し、現代人のムサシには、干し肉をそのままかじるのは、ハードルが高かった。
 肉を美味しそうに?体の中に取り込んで吸収するフランを恨めしそうに見ながら、口の中の干し肉を飲み込む。

「……もう寝る」

 ムサシは、お腹が空いたのを我慢しながら眠りにつく。



 夜の闇が薄くなり始めた頃、ムサシはマーティンに体を揺らして起こされる。

「しっ、声を出さずに……」

 マーティンが、ムサシが声をあげないよう注意する。

「マスター、魔物です。しかもこの気配は無機物だと思います」

「無機物?」

「ええ、私の様なスケルトンか、多分この気配はゴーレムの可能性が高いかと」

「ゴーレム、泥や石の?」

「この辺りの土地から考えられるのは、マッドゴーレムかストーンゴーレムだと思います。
 ただ、ストーンゴーレムとなると、私は余り役に立ちません」

 マーティンにそう言われて、ムサシも理解する。
 マーティンのショートソード二刀流では、ストーンゴーレムに対して相性は最悪だろう。

「そこで、私がストーンゴーレムを牽制している隙に、ゴーレムの頭か胸に、ゴーレムを制御するコアがありますから、それをメイスで狙って下さい」

「それって、危なくないか?」

 この後に及んでビビるムサシ。

「もうやるしかないですよ。時間切れです」

 マーティンがそう言うと、重量物が近付く音が聞こえて来た。

 ムサシは慌ててメイスを持ち身構える。

 やがてその姿が見えて来る。

 それはまさしくストーンゴーレムだった。
 2メートル50センチ程のずんぐりとしたフォルムに、地面に付きそうな程長い腕と大きな手。
 小さな頭には模様の様な顔が刻まれている。
 全身にも黒い幾何学模様のラインが刻まれ、胸の中心に緑色の石が嵌っていた。
 あれがマーティンの言うコアだろうと、ムサシは理解する。

 マーティンがショートソードを腰から抜き放ち、回り込む様に走り出す。

 マーティンが飛び出したのを見て、ムサシは勇気を振り絞り、マーティンと逆方向へ回り込む様に走り出した。

 フランも遅れて動きだす。

 マーティンが攻撃を仕掛けるが、まったく攻撃が通っていない。
 傷をつける程度で、大きなダメージを与えるには至っていない。

 ストーンゴーレムは、その長い腕を振り回してマーティンを攻撃する。

 ムサシはストーンゴーレムの意識が、マーティンに向いているその隙に、メイスを振りかぶりながら走り寄り、コアめがけて振り下ろす。

 ガキッ、チッ、ムサシのメイスが、ストーンゴーレムの腕でガードされる。メイスを叩きつけられたゴーレムの腕は崩れるが、見る見るうちに再生して行く。

 舌打ちをして飛び下がるムサシ。

 すかさずマーティンが、ストーンゴーレムに攻撃して気をそらす。

 その時、ゴーレムの足にフランが纏わり付き、バランスを崩したストーンゴーレムが倒れる。

 地面を揺らして倒れたゴーレムが、手をつき起き上がろうとする。

 好機と見たムサシは走り出す。

「ふん!」ゴーレムのコア目掛け、メイスを下からカチ上げる様にフルスイングする。

 ムサシが振り抜いたメイスが、緑色の石を捉え、石にヒビが入る。

「GUOOOOOーー!!」

 ストーンゴーレムが雄叫びを上げ、次の瞬間、バラバラと石で構成された体が崩れていった。

「お見事です、マスター」

「ふぅ、マーティンもフランもお疲れさま」

 緊張が解けて、その場にへたり込んでいたムサシに、マーティンが近寄ってねぎらう。

『マスター、凄いねー』

 フランはムサシに擦り寄り体を擦り付ける。



 辺りはすっかり明るくなり朝日が昇っていた。

「マスター、ちょうど石もゴーレムコアも揃っていますし、召喚契約してはどうでしょう。
 ストーンゴーレムなら盾役になりますし」

 マーティンに言われて少し考える。
 確かにストーンゴーレムが仲間になれば心強い。

「そうだな、試してみるか」

 ムサシはストーンゴーレムの残骸に近寄り、召喚魔法を発動する。
 石の残骸とコアを中心に、大きな魔法陣が光りながら回転する。
 魔力が体から大量に出て行く感覚がするが、何とか魔力枯渇ギリギリで、召喚が成功した事が分かった。
 やがて強く光かり魔法陣が消えると、その場にさき程ムサシ達と戦ったストーンゴーレムが立っていた。
 ただ幾何学模様は、黒から青いラインに変化している。


「マスター、名前を付けてあげて下さい」

『名前ー、何て付けるのー』

 マーティンとフランにうながされ、ストーンゴーレムの名前を考える。

「……そうだな、ムックでどうだ」

『ムック、ムック、ムック!』

 フランがピョンピョン跳ねる。

 ムサシはムックのステータスを確認する。


 NAME ムック(ストーンゴーレムD)
 AGE  120
 Lv   1
 HP   250/250
 MP   100/100
 STR  120
 AGR  80
 DEX  60
 INT  80
 MEN  60

 SKILL  体術Lv.1 
      超再生 剛力

 召喚者 ムサシ


「ムック、めっちゃ強いじゃないか。よく勝てたな俺達」

「マスター、ヨロシクオネガイシマス」

 ムックのステータスに驚くムサシに、機械音の様な声でムックが挨拶する。

「マスター、ストーンゴーレムは私達よりもランクが高いですからね。強いのは当たり前です」

『凄~い!ムック強~い!』

 フランが跳ねて喜ぶ。

 危機から脱したムサシ達に、心強い仲間が増えることになった。

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