召喚術士は魔物と踊る

小狐丸

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敵討ちと言う八つ当たり

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 森の中を抜ける街道を少し進むと、マーティンが馬車を脇に寄せる。

「マスター、行きますよ」

 マーティンが馬を繋ぐ。

「ムサシ君、どこへ行くの?」

 アンナが不安そうに聞いて来る。

「アンナ、盗賊のアジトを潰して来る。
 ヒューイとドルジの敵討ちって言うと少し違うかもしれないけど、まぁ八つ当たりかな。
 アンナはこの子達と一緒に居てあげて」

 血を失って、体調が戻っていないアンナは、留守番をして貰う。

「……気をつけてね」

「大丈夫、直ぐに戻るよ」



 ムサシがマーティンの所へ行くと、マーティンは盗賊のアジトへの目印を見付けていた。

「こっちですね。街道からそんなに離れてなさそうですね」

 マーティンが先頭で森に分け入る。
 森の木々に、目印が付けてあった。

 やがて森の中の拓けた場所に、木造の小屋が建っていた。
 マーティンが慎重に忍び寄り中の様子を探る。
 骨だけどさすがは斥候職だっただけの事はある。


「人数は6人です。全員盗賊ですね」

 戻って来たマーティンが、小屋の中に居る盗賊の人数を報告する。捕まっている人が居ないのは幸いだった。
 これで遠慮なく暴れる事が出来る。


 ムサシはムックを召喚する。

 小屋の前に魔法陣が光り、ストーンゴーレムの巨体が出現する。

 マーティンとムサシが、ムックの背中に隠れる様に位置取り、フランがムックの後ろで何時でも跳びつける準備をする。
 ムックが腕を振りかぶり、巨大な石の拳を小屋のドアに叩きつける。

 轟音と共にドアは吹き飛ぶ。

「なっ!なんだ!」

「襲撃だ!」

「てめぇら、行くぞ!」

 小屋から飛び出て来る盗賊に、ムックが腕を横に薙ぐ。
 鈍い音を立てて、横に吹っ飛ぶ仲間の姿を見て、後ろに続いた盗賊達の足が止まる。

「グゥアー!」

 次の瞬間、ムックの背後からマーティンが飛び出し、二本のショートソードを突き刺した。

「グヘッ!」

 マーティンに遅れて、逆側からメイスを振りかぶりながら飛び出したムサシが、目の前のストーンゴーレムに気を取られる盗賊に向かって振り下ろす。

「なっ!何なんだ!」

 瞬く間に、半数の仲間が倒れた自体に、逃げ出そうとした盗賊の一人は、一歩も足を進める事が出来なかった。
 盗賊が混乱する間にも、足元から半透明の物体に覆われて行く。
 やがて全身をフランに覆われると、数秒でその命を刈り取った。

「ウギャアーー!!」

 振り下ろす様に振るわれたムックの拳に、盗賊の一人が潰され、残すは壊れたドアの側に立つ盗賊を残すのみとなる。


「なっ!何だてめぇら!よ、よくも俺の手下をやってくれたな!」

 一瞬のうちに部下達を倒され、それでも強がり叫ぶ盗賊の首魁。

「お、お前は、魔物使いか!てめぇの仕業かぁ!」

 唯一の人間であるムサシに気が付いた盗賊が、腰の剣を抜いて、斬り掛かろうとする。

 ギンッ!ムサシを守ろうと突き出した、ムックの腕に当たった剣が根もとで折れる。
 次の瞬間、盗賊の胸と首に二本の剣が突き立てられていた。

「マスターはやらせませんよ」

「……か、かはっ!」

 マーティンが剣を抜くと、血を吹き出し仰向けに倒れた。


「マスター、小屋の中を調べましょう」

 メイスを震える手で握るムサシに、マーティンが声を掛ける。

「あ、あゝ、分かった」

 今だ人を殺した事への動揺に、震える手を見ながら、それでも最初より衝撃が少なくなって来ている事に、ムサシは気付いていた。
 人殺しを、忌避感もなく出来る様に成りたくはないが、自分が躊躇した所為で、大事な人が傷付く選択はしたくないと思った。
 アンナがヒューイとドルジに縋り付いて、泣いていた姿が脳裏に焼き付いていた。

「ふぅ」

 首を振り思考を一旦切り、小屋の中へ入って行く。

「マスター、この連中かなり悪どく稼いでいた様ですね」

 小屋の中は、盗賊達が寝泊まりしていた部屋と、盗んだり奪った物を保管する部屋に別れていた。
 部屋の探索をして、盗賊達のお宝を運び出していたマーティンの言う通り、この盗賊達はかなり派手に活動していたようだ。

「お金もかなり貯め込んでますが、これ見てください。大容量のマジックバッグが二つも有りました」

 骨だから変化がないが、マーティンがニコニコしてるのが幻視出来る位上機嫌だった。
 大容量のマジックバッグは、買うとなると白金貨10枚はくだらない。それが二つだ、おそらく商人から奪ったのだろう。

「マスターは、このマジックバッグにお宝を全部積めて下さい。私とムックで盗賊達の処理をしますから」

「あゝ、頼むよ」

 ムサシはマジックバッグにお金や宝石、剣などの武器や防具を入れていく。食料品は高価な調味料関係のみを回収する。
 木の箱に入った武器や防具と、大量の塩や胡椒などの調味料を見ると、少なくとも違う商人を襲った事が推測できた。

 ムサシが盗賊のお宝を回収し終えて、マーティン達のもとへ戻ると、盗賊の死体は既に埋められていた。

「なぁマーティン、盗賊のお宝ってどうしたら良いの?」

 回収したものの、盗賊達が商人から奪ったお宝の扱いがどうなるのか疑問だった。

「マスター、盗賊のお宝は、その盗賊を討伐した者のモノになります。
 例外的に、貴族家のお宝などは買い戻し対象になる場合がありますが、今回は関係ないですね」

 それを聞いて少しホッとする。
 今回、盗賊達から回収したお金だけで、白金貨で100枚近くあったのだ。日本円に換算するとおよそ10億円相当になる。これだけ有れば、一生働かなくても暮らして行けるだろう。
 他にも宝石類や売り物だったであろう武器と防具も、売却すればそれなりの金額になるだろう。
 だからといって、ムサシがそう言う生活をするのかと言うと、答えはNOだろう。
 幾らお金が有っても、この世界には理不尽な暴力や危険が多い。この盗賊達に襲われた商人が良い例だった。

「アンナの所に戻ろう。遅くなると不安になるだろうから」

「そうですね。お仲間を亡くされたばかりですから、マスターもフォローしてあげて下さい」

 ムサシはムックに礼を言って送還すると、フランを抱き上げ、アンナが待つ馬車へと歩きだした。

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