召喚術士は魔物と踊る

小狐丸

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迷宮都市ボルデルへ

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 サッカの街を出て、迷宮都市ボルデルまでは馬車で二日である。
 馭者には従魔のメダルをペンダントにして、首から掛けたマーティンが手綱を握っている。

 ミミとルルも大分マーティンに慣れて、怖がらなくなって来た。
 ルルはフランを抱いて可愛がっている。

「マスター、随分サッパリしていますね」

「分かる、昨日、久しぶりにお風呂に入れたからな」

「なっ、何て羨ましい。私もお風呂に入りたいです」

『マスター、お風呂気持ちよかったねー』

「くっ、マスター!是非、迷宮都市ではお風呂付きの部屋を借りてください」

 骨がお風呂に入ったら、ダシが取れそうだな何て、バカな事を考えていると、その日の野営場所に着いた。

 迷宮都市ボルデルに近いここは、多くの商人や冒険者が野営が出来るように、広いスペースが設けてあった。

 早速、ムサシが食事の用意に取り掛かる。だいぶ体調が良くなってきたアンナも、手伝うために馬車を降りてスープを作る準備をする。

 ムサシは石を組んで竃を作り火を起こす。

 サッカの街の雑貨屋で、購入した串に肉を刺していく。

 サッカの街では少々高価だったが、石鹸も購入した。

 ムサシの中ではお風呂付きの部屋を借りる事は決定事項だった。



 ムサシは串に刺した肉を大量に焼いていく。
 小さな身体をしているが、ミミとルルは以外と良く食べるのだ。余り食べれなかった反動か、二人は食事になると、本当に良く食べる。

「「美味しいー!」」

 二人が幸せそうに食べる姿を見て、ムサシやアンナも頬が緩む。

「ミミもルルも痩せすぎだからな。一杯食べるんだよ」

「うん!」「はい!」

 ミミもルルも、昨日までボロボロの貫頭衣を着ていたとは思えない。
 仕立ての良い服を着て、髪の毛の艶も蘇り、耳や尻尾の毛並みもフサフサになっている。
 まだまだ痩せているが、血色が良くなり。怯えて常に不安そうな顔をしていたのが、笑顔を見せることが多くなって来た。

 ミミとルルの髪の毛の色は、明るいブラウンで、耳と尻尾は、白、茶、黒の三色の三毛猫の様だ。

 ムサシとアンナも一緒に肉を食べながら、ミミとルルを撫でる。
 ミミとルルも撫でられて嬉しいのか、ムサシの手に尻尾を巻きつけたりしている。


 食事の時間が終わり、ミミとルルも眠そうにし始めたので、馬車に毛皮と敷いて寝る様に言うが、ルルがムサシにしがみついて離れなかった。

「一緒にねるの」

「分かったよ。おいで」

 しがみつくルルを抱いて、その上から毛布を掛ける。

 最初、ごそごそしていたルルの寝息が聞こえてくる。ムサシが横を見ると、アンナに寄り添う様にしてミミも寝ていた。

「環境が急激に変わって、この子達もまだ不安なんだよ」

 アンナがミミの髪の毛を優しく撫でながら言う。

「俺達とも、まだ会って二日だもんな。いつまでこの生活が続くのか心配だろうし、不安は消えないんだろうな」

 本来、ルルの年頃なら、頬もふっくらとしているものだ。それがミミもルルも頬はこけ、手足も細く、見ていて痛々しかった。
 姉妹がどんな生活を送って来たのかが伺えた。

『マスター、フランも寝るのー』

 ルルを起こさない様に、フランがムサシの体に擦り寄って来る。

「夜の警戒と警護は、私にお任せ下さい」

 睡眠の必要が無いマーティンが、馬車とムサシ達の警護についた。




 辺りが明るくなり始めた頃、ムサシは目覚めると、自分にしがみつき眠るルルの様子を伺う。

 スースーと寝息を立てて眠るルルを、もう少し寝かせてあげようと、マーティンを目で探す。

 それに気付いたマーティンが近寄って来た。

「マスター、私がお湯を沸かす準備をしますから、もう少し寝かせてあげて下さい」

「ありがとう。じゃあ頼むよ」

 やがて日の光が差し明るくなると、ルルがごそごそ動きだし、眠そうに瞼を開けてムサシの顔を確認すると、安心した様にニッコリと笑う。

「おはよう、ルル」

「お兄ちゃん、おはよう」

「じゃあルル。お兄ちゃんは、朝ご飯を用意するからね」

「ルルも手伝うの」

「そっか、じゃあ手伝って貰おうかな」

 マーティンが鍋を火にかけてお湯を沸かしていたので、ルルに干し肉を千切って入れて貰う。
 ムサシは、マジックバッグからパンを取り出し、スライスしておく。
 サッカの街の市場で買ったチーズを、串に刺して火で炙る。
 チーズが溶けてきたら、ナイフで溶けた部分をスライスしたパンにのせる。

「うわぁ~、良い匂い~」

「はい、熱いから気をつけて食べるんだよ」

 パンをルルに手渡すと、アンナとミミも起きて来た。

「直ぐに出来るから待ってね」

「じゃあ、私スープを仕上げるわ」

 アンナが鍋に、昨日市場で買った玉子を割り入れ、塩で味を調えて混ぜる。

「はい、ミミちゃん、スープを配って」

 アンナが器にスープを入れて配って行く。

 チーズをのせたパンと、干し肉と玉子のスープで朝食を済ませる。

 ミミとルルは、暖かい食事が出来る事にとても喜んでいた。
 味よりも暖かい事に感動する姉妹を見て、少し切なくなるムサシだった。

 出発する為に、その場の片付けをすると、ミミとルルを馬車に乗せ、迷宮都市ボルデルへ向けて出発した。
 順調に進めば、今日の日が暮れる前に到着する予定だ。

 ムサシにとって、この世界に来て初めての長旅は終わりを告げる。


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