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第3話 赤髪女からの依頼の内容とは

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ざわざわ、ガシャン、ぎゃはははは…おいやめろって……

 平日、バーというよりはだいぶ安っぽい居酒屋で俺は一杯ひっかけていた。大体の世界の様子がつかめてきたから、情報収集というか、まぁただの暇つぶし。能力者たちが行くような高級なバーに行く金が今の俺にはなく、なけなしの金だ。
 カウンターで1人じっと周りの声を聞いていると、恋愛話に花をさかせるもの、職場の愚痴をこぼすもの、国の政策に文句をいうもの、いろんな人々の興味がわかってくる。どこの世界もあまりかわらないな。
 
「……見つけた!ねぇ、あんた!」

 そろそろ飲み終わるな、とグラスを置いた時に声をかけられた。目の前にいたのは昼間の赤髪の女だ。甲冑を脱いだ私服は年頃の女の子のようで可愛らしいが、やたらと渋い顔をしている。

「ね、なまえ、なに」
「俺?俺はリヒト、きみはなんだっけ」
「ティナ」
「ティナ様?」
「様とかいらないから、ねぇ……」

 ぐっと顔が寄る。やば、俺、殴られる?もう業務時間は終わっている。昼間のお咎めならまた明日にしてほし……

「これって、マジなの!?」

 目の前に出されたのは、昼間没収された俺が書いた紙だ。花屋のライラが二股をかけていて、その相手がフランツだったというもの。フランツは国民的イケメンに選ばれてるらしいから、もう少し見出しがセンセーショナルにできたな、花屋のライラ、国民的イケメン相手に2股疑惑……。

「本人に裏とかとってないからマジかどうかは。噂だよ、うわさ」
「そ、そうなんだ…ねぇ、これ続きはないの?」
「気になる?」

 空いていた隣に腰掛けたティナは、ビールを1杯と俺の空いたグラスを指して『マスター、こっちもおかわり』と勝手に追加のオーダーをした。女に奢られるなんて…って考えは俺にはない。金を持ってるやつが奢ればいい。軽くグラスを合わせて乾杯すると、隣のグラスは一瞬で空っぽになった。

「私、この、フランツ様が好きで……いや、話したことはないし、好きっていうのとはまた違うとおもうんだけど、本当に顔がタイプで……ね、見たことある?」
「いやそれが無いんだよね。母親からの伝聞で見た目とかは想像してる」
「待ってね」

 手袋を外したティナの指先が、俺のこめかみに触れる。急に女に触られてびっくりするがここは冷静に。

「目、瞑って」

 言われるがまま、ゆっくりと目を瞑ると脳に違和感が走る。頭の中がスクリーンになったように映像が浮き出てくると、黒髪のイケメンが壇上で手を振っている。驚いて目を開けると、映像は消えた。

「見えた?」
「え、なに、今のがフランツ様?」
「そう、イケメンだったでしょ?」
「いやそれよりも、すごい能力だね」
「そう?あんまり使い所ないよ」

 自分の記憶している映像を他人に送れる能力なのだろうか。カメラもスマホも無い時代に便利な気がするが。

「私、一応王宮使えの魔法使いなんだけどあんまり位が高くなくて。だからあんたみたいな人間の監視とかいうつまんない仕事してるんだけどさ」

 少し酔ってきたのか、悪態で饒舌になってきた。

「家と王宮の外側の往復しかしてなくて。市街で起きたニュースをあんまり知らないんだよね。新聞も読んでるけどもちろん市街の様子なんかないし。だからね……、この紙読んでめっちゃ楽しかったの」
 長々と前置きをして言いたかったのはそれか。こんな、嘘ともほんとともわからない記事に申し訳ない気はするが、そんなのは昔からか。

「あのおっさんにいつも読ませてるの?これ、私にもわけてよ」
「別にいいけど、2枚同じ内容書くのはちょっとめんどいな。コピー機なんてないよね?」
「コピーならコピーマウスにやってもらえば?」
「ま、まうす……?」

 マスター、お会計、と2人分のお金をはらったティナに連れられ、俺は町外れの魔獣屋へと向かった。
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