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覚醒編
48話 それからの、やまと呼ばれた男・1
しおりを挟む高速道路の作戦から約ひと月
3月も終を迎える、3月29日、日曜の午前10時位だろう
一人の男は、とある場所へ辿り行く
2ドアのスポーツタイプの外車から
サングラスを掛けた、柄の悪い男が降りてくる
「また、ここに来るハメになるとは・・・」
そして、その男は、通い慣れた大きな屋敷の、大きな古き門の扉を開く
これから起こる事を考えると、ため息しか出ないが
それでも、この柄の悪い男にとって、避けては通れぬ事でもあった
そして、そこには手入れの整った庭が、広がっていた
そこに、一人の子供、まだ小学生だろうか?
10歳ほどの男の子、どこかに向かう途中だったのか
後ろを振り返るように、首を後ろに回し
家の門に立つ男をじっと見つめていた
小さいながらも、整った体格と、整った顔立ち、短い赤髪を立たせた攻撃的な髪型
大きくなれば、きっと、ハンサムに成るであろうと思わせる少年であった
「そこの君、師匠はご在宅か?」
「・・・師匠? あぁ、ジジィか、いるぞ、それより、お前・・・」
男の問に返事をした少年は、ゆっくりと男に近づき
男の周囲をくるっと、品定めするように、一周し
小声で、ぶつぶつと、つぶやいていた
「気のせいか・・この微かに残った覇気
こんな弱そうな奴が、あいつな訳がないし
あいつがこの世界に来ている何て事はないか・・・」
少年の行動の意味が分からず、見ていた男は
その、つぶやきの一部が聞き取れた
「俺が弱いだと!」
「ん?本当の事を言って何が悪い?
弱いから、じじぃの所に入門しにきたんじゃないのか?」
「小僧、お前に、強さの何がわかる」
「そうさな、それは、ライオンに
ネズミと、モルモットのどっちが強いと聞くようなもんだぞ」
「小僧、お前が誰だか知らんが、俺を侮辱するつもりか!」
この男、先日この少年と同じような子供に、完膚なきまでに負けたのだ
その事もあって、普段なら、子供相手にイラ付く事は無かったが
今の、この男の精神状態は、いつもと違い
目の前の少年の些細な言葉にすら、イラだちを覚える
そして男は自分をネズミか、モルモットに例えられた事に一気に怒りが込み上げ
むき出しの戦意を、少年に向けた
だが少年は、それを全く意に介さないかの如く佇み
戦意を向けてきた男に、ニヤリと笑う
「おぉ~にぃ~いちゃ~~ん、おばぁ~ちゃんがぁ~おやつだってぇ~~」
少年を探しに来た、少女の緊張感の無い、声が2人の耳に届く
少年は、その声に、振り返り少女を確認すると
一度、突然の訪問者に、視線だけ戻し
もう少年の興味は、おやつに移ったのか?
すでに、目の前の男に興味が無くなった少年は、少女に声をかける
「おう、さくら、じじぃは、どこにいる?」
「みんなぁ~、居間に~いるよ~」
「わかった、すぐいく」
「はぁ~~いぃ」
「そういうことだ、おっさん、じじぃ呼んできてやるよ」
そう言い残し、少年は、呼びに来た、綺麗な桜色の髪をした少女と、家の奥へと消えていった
数分後、現れたのは、齢 (よわい)70近い老人だが
どう見ても、もっと若く、50代にしか見えない男性であった
その男性は、柄の悪い男を見るないなや
「はぁ・・おまえか・・・富士山 (ふじやま)、その様子では負けたんだな」
「・・・・申し訳ありません、師匠・・・・
前回稽古をつけて頂いたのに・・・」
「おじぃ~ちゃぁ~ん」
老人の足元で、服の裾を引っ張りながら、老人の顔を見つめる、先ほどの少女
その少女の背中を軽く[ポンポン]と叩き、老人は口を開く
「わかったわかった、ちょっと待ってくれ
富士山、道場で待っとけ
そうだな、孫とお茶してからになるが、できるだけ早く行こう」
老人は側にいる少女に、視線を移し
それは、嬉しそうに、少女に声をかける
「はいはい、みんなの所にもどろうね」
そうして、頷く少女と老人は、再び家の中に消えていった
男は、今畳で敷き詰められた道場の中に、一人座り
道着に着替え、師匠を静かに待っていた
男の名前は【富士山一輝 (ふじやまかずき)】
先の三千風蘭、拉致作戦において、やまさんと呼ばれていた人間である
そして、富士山が師匠と呼ぶ人間
それこそは、空手の世界では名前の知れた人物
【鼓仁 (つづみじん)】
この道場、古武術・鼓流、前当主である
現役時代は、鬼の鼓とも、鬼鼓とも呼ばれ恐れられた人物
現在は当主を、長男の【智之 (ともゆき)】に譲り、隠居生活である
30分ほど、静かに待っていると
袴すがたの、仁が、先ほどの少女と一緒に、道場に入ってきた
上座に当たる場所まで進み、その場に座った
そして、その横に同じように、少女は、ちょこんと座る
「またして悪かったな、富士山、用事はなんだ?」
「師匠、もう一度、私を弟子にしていただきたい」
「ん?それは、智之に言え、ここの今の道場主は智之だ」
富士山は、両手を付き頭を下げる
「智之さんの実力は、知っております
言いにくいのですが、その実力は
長女の礼子さんや、次男の信次さんに劣り
そのお子さん達すら、師匠と比べると、未だ数段の実力差が・・・
だからこそ、師匠に稽古をつけて頂きたく、お願いしに参ったしだいです」
「でもな、富士山、お前はその智之の足元にすら届いてないんだぞ」
「ですが・・・・」
一旦、唇を噛み締め、高速道路でであった、少年、三千風紫音を思い出し
「あれに、勝てる力を付けないと
あれを・・あれと戦えるだけの
あれに勝てる人物は、師匠以外に思い当たらないんです」
「ほぉ~? それは、あれか
今回負けた相手?
以前、発勁を欲しがった時言っていた
硬化の魔法を使う男の事か?
その人物は?息子達より強いというのか?」
強い相手と聞き、嬉しそうに聞く
それは昔の感情が蘇ろうとしていく証だろう
「・・・・・・・いえ、詳細は・・・
ですが、その硬化魔法を使う男ではありません
私自身の手で、あれを倒したいのです
どうか、私を師匠の手で稽古してもらえませんか?」
富士山は、頭を下げたまま微動だにしない
仁は、しばし考えまとめる為、口をつむんでいたが
そんな2人の沈黙を破ったのは、少年の一言だった
「じじぃ、そんな弱い奴相手にするだけ無駄だろ?
それより、俺の相手してくれよ、今日こそ一撃入れてやる」
「蓮 (れん)もうちょっと待て、この男にだって、色々あるんだ」
富士山は上半身を起こし、正座の状態に戻り
「師匠、この少年は?」
「富士山は、初めて会うのか、信次の子供達でな
そっちが、蓮、それで、この子が妹の桜
蓮が、次6年生で、桜が5年生だ、春休みで帰って来てるんだ
2人とも、可愛いだろ、富士山、子供はいいぞ、お前も早く結婚しろ」
「師匠、お孫さん相手もいいですが、子供遊びより
私を弟子にお願いします」
「弱い奴を、弟子にとって、じじぃに何の得があるんだ?」
蓮を睨みつける富士山
「そうだな、富士山、その子、蓮に勝てたら
その実力を認めて、弟子にしてやってもいいぞ」
「うわ、いやだ」
仁は、笑いながら、条件を提示するが
先に返事をしたのは、蓮である
それを聞いた富士山は心にも無いことを口にする
「私も子供を、いじめるのは気がひけます」
「おっさん、言っておくが
弱い奴の相手をするのが嫌なのは俺のほうだ」
蓮の言葉に、内心、ニヤリと笑う
先程であった時の、態度や「うわ、いやだ」の言葉に、イラついた富士山は
少年を、同じ土俵に引き出そうとした
手合わせを始めれば、多少痛めつけても師匠ならば、何も言わないだろうと
大人の怖さを教えてやろうと・・そして
「そこまで、いうなら、相手をしてやろう
手加減はしてやるから、安心しろ」
その言葉に、仁は心の中で落胆した
相手が子供だと、慢心して、その実力を図ろうともしない
富士山の悪い癖であると
「はぁ?なんで、俺が、おっさんと・・・・
ん?そうだ、桜、お前が相手しろ」
「えぇ?いぃぃ~の~~~」
「ダメだダメ、可愛い桜に、そんな事させられるか!」
「ちょっとまて、さすがに、こんな、小さな女の子を殴れないぞ」
乗り気な、桜に、やめさせたい仁
さすがに、可愛らしい女の子を殴れないと、本心を口にする富士山
だが、やる気満々で、立ち上がる桜と
楽しそうに、ヤジを入れる蓮に、仁も観念し
富士山に立ち会うよう、促した
富士山も、最大限の手加減をしようと
打撃よりから、軽い投げにしようと、使う技を模索する
そして、桜と蓮は道着に着替え、準備を整え、軽い準備運動をはじめる頃には
現当主、智之を始め、午後からの稽古があり、自主練の為、早めに道場に来た
門下生も20人近く集まっていた
そして、道場中央
簡単なヘッドギア、手足には、グローブをし
富士山と、桜が、向き合って立つ
それは、見るからに、子供と大人、事実そうなのだが
その2人が、手合わせすると、そんな子供の遊びと
笑う人間は、ここには、蓮しかいない
それは、富士山に違和感を与える
どう見ても、自分が勝てることは明白である
自分は、数年前に、この道場で師範代まで努めた実力がある
今、ここにいる門下生も顔見知りが数人いるが
だれ一人、小さな少女と真剣勝負する自分を笑う者がいない
それどころか、蓮以外の全員が、真剣な眼差しで見ている
そして、仁の合図で、勝負が始まったのだった。
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