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第二夜 病院の凶夢
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こんな夢を見た。
私は、夢の中で見知らぬ青年になっていた。
彼は右足を骨折し入院していた。
病室には、「沖田壮介」と札が下がっている。
壮介にはこの広い病院で知り合いというものがほとんどいない。知っているのは二人だけである。
そのうちの一人が"藤野 快児"であったのは壮介にとって、「最悪」という以外の何事でもなかった。
藤野とは高校の同級生である。
青く刈りこんだ坊主頭、爬虫類のような目、カサカサに渇いた薄い唇。壮介が親しくしている友人の友人ということで会ったのが最初であったが、壮介は初対面からこの男のことが好きになれなかった。
本格的にこの男を嫌いになりはじめたのは、三学年で同じクラスになってからである。
ヒトを馬鹿にし、笑いものにすることを好むこの男はクラス内の標的に壮介を選んだ。
壮介がトイレにいけば、「見ろよ、こいつのチンコ汚えー!」と囃したて、何かしゃべろうとすれば、「キモイんだけど」と遮った。姉が作ってくれた弁当をゴミ箱に捨てられたこともあった。
壮介を哀れみの目で見るものも少なからずいただろう。
しかし当の壮介はといえば、藤野に怒鳴るわけでも殴りかかるわけでもなく、ただヘラヘラ笑っていた。
壮介は争いや揉めごとを嫌う温和な性格であった。そして何より藤野と揉め、孤独になることを恐れていた。
藤野はクラスの人気者であり中心であったのだ。
藤野に馬鹿にされていれば、みんなと一緒に弁当が食べられる。会話に参加していられる。孤独になることはないのだと壮介は割り切っていた。
しかし、壮介は温和で臆病な性格の裏側に、すこぶる厚い自尊心を隠しもっていた。
高校から帰宅する際によく、その自尊心が顔を覗かせた。笑顔の仮面が割れ、自らに対する羞恥心と、藤野やクラスの連中に対する憎悪が溢れ出してくる。
「殺してやりたい」とさえ思っていた。
しかし壮介はその憎悪や殺意を、高校生活において一切表に出さぬまま一年を耐えきった。
それぞれ進学し、藤野と顔を合わせることもなくなった。
それからの藤野について、壮介は何も知らない。知る必要もなかったし知りたくもなかったのだ。
それが或る日、壮介がリハビリから病室にもどると、腕に包帯を巻いてとなりのベッドに腰を下ろしていた。
藤野は壮介を確認すると「よう、沖田じゃねぇか」と、獲物を見つけた蛇のような目つきになり、不気味に笑った。
壮介は目の前が真っ暗になった。
もう一人の知り合いついて壮介は、「知り合い」と呼んでいいのかすらわからない。
壮介は確実に彼女のことを知っていた。しかし、誰だかがどうしても思い出せないのだ。
芸能人やタレントの類ではないだろう。それだとするには、彼女には華というものが無さ過ぎた。
地味な顔立ちに眼鏡。そして壮介と同じように、足に包帯を巻き松葉杖をついていた。前にリハビリの講習でも一緒に受けたのかもしれない…。そうでないにしろ、その程度の間柄なことに間違いはないだろう。
専ら壮介の悩みは藤野であった。
高校であったならば、藤野といなければならない時間は限られていた。
休み時間と昼食の時間だ。
しかし病室が一緒ともなれば、四六時中藤野といなければならない。
退屈な入院生活にいい遊び道具を見つけた藤野は、一日中壮介に嫌がらせをしていた。
「おまえ、クラスの女子全員に嫌われてたの知ってた?」
「おまえ、ホント気持ち悪いよなー」
壮介は日ごとに生気を失い、精神状態も限界にきていた。しかし壮介は笑顔の仮面をはずさなかった。
そんな或る日の夜、おかしな夢を見た。
壮介は病院の中で猟銃を持って大きな蜥蜴を追いかけまわしている。
蜥蜴はすでに傷を負っているらしく、ノロノロと逃げる。
蜥蜴に追いついては、壮介は猟銃で殴りつける。
その残酷な行為がなぜか楽しくてたまらない。
蜥蜴は堪らず、病院の外に逃げようとエントランスを探す。
病院から飛び出したところで「キキー!!」と甲高いブレーキ音が鳴り響き、続いて「ボン!」と鈍い音がした。
壮介が駆けつけるとボンネットがへこんだ乗用車と、口から血まみれの舌をだらしなく垂らした蜥蜴が仰向けになっていた。
さらに近づくと、なんとそれが蜥蜴でなく、人間に変わっている。
恐る恐る顔を見ると、驚いたことにそれは壮介自身であった。
「うわ!」
壮介は、汗でぐっしょり湿ったシーツの上で目を覚ました。
カーテンの隙間から病室に朝日が差しこんでいる。
「なんだ、夢か…」
独り言を言ったところで、病室をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」と言ったと同時に担当の看護婦が入ってきて、
「沖田さん、面会です。お姉様がいらしてますよ」
と告げた。
壮介は今朝の夢のことも、横のベッドで寝ている藤野のことも忘れて久しぶりにウキウキした気分になった。
高校時代、壮介は一度だけ我を忘れ藤野に殴りかかりそうになったことがある。
それは姉が作ってくれた弁当をゴミ箱に捨てられたときだった。
壮介は姉が大好きであった。
幼少期、母親を病気で亡くし「お母さん」というものをほとんど知らない壮介にとって、彼女は「姉」であると同時に「母」でもあったのだ。
入院してしばらく会っていない姉に久しぶりに会えることを考えるだけで、憂鬱が吹き飛び、心が踊った。
数分後、再びノックする音が聞こえ、「壮介、久しぶりだね。」と笑顔の姉が入ってきた。
彼女との会話は楽しく、時間は瞬く間に過ぎていった。
途中、藤野が白々しく姉に挨拶をしたのが壮介は気にくわなかったが、
「同じ病室にお友達がいるなら、壮介も寂しくないね」
と彼女は嬉しそうにしていた。
最後に、「実は壮介にプレゼントがあるんだ」
と彼女はバッグから紙袋を取り出した。中身は千羽鶴であった。
「結構大変だったんだからー。会社のオンナのコたちにも手伝ってもらって」
そういいながら、千羽鶴をカーテンのレールに吊るすと、「またお見舞いにくるから、それまで元気でね」と微笑み、彼女は病室を後にした。
壮介はベッドの上で千羽鶴を眺め、しばし幸せな気分に浸っていた。
しかし、その時間はそう長くは続かない。
「あれ、お前の姉ちゃん?」
藤野が不愉快な笑みを浮かべ、カーテンから顔を覗かせる。
「そうだけど」目も合わさず壮介は答えた。
「不っ細工な顔してんなー!」
壮介の眉がピクッと動く…ケラケラと笑いながら、さらに藤野は続ける。
「姉ちゃんがあんなんだから、お前も気持ち悪いんだよ!」
(…我慢しろ…!)壮介は全神経を集中させる。
(ずっとそうしてきたんだ!…簡単だ…笑顔の仮面を…急げ!…急げ、急げ、急げ、急げ!)
壮介が無表情のまま返事をしないことが癇にさわったらしい。
「おい!聞いてんのかよ!」
藤野は吊り下げてある千羽鶴を毟り取り、壮介に向かって投げつけた。
バサッと音をたて千羽鶴が壮介の側頭部に命中する。
所詮紙でできた鶴である。大した衝撃はない。
しかし、それが当たった瞬間、プツンと壮介の頭の中で何かが切れた。
「てんめぇえええええええええええー!!!!!!!!!」
壮介は傍らにあった松葉杖を手に取り、藤野目がけて思いっきり振り下ろした。
「ひいっ!」
松葉杖は藤野には当たらず、ベッドサイドの金属パイプを大きく歪ませた。
「待ってくれよ!…ほんの冗談だろ!」
突然の剣幕に藤野は脅えきっている。
それでも、壮介は止まらない。もう一度松葉杖を振り上げる。
「うわああああああああああああー!!」
藤野が病室から逃げ出す。追う壮介、骨折したはずの右足からなぜか痛みは消えていた。
病院内を駆け回り、藤野がエントランスから飛び出したそのとき。
「キキー!」「ボン!」
…夢で聴いたあの音が、病院中に響きわたった。
壮介は冷静さを取り戻していた。
急いで病院の外に出る。
そこにはボンネットがへこんだ乗用車と綺麗な赤色、そしてマリオネットを無造作に置いたように、手足が奇妙な方向に折れ曲がった藤野が倒れていた。
壮介は胃から込み上げるものを我慢できず、トイレへと駆け込んだ。
便器に嘔吐物をぶちまけると、様々な思考が脳を駆け巡る。
(あの夢はこのことを予知したものなのか…?)
(あの蜥蜴は藤野だったのか…?)
(ならば、なぜ最後の場面で自分の顔に…?)
気分が少し楽になり壮介はトイレから廊下に出た。
すると目の前に彼女が立っている。
地味な顔立ちに眼鏡。
それらを見ているうちに、壮介の背中に戦慄が走った。
やっぱり自分は彼女を知っていた。
胃袋から喉元へ消化物が遡るように、壮介の脳に記憶が流れこんだ。
彼女の名前は大森美幸。
壮介や藤野と同じクラスの女子であった。
彼女は孤独だった。休み時間、昼食の時間でさえ、いつも一人で本を読んでいた。
しかしながら彼女は常に学年トップの成績であり、みんなから尊敬の眼差しで見られていたのだった。
壮介は彼女が妬ましく羨ましかった。
自分が何より恐れる孤独を自ら望みながらも、個として認められている彼女を…
放課後、教室に誰もいないのを確認すると、壮介は彼女の机に近づき彼女のノートや参考書を破り捨て、ライターで火をつけた。
藤野に対する憎悪、クラスメイトに対する憤り、自らに対する羞恥心…すべてを彼女にぶつけたのだった。
壮介は我慢が利かなくなる度、何度も何度もそれを繰り返した。
卒業間近、彼女が合格確実といわれた大学に落ち、自殺未遂をしたことを風の噂で聞いたのだった。
彼女がこちらに向かってくる。
松葉杖を振り上げて…
私は、夢の中で見知らぬ青年になっていた。
彼は右足を骨折し入院していた。
病室には、「沖田壮介」と札が下がっている。
壮介にはこの広い病院で知り合いというものがほとんどいない。知っているのは二人だけである。
そのうちの一人が"藤野 快児"であったのは壮介にとって、「最悪」という以外の何事でもなかった。
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青く刈りこんだ坊主頭、爬虫類のような目、カサカサに渇いた薄い唇。壮介が親しくしている友人の友人ということで会ったのが最初であったが、壮介は初対面からこの男のことが好きになれなかった。
本格的にこの男を嫌いになりはじめたのは、三学年で同じクラスになってからである。
ヒトを馬鹿にし、笑いものにすることを好むこの男はクラス内の標的に壮介を選んだ。
壮介がトイレにいけば、「見ろよ、こいつのチンコ汚えー!」と囃したて、何かしゃべろうとすれば、「キモイんだけど」と遮った。姉が作ってくれた弁当をゴミ箱に捨てられたこともあった。
壮介を哀れみの目で見るものも少なからずいただろう。
しかし当の壮介はといえば、藤野に怒鳴るわけでも殴りかかるわけでもなく、ただヘラヘラ笑っていた。
壮介は争いや揉めごとを嫌う温和な性格であった。そして何より藤野と揉め、孤独になることを恐れていた。
藤野はクラスの人気者であり中心であったのだ。
藤野に馬鹿にされていれば、みんなと一緒に弁当が食べられる。会話に参加していられる。孤独になることはないのだと壮介は割り切っていた。
しかし、壮介は温和で臆病な性格の裏側に、すこぶる厚い自尊心を隠しもっていた。
高校から帰宅する際によく、その自尊心が顔を覗かせた。笑顔の仮面が割れ、自らに対する羞恥心と、藤野やクラスの連中に対する憎悪が溢れ出してくる。
「殺してやりたい」とさえ思っていた。
しかし壮介はその憎悪や殺意を、高校生活において一切表に出さぬまま一年を耐えきった。
それぞれ進学し、藤野と顔を合わせることもなくなった。
それからの藤野について、壮介は何も知らない。知る必要もなかったし知りたくもなかったのだ。
それが或る日、壮介がリハビリから病室にもどると、腕に包帯を巻いてとなりのベッドに腰を下ろしていた。
藤野は壮介を確認すると「よう、沖田じゃねぇか」と、獲物を見つけた蛇のような目つきになり、不気味に笑った。
壮介は目の前が真っ暗になった。
もう一人の知り合いついて壮介は、「知り合い」と呼んでいいのかすらわからない。
壮介は確実に彼女のことを知っていた。しかし、誰だかがどうしても思い出せないのだ。
芸能人やタレントの類ではないだろう。それだとするには、彼女には華というものが無さ過ぎた。
地味な顔立ちに眼鏡。そして壮介と同じように、足に包帯を巻き松葉杖をついていた。前にリハビリの講習でも一緒に受けたのかもしれない…。そうでないにしろ、その程度の間柄なことに間違いはないだろう。
専ら壮介の悩みは藤野であった。
高校であったならば、藤野といなければならない時間は限られていた。
休み時間と昼食の時間だ。
しかし病室が一緒ともなれば、四六時中藤野といなければならない。
退屈な入院生活にいい遊び道具を見つけた藤野は、一日中壮介に嫌がらせをしていた。
「おまえ、クラスの女子全員に嫌われてたの知ってた?」
「おまえ、ホント気持ち悪いよなー」
壮介は日ごとに生気を失い、精神状態も限界にきていた。しかし壮介は笑顔の仮面をはずさなかった。
そんな或る日の夜、おかしな夢を見た。
壮介は病院の中で猟銃を持って大きな蜥蜴を追いかけまわしている。
蜥蜴はすでに傷を負っているらしく、ノロノロと逃げる。
蜥蜴に追いついては、壮介は猟銃で殴りつける。
その残酷な行為がなぜか楽しくてたまらない。
蜥蜴は堪らず、病院の外に逃げようとエントランスを探す。
病院から飛び出したところで「キキー!!」と甲高いブレーキ音が鳴り響き、続いて「ボン!」と鈍い音がした。
壮介が駆けつけるとボンネットがへこんだ乗用車と、口から血まみれの舌をだらしなく垂らした蜥蜴が仰向けになっていた。
さらに近づくと、なんとそれが蜥蜴でなく、人間に変わっている。
恐る恐る顔を見ると、驚いたことにそれは壮介自身であった。
「うわ!」
壮介は、汗でぐっしょり湿ったシーツの上で目を覚ました。
カーテンの隙間から病室に朝日が差しこんでいる。
「なんだ、夢か…」
独り言を言ったところで、病室をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」と言ったと同時に担当の看護婦が入ってきて、
「沖田さん、面会です。お姉様がいらしてますよ」
と告げた。
壮介は今朝の夢のことも、横のベッドで寝ている藤野のことも忘れて久しぶりにウキウキした気分になった。
高校時代、壮介は一度だけ我を忘れ藤野に殴りかかりそうになったことがある。
それは姉が作ってくれた弁当をゴミ箱に捨てられたときだった。
壮介は姉が大好きであった。
幼少期、母親を病気で亡くし「お母さん」というものをほとんど知らない壮介にとって、彼女は「姉」であると同時に「母」でもあったのだ。
入院してしばらく会っていない姉に久しぶりに会えることを考えるだけで、憂鬱が吹き飛び、心が踊った。
数分後、再びノックする音が聞こえ、「壮介、久しぶりだね。」と笑顔の姉が入ってきた。
彼女との会話は楽しく、時間は瞬く間に過ぎていった。
途中、藤野が白々しく姉に挨拶をしたのが壮介は気にくわなかったが、
「同じ病室にお友達がいるなら、壮介も寂しくないね」
と彼女は嬉しそうにしていた。
最後に、「実は壮介にプレゼントがあるんだ」
と彼女はバッグから紙袋を取り出した。中身は千羽鶴であった。
「結構大変だったんだからー。会社のオンナのコたちにも手伝ってもらって」
そういいながら、千羽鶴をカーテンのレールに吊るすと、「またお見舞いにくるから、それまで元気でね」と微笑み、彼女は病室を後にした。
壮介はベッドの上で千羽鶴を眺め、しばし幸せな気分に浸っていた。
しかし、その時間はそう長くは続かない。
「あれ、お前の姉ちゃん?」
藤野が不愉快な笑みを浮かべ、カーテンから顔を覗かせる。
「そうだけど」目も合わさず壮介は答えた。
「不っ細工な顔してんなー!」
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「姉ちゃんがあんなんだから、お前も気持ち悪いんだよ!」
(…我慢しろ…!)壮介は全神経を集中させる。
(ずっとそうしてきたんだ!…簡単だ…笑顔の仮面を…急げ!…急げ、急げ、急げ、急げ!)
壮介が無表情のまま返事をしないことが癇にさわったらしい。
「おい!聞いてんのかよ!」
藤野は吊り下げてある千羽鶴を毟り取り、壮介に向かって投げつけた。
バサッと音をたて千羽鶴が壮介の側頭部に命中する。
所詮紙でできた鶴である。大した衝撃はない。
しかし、それが当たった瞬間、プツンと壮介の頭の中で何かが切れた。
「てんめぇえええええええええええー!!!!!!!!!」
壮介は傍らにあった松葉杖を手に取り、藤野目がけて思いっきり振り下ろした。
「ひいっ!」
松葉杖は藤野には当たらず、ベッドサイドの金属パイプを大きく歪ませた。
「待ってくれよ!…ほんの冗談だろ!」
突然の剣幕に藤野は脅えきっている。
それでも、壮介は止まらない。もう一度松葉杖を振り上げる。
「うわああああああああああああー!!」
藤野が病室から逃げ出す。追う壮介、骨折したはずの右足からなぜか痛みは消えていた。
病院内を駆け回り、藤野がエントランスから飛び出したそのとき。
「キキー!」「ボン!」
…夢で聴いたあの音が、病院中に響きわたった。
壮介は冷静さを取り戻していた。
急いで病院の外に出る。
そこにはボンネットがへこんだ乗用車と綺麗な赤色、そしてマリオネットを無造作に置いたように、手足が奇妙な方向に折れ曲がった藤野が倒れていた。
壮介は胃から込み上げるものを我慢できず、トイレへと駆け込んだ。
便器に嘔吐物をぶちまけると、様々な思考が脳を駆け巡る。
(あの夢はこのことを予知したものなのか…?)
(あの蜥蜴は藤野だったのか…?)
(ならば、なぜ最後の場面で自分の顔に…?)
気分が少し楽になり壮介はトイレから廊下に出た。
すると目の前に彼女が立っている。
地味な顔立ちに眼鏡。
それらを見ているうちに、壮介の背中に戦慄が走った。
やっぱり自分は彼女を知っていた。
胃袋から喉元へ消化物が遡るように、壮介の脳に記憶が流れこんだ。
彼女の名前は大森美幸。
壮介や藤野と同じクラスの女子であった。
彼女は孤独だった。休み時間、昼食の時間でさえ、いつも一人で本を読んでいた。
しかしながら彼女は常に学年トップの成績であり、みんなから尊敬の眼差しで見られていたのだった。
壮介は彼女が妬ましく羨ましかった。
自分が何より恐れる孤独を自ら望みながらも、個として認められている彼女を…
放課後、教室に誰もいないのを確認すると、壮介は彼女の机に近づき彼女のノートや参考書を破り捨て、ライターで火をつけた。
藤野に対する憎悪、クラスメイトに対する憤り、自らに対する羞恥心…すべてを彼女にぶつけたのだった。
壮介は我慢が利かなくなる度、何度も何度もそれを繰り返した。
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