水彩画の名前にちなんで

松藤 四十二

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アグラの教会

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 彼女は教会式を希望していた。熱心なカトリックでも、プロテスタントでも、キリスト教信者でさえないのに、神に愛を誓いたがっていた。
 僕もキリスト教を信仰しているわけじゃない。クリスマスとバレンタインデーは好きな方だが、キリストについて全く詳しくない。共通点なんて、少しもない。大工でもないし、馬小屋で産まれてもいない。
 でも彼女は教会式がいいと譲らなかった。彼女にとって愛の行く先は、八百万の神でもなく、仏陀でもなく、ヤハウェでもなく、キリストなのだ。そもそもキリスト教の神はキリストだけなのか。僕は知らない。
 とにかく、そうやって彼女の希望(半ば決定)に対して、少しずつ疑問を述べていったら、彼女は泣き出し、自暴自棄になったのか遂には婚約破棄を申し出てきた。
「私と結婚したくないんだね! 婚約破棄だね!」と。
 お互いの家族への顔合わせは済ませたし、婚約指輪もあるし、結婚指輪も段取りもつけていたのにも関わらず、そんなこと全て忘れたように彼女は言った。
 僕は困惑して、とにかく落ち着こうと、時間を空けることを提案した。
 僕はすぐさま挙式済みの男友達と女友達の両方に相談した。すると皆、口を揃えて「女心がわかっていない」と言う。確かにわからない。それが女心と何の関係があるのか少しも理解できていない。そして、彼らの表面的な意見を掻い潜り、核心に迫っていくと、こんな言葉が出てきた。
「結婚式は女性にとって一大イベントなのだから、それくらい許容すれば?」
 なるほど。それならば、最初からそう言えばいい。許容か。人生で何度もしてきたことだ。
 とりあえず僕は彼女に謝り、教会式にすることを許容した。もちろん、僕だってバカじゃないし、彼女を愛しているから、許容なんて言葉は使わなかった。
 彼女は泣いて「ありがとう」と言った。そして、彼女は「入場のBGMは好きなの選んでいいよ。合っているであれば」と許容してくれた。
 なんでもいい。メンデレスゾーンでも、エンヤでも、レッド・ツェッペリンでも。彼女の好みに合ってさえいれば。
 そして、彼女は海外の教会で、式を挙げたがっていた。
「こんな教会がいいの」
 彼女が見せてくれた絵画の中には、建物があった。だが、僕にはそれが教会かどうかわからなかった。
 十字架とはいわない。せめて鐘さえあればイメージがつく。しかし、その建物は僕が想像する教会とは違っていた。質素で、見窄らしく見えた。こんな建物のために大金を支払うのは、どんな気持ちがするんだろうか。
 日本にも似たような教会あるんじゃない? 家族も友人も来やすいやつがさ。
 そんなことを言うべきだと僕は思うが、女心に照らし合わせるならば、どうなんだろうかとブレーキをかけた。
 しかし、頭を巡るのは疑問ばかりだった。
 許容と諦めの差異とは何だろうか。恋愛と結婚の差とは。夢と現実とは。絵画と写真とは。僕と君とは。あの神とこの神とは。
 僕はその疑問を言葉にできなかった。だから口を閉じた。そして、目も閉じた。それくらいなら、自分にもできた。いとも簡単に、僕は知らない教会で、知らない神に、本物の愛を誓うことができた。
 そうすることで、生きていける気がした。
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