5 / 25
古い公園の三枚の絵より
しおりを挟む
旅行に行ってきたと、友だちは言った。えへへと笑い、俺からの質問を待っていた。どこに行って、何をしたのか。そんなものを。
彼は年下の二三歳のフリーターで、給料日前になると理由をつけて俺と会いたがった。目的は一つで、ごはんにありつきたいのだ。おそらく彼は、ここ数日、整然とした食にはありつけていない。ご飯があり、味噌汁があり、主菜と副菜があり、漬物やカットされた果物もついている。それらが全ておぼんの上に、もしくはテーブルの上に並べられている。そんな食に。ただ、金があるときも、そんな美しいものを食べているかは知らない。想像するに食べていない。カップラーメンや牛丼を食べている姿がありありと目に浮かぶ。たまに食べるからこそ、美味しいものを彼は毎回食べている。
「ここに行ってきたんですよ」
業を煮やしたのか、彼の方から行き先を告げてきた。そして、カバンから三枚の絵葉書のようなものを出してきた。
「見てください。公園ですよ、公園」
「公園?」
俺はその絵葉書を一枚手に取って見た。鬱蒼と茂った草の向こうに建物がある。茶色い建物で、縦長のアーチ窓が三つ並んでいた。
なんとなく絵葉書を裏返した。そこには何も書いていなかった。絵葉書ではないのかもしれない。
他の二枚も同じだった。裏(もしくは表)は白いだけだった。
「公園って、どこにでもあるだろ。なんで、公園に旅行に行ったんだ」
「駅前で、その絵を描いている人がいたんですよ。赤くて深い帽子をかぶった、おばさんなんですけどね」
「駅前? 駅前にこんな公園あったか?」
「ないです」
「じゃあ、これはどこの公園?」
「わかりません」
「わからない?」
俺はもう一度、絵を見た。場所の手掛かりになるようなものはなかった。
「実は、その絵の裏に自分の名前を書くと、その公園に行けるんです」
「どういうこと?」
「わかりません。とにかく、そこに名前を書いたら行き着くんです」
俺はその絵を彼の方へ追いやった。
「意味がわからないし、もしそれが本当だとしたら気味が悪い」
「でも、すてきな公園でしたよ?」
「別に公園に行きたい気分でもないからなあ。でも、どうやって戻ってきたんだ? 場所もわからない公園から」
「知らないうちにです。お腹が空いて、彷徨ってたら、家に着きました」
「酔っ払いか」
「違いますよ。本当なんです」
彼はそう言って、また絵を俺に渡してきた。俺は仕方なく手に取り、テーブルに置いてあったアンケート用紙のためのペンで、白紙の方に名前を書いた。
「自分も書こ」
そう言って、彼も名前を書いた。
店を出ると、外はもう暗くなっていた。
「ごちそうさまです」と彼は頭を下げた。
「いいよ」と俺は言った。
「じゃあ、歩いて公園に行きますか。この前は二十分くらいで着きました」
「そうか。でも、ちょっとコンビニに行くから、先に行っといて」
「え? そうですか? じゃあ、先に行きますね」
彼はまた頭を下げて、夜の道を歩き始めた。そして、外灯のある角を曲がって消えた。
俺はコンビニへ行き、タバコと切手を買った。
絵の裏には、名前と住所を書いていた。俺はそこに切手を貼り、帰宅路の途中にあるポストに入れた。
後日、それはきちんと俺宛に届いた。絵に変わったところはなかった。
変わったといえば、給料日前になっても、彼から連絡が来ることがなくなった。それについて、少し気味が悪いと思ったが、別に無くして困る友人ではなかったし、どこかに消えたんだろうと思っただけだった。
むしろ整然とした、と言えばいいのだろうか。
彼は年下の二三歳のフリーターで、給料日前になると理由をつけて俺と会いたがった。目的は一つで、ごはんにありつきたいのだ。おそらく彼は、ここ数日、整然とした食にはありつけていない。ご飯があり、味噌汁があり、主菜と副菜があり、漬物やカットされた果物もついている。それらが全ておぼんの上に、もしくはテーブルの上に並べられている。そんな食に。ただ、金があるときも、そんな美しいものを食べているかは知らない。想像するに食べていない。カップラーメンや牛丼を食べている姿がありありと目に浮かぶ。たまに食べるからこそ、美味しいものを彼は毎回食べている。
「ここに行ってきたんですよ」
業を煮やしたのか、彼の方から行き先を告げてきた。そして、カバンから三枚の絵葉書のようなものを出してきた。
「見てください。公園ですよ、公園」
「公園?」
俺はその絵葉書を一枚手に取って見た。鬱蒼と茂った草の向こうに建物がある。茶色い建物で、縦長のアーチ窓が三つ並んでいた。
なんとなく絵葉書を裏返した。そこには何も書いていなかった。絵葉書ではないのかもしれない。
他の二枚も同じだった。裏(もしくは表)は白いだけだった。
「公園って、どこにでもあるだろ。なんで、公園に旅行に行ったんだ」
「駅前で、その絵を描いている人がいたんですよ。赤くて深い帽子をかぶった、おばさんなんですけどね」
「駅前? 駅前にこんな公園あったか?」
「ないです」
「じゃあ、これはどこの公園?」
「わかりません」
「わからない?」
俺はもう一度、絵を見た。場所の手掛かりになるようなものはなかった。
「実は、その絵の裏に自分の名前を書くと、その公園に行けるんです」
「どういうこと?」
「わかりません。とにかく、そこに名前を書いたら行き着くんです」
俺はその絵を彼の方へ追いやった。
「意味がわからないし、もしそれが本当だとしたら気味が悪い」
「でも、すてきな公園でしたよ?」
「別に公園に行きたい気分でもないからなあ。でも、どうやって戻ってきたんだ? 場所もわからない公園から」
「知らないうちにです。お腹が空いて、彷徨ってたら、家に着きました」
「酔っ払いか」
「違いますよ。本当なんです」
彼はそう言って、また絵を俺に渡してきた。俺は仕方なく手に取り、テーブルに置いてあったアンケート用紙のためのペンで、白紙の方に名前を書いた。
「自分も書こ」
そう言って、彼も名前を書いた。
店を出ると、外はもう暗くなっていた。
「ごちそうさまです」と彼は頭を下げた。
「いいよ」と俺は言った。
「じゃあ、歩いて公園に行きますか。この前は二十分くらいで着きました」
「そうか。でも、ちょっとコンビニに行くから、先に行っといて」
「え? そうですか? じゃあ、先に行きますね」
彼はまた頭を下げて、夜の道を歩き始めた。そして、外灯のある角を曲がって消えた。
俺はコンビニへ行き、タバコと切手を買った。
絵の裏には、名前と住所を書いていた。俺はそこに切手を貼り、帰宅路の途中にあるポストに入れた。
後日、それはきちんと俺宛に届いた。絵に変わったところはなかった。
変わったといえば、給料日前になっても、彼から連絡が来ることがなくなった。それについて、少し気味が悪いと思ったが、別に無くして困る友人ではなかったし、どこかに消えたんだろうと思っただけだった。
むしろ整然とした、と言えばいいのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる